第28話「え、中間テストあるじゃないですか?」その3


「そういえば、小泉さん」


「う、うん?」


「小泉さんっていつも本とか、読む?」


「え、ほ、本?」


 急にだったろうか。

 いやしかし、陽介が来るまで二人で無言というわけにも行けない。そんな俺の質問に彼女は答える。


「——よむ、かな?」


「な、なんで疑問形?」


「特に、理由はないけど……なんとなく?」


「そっか……やっぱり」


「——やっぱり?」


 よく見ていた——なんて言えるわけがない。それに、直接見ているのではない。俺の席位置の関係上、窓の外を見るときは小泉の席を通して見る必要がある。そのため―—っていう言い訳だ。


「あ、あぁーーよく、見かけるんだよ。面白そうな本読んでるところをさ」


「……あれ、面白いって思うの?」


「え」

 

 すると、彼女はそう訊き返した。

 俺は少し考えて答える。


「ラブコメ、だったろ?」


「ラブコメ……ラブコメディ……」


「あれ、知らなかった?」


「それくらいはさすがに、知ってる……」


「だ、だよね~~」


 むすっとした顔で言う小泉さん。


 こう見ると逆に、蜜柑色の髪の毛が怖い。威圧されて、発言をコントロールされているような気がしなくもない。


「でも、面白く―—なかった?」


「ん」


 そして、彼女は頷いた。

 

「そ、そっか……俺は好きなんだよなぁ、ああいうの」


「ラノベ――だよね」


 そう言って、彼女は肩にかけたバックから一冊の本を手にして、こちらへ向ける。


「これ、今読んでるやつ」


「は、へぇ……って、まじか」


「知ってる?」


「うん……まじか、それは……さすがだな、小泉さん」


 彼女が手に持っていたのは俺がよく知る小説「ラブコメを語りたい!」であった。俺が興奮気味にその本を手にして、挿絵を眺めていると彼女は徐々に顔を顰めていく。


「あ、ごめん! 触られるの嫌だった?」


「そういうわけじゃないよ……でも」


「でも?」


「でも……あんまり、面白くなかったって言うか」


「え⁉」


「っ⁉」


 あまりのいい様に驚いてしまった。まさか、この有名作を面白くない――なんて腰抜けなって言っちゃいけないけど、まぁ見る目のない――じゃなくて、バk——でもなくて……とにかく、そんなことを言う人間がいるとは思わなかった。

 

「ま、まじで?」


「うん」


 二言はない。

 彼女は断言してそう言っている。


「……そう、なのか」


「相坂君的にはおもしろい?」


「うん——っていうか、面白いを超えてるかな。俺的には小説を読み始めたきっかけだし、それを超える作品は未だ見たことがないくらい。少なくとも俺が見た仲では世界一面白い小説だったと思う……」


「そうなのかぁ……私は、そんなにだったけど。あれかな、ラブコメがダメだったのか。恋愛はいけるんだけどね……」


「でも、あるかもよ? ラブコメってどっちかと言うと男性よりだし?」


「え、そうなの?」


「え、うん……だって女の子ってロマンチックなこと好きでしょ? その目で見たらラブコメにその要素皆無だしさ?」


「あ、あーーそう言われてみればそうなのかも?」


「だよね、やっぱり!」


「……なんで笑ってるの」


「うん、いやぁ……初めて作品を否定されたかと思ったからね——なんかこの作品がダメだって言われるのは俺が耐えられないし?」


「ふ、ふぅ……ん」


 そんな俺の反応に彼女は無表情で俯いた。何かしたのかなと悩んでいる隙もなく、外の方から陽介が走ってきていた。


「あ、来た」


「ほんとだ、まったく遅いなあいつはよ」


「これからはちゃんと集合五分後に来るようにしたほうがいいかも……」


「それはまぁ、核心ついてるな」


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