第28話「え、中間テストあるじゃないですか?」その2


 急いで向かった俺が悪かったと言えよう。


「っはぁ、っはぁ…………はぁ。誰もいねえのか」


 時計を見ると12時28分。どうやら、陽介にとってこの時間は昼じゃないらしい。


「まじかよ……はぁ」


 俺は溜息をつき、札駅南口左側にある白いオブジェの前に立った。真っ白な石の真ん中がくり抜かれたそのオブジェを見るのは二か月ぶりだ。駅の中にある映画館に行ったときに見た気がする。しかし、いつまでたってもこれが芸術作品と言われてもピンとこない。


 ピコん。


 スマホを取り出すと陽介から「ちょいと遅れる」の一言。


「あいつ……ぶん殴るぞ……」


 低い声で呟くと隣で同じように立っていた女性が目を大きく見開いていた。どうやら引いているようだ。別にそう言う意味じゃないよ~~と微笑みを返すと彼女はビクッと肩を震わせてその場を去っていく。


「……なんもしてないですよ…………」


 友達の少ない俺でも、今のはなかなか辛いものがある。俺ってそんなに怖いかな、一人でいるときは確かに妄想したりで笑っているかもしれないけど。


 ——あ、もしかして俺の声ってそんなに怖い声だったり? これは声優になるチャンスかなぁ~~。


 と、妄想をしていると隣にはたまた女性がやってきた。


 女性というより女子? というか、女子高生に見える。真っ白なワンピースに上からジーンズ生地のジャケットを着ている。しかし、浮くような恰好をしている。なかなかのメンタルの持ち主だな——と感心していると。


「——あ、あのっ!」


 彼女は麦わら帽子をゆっくりと脱いで両手で抱えるとこちらを向きながら言った。


「え⁉ は、っはい!」


 あまりにも急すぎて、変な声をあげてしまった。一回深呼吸をして落ち着くと——彼女と目が合う。その瞬間、俺は思った。


「あ、あれ? こ―—小泉?」


「え、うん……そ、そうだけど……」


 その女子高生は小泉六花だった。

 教室では割と静かにしていて、いつもは早坂さんと一緒に話している小泉さんだったのだ。


「び、びっくりしたぁ……」


「う、うん?」


「そっかぁ、小泉さんも遊びに来てたんだね……あれかな、もしかして早坂さん?」


「う、うん……そうだけど、知らなかったかな?」


 知らなかった―—って、俺が彼女たちの事を知るはずがない。


「きょ、今日ってあれだよね、田中君も来るんだよね」


「そうだよ。まぁ、あいつらしく遅れているようだけどな」


「そ、そうなんだ……」


「ん、でも、それがどうしたんだ? 小泉さんも何か用があるとか?」


「え、だって——遊びに行こうって言われたし……」


「え?」


 俺がはてなを浮かべると彼女はすかさず言った。


「その、今日って確か……田中君と相坂君と優菜ちゃんと、あとは成神さん? の五人で遊びに行くって——約束しなかった―—あ、でも田中君しかいなかったかな……。じゃあもしかして——」


「あいつが言ってなかったんだな」


「そ、そういうことになるねっ」


「はぁ……まじかぁ、そう言うことだったのかよぉ」


「あぁ……うんと、ごめんね、私も」


「なんで小泉さんが謝る~~、悪いのは陽介一人だ。だいたい、それなら俺もさすがにおしゃれしてきたのに……」


 こんなずぼらなだっさい格好で恥ずかしい。温厚で静かな小泉さんがかなりおしゃれをしているのを見て、余計にそう思うし。ひどいぜ、まったく。


「……わ、私は……か、っこいいとおもうけど……」


「っ! ま、まじ?」


 訊き直すとぶんぶんと頭を上下に振ってもっている麦わら帽子で顔を隠していた。


「そ、そっか、ありがと……」


「ん」


 真っ白なワンピースにジーンズ生地のジャケット、そして麦わら帽子に襟に引っ掛けた黒縁眼鏡。薄赤色に染まった肩まで伸びる髪の毛が魅力的な彼女は俯いて頬を赤くする。


「————あいつら、遅いなぁ」


「————う、うん」


 コミュ力ない二人が同じ場にいると、こうなるのだろう。


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