第24話「先輩と、先輩の先輩」
その日の帰り。
土曜日にわざわざ学校に行き、部活動に勤しむという学生ならではのノルマを終えて、僕と先輩、そして結城先輩も一緒に帰路に着いていた。
——まあ、俺は入部していないんだけど。
「いやぁ……今日は楽しかったね~~」
「そうですね、いろんな小説も知れて勉強になりましたっ」
「おお、それは結構。そう言えば、相坂君も小説書いてるんだっけ?」
「書いてますよ~~」
「そうか……それならさ、今度見せてくれない?」
「……え」
「あれ、ダメだったかな?」
「そんなっ……というか、時間的にもというか……読んでくれるんですか?」
「……もちろん! 部員の作品は読まないとね、先輩の威厳が無くなるじゃん?」
「それもそうかもですけど……俺、部活に入ったつもりはないんですけど……」
「え……あれ?」
「入ってない、はず……」
「……ねえ、部長」
「ん、私!?」
すると、結城先輩は前を歩く先輩に肩を掴んだ。
「相坂君、結局入ったってさっき……」
「ん、ん~~どうかな~~、そうなのかぁああ!」
帰路に着いて早々、先輩が焦りだした。
「はぁ……」
「え、ほんとに、ほんとに入ってない?」
「そうですよ?」
「え、そしたらまた——」
今度は鋭い視線を向けた結城先輩。
それを察知したのか、途端に目を逸らして口笛を吹きだした。
「先輩……」
「ひゅーひゅー」
「はぁ……まったく、話を聞いてくだっさい!」
「うにゃっ——!」
「観念してください」
親猫が子猫を運ぶ時のそれのような恰好で先輩を引っ張っていく。隣であきれ顔で笑っている結城先輩がいるのだが、正直そんなことは気にしない。
「うぅ……だって、いいじゃん……」
「でもですね……僕にも時間が」
「あれだから、顔見せるだけでもいいから!」
「——でも、ですね……」
「うぅ……パソコンもっていって執筆してもいいからぁ……」
「じゃあ入ります」
「はやっ!?」
さすが、その提示をされれば何も言えない。執筆に適した部屋だったのはよく知っている。案外、俺も甘い。
「はぁ、ならよかったよぉ……」
「お、じゃあ入部だね!」
「俺が言うことじゃないんですけど、受け入れ早いっすね……」
「いやいや、相坂君だからだよ~~」
微笑みながらそう言う結城先輩を見て、さすがだなぁと感じつつも誰にでも言っている気もして半信半疑が胸の内では渦巻いていた。
「それじゃあ、やっぱり読まないとダメでしょ?」
「え、なに——」
「相坂君の小説っ!」
「あ、いや、でも——」
「でも?」
「いや、受験もあるのでさすがに迷惑かな~~って思いまして……俺の小説なんかで成績が低くなられても困りますし……」
俺が心配の目を向けると、先輩はニヤリと笑って——
「——心配してくれたの?」
「け、結果的にはそうなりますね……」
「っははは、まったく、相坂君は……」
「あれだよ、この人学年一位だよ?」
すると、少し前を歩いている先輩が振り向き、そう言った。
瞬間、俺は戦慄した。
「え、まじすか?」
「——まじ」
「ほらね、この人おかしいんだから……」
「?? 僕っておかしいの? 分からないけどなぁ……いっつも勉強してるからだよ、これは~~」
おっとりした性格でまったりとした口調。
そしてこのルックスで、さらには学年一位の肩書を持つときた。
ガチャで言う確定演出が入ったと言えば分かりやすいだろう。俺の目に寸分の狂いはなかった。
この人は————天才だ。
「結城先輩って本何冊読んでるんでしたっけ?」
「うーーんと、毎日?」
「毎日、一冊」
「いや、そう言うわけじゃないけど、最近は二日に一冊かな……あれだよ、これでも勉強しないと学年一位も模試だって安定しないし」
「それは確かにそうですけど……まじですか」
「んね、言ったでしょ? 結城ってやばいんだもん」
「え~~、でも僕を本の道に誘ったのは部長じゃないですか~~」
ふふふ——と笑いながら肩を叩く結城先輩、それに対して嫌な顔を一つ見せない先輩に僕は少し安心した。案外、この人にも仲のいい人がるということにすごく、安心していた。
「仲いいですね」
「え」「ん?」
歩みを止めて、ピタリと制止する二人。
先輩の方は頬を赤くして、隣でくっついている結城先輩の方はポカンとした顔を浮かべている。
「仲、いいですな~~と思いまして」
「そう?」
「え、いや、別に——そんなわけじゃ——」
「僕たち仲いいもんね~~」
「そ、そそ、そんなことないっ————うぅ……」
振り払おうとする先輩、しかし、そんな先輩にがっつく結城先輩。嫌がる顔しているはずなのに、力弱めになっている感じを見れば案外、嫌ではないようだ。むにゅりと腕に当たって膨らんだ胸がチラリと見えて、直ぐに目を背けるが、二人は何ともない顔できゃっきゃうふふを繰り返していた。
「……」
「あれ、相坂君どったの~~?」
「いいから、離してよぉ……」
なんだ、この見ちゃいけない感。
なぜだか分からないけれど、すっごく罪悪感がある。
「え、いや……すっごい仲いいなと……」
「えへへ~~、でしょ~~、一応これでも幼馴染なんだ~~」
「うぅ……あんまり言わないでって言ったじゃん……」
ぎゅ。
この二文字で二人を表すことできる。お似合いの二人だった。天然でイケメンの彼の攻めに圧倒されるいつも元気だけどMな彼女————なんていうカップリングが成立しそうである。
「……はぁ、ほら先輩方、先行っちゃいますよ~~」
「あ、ちょっと——」
「むむむ……」
正直に言う。
俺は二人のイチャイチャシーンを見たくなかった。そのため、二人の間を抜け、前に出て早めに歩いて帰ることにした。
——しかし、その後さらに驚愕したことがあったということは次回に持ち越すとしよう。
<あとがき>
皆さん、お久しぶりの歩直です。
なんか、多くの方に読まれてきて本当に感謝しか言えないです。いっつもありがとうございます。レビューもたくさんもらえて、このままバズって有名になってくれないかな~~という妄想が止まりません。いやぁ……もしも僕が有名になったら、きっと、今このあとがきを読んでくれている人は古参になりますね……。ああ、恥ずかし恥ずかし。
良ければフォローと星評価、そしていいねを押していってください!
ってなわけで、次回もお楽しみに!!
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