第21話 「幼馴染が俺にもいた——かもしれない」
「いたたた……」
翌日の月曜日。
普段通りに起きて、朝食を抜き、制服を着て俺は登校していた。
昨日、まるで幼馴染だったかのように平然と家に来ていた高倉先輩とつかみ合いになり、先輩がバランスを崩して押し倒されて、馬乗りになる形で下にいた俺の顔に先輩の先pie——つまり、お〇ぱいに押しつけられてしまったのだ。しかし、何の理不尽かは分からないがぶっ叩かれた痛みが未だに頬を襲っていた。
「おはよ~~」
「ああ、純ちゃんおはよぅ~~」
「昨日の数学の課題やった?」
「え、まじで!?」
「なになに、どうしたの?」
「忘れた……」
「あーあ」
後ろを歩く女子高生の会話が聞こえて、ふと振り向くとそこに居たのは同じ高校の一個上の生徒の様だった。赤色の線がはしるセーラー服をだらしくなく着ていている彼女たちを見ると自分が中学生の時を思い出した。
あの頃も学年が上がるにつれて、制服がだらしなくなっている女子生徒がいた。まあでも、俺が思うに、スカートのすそをあげていいのは足が細い女だけだ。ムチムチならいいがアニメのキャラくらいに細く綺麗でないと嬉しくはない。
「ははっ、誰もきにしてねぇ~よってな!」
「それな~~」
ギクッとしたが、二人だけの話の様で俺に向けてはいなかった。
いやしかし、それでも俺はそう思うがな。
ガラガラガラ~~。
俺が教室の扉を開けると、中にはまだ半分ほどしかいなかった。クラス全体的に陰キャ傾向があるのかは分からないが、始まって一週間でこの様子じゃ少しだけ不安が募る。
「よお」
「おう、裕也」
さして家が近いわけでもないがいつもこの男は俺よりも先に教室にいるようだ。机には先週に出された自己紹介のプリントが出されてびっしりと埋まっていたのが見える。
「あ、それやってねーわ」
「裕也やってないのか? 一応、今日のホームルームで発表だぞ?」
「ホームルーム……まじか、すぐじゃん」
机にリュックを置いて、陽介の方を覗くと——
「どうした?」
「ん、いや、参考にしようかなって」
「おい、盗むなよ著作権だぞ」
「誰がだよ、お前のアイデンティティ盗む奴は」
「まあそうだもんな、俺のアイデンティティは重すぎて誰も背負えないよな~~」
「っち」
そんな陽介に言い返せない俺も俺だが、事実として天才であることが分かっている陽介には何も言えない。入学式の新入生代表も学年主席として合格した陽介がやっている。この高校に入学したのも俺が行くからっていう浅はかな理由だし、英検二級もすで持っていて、今年にはTOEICとTOFELを受けるつもりらしい。
「くそったれだな、天才め」
「ん~~羨ましいのかぁ~~⁇」
「ダメか?」
「ダメだ」
「夢くらい見させてくれよ」
「ははっ、努力でもするんだな」
「……」
ここは無視して書くとしよう。天才には天才の友達が必要らしいから、腐れ縁の俺とて退散する方がいい判断だろう。
そしてホームルームの時間はすぐに終わり、自己紹介も案外すんなりと終わった。
まあ、なぜ一週間たった今、自己紹介が行われているか——ということに皆も疑問を感じてはいるが先生曰く、『夫婦が倦怠期がやってくるのと同じように、友達にも呆れ期が来るからな、こういうのはやっておいた方がいい』ということだった。
さっぱり分からないが先生には従ったほうがいいという母親の言葉に俺は従わざる負えなかった。
「なぁ、裕也」
「うん?」
「あいつ……」
「あいつ?」
すると、怪訝な顔して、教室の窓側へ視線を向ける陽介に誘導され俺もそちらに目を向けた。
「ちがう、そっちじゃない——後ろ」
「後ろ?」
「ほら」
訂正を受けて、俺は彼女を見据えた。
「あ」
しかし、俺はそこにいた彼女に見覚えがあった。林檎のように赤く燃え上がる炎のように熱い紅色のショートボブの髪に、整った大きな目、そして男子の目線を集めるのにはもってこいな豊満な胸。先輩のそれを見慣れている俺でも驚くくらいには大きく、ぱっつんぱっつんになったセーラー服に嫉妬してしまうほどでだった。
「んな、驚いたろ」
「……ああ、こりゃたまげたな」
目を見開く陽介の隣でその子を見つめる俺、表情には出てはいなかったと思うが心の中ではそれなりに驚いていた。どこかで見た気がするが正直、そのどこかは思い出せない。きっと、かなり小さなころに遊んでいたとは思うが。
「久しぶりだよな……あの頃はよく、遊んでた」
「あれ、そうなんだっけ?」
「そうだぞ、一年二年の時はよくつるんでたじゃねえか」
「つるんでた……か、すまんが思い出せないな」
思い出そうと思考してみるが正直————いや、ちょっと待てよ。俺が彼女を知っている? でも、俺と陽介は小学生からの知り合いではない。
「俺ってさ、お前と小学校一緒だったっけ?」
「ん、今さら何を言うんだよ、一緒だぜ?」
「あれ、そうだったか?」
「……とうとう、記憶喪失になったのか?」
ジト目を向けながら馬鹿にする陽介。その態度にはさすがの俺も感服だ。しかし、その事実に俺は赤毛の少女以上に驚いた。
「うるせ」
「ははっ……にしても、覚えてないのかよ」
「ちょっとな」
「まあそれもしょうがないか、裕也と一緒だったのは低学年だけだったもんな」
「……それなら仕方ないな、正直小学校の頃の記憶は欠如していてな」
「そうなのか?」
「ああ、高学年にちと色々あって」
「そ、そうか……」
「はいはい、これはあとでいいからあの子、話さなくていいのか?」
俺が提案した瞬間、その子が席を立った。ふんわりと宙を舞う赤毛のボブにたゆんと揺れる巨乳に男どもの心も同じように揺れた。
「お」
「あ」
しかし、そんな男たちの目線など見ず知れず彼女はこちらへと歩いてきた。そして、俺の席の前で立ち止まる。意外と背は低いようだったが座っている俺から見れば豊満なそれが視界を覆いつくしていて、目へダイレクトアタックを決めていた。
「ねえ、あの」
「え、あ、はい……」
俺と陽介が固まる最中、彼女は口を開く。声は高く明るめで好みではなかったが可愛らしかった。
「……ファンです」
「…………?」
そして————教室中の空気が凍り付いたのだった。
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