第19話 「一生の恥と一瞬の粋」+謝罪


 <まえがき>


 ええ、まず単刀直入に申し上げますと……大変、マジで、大真面目に、申し訳ございませんでした。私の身勝手と言いますか……まぁ、行ったり来たりと書いていたら話の収束がうまくいかないことを悟り、自らが編み出した子たちの人生を曲げに曲げたおかげでこのような結果になりまして、ほんと、マジで、すみません。


 いつも読んで、そしていいねや星評価をくれる方には本当に、心よりお詫び申し上げます。


 これから始まるのは別の世界線のお話です。前の話、つまり先輩と相坂が二人でアニメイトに行った帰り、凄まじく恥ずかしい台詞を言ったところから始まります。


 では、もう一度、誠意を込めてよろしくお願いします。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「くそぉッ! くそぉ! くそぉぉぉぉおおおおお‼‼」


 四月十八日、翌朝の事だった。

 俺はあまりの羞恥にソファーの上で悶えていた。


「恥ずかし、恥ずかし、恥ずかしっ‼‼‼‼」


 その理由は遡るに十数時間前、アニメイトに行って適当に好きなラノベを買ってから帰路に着いたときに起こった。


 たまたま、たまたまだったのだ。


 俺の隣を歩く先輩の横顔が少し桃色に染まっていて、それがなぜか僕には美しく見えていたのだ。いや別に、先輩は元々に綺麗なのだが、そういう意味で言っているわけではない。


 が、のだ。


 とどのつまり、彼女は綺麗に見えて——でもそれが——そんな姿が儚く見えてしまったのだ。


 だから、言ったのだ。


『先輩————、俺が、この相坂裕也が……最高っの語らせてあげますよっ!』


 こういう台詞を。


 しかし、それから一日経った今。


「がぁあああああああああああ‼‼ 死にたいよォおおお!」


「なんで俺はあんなこと言ったんだ!? まじ、馬鹿なのっ! クソなの? がああああ‼‼」


「なにがラブコメ語らせてあげるだぁ!? まじで馬鹿なんじゃ、ないのぉおお!?」


 ああ、さすがに寒いし恥ずかしい。


 昨日まではブクマしてくれた先輩の事をファンとか言っていた俺だが、さすがに小説の台詞を言うとか……俺の自意識過剰もここまで来ればやば怖いし、恥ずかしすぎる。


 まじで、あぁ……くそ。


「しにてぇ……、あぁ、くそ…………まじでしにてぇ……」


「死にたいのっ……相坂、くん…………?」


「そうなんですよ、マジで恥ずかしいんでもういなくなっちゃいたくて————?」


「——と、途中だよ?」


 バッ――‼‼

 

 そんな効果音がなるくらいの速さで俺は後ろを向いた。

 すると、その先。廊下と居間の狭間の位置に立っていたのは高倉椎奈先輩、その人だった。


「えっ——な、なな、なんで先輩がいるんですかっ⁉」


「うん——と、なんか扉空いてたから?」


 先輩はいつも通りの高校の青色ジャージで、さらにその上から赤パーカーを着ている何とも言えないファッションで、何事もないかのように立っていた。ずぼらな服装に丸眼鏡ではあったが美しい藍色の長髪がひそかに乱れていて、それが逆に体に張り付いて、体のラインを浮き彫りにしていた。


 ていうか、そうじゃない。


「なんで勝手に入ってるんですかっ!」


「え、でも……空いてたし」


「空いてたからって入っていいんですか‼」


「……ダメ?」


「じゃあなんでなんすか……?」


「……分からない、なんとなく?」


「……はぁ…………」


 さすがの天然さに俺も呆れてため息が零れる。抜けてるのか、非常識なのか、それがもう判断できないぞ。まあ今回は後者だと思うけど。


「先輩は社会不適合者っすね」


「……」


「図星っすね」


「わ、悪い?」


「いや、今回は悪いですよ」


「……ごめん」


「はい、もう大丈夫ですよ……先輩が来たのでまだ安心しましたよ」


「えへへ……それは、どぅも……へへっ」


「褒めてないです」


 先輩はオタクがデュフフと笑うのと同じような笑みをこぼす。前髪がピンで留められているため、にんまりと笑った表情もくっきりと見えていた。しかし、こう見ると先輩も意外とオデコが広かったんだな。


「あはは~~、あ、そうだ」


「なんです?」


「そう言えば、さっきなんで死にたいとか言っていたの?」


「あ」


 おっと、ヤバい。


 先輩の非常識さを説教することで忘れかけていたがそう言えば、この人に聞かれていたような気がする。


「いや、別に……なんでもないです」


 ここはイチかバチか、賭けてみる。


「……ほんとに?」


「はい」


「……まじ?」


「マジ」


「……りあり~~?」


「いえす」


 先輩が真顔になった。


 そして、束の間。


「なにがラブコメ語らせてあげるだぁーー? まじで馬鹿なんじゃ、ないのーー?」


「……え?」


「なにがラブコメ語らせてあげるだぁーー? まじで馬鹿なんじゃ、ないのーー?」


「二回言うなっ‼‼」


 何を隠そう、完璧に知られていた。昨日、羞恥の台詞を言ったあの瞬間から俺の運命は決まっていて、その場から逃げる手段など存在してはいなかった。


「……っぷぷ、ラブコメ語らせてくれるんでしょ?」


「わ、わらないでください……」


「無理、言ったもん……」


「い、言いましたけど……忘れてください」


「あははっ! そんなに恥ずかしい思いするんなら言わなきゃよかったじゃん~~」


 ニマニマと口角をあげて言う先輩、その容姿で言われると絶妙にウザくないため少々コメントに困る。所々でこうやって自らのスペックを見せつけてくるあたり、見ようによればウザいっちゃあウザい。地味子のくせにズルよ、この人は。


「うるさいですっ……もう」


「はははっ……もう、面白い……!」


「覚えておいてくださいよ……絶対、しかえしますから、俺だって笑ってやりますからね、絶対?」


「あらら~~、小学生かな~~できるのかな~~⁇」


 言わせておけば……、てかこの人煽るの上手くないか?


「……一人で外に出るのが怖いとか言っている十七歳には言われたくはないです」


「っぐ……な、そ、そんなこと……関係ないじ——じゃろ」


 噛みやがった。

 この人、今噛みやがったぞ。


「ほぅら先輩だって! 人のこと言えないじゃないですか‼‼」


「これは違うもん! これは別‼‼」


「別じゃないです~~」


「別‼‼」


 しかし、こうして客観視してみるとどちらも子供みたいで可愛く————は見えないか。最近はよく、先輩といる事が多いけど案外この人と一緒に居るのが楽しかったりするんだよなぁ……。


「「はぁ」」


 すると、二人して溜息をこぼした。


「まあでも……」


「?」


「私としては……ああ言ってくれて、すっごく……嬉しかったよ……」


「……え」


「あ、いや、うんっ! 別に何でもないよっ! ほらほら、今日も本読ませて‼‼」


「ちょ、先輩っ! ……ま、それはまだっ‼‼」


 照れを隠すようにテーブルに置かれたパソコンに近づく先輩を制止させる俺、豊満でムニムニな先輩せんぱい先pieせっぱいにアタックされながらもその言葉は鮮明に引っ掛かっていた。


 たまには、先輩もあんな風な笑みを見せることがあるんだな。

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