第17話
それから二時間ほど、先輩は口をきいてくれなかった。
「先輩……その、さっきのは不可抗力ですって——」
「……う、嘘でしょ…………」
「なんで嘘なんてつくんですか? そんなことはしませんよ、絶対」
「でも、だって——さっき……」
「さっきって二時間前なんですけどね。それに、そんなことは絶対にしませんよ、絶対!」
「う、二回も言った……」
「二回言っちゃダメなんですか!?」
「はいはいとかって言っちゃダメなのと一緒!」
「そ、そんなご都合主義……ずるいっすよ」
「ずるくないし、私の胸触ってるし!」
事実は事実だが、真面目に不可抗力なのだ。しかも大体、先輩があそこで袖なんて掴まなければ玄関であんな激しく転んだりもしないし、先輩の豊満な胸なんて触らない。ましてや、あんなにもモチモチふわふわな柔らかい身体に飛び込むことだってなかったし!
まあ、感触はもう天国だったし、死んでもいいくらいには最高だったけど————いや、やっぱり死ねるほどではないか、あれを数千回、数万回と繰り返さねば死ねるわけなんてないしな…………ただ! それにしても最高だった!!
ん、俺……今何の話してるんだっけ?
πの話か、3.14の話だったか?
最高な二次曲線を描いたπの話しか?
「相坂君!? なんで急に黙るのよっ!」
「っ!? え、あ、ああ、その考え事を……」
「か、か、考え事……まさか、また触るために案を模索してたとか……!?」
「ち、違いますって! そんなこと考えてませんよ! (あながち間違えじゃないかもですけど……)」
「うぅ……相坂君って実は本当に遊び人だったのね……なんで、よぉ……」
俺が若干と先輩の胸について思い出してると、途端に彼女は泣き出した。
「ちょっ、せ、先輩! そんなわけないですよ! 何考えて勝手に泣いてるんすか!?」
「だ、だってぇ……そうとしか考えれないじゃない」
「なわけないですよ! 俺がそう言う人に見えますか、先輩?」
「……見える」
「いや、見えるんかい!?」
「見えるよ、だってさっき触ったじゃん‼」
「だからあれは不可抗力だって——それに、先輩が僕の事引っ張らなけれなんばあんなことになってませんよ!」
「……いいわけですか、それでも触った事実は変わらないのよ!」
「……も、もうどうすれば……」
さすがの先輩、今までにそういう体験がないからなのか、それともただ単にガードが固いだけなのかは定かではないが俺としては非常に面倒くさいものだった。
そして、それからまた一時間ほど口論は続き、途中で俺が夕飯に出した手作りマルゲリータピザを食べさせたところで説得すると、先輩はどうやら許してくれたのだった。
「も、もう……今回だけなんだからねっ!」
どこのツンデレなんだ……この人の性格はそう言う感じじゃなかったはずだ。もっとこう、穏やかで、たまにハイテンションな感じ……不思議ちゃん的な。
「はむはむはむっ! 美味しい、なにこれめっちゃ美味しい! このピザ最高においしいっ‼‼」
「そ、それはどうも……」
この先輩……いや、ここまで来たら処女なのか、先輩は?
ほんとにちょろいし、食べ物で餌付けされて許すのってどうなんだよ……普通に今後が心配だ。一ファンの作者としてかなり心配なところではあるが、いちいち構ってはられない。ただ、先輩も自分でもっとしっかりしてもらわないといけないぞ、これからは。
まあ、別にいいのかもしれないけどな……もしかしたら、俺が先輩と——ってなわけないないっ‼ 俺みたいな平凡野郎と先輩は会うわけないし、間違っても胸は触ってしまったのなら責任もってサポートしなければいけない。
いやしかし、にしても————
「————かわいいなぁ」
「——ん、なんて?」
「——っ⁉ い、いやなんでも、ないです!」
「はぁ……まあいいわ、あとこれ、もう一枚食べたいんだけど‼」
「……あ、ありますよもう一枚」
「じゃあよろしくっ‼‼」
「分かりましたよ~~」
そうして今日も、俺たちの一日は終わりを告げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます