第13話 「遅刻と腐れ縁」


 4月8日、1年3組にて。


「——おい、今日も遅かったな裕也、どうしたんだよ?」


「っはぁ、っはぁ……まったく、朝からぁ……災難、だよ……」


 先輩の手を引きつつ、中学時代にやっていたサッカーでつけた体力をなんとか引っ張り出して疾走したおかげで、なんとか時間内に学校に着いたわけだが……すでに朝読書の時間は終わっていて、一時間目の授業が始まる寸前だった。


「またか……なんだ、今度も寝坊か?」


「っち、御名答だ」


「やっぱり……、お前一人暮らし向いてないんじゃないか?」


「うるせえ、お前こそ寮暮らしは慣れてんのかよ」


 どんなことにでも茶々を入れる陽介、そんなこいつも家から遠いこの高校に来たわけだが俺にはこいつが誰かと一緒に住めるとは思えないがな。


「……実は」


 やっぱり、俺の予想通りだ。こいつはコミュ力こそあるのだが協調性が皆無なのだ。人の踏み入ってほしくないところまで入ろうとしてくるし、まあ当の本人はただ仲良くなりたいって言うことだけなのだが、俺と一緒の高校に来たのもそれがあるしな。根は良い奴なんだが、所々ウザいこともあるしな。


「めっちゃうまくいってるんだなぁ……」


「何を嘘を?」


「嘘? またまた御冗談なことを……」


「それはこっちの台詞だ、陽介、お前に寮生活がうまくいくとは思えないがな」


「そう言う固定観念にとらわれるのは良くないと思うぞ……、いや、待てよ。お前がそんな固定観念を俺に抱いてるのはちょっとひどくないか?」


 っち。

 こいつは本当にウザいな、自分が何か凄いやつだとでも思っているのか? まあ確かに時々、凄いなと思う節はあるが……先輩の時も案外踏み入ってこなかったし、もしかしてあれは過去の話なのかもな。新たな環境に適応するのもこうも早いわけだしな。


「ひどくはない、自業自得だ。まあ、案外直っているのかもしれないけどな……」


「お、言ってくれるじゃねえか。素直じゃない奴め~~」


「うっせ、言ってろ」


「はいはい~~」


 授業が終わって昼休みになると昨日と同様、陽介は学食で食べるのかを誘ってきた。


「どうする、学食行くか?」


 生憎今日は昼食を持ってきてないし、それに買う時間もなかった。仕方ないから食べに行くことにするか。


「あぁ、今日はもってきてないし、行こうかな?」


「そうか、じゃあ行ってら」


「え、なんでだよ、お前も食べに行くんじゃないのかよ?」


「残念ながら、俺はもう買ってきてるんだなっ」


「……嫌な奴だな、陽介って」


「それほどでもぉ~~」


「心にもないことを言うな、あと褒めてないし」


「ははっ、冗談だよっ冗談!」


「うざっ」


「まあまあ気にすんなよ、裕也のその反応も最高だったしな!」


 そう言うところなんだよなぁ……ウザいのに、話し方がうまいというか。俺にもそのコミュ力向上の秘訣を教えてほしいものだ。この小説家(仮)に会話の仕方のおきてか何かを。


「そうだ、早坂」


「ん、なに?」


 すると、陽介は俺たちの左隣を座っている女子、早坂優菜はやさかゆうなに声を掛けた。早坂は昨日、俺たちに宿題を写させてほしいと頼んだ女子だ。


「お前も、学食行くか?」


「え、あ……うん、行こっかな?」


 さすがは陽介、周りが見えていてすごい。女子の中でもまだグループに馴染めてない彼女を昼食に誘うその紳士さだけは俺も見習いたい。


「あ、でも待って」


「うん?」


「ねえねえ、小泉さん……一緒に行かない?」


 そこで、早坂は一度制止を俺たちに促すと後ろを振り向き、同じく一人で静かに座っている小泉なんとか、えっと……なんだっけな、下の名前までは出てこないがとにかく誘っていた。


「お、小泉さんも一緒に来る?」


「……よ、邪魔じゃなければ一緒に、行きます……」


「俺も裕也も別に邪魔だとは思ってないぜ?」


「ほ、ほんとにです?」


「ああ、行こうぜ」


 そうして、新たな学校生活で俺たちのグループが出来上がった。


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