第6話 「いつも通り」
翌朝。
眩い朝日に包まれると同時に前日からセットしておいたアラームが大きく響き渡る。
マンション5階の一室、決して広いわけではない8畳ほどの部屋に広げた一人用の布団から俺はゆっくりと剥いで、手を伸ばす。
「ん、ん~~~~」
チュンチュンと雀の合唱が耳を撫でて、それから数分してようやく瞼が開いた。
「今は、7時か……あと30分だな」
そう言えば、言ってなかったかもしれないから言うが俺は高校生ながら一人暮らしをしている。高校生の割に贅沢だ、とかよく言われるが……全くのその通りだ。
もともと俺は北海道の田舎出身で両親も地元で共働きをしている。どっちかと言えば裕福な家庭と言えるくらいの―—日本ではまあ普通な、平均的な暮らしと言っても過言はないだろう。
でもなぜそんな普通な家庭であるの相坂家の親が一人暮らしを許してくれたのか——、その理由は俺も良く分からない。
住んでいた田舎より家賃も物価も高いはずの札幌に来させてくれたことは感謝感激雨嵐なのだが、毎月10万円の仕送り(生活費、家賃、光熱費込み)をしてくれるその財源は一体どこからなのか——それは謎である。
とまあ、ごたくもこれまでにして……。
昨日と今日で変わったことと言えば一つだけあることを知っているだろうか。
「……この壁の向こう側に、あの能天気な先輩が……」
昨日の帰り————というか急に、俺の小説を読んでいるだとか告白してきた先輩がまず同じ高校だということですら凄いというのに、まさか家まで同じだったとは思わなかった。
「しかし、よくこれまで会わなかったな……」
こっちに越してきてかれこれ二週間は経っている。
俺としては何回も買い物で外に出ているのだが、隣に住んでいる先輩とは会った記憶がない。
まあそれとも、ただ単に気付いていないだけなのかも知れないが……前提としてあの先輩だ。あんなに元気ならば気づかないわけがないし、9割型あり得ない話だ。
「……っと、やべ、あと20分だ」
おっと。
少々、隣の壁に見とれていたようだ。
我ながら恥ずかしい。
「それで、いったんパソコンを……」
布団から這い上がり、数多のラブコメ小説が散らばった机に腰かける。そして無造作に置いてある最新型ノートパソコンを開くと皆も知っているあの有名なロゴが映し出された。
「えっと、GooLgleはっと……」
GooLgleの検索バーから小説投稿サイトの名前を入力し、検索。ものの数秒で現れた検索結果からいつも使っているサイトを開いて、マイページから予約投稿を済ませた。
何となく気になって、アクセス数とブックマークを調べると————やはり、見たのを後悔した。
「……やっぱり」
アクセス数は合計200で、ブックマーク数は2件。
「ブクマが一件増えたのは嬉しいけど、何の変化もないか……」
しかし、今年の三月から始めたものとしてはかなり上々かもしれないが俺、個人としてはかなり物足りない。
最高のラブコメを書くという計画に一歩すら近づいていない。俺の中でのゴールはラブコメで世界中の人々を感動させることだ。
だからこそ、もっと頑張らなければならない。
予約を完了させ、俺はパソコンを閉じる。時計を見れば残り数分。適当においてある菓子パンを手に取って口に含み、俺は玄関を出た。
「……はぁ、とっとと学校行くか……」
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