第7話 「腐れ縁も縁のうち」
キーンコーンカーンコーン、と鐘が鳴った。
16年の人生の中で最も聞いてきたであろうチャイムの音が校内に響き渡る。
そして同時に、午前の授業が終わりを告げた。
「——よ、同じクラスだったな兄弟!」
すると、騒がしく俺の肩を叩いたのは中学からの腐れ縁である田中陽介だった。午前中は授業やら説明会やらで潰れて離せなかった反動がここに来て爆発し、声色がかなり明るく、陽気な性格のこいつらしかった。
「お、おう」
「何をかしこまって~~、もう4年の仲だろぉ? いい加減よ——」
「——じゃなくてな、ほら周り見てみろよ」
俺が指をさすと、ほとんどの生徒がこちらを見ていた。
「なんだよ……」
なんだよとかこうだろとか、別に何か危ないことがあるわけでもないのだが周りからの視線の嵐はさすがに痛かった。
どうやらクラスの大半の生徒は互いに打ち解け合っていなかったらしい。ちらほらと隣の生徒に話しかける奴らもいるのだが、陽介のように大胆にも教室を横断する生徒はいない。俺と陽介が少数派なのはさも当然のことだろう。
「——おっと、これは失敬。すまんすまん」
すかさず適当な謝罪を述べる陽介、しかしそんな彼を見て呆れたのかその視線は徐々に消えていく。さすがは我が腐れ縁、この呆れられ様は半端ない。このスピードは更新かもしれないな。
「もっと早く気づけ、お前は」
「気づけってなぁ、裕也との仲が深すぎてそんなの見えん!」
「あほがうるせえ」
「……へぇ……ほぉん、ランクDの裕也が良く言えるなぁ……」
「……っちぇ」
「ははっ! これはこれは失敬失敬……」
こいつ、俺のツッコミを違う方向から否定しやがった。まあ確かに俺の方がランクも入試の点数も低くて阿呆に近いのだが、なんかこのちゃらんぽらんなクソ野郎に言われるのも癪に障る。
「それで、陽介はどうするんだ?」
「どうするって何をだよ?」
「いや、学食か教室か——ってことなんだけど」
「っえ? ここって食堂あるの?」
「あるけど?」
「まじか……外見の小ささの割にそう言うのあるんだなぁ」
「初日から悪口はやめとけよ、入学してくんな」
「え、褒めてるんだけど?」
「どこがだ馬鹿」
「あ、そっか! 阿呆だったもんなぁ~~」
「……っち」
昼休みが始まって5分、未だに弁当すら広げていない。
「——ごめんって、痛い痛い!」
「はぁ……ったく、それでどうすんの?」
「あ、何が?」
こいつ、まじで忘れてやがる。
「……もういいや、俺弁当だから」
「おい……陽介」
「なんだよ?」
「食堂か弁当って聞いてんだからな、最初から、決まってるんなら先言っとけ‼」
そして、俺が叫んだ言葉は教室に広がり今度は睨みを効かされることとなった。
「でさ、俺昨日面白いことを聞いたんだけどさ……え、聞きたいって?」
俺が大好物の唐揚げを口に運んだ瞬間、陽介はニヤリと口を挟んだ。
「まだ聞いてねえよ」
「いいから、どうだよ、うん、うん⁇」
「なんだよ、聞きたくないって言ったらどうすんだ?」
「そのまま言うけど?」
「じゃあ最初から言っとけ」
「——でな、先輩が言ってたんだけどな」
「ちょっと待て、お前もう先輩と話したことあるのか?」
ちょっと衝撃的だった————と思い、つい口に出したがそう言えばと俺にも心たりがある。だが、ここで引き下がるにはいかないためぐいぐいと攻めていこうか。
「ああ、まあ部活があるし……」
「見学?」
「そうだよ、ここのバスケ部強豪だしな」
「ふぅん、それで?」
「でな、クラスの女子が一年生と一緒に帰ってるとこ見たんだって、それも昨日だぜ? 入学式の帰り、ヤバくね!? なんだろ、もうカップルだったするんかな!」
ニコニコと言う陽介。
しかし、それを見て俺は少しだけホッとした。
無論、こいつが言っている一年生は恐らく俺だろう。昨日の時点で一緒に帰っている一年生を俺は見てはない。そして、さらに俺は先輩と帰っている……つまりはその一年生に該当するのは俺しかいないということだ。
————っていうか、盲点だった。
まさか上級生の間で広がっているとは思はなかった。さすが、能天気で陽キャな先輩だ。小説だけ読んでいるわけではないコミュ力をひしひしと感じる。
いやしかし、バスケ部の男子部員にまでその噂がいきわたるくらいに名が広いのか……やべえな。でもまぁ、その相手が俺だということはバレなかったようだし、まだいい。ここはバレないように真面目に穏便に済ますとしよう。
「へえ、すごいなそれは。羨ましいな」
「だよな~~。まあでも、そう言いつつも俺には……狙っている先輩がいるんだけどな~~」
「へぇ、すごいな。バスケ部か?」
「おう、めっちゃ背が低くてかわいいんだよな~~」
さすがは陽介だ。
このちゃらんぽらんな性格で数多の女子を痛ぶってきていることは俺が一番知っている。中学時代は毎月彼女が変わっているという最強にクズ男ムーブをしていた記憶が過ぎり苦笑が零れた。
でも、意外にも女子からモテてしまうため、その度イライラするのだがその先輩という者やらも全くもってついていないようだ。ほんと、うちの腐れ縁がすみません。
——と、話が逸れてホッとしていた時だった。
ガラガラガラッ‼‼
教室後ろの扉、まさに廊下側前から四番目にある俺の席のすぐ近く。
それなりに静まり返った教室に扉の音が響き渡ると次に——
「——そ、その! あい、あい相坂君、いますかっ‼‼」
一言で表すなら、「地獄」の様なタイミングだった。
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