第4話 「先輩のあこがれの」
「————ほんっとうにぃ‼‼ ごめんなさいっ……でした!‼‼‼」
「……」
なかなかどうして、凄まじかった。
超絶怒涛の謝罪ラッシュ。その迫力が尋常じゃなさ過ぎて思わず右脚が一歩後ろに下がってしまうくらいには激しかった。
それに日本語もおかしいし、かなり動揺しているようにも見える。見えると言うか、誰がどう見てもーーーーっていうレベルにだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「ま、まあ……特に気にしてないので大丈夫ですよ」
「ほ、ほんとですか!? ……私、逮捕されちゃうかと思って嘘でも謝ってみたんですけど、謝った甲斐がありましたっ!」
そうかそうか、ふぅーーん、ん…………ん?
「え、今なんて?」
すると、もう一度表情を固める彼女。
「——な、なな、なななんでも、ないよ?」
うん……と頷いてあげたいのも多少あるが、俺はそれを聞き逃そうとは思わない。今、この先輩はなんて言った?
「『嘘でも謝ってみた』だって……?」
「ひゅ、ひゅ~~だ、誰だろうねーーそんなひどいこと言ったのはーー?」
「おい、先輩。しらばっくれるな、言いましたよね今?」
「え、エ~~、ナントコトカシラネーー」
「その、カタコトですけど?」
「ソンナコトナイヨ?」
「——はぁ、まあいいですよ、謝ってくれたんだから嘘でも、嘘でもっ許します」
「え、ほんとっ!? ありがとぉ~~!」
先ほどからテンションもすごいし、余計な一言も多いが彼女は一体何なんだ。
——正直、最初の一言なんて取り消したい。いや、やっぱ取り消す。
にしても、表情はニコニコしている。可愛らしいのもそうなのだが、それでは見えてこない彼女の深層? 的な何かが全く分からなかった。しかし、そんなことを疑っていても変わらない。これから一緒に過ごしていくなかで考えていくことにしよう。
「はぁ……、じゃあ帰りますか」
「……そうだねっ」
二人して校門を通り過ぎる。周りの生徒の視線が怖かったが意外にもそんなあからさまなイベントはなく、ようやく帰路に着くことができた。
決して彼女のことは知らないがどうやら、悪い人ではないらしい。うん、それにあまり人を疑うのは良くないだろう。
「それで相坂君はどうしてさ、小説を書いてるの? ——あ、まった、これは相坂先生とでも呼んだ方がいいのかな??」
「いえ、相坂で結構です。それに! こんなの学校に広まったらどうなると思ってるんですかっ!」
「え、いいんじゃない? だって面白いし」
「って——もぅ……、とにかく恥ずかしいのでやめてください。入学早々に学園生活を無駄にしたくないんですよ」
「ん~~、そうかなぁ……?」
「そうですっ」
何気ない表情で言う彼女は本当にドジっ子なのかもしれない。いや、ifではなくmustだ。間違いない。
「——あ、えっとそれでなんでしたっけ?」
「……っ! そうそう、どうして小説書いてるのって言う質問!」
どうして書いているのか……か。別に大した想いなんてない、ラブコメが好きな俺はそれが故に描きたくなってみたから書いているだけだ。素人って言うことだけあって連載から1か月経った今でもブクマもPVも変わらない。
せめて顕著な違いが見れたら嬉しいのだが生憎と人生もラブコメ小説もそううまくはいかなかった。
小説投稿サイトからアニメ化した作品を否定しまくっていたあの頃に戻って頭を下げたい。そのくらいには厳しさが分かっていた。
「……ラブコメが書きたくなっただけです」
そうだ、その通りだった。
とどのつまり、自己満足のラブコメを——人生の指標、道標であるラブコメディーを皆に見せてあげたい、そんな大層な思いがあるわけでもなく、ただ単に書きたかっただけだ。
しかし、先輩は優しかった。
「それいいじゃん! 私も色々な作品読んできたけど、相坂君のラブコメ小説はね、なんかその愛を感じるもん! 肌身で感じるラブコメ魂的なっ⁇」
「そ、そうですか、まあ……喜んでもらえているなら本望ですね」
「それ以上だけどね!」
「にへら」と笑う先輩。
いやはや、急だが——陽キャラもいい所だ。
悪い癖だが、人は見た目で判断してはいけないな。
でも(否定の二段活用)その容姿は美しい極まりなく、それでいて静かな印象を受けたんだ。黒縁の清楚なメガネに赤い線のセーラー服、色気のある黒いタイツ、そして品やか垂れる漆黒色の髪に淡い真紅の瞳。そのすべてが文学美少女を作り上げていて、改めて思うが静かな女の子にしか見えない。
「それ以上なんすか?」
「うんっ——なんか、心に刺さってね……久々に『これだ!』ってなったよ~~」
俺は思った。
一個上の先輩の女の子とは————こんなにもかわいいものなのだろうか。
「なんか他の作品と比べられたら見劣りしそうっすね」
「う~~ん、そうかなぁ? 私は最高だと思うけどな~~」
「あ、ありがとうございます……」
「技術は劣るかもしれないけど、心の叫び的なモノは最高だと思うけどね! 少なくとも私にはあんな愛の籠ったものは書けないよ~~」
そんな疑問と言うか、よこしまな感情と言うか————本音が映し出されるとともに。
「またまた~~、そんなに小説読んでいれば書けますって!」
「えへへ、そうかなぁ……」
「そうですよ! 僕が憧れている作品知ってます?」
「……そ、そんな作品あるの?」
「あります!」
俺はその本を取り出した。
まさに、
「この————『ラブコメを語りたい。』なんです!」
「っ————!?」
すると、先輩は肩を震わせた。目線も泳いでいるように見えるがどうやらこの作品の事を知っているのだろうか。
「お、先輩! 知ってました?」
「……し、知ってます…………っ」
「まじですか!?」
「は、はい……」
「いいですよね! この作品!!」
しかし、彼女はその後も火照ったかのような赤い顔を俺に向けようとはしなかった。
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