第28話

晴れた青い空に鳥が飛び、森に風が吹き、動物たちがカサカサと

草を分けて食べのもを探す。いつもの森の形だ。


「魔力の痕跡は消えたようだ、森の動物たちも戻ってきている」


魔王の報告に真が真っ先に「え!外に出られるのか?!」と

確認しくるのをわかっていて、魔王は「待ちたまえ」と真を制す。

「・・・・まだ何も言ってねー・・」「ぎゃはは!もう顔に書いてあんだよ!」

「んだと!」「お?やんのか?お?」「・・・ぐぐぐ・・・」「ぎゃっはっは!!!」



「その下品な笑いを止めなさい!」真は夏樹のふわふわの胸の守られる

ように抱きしめられていた。


「く、くるし・・夏樹・・」「あ、ごめんなさい真ちゃん・・、しかし魔王様の追う通り・・」


魔王は一同が静まるまで待ち、机の上にチェスの駒を3つ、出した。


「僕にはやる事がある・・、第一、真君を元の世界に戻す方法を探す、あるいは

構築する事。」

「え!俺帰らねーぞ!まだ何もしてないし!!」

「ばぁっか!アブねー目にあったろうが、死にかけたりよぉ・・」

「・・でも」

「話を続けても?」魔王の『いい加減にしなさい』と言わんばかりの眼力にさすがの

真も静かになった。


「第二、お子様魔王の狙いの把握、後の撃破を考慮に動く事。

第三、僕が「智」の魔王として研究を続ける事。


君たちに問う、あえて、勇者にもだ。

僕が一番にするべきことは何か、わかるかい?」

「俺たちの寿命が尽きる前に終わる事が第一優先だ、お子様魔王討伐だな。

敵は居る、居場所を探し出してぶっ飛ばす。終了だ。」

勇者の返答は早い。

「第二に真ちゃんの帰還の手がかりを探す事、魔王のクソ研究なんかは一番最後だ。

俺らが死んでから、ごゆっくりどうぞ」

「ふむ」

「・・・でも、オッサンは「智」の魔王なんだろ・・?」

「ああ」

「魔王って「個」って・・その、誰ともつるまないで・・自分が知りたい事をするのが」

「そうとも、僕は「そう」あるべきなのだ。だが真君の世界に行ってからと言うもの

勇者や真君の行動が読めず・・または・・「興味」を持ってしまう。

研究対象がブレるというのは・・・「智」の魔王としては如何なものかと

そして自分自身が制御できない行動や言動を・・・、今もそうだ。人間に意見を

求めるなど・・・僕は・・」


いつもより、更に眉間に皺を寄せ、困っているような魔王を見て


「アタマがおかしくなったんじゃねーのか?って聞いてんのか?

元々てめーら魔王のアタマなんかとっくの昔にイカレてんだから

心配すんな!うん!魔王はぶっ壊れてる」

「何て事言うんだよ!龍!オッサンに謝れよ!!」

「い・や・だ・ね」

「ほんっとお前が勇者なんて有り得ねぇ!ブッ壊れてんのは龍の方だろ!

ほら!オッサンに謝れよ!!」

「いーやーだー!」


目の前に広がる光景は・・

いつしか自分の日常になっていた。

長く・・どれ程生きていたのだろうか・・その中のほんの刹那。

目を離した隙には死んでしまう・・無くなってしまう人間たちのやりとりは・・。

これ程興味を引くものだっただろうか・・・

今まで人間に声をかけられても、礼を言われようが、特別何も感じる事は

無かったというのに。


「ふっ・・くっ・・・・」


胸に手を当てる。今は人間の姿をしているが内臓が・・心臓が、ある訳ではない。

人の形をした虚空の入れ物には「魔力」だけが永遠に廻っているだけだ。

なのに、


「く・・・くくっ・・」

「オッサン・・?」「ほらな?壊れてんだろ?魔王が笑うか?」

「笑うよ!俺見た事あるもん!」「あれはそういう形に見せてるだけで、魔王に感情は無い、ハズ」

「くく・・・・くっ・・、ははは・・・あぁ・・・、そうだね・・。魔王に感情は無いんだよ。

喜怒哀楽はその場にあったものを選んで顔の形を作るだけ・・っ・・なんだけど・・っ・・

ははは!そうかそうか、僕は壊れたんだ、いや壊されたんだ。


もう「智」にあらず「個」にあらず。ふふ・・・「愉快」だ。」


魔王は立ち上がる、目を拭う・・「泣くほど笑うとはこの事か」と、また笑う。


「・・オッサン・・・大丈夫か・・??龍のいう事なんか気にすんなよ?」

「ああ、大丈夫「ありがとう」真君」

「いや肯定されたらされたで気持ち悪ぃな・・」

「全く、「ありがとう」勇者」


魔王と言うものは、伝承の通り「智」は「個」であるのがセオリーだ。

勇者もそれくらいの知識はある。

だがこの魔王は、真の世界でも真を気にかけ、守り、勇者に怒りをぶつけて来た。


そして勇者自身も。

魔王同士の闘いに手を貸すなど・・・しかも報酬額も聞かず、命をかけて。

いくら真の存在があるとは言え・・


「俺もお前も、真ちゃんの世界に長く居すぎて・・・、壊れたんだろうよ。」

「ならば、それらしい事から始めるとしよう」

「それらしい事って?」


魔王がニヤリと口の端を歪めて笑った。


「「智」の魔王が「自ら」行う領地拡大だ」


思わず真が立ち上がり、勇者は剣に手をかけた程

その表情は「魔王」そのものだった。



ルイナの街はちょっとした騒ぎになっていた。


魔王が人間の住む街に堂々と現れる事は無い・・・

「智」の魔王ともなれば、一生に一度見られただけでもいい方だ。

その無いはずの事が起こっている。

勇者達が屯するギルドの前に、派手な魔法陣と共に現れたのは

魔王と勇者二人、耳は隠しているが上位獣人族2頭。


「よぅ、魔王を連れて来たぜ!

こないだ西の街にのこのこ遠征して銀貨一枚も稼げなかった野郎ども!

子供の姿をした魔王の情報をこの魔王に売ってくれ!


この魔王が、そいつを討伐するぜ!!

「智」の魔王同士の領地争いだ!見ものだろ!!」


勇者達は最初は疑心暗鬼に・・・そして・・・


「おおー!!!」「本物の魔王か?!凄ぇ!」「情報ならあるぜ!」


わっと魔王を取り囲む勇者たちは口々に情報を話す。


「・・あんなに大々的にしなくても」「情報もそこそこ集まったし!いいだろ!」

「馬貸してくれるって言われたけど、俺・・馬乗った事ないよ・・・」「慣れろ!」


てきぱきと馬を用意して勇者はさっさと行ってしまう。

夏樹に手伝ってもらいながら馬に乗った真だが、不安は隠せない。

その後ろに魔王が乗って「慣れるまで僕が制御しよう」と手綱を握ってくれた。

そして夏樹と咲も二人で馬を駆る。



「・・村と僕の城を潰した魔力跡が薄れてきている。だから野生動物たちも出て

くるようになったんだろう・・。しかし・・」

「しかし?」

「この魔力に惹かれた領地拡大を狙う魔王が何体か討伐されたと聞いた、

まだ現れるかもしれないから気を付けて」


「全く、魔王の穴倉に居すぎて腕はナマるわ、稼ぎ損ねるわ・・、こうなりゃ余りもんでも

いいから出てこねーかな!」

「居ます」


夏樹が馬の上に立ち上がる。


「お!信号弾は出てるか?」「いいえ、魔力の残り香に誘われた・・ロンダドラゴンです」

「中級か!クソ!」「闘うのか?!」


夏樹の指さす方向に馬を走らせる。

森の中を数分走ると、馬が嘶く。


木々を倒しながら、二頭の二足歩行型の蜥蜴が手に武器を持って戦っている。

その体躯は3mを超えそうだ。


真は相棒を引き抜く。

だが

馬から弧を描いて跳んだ夏樹の蹴りがロンダドラゴンのこめかみに当たり

そのあまりの衝撃に2頭とも頭をぶつけあう形で倒れた。

夏樹はそのまま宙で一回転すると、一頭に膝蹴りを落とし、もう一頭を蹴り上げた。

蹴り上げられたロンダドラゴンはもう一度夏樹の渾身の蹴りを喰らって地面にめり込んだ。

「つよ・・速っ・・・」

「燃えろ」

驚く真の後ろから魔王の手が伸び、二頭ともあっと言う間に焼き尽くしてしまった。


何事もなかったかのように馬は走り・・

夏樹もいつも間にか馬に乗っていた。

真はそっと相棒を収めた。


「金目の魔王、金目の魔王!!」

「ここには今僕がいるから、そのうち大型も出てくるかもしれないよ?」

「逃げ出すの間違いだろ!」

「それは・・そうかもね・・」

「何か嬉しそうだな、オッサン」


魔王の「有りもしない心が躍る」との答えに、真は『前のオッサンの方がいい・・』と

少しだけ思った。



陽が落ちる前に見つけた場所で野営する事になり。

真は薪用に小枝を探しに行くことにした。

「これくらいは役に立ちたい」と言い、「一人でやる!」と

張り切って歩き始めた。小枝は集まった・・はいいものの・・・

陽が暮れて辺りが暗くなってしまい帰り道が分からない。


「うーっ、くそー俺だけいつも役立たずじゃんかー・・

こういう時は・・動き回らず、目が慣れるまで・・」


小枝が散らばる。

真は相棒をそっと抜いた。


『何か居る』そう感じた。暗闇の中、風が吹き草木を揺らし音が鳴る。

だがそれは・・静かな足音と共に近づいていた・・。


『落ち着け!落ち着け・・音を聴いて・・、相手の呼吸に合わせる・・・

体幹をしっかり、足元にも神経を行き届かせ・・・・』


ヒュンと風を切る音がした。後ろだ。

軸足を変えず方向を転換し目を凝らす。


金色の瞳と目が遭った。

「モンスター・・・?!いや・・あれは・・」


相手も真の出方を伺うように、真の右手にゆっくり歩き出す。


『今!』

渾身の力で振り下ろした剣が獣の首を掠めた。

後ろに飛びのくのと同時に真も前に出る。


軸足を中心に身体を反転させ、相手の死角に入り剣を下から上に斬り上げ

もう一歩踏み出し斬り下ろした。


「ギャアアアア・・・・ッ!!!」


断末魔を上げて獣は倒れた。


「はぁっ!はぁっ・・・!!!は・・・・!!はー・・・」

獣の死を感じて相棒を地に突き刺し、それを支えに項垂れた。


「おーおー、お見事!」拍手しながら現れたのは勇者だった。

「・・・龍・・・」

「この暗闇でよくやったな、リドルトラが居たから晩飯用にな、

俺がやってもよかったんだけど、ここは真ちゃんの剣の師範である

俺が、真ちゃんに試練を与えてやったぜ!」

「・・・と・・トラ?」「2mはあるなこいつ、ほら、もう少し踏み込みが強ければ

首が落とせたな。」

「・・なんだ・・トラかよ・・・、モンスターじゃ・・」

「俺と魔王、バウニーから死ぬ気で逃げ出した、まさに手負いのトラだぜ?

モンスターよりタチが悪い。そいつに真っ向勝負で勝ったんだぜ!

俺はスゲーと思うけどな!」


真は全身から噴き出した汗が冷たくなっている事に気づき・・

獲物を担いで行ってしまう勇者を慌てて追いかけた。


「真ちゃん!」「お兄ちゃん」2人は心底心配していたようで

茂みから姿を見せた真に抱き着いてきた。


「わわ!大丈夫だよ・・」

「あの狂ったトラを一人で倒すなんて・・」「凄いよ!お兄ちゃん!」

「真君はずっと鍛錬を積んできたんだ、その結果が出たんだよ」

「いい切れ目だぜ!こりゃ皮がいい値段で売れるな!」

「・・そ、そう・・よかった・・、疲れた・・。」


真はその場にへたりこむ。

初めて一人で倒したのはスライムと・・トラ・・・。


真は相棒を月の光にかざす。

血の一滴も、傷ひとつついていない。

「うん、今はこれで・・大丈夫だ!・・それに腹へった・・・」


トラは魔王とバウニーにあっと言う間に解体され、その肉は夏樹が「とっておきです」

と言って振りかけた調味料によって調理され、上質な牛肉を思わせる焼き料理に変わり

一戦を戦った勇者には何よりのご馳走になった。



「さて情報をまとめようか」

食事が終わると、魔王が話を始めた。


「西の村々に行った勇者たちは一度も子供魔王を見ていない、唯一目視し、交戦したのは

青薔薇の勇者のみ。だが人間相手に小技を使った上で後れを取り、青薔薇の勇者の加護

さえ発動していれば今頃僕たちの目的は変わっていたはずだ。

子供魔王はその場から消えた、との話だがそれらしい子供を見たという勇者達の情報から

すると、転移ではなく高速での移動のみしか使えないようだ。


そしてそれを補う為に・・・かはわからないが・・恐らく紫の魔王が子供魔王に手を貸していると

思われる。紫の魔王の拠点である街から、彼女が「子供」として育てていた人間たちの死体が

複数見つかったらしいからね。

紫の魔王は人間を研究している、特に子供を育て、その成長過程に手を貸す事で

どのような変化が現れるか見ていたのだろう、これは僕の推測だけれど・・・。

そこに子供魔王・・の手下が現れ紫の魔王に話を持ち込んだ」


「お子様魔王はなんで街には入らない」

「大きな街にはそれぞれ魔王対策に防壁結界が張ってある。魔力のない人間や

「智」の魔王ならば何の問題も無く突破できるが、

中途半端な魔力を持つ、領地拡大を目的とする魔王には効果がある。

よって子供魔王は、その体型や魔力から不安定な半魔・・・と推測される。

不安定と言うのは、智の魔王の研究を自分のものに出来る「吸収」ドレインのような魔法は

使用可能だが、それによって得た魔法でも使える術と使えない術がある。

唯一使えるのが魔力を最大にした重力魔法位なものだったのだろう。

村単位で襲っている事から攻撃範囲も広くはない。

ただ人間には深い恨みを抱いている・・この事からも、半魔、しかも人間と魔王との半魔である事が

推測できる。


今、紫の魔王は半魔の体を本物の魔王にする為に施術しているだろう・・もう一か月、半魔が姿を

現さないのは紫の魔王の施術に時間がかかっているためとも推測できる」


「紫の魔王・・・とも闘うのか?」


真はあの長い髪を思いだす。

「その心配は無い、もともと「智」の魔王は戦うという意思が無い。戦う相手も居ないのだから。

紫の魔王は関与する事は無い。

でも僕には戦う相手がいて、理由があり、力を使う事に決めた。」


「今、紫ちゃんが術を使ってるなら魔力で探知とか出来るのか?」

「うむ、紫の魔王は拠点を捨て、半魔と供に居る。相手は半分は人間だ。おそらく世話をしている

人間、あの暗殺者の女が側に居て情報収集をしたり食事の用意などをしているのだろうから

そこまで人里離れた場所に居る訳ではないだろう、しかし

半魔が自分の魔力を制御または増幅させるために、地脈に沿った場所に居るなら感知は難しい。

地脈には元々大きな魔力が流れているからね、とはいえこの国中の地脈を探る旅も難しい。」

「何だよ、ならどうすんだよ」

「情報は集まった、そして施術はもう終わると思われる・・半魔が魔王になった時

喜び勇んで真っ先にする事はただ一つだ。僕を探し、倒す事」

「オトリって事か・・」

「後、この地方に来たのにも理由があってね」


話の途中で眠ってしまった真に膝枕をしている夏樹が頷く。


「念には念を・・と思ってね」


空には大きな月が輝き、切り立った崖に影を落としていた。

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