第27話

「お話するなら、もっと明るくて暖かい処が

いいわ、私の部屋に行きましょう?」

紫の魔王は詠うように言って手を差し伸べる。

小さな魔王はその手を取らずに居る。

「・・・」

「・・それ・・・は」


女が肩で息をしながら、やっと顔を上げる。


「やめ、といた方が・・いいかも・・・」


「空間転移・・私ったら嬉しくて人間の

あなたまで転移させてしまったわ。

身体・・丈夫なのね、バラバラになって

しまったらママは悲しいわ?」


「そう、その子ね・・・出来ない事の

方が多いの・・転移は無理、」

「出来ないんじゃない!」


小さな魔王は紫の魔王の手を払いのけ


「話はここでする。

他の智の魔王を探しだして

僕の前に連れて来い!


それが条件だ」

「何故?」


紫の魔王は首をかしげる。

「『他』の魔王なんて必要ないわ?

あなたには私が居るのもの。

それにおかしいわ?

魔王は「個」であるもの。」


「・・・出来ないんら、お前に用はない!

出ていけよ!」

「何がそんなに気に障ったのかしら?

あなたは何がしたいの?」


「智の魔王の力をすべて手に入れて、

人間をすべて殺す」

「それ無理・・無駄な事よ?

魔王は「個」で人間は生命力にだけは

あふれているの。

どんなに殺しても、あちこちにいるわ。


たとえ全員殺したとしても

他の動物から数千年で進化してまた・・

人間になるわ?私はそれを知っている。」


小さな魔王は立ち上がり。

紫の魔王を見下ろす。


「では、内容を変えるよ。

お前の力を、僕のものにする」

「・・どうして・・」


と言う前に、紫の魔王の首は落ち

長い髪の上にコロンと転がった。


小さな魔王がその頭に手を置くと

紫の魔王の瞳が妖しく輝く。


「これが・・闘う・・と言う事。

そうなのね・・・」

「何で死なない?!この剣は

魔法をすべて無効にする宝剣だぞ!

今までの魔王は皆・・」


首はふわふわと浮き上がり。

元の場所に戻る。


「産まれたて・・あるいはもう死んでしまう

魔王には効力がありそうね。

実際私の体も傷つけられたのだから

その武器は大したものだわ。

ママは嬉しいわ・・あなたは本当に

可愛い子。


その姿、魔力、智力、行動、動機、行動

全てが幼くて、見ていて愛おしい」


「っくそ!」


小さな魔王は宝剣を振り

その度に紫の魔王はその剣を受けた。


「くそくそくそくそ!!」


なんで死なないんだよ!!

確かに・・生きてる年数も、魔力も桁違いに

違いすぎる。

かと言って僕のいう事を聞くのかと思えば

そうでもない。

あぁ!もうどうしてこう!

何もかもうまくいかない!!!



「悲しんでいるのね?あなた・・」


紫の魔王は詠う。


「復讐したいのね?相手はもう居ないのに」

「うるさいっ!!」


宝剣が紫の魔王の胸に深々と突き刺さる。

その剣先はゆっくり押し戻されて・・・・


「僕は確かに魔王として産まれたはずだ。

産まれ落ちたその日から、この姿だった。


なのに魔力も少なければ、知識もない。

「智」の魔王なのに、何をどうすればいいのか

わからない。


でも身体は人間で。

食べなきゃ飢える・・・・多少の魔法は使える

けど反動が大きい。

空間転移なんてしたらきっと体がバラバラに

なるだろうね・・


こんな中途半端な身体で何しろって言うんだよ・・・

考えて、わかんなくて・・70年も生きてるのに・・


だから他の魔王から智を奪う事にしたんだよ!

ついでに、僕を奇異な目で見て迫害した

人間たちも根絶やしにしてやるって、

やっと目的が見つかったのに・・」



カラン・・と乾いた音がして宝剣が床に落ちる。


「どうして、僕・・産まれたんだろう・・・」

「可哀想な子」

「・・・もう・・出て行ってよ・・、穴倉で命が枯れるまで

研究でも実験でもすればいい・・」


紫の魔王は、小さな魔王の前に膝をつき

その手を取った。


「あなたは、魔王よ」

「・・・はっ・・慰めてくれるの?」

「いいえ・・ママがあなたを本物の魔王にしてあげる」

「・・え?」

「半魔の素体・・「中身」を見てみたいわ・・

大丈夫決して殺しはしないから。

人間のあなたが泣くのであれば。

魔王のあなたが生きる意味が欲しいのなら・・・

ママがあなたを「産み」直してあげるわ?」

「・・そ、そんな事・・・・」

「ばかな子、最初からそうママにお願いすれば

よかったのよ?」


紫の魔王はにっこりと微笑んだ。





あの襲撃から1か月余り・・

結局西の村は襲われる事もなく、勇者達も解散していた。


「暇だ」

勇者が愚痴る。


「暇なら剣の稽古してくれよ」

真がせがむ。


魔王一行は、魔王城の隠し扉の中から動けずにいた。


「そのやりとりは朝から58回目だが、何か意味が?」

興味深そうに尋ねてくる魔王。


「んだよ、あのお子様魔王・・、もう魔王をつけ狙うのは

やめたのかよ」

「あるいは準備中、あるいは・・」


魔王は少し考えを巡らせて・・・・


「あるいはもう必要ない・・のかもしれない」

「オッサンが強すぎて、別の魔王を探してるのかもな!」

「それならばいいのだけれども。

半魔とは言え寿命はそこそこあるだろう。

次に狙われるのは100年後かもしれない」

「100年?!!!俺死んでるじゃん!」

「ばぁっか!俺もだよ!」


勇者に言われて笑いだす真。


『二人が・・・・いない世界』


随分長い間一緒に居た・・気がする。

人間の寿命は魔王に比べれば短すぎて

村の人間たちも少し目を離すと

「昨日産まれたんです」と紹介された赤ん坊が

すっかり老人になっていた事を思い出す。


今までそんな事を気に留める事が無かった。


『ふむ・・寿命か・・、早める事は簡単なのだけど・・

止めたり、伸ばしたりは人間の体がもつかどうか・・』


今こうして考えている事に魔王自身が驚く。


「どうしたんだよオッサン・・・」


自分を見上げてくるこの少年が


「もう死にかけで思考停止が始まったんじゃねーの?」


軽口を叩く勇者が・・・


『居なくなったら静かな生活に戻るだけだ、それより今は

他の事を考えなくては・・・

真君をこれ以上この世界に留めておくわけにも

この世界で一生を終わらせる訳にもいかないのだから』


魔王は姿を消す。


「ちっ!逃げやがった」「それより剣の稽古してくれよー!」

ふたりのやり取りはまだまだ続きそうだ。






子供の魔王が眠る・・古城の地下。


紫の魔王の膝枕で眠る小さな魔王は、本当の子供

そのものであった。


紫の魔王はその体をゆっくりと撫でる。

その手は仄かに光りを放っていた。


「なぁに?ママに何かお話かしら?」


女は・・柱の影からその様子を伺う。


「・・あの・・」「そんなに怖がらなくても大丈夫よ?」


「その子・・とはその・・少し、縁があって」「ええ」

「私が仕事をしくじった時に助けてもらったんだ、

その子は気まぐれだって言っていたけど・・

人間全部を殺したいとは・・・思ってない・・と思う・・

ヤケに・・なってるんだと・・・」

「そうね・・、それで?」


女は意を決して一歩前に出た。


「・・・化け物に改造したり・・、その子の意思を

失くすような事はしないで欲しいのよ・・」

「勿論」


紫の魔王は女を見る。

女は目を反らした。


「今は、この子の体がどうなっているのか見ているだけ。

半魔と言うけれど、人間と魔王の部分がぐちゃぐちゃに

混ざりあっているわ・・・空間転移が出来ないのは

そのせいね・・、完全に人間のあなたなら私の魔法で

庇ってあげることも出来るけど、この子の魔王の部分が

私の魔法を受け付けない。

空間を転移すれば、魔王の部分だけ傷を負う・・・

魔王同士の魔法の反発ってとても厄介なの。

人間の部分なんて解けてなくなってしまうかもしれないわ。」


「そうなの・・それで、昔大怪我したみたいで・・

怖がってるの・・代わりに高速で移動する魔法を使ってるの。

でもその反動が大きいみたいで・・マジックアイテムで

なんとかやってるみたい・・私ははそのアイテムを探したり

盗んだりする役目・・あと、ご飯作ってあげたり・・・」


「あなた、この子の事が大切なのね・・・」


「大切なのとは違う・・と思うんだけど。

なんか・・・見てられないのよ・・。

私、以前に魔王に挑んで・・・まぁ負けちゃって傷を

負ったんだけど・・・、その子治癒魔法もロクに使えないのに

必死に私の傷を治してくれて・・

その後倒れちゃったんだけど。」


「そうなの・・」


「本当に自分でもどうしていいかわからないんだと

思う。

私も、その子も大陸から来たの・・・。

私も孤児で、生きるためには何でもやった・・・・

何も考えずに、人も殺した、そして生きてきた。

その時の私と同じに見えて・・堪らないの・・。

どうにかできるなら、してあげたい、

ただそれだけ・・・・」


「わかったわ、大丈夫、安心して。

どうして人間はそうも魔王を恐れるのかしら・・

解体したり、改造したりしないわ。

痛みも与えない。


ただゆっくり、この子は産まれ変わる。

それだけよ?」


女はほっと息を吐く。


「・・所詮私には何も出来ないしね。

余計な詮索だったわ。ごめんなさい。」

「まぁ、きちんと「ごめんなさい」が言えるのね

いい子だわ、あなた」


紫の魔王が優しく笑うから・・・

女も少しだけ・・照れたように笑った。

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