第23話
西の都ライタス。
美しい水の都で有名なこの街の勇者にも緊急招集は行われていた。
「魔王を探す?会う?話を聞く??無理ね、そして潰された村の生き残りを探し原因を探るなんて」
サユリアは流れる髪を払い「銀50で命を懸けるのは馬鹿な話」
確かに今回の事件の規模も勇者が出向かねばならない事件なのはわかる。
だが人間の手に負えるものでもないのは勇者全員がわかっている、勇者が理解出来るなら村人も、街の人間も・・・・
この世界に勇者でも討伐出来ない魔王が現れた・・・
だが、安全な場所は無い。
逃げる事は出来ない・・・誰一人として。
「私だって嫌だわ!ここはそう・・・理想の美少年を探す旅を優先する事にしましょう!」
サユリアにはいつどこでも「死ぬ覚悟」を持っていた、それが誇りだと思っていた、信じていた。
だから自分が思う通りに生きる、行動する事に迷いは無い。
勇者連盟、ライタスの勇者ギルドを誰より先に一人きりで飛び出したのもその考えあってこそだ。
馬を駆り街道を駆け抜ける、自然の異変には気づいていた。
小鳥も飛ばなければ囀りもしない。
「本当はもう、この国は死んでいるのかもしれないわ」
くす、と笑う、視線の片隅に泣きじゃくる男の子を見た。
「どうしたの?坊や、家族は?」
馬の手綱は離さない。
男の子はボロボロと涙を零し「おかあさんが・・・街に・・っにげるって・・でも僕・・、途中ではぐれちゃって」
「そうなの、ママはどこの街に行くと言ったの?」
「・・っぐ・・わか・・ないよぅ・・・・・・僕っ村から出た事ないの・・・」
「この道をまっすぐ行けばライタスという街に行けるわ、ごめんね、今はそれしか言えないの」
「つ、つれて・・・いって・・よぅ・・、僕もう・・歩けないよぅ・・・」
「我慢なさい、他の勇者なら『騙せても』、私を騙すのは無理なのよ?」
ひゅ、と風を切る音と同時に少年はサユリスの駆る馬の鞍の上に立って・・
正確にはそこに浮いていた。
「嘘さ、隙だらけだよ!おじょうちゃん!」
鎧の隙間を斜め上から刺し貫く剣。
サユリアの頸動脈を断ち切る剣先、更にその刃先に仕込まれた猛毒がその体内に
流れ込む。
「ごめんなさいね・・・あなた・・・もう終わりなのよ」
サユリアが項垂れる。
少年がニタリと顔をゆがめて笑う。
「わからないの?終わりなの、あなた・・・もう、終わりなのよ」
サユリアはゆっくりと魔剣を抜く。
「首を刺したわね、そんな細い剣で、そんなか弱い力で
ごめんなさいね、そんなもので貫く事は出来ないの。
猛毒も、ごめんなさいね・・・私ね産まれた時から加護を受けていて・・・
効かないのよ・・・・本当に残念だわ」
少年はまだ笑っている。サユリアは恐怖で暴れる馬を押さえつけその腹を蹴りつける。
「逃げるの?おじょうちゃん?!」
「は・・・逃げる?私が?どうして?あなたから逃げるの?なぜ?どうしてかしら?」
逃げると思った、馬は少年めがけて駆け戻ってくる。
「どうして?格下の貴様などから、私が逃げる?!!!とても面白い冗談だわ!!!!!」
恐らく少年は魔力でその姿を変え、自身を守っている。
「私の前にその姿で現れた事を、死んで後悔しな!クソ魔王!!!
斬り引き裂け!唸れ!そして死を!!!ダークネス・クロウ!!!」
魔王の魔法障壁をも簡単に切り裂き、少年の体は真っ二つに分かれる。
さすがに苦悶の表情をして少年はサユリアを睨む。
「・・っ・・貴様・・・人間では・・・ないのか・・・」
「人間よ!御覧の通りの美少女よ!!!それが何か?!!!」
二つに別れた体はその瞬間には元に戻り・・そして、涙を流す。
「や!やめてよおねえちゃん!!」
「うっせーわ!そんだけ臭けりゃ森の動物だって気づくわ!クソ魔王が!!!」
「ごめ・・なさ・・・・っ!」
少年は自分の体を守るように蹲り、泣きじゃくる。
「私は美少年が大好きよ、あなたのような年頃の子が特に好み、大好きだわ、抱きしめてあげたい」
「おね・・ちゃ・・」
「あーーーー!!!好き好き!大好きよ!!愛してるわ!」
少年が安堵の表情を見せるが、次の瞬間には肉塊と化した。
「・・愛してるわ・・、だからその体を、魂を持ち主に返して・・・お前は死ね」
「あー、やっぱり人間ってよくわかんないなぁ・・・これじゃ駄目なの?」
遥か頭上で声がして、その声の主を確認もせずサユリアの魔剣が奔る。
その剣戟は弾かれ・・サユリアは頭上を見上げた。
まだあどけなさを残す表情、子供じみた体躯。
それでも魔王の魔力は十分に感じた。
「その人間の子供、本物の人間の子供だったのに・・手に掛けたねぇ・・、
人間の子供が好きなんでしょう?どうしてそんな酷い事が出来るの?」
サユリアの表情は変わらない。
「私は産まれ落ちた時から地獄行きが決まっているの、だから現世で誰を殺しても何も感じない。
それが、魔剣を受け継ぐ家の定めなの。」
「魔王に届かない人間風情が」魔王がせせら笑う。
「馬鹿はお前だよ・・・私はねぇ・・・天使と悪魔の両方の加護を持つ、この世で最強の人間なの!
お前のような「混じりもの」見抜けぬ目だとでも思って?」
「・・・・・・・・・・・・」
魔王の表情が揺らぐ。
「あーら、大当たりのようね「成り損ない」、てめぇは人間でも、ましてや魔王なんかじゃ・・・ねぇんだよ・・」
サユリアは馬から降りて、馬の尻を剣の鞘で思い切り叩いた。
ライタスへの道を駆け戻る馬を見て魔王は興味深そうに「何?どうしたの?」と尋ねる。
「とにかく弱い者は群れたがる、てめぇは・・人間の真似事をするのが好きなのかしら?」
森の中から20人程のローブを纏った集団が現れる。
「おかしいわねぇ、混じり物。私には魔法も魔術も効果ないわよ?」
「うるせぇ!ガキが!殺せ!!!」
魔王の言葉を合図に火・氷・水・土・光・闇の魔法が同時に放たれる。
「あっは!私はそっちの貴方の方が好みだわ」
全ての魔法はサユリアを直撃した・・・が、その魔法はすべてサユリアの持つ短剣に吸い込まれるようにして消えた。
「な、」
「何故?知らないのかしら、この魔剣の存在を」
「・・・魔剣って、人間が数本も扱える代物じゃ・・」
「そうね、普通の人間ならねぇ・・無理よ。私が「私」だから、出来るの
アンチパワー、アンチスキル、アンチマジック、最強の体と、最強の魔剣を持つ私こそが・・
見た目はただの美少女ですけれども・・・・魔王に一番・・・・
いいえ魔女にふさわしい、あなた、ここで死になさい」
サユリアが跳ぶ。
魔王が張る結界をいくつも切り裂き、魔王自身に剣先が届く・・・、その時。
「サユリア!そいつが魔王か?!」「この馬はお前の」
ライタスからサユリアを追って来たのだろう勇者達。
サユリアの気が一瞬反れる、たったそれだけの事でサユリアの加護は力を失くす。
「は!やっぱり人間だな!死にな、お・じ・ょ・う・ち・ゃ・ん!!!!」
「・・っ!!伏せろ!お前ら!!!!」
サユリアが言うより早く、魔王の魔法が勇者たちを焼き払う。
そしてサユリアもその魔法を真正面から受け・・・・・地に落ちた。
「あっはは!!!本当に人間ってわかんないなぁ!!!誰が死んでも関係ないなんて言っておいて!
仲間は守りたいのかい?!おっかしいよ!もっと「整え」てよ!僕、やり方、わかんないよ!!!!」
魔王の魔法がサユリアを襲う。
何度も何度も、その体が焼き切れるまで魔法を放つと魔王はやっと満足したのか姿を消した。
「いやーお前が死ぬ時は世界が滅びる日だよな、そうに決まってる」
「いいからさっさとここから出しなさいよ・・・」
眞白のマントに包まれたサユリアの体は、地面を1m程掘り進んだ所にあり・・・
それを掘り出しているのはリューだった。
「魔王は半魔で、子供じみていただろう?この情報は俺も持ってる情報だから銀50は折半な」
「いらないわよ、銀なんて・・、それよりその情報どこで掴んだの?」
「俺様の勇者としての勘だよ!いやーまさかドンピシャとは!驚き」
「余程頭の切れる情報屋がいるのね、しかも魔王に精通している。」
「・・・・・いや、そんな事は・・ないさ・・・」
「あんたは相変わらず嘘をつくのが下手ね・・、昔からそう」
「だから違うって」
「昔はあんなに美少年だったのに・・やっぱり男は声変わりしたら終わりね」
「・・・・お前の趣味にはとやかく言わないが・・・ん?」
リューが掘り出したサユリアは、何事もなかったように体を起こし、長い髪についた土を払った。
「そのマント・・マジで不死鳥の羽で織られたっていう・・」
「そうよ、あんたのパチもんとは違ってね、おかげでこの綺麗な顔、体に傷ひとつ残らなかったわ」
「・・・半分くれよ」
「本当にあんたは・・・昔から・・・・、馬鹿ねぇ・・」
サユリアはくすくすと笑うと、黒こげになった遺体と、自分が切り刻んだ子供の遺体に歩み寄る。
「私の剣ではこの魂は救えないわ・・・後はお願いしていいかしら・・・・」
「・・まぁ・・真似事ならな・・・」
「それが済んだら、この魂と共にライタスに戻るわ・・情報提供しなきゃね」
「じゃあ俺はルイナに報告するわ、次にお子様魔王が狙うのはこのあたりの村のはず
勇者はライタス集合って事でいいか?」
「・・そうね」
「何だよ、疲れてんのか?まだ力の半分も出してないだろ?」
「ええ」
「大丈夫か?」
「ええ」
サユリアは力無く笑顔を見せると「あんたに心配される日が来るとはね・・私ももう勇者引退かしら」
と言い残し、仲間が連れてきてくれた馬に跨りライタスへ向かって駆けだした。
『彼女が勇者引退なら勇者、お前も勇者とは二度と名乗れまい』
二人の話を聞いていた魔王の声がアイテム袋の中から聞こえてくる。
「確かにな、あいつはどっちかって言うと魔に近い人間だ。家柄も剣も。
・・でも、中身は人間の・・・女だ。たまには俺相手にだけ愚痴を零すさ。
そういうのを受け止める?俺?やっぱ「勇者の鑑」だわー・・・」
ブツリと通信は途絶えた。
「ふん・・・俺たちはお互い産まれる家を間違えた
ただ、それだけの話さ」
そんな独り言は誰にも届かなかった。
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