第22話

「俺が魔力製造アイテム?」


何だそれ?としか言えない。

強そうだけど・・・アイテムになっちまったのか?俺・・・

まぁ、さっきまで死んで生き返ったくらいだから・・・


「正しい事はまだわからないんだ・・けれど、真君の体からは常に魔力が溢れていて

それを感知して襲ってきたのが、あのドラゴンだ。

そして君の体がそうなってしまった原因は・・・こちらの世界に転移してきた時

恐らく我々の何かと繋がってしまった為、魔力を帯びるようになったと、僕は考えていた。

例えば僕が強大な魔法を使うと真君の体に何らかの異変が起きるのではないかと。


しかし、あの暗殺者と名乗る女の武器に切り裂かれた事により、その心配は無くなったと考える。

あの剣は恐らく魔力を切り裂く剣であり、僕たちと真君の繋がりも斬り離してくれたのだろう。」


オッサンは俺のフードを外すと、「うむ、矢張り・・微力ながら魔力を帯びては居るが、魔物を引き寄せるような量ではない」

何を言われているのかよく分からないけど・・・・・


でもそれって・・・


「じゃあ、オッサンが城に結界を張らなかったり、村まで魔法で瞬間移動しなかったのは・・・俺の・・」

「何度も言うが、それは違うよ。君のせいじゃない。僕も何の策も無しに城に向かうのは得策ではないと思っていたから

そうしなかったんだ。」

「でも・・」

「兎に角今は・・・死の淵から生還した君の事が一番心配だ。本当になんともないのかい?」


俺は無残に切り裂かれた服をめくる。

身体には傷跡ひとつ残っていなかった。

「確かに斬られた・・けど・・」

「外から切り裂かれた傷を、内側から湧き上がる魔力が完治させたのだろう・・。でも人ひとり分の命を補ったんだ、

真君の魔力は普通の人間並みになったよ、これでこのフードをかぶらなくて済む」


ローブはオッサンのローブの裾に仕舞われて・・・


そっか・・、俺がいきなりシルバーの勇者になれたのも、その魔力のおかげだったんだな。

道理で、いつまでたっても強くなれない訳だ・・・

魔法でも覚えておけばよかった・・って、もう魔力も無いんだっけ・・・


チート能力・・完全沈黙だな、こりゃ。


「真君の事はこれからも注意深く見ておくよ。今はもう一つ・・そうだな・・・僕の城や村人をこんな風にしちゃった

「者」の事も視野にいれなくてはね。

あの暗殺者。何かの加護を受けていたんだろうけど、人間なのに僕の攻撃にも良く耐えていた。

よっぽど上司が優秀だと思われる。」

「敵に感心してんじゃねーよ」


龍が横やりを入れてくる。

そういえば・・俺・・


「俺、死んでた時、龍の聖剣をみた気がする」

「え?マジで?」


龍は聖剣を抜くと、暫く剣を見つめ・・・


「・・・ま、聖剣は葬儀の儀式に使われる時もあるからな・・・、魔力があるのも確かだし・・・

って事は、真ちゃんを助けたのは俺って事か!いやー勇者兼聖人になっちまったかー・・うんうん。俺ならそうなるだろう!」


勇者でも魔王みたいな顔するのに・・聖人って・・・・・


「そういえば俺の相棒・・・木刀なのに、龍の必殺技使えたな・・、え、もしかして俺凄いんじゃね?」

「あんなのマグレだろ」


速攻で否定しなくても・・・いいじゃねーかよ・・


「確率的に言って偶然はありえない。

真君の剣は、真君が強くありたいと願って、鍛錬して、その間魔力が流れ続けていたんだ。

聖剣になってもおかしくはない。

確かにあの技は暗殺者の肉と力を削ぎ取った事だろう。剣自体の力は増していると思う・・」

「え!やった!」

「でも無理は禁物だよ、頼むから無理はしないで欲しい・・・、これからは僕もバウニーも全力で君を守るけど

死に急ぐ君を誰も止められないからね」

「・・・・うん、わかった」


やっぱり、皆が俺を守ってくれてた。

俺が皆の力になれるかどうかわからないけど、まずは少しづつ勇者を目指そう。


俺は相棒を空に翳す。

「魔力を帯びている・・」という感じには見えないけど・・・

確かに傷ひとつない、ピカピカの剣だ。


「んで、これからどうすんだよ、いつまでもこのただっ広い場所に留まるのか?」

「次に狙われそうな小さな村とかないのかよ、先手を打てるかもしれないぜ!」

「俺らごと潰されて終わりだろ」

「でも、どうやって、なんで潰すのかくらいわかるかも知れないじゃんかよ!」


俺たちが言いあっていると、空から鳩が一羽降りて来た。

本物の生きてる鳩じゃない・・針金で出来た作りものだ。


「やっと来たか・・・」針金の鳩の脚には紙が括り付けてあって、龍はそれを外すと内容を確認する。

俺も見てみたけど、なんか暗号みたいだった。


「この辺りでやられた村は6つらしい、山間の村は殆どって感じだな、野生動物や魔獣には変化がないようだ・・

やり方を変えてきてるみたいだな・・・、犯人は誰か何が目的かは以前わからず、勇者はルイナの街に緊急招集だとよ」

「ルイナ?どこ?遠いのか?」


龍は針金の鳩を糸みたいに解いて、もう一度鳩を作る・・・器用だな・・・・


「俺はルイナに向かう、真ちゃんはお前らに任せたぜ。」

「へ?」

「あの女が言う通り、狙いは魔王だろうが、おそらく地下で研究に没頭している他の魔王も同じ目に遭っている事だろう。

魔王を引きずりだすのに村をつぶして回るのは意味がわからねぇが、ここには暫く追手も来ないだろう、あれだけボロボロに

されたんだしな」

「龍・・」

「街に集まったら、俺たちも「智」の魔王を探す事を命令されるだろう。それこそこの国全部ひっくり返すくらいの覚悟で行かなきゃ

ならない・・・、長い旅になると思う、だから俺一人で行く。」


誰も何も言わない・・

納得してるみたいだ・・・


「何で・・?俺・・・が弱いからか?」

「違う、長旅になるし、おそらく勇者同士でパーティを組んで臨むんだろう。真ちゃんは生まれたてだから今回は留守番だ。

魔王と居れば、まずは問題ないだろう。」


ぽんと頭を叩かれる。


「俺は名の知れたシルバーの勇者だ。一番遠く危険な場所に行く事になる。だからここで待っててくれよ

帰ったらまた、俺の伝説が一つ増えている事だろうぜ!じゃな魔王、バウニーも、真ちゃんの事頼んだぜ!」


龍は針金の鳩をオッサンに投げて寄越すと、俺たちに背を向けて歩き出した。

そして一度も振り向く事なく歩いて行く。

その後ろ姿が見えなくなっても、俺は何も言えず立ち尽くすだけだった。



「あったあった・・・よかった見つかって」


オッサンが土の上に鍵を差し込む。

何もなかった場所に扉が現れてガチャリと重い音がした。


「ここは万が一の時の為に作って置いた空間だ。さ、どうぞ」

促されるまま地下に潜ると、そこは広くて明るくて・・・・地下とは思えない場所だった。


「入り口はこの鍵を使う事でしか出入り出来ないようになっているんだ。上の世界は押しつぶされたけど、ここは元々地下

だったからね、あいつらの目も誤魔化せたみたいだ。バウニーも野営は危険だ、今日はここで休もう。」


オッサンが出してくれるふかふかの布。

俺はそれを頭からかぶって横になった。

「真ちゃん」夏樹の心配そうな声がしたけど・・・なんだか悔しくて・・


龍の居ない夜は、静かでなんだか冷たい気がした。






ルイナの街には伝言鳩を受け取った勇者が50人程集まっていた。

これから国中に隠れている魔王を探し、誰かもわからぬ敵を倒し村を救うには数少ないメンバーだがそれも仕方ない。

実際にあの光景を目にして、自分から圧死を望む勇者も少ないだろうと、勇者は思っていた。

国の中では錆びれた勇者ギルドにしては集まった方だ。


「遅ぇよ、リュー。団長の話はもう終わっちまったぜ」

「そうかい、こちとら鎧で昼夜問わず走って来たんだ、来ただけでも褒めて欲しいね」


勇者は団長の元に向かう。


「遅くなって悪かった、で?報酬額は?」


団長・・・ミルズは見た目は50手前といった所だろうか・・・白髪で色白の、まるで老紳士のような見た目をしているが

腰の双剣を一度でも抜かせるとどんな魔王も震え上がる・・と噂される程の剣の達人だ。

この地方一帯の勇者をまとめているのも彼だが、彼が進んでやっているのではなく、性格上やってしまっている状態にある。

いつもは街の、それこそ政治の一旦を担う役職についている。

こんな錆びれたギルドの魔王の小競り合いや報酬の取り決めなどに顔を出す人物ではない。

今回の件はそれだけの大事件と言えた。


ミルズは勇者を見て「てめぇが来た事自体に驚いてるよ、鳩はどうした」と手を差し出した。

「失くした」速攻でそう返す勇者にミルズは溜息で応える。


「報酬額は村を襲った犯人の情報提供に銀50、これには「智」の魔王との接触も含まれる。

犯人討伐か生きた状態でここに連れて来られれば更に金500、以上だ」

「おいおい待てよじーさん、「智」の魔王に接触なんて雲を掴むような話だぜ?それにたったの銀50かよ、安すぎんだろ」

「だから、銀50なんだよ、「智」の魔王は自分の研究に没頭してるか、寝てるかどちらかだ、出会える可能性は低い。

運よく出会えて、話が通じるかどうかもわからない。まぁ、無いものとしてただの人間からの情報提供の方がまだ可能性は高い

その人間が大地にめり込んでなけりゃな」

「犯人は絶対に魔王だぜ、俺たちが束になっても勝てる訳ねぇよ、だから勇者もこれだけしか集まらなかったんだろ?

命賭けて金500はさすがに安いぜ」

「金1000枚を抱く夢を見て棺桶の中で冷たくなるか、敵と死ぬ気でやり合って生き残り金500で楽しく生きるか・・

お前はどちらがいいんだ、リュー坊ちゃん?」


ちなみにミルズは勇者の兄達の剣術指南をしていた時期があり、子供の頃の勇者が泣き虫で俺の側から離れなかったとか、

10歳まで寝小便をしていたとか言い出す前に勇者は口を噤んだ。


「幸い相手の魔王がなぜ村を潰して回っているのか理由はわからない、恐らく、人が一定数集まる街には「まだ」手が出せない

理由があるんだろうよ・・・小さな村と山の動物数頭を殺して様子見をしている今が好機だ。

最初は運よく生き残った村人でも探すのが賢明だ、銀50でな」


ミルズは勇者に針金の鳩を手渡す。


「何かあったらこれで連絡を取り合う事も出来る。距離は限られるがな、一応高価な魔術道具なんだ、簡単に失くすなよ?

あーと、お前は北西から来たんだったな・・・あの辺りでも村が2つ潰されてる、もう一度北に向かい適当な奴と3人体勢で動け。」

「・・あの目覚たばかりの城持ちの魔王はどうするんだ」


ミルズはギルド前の広場を見る。

勇者たちが物珍しそうに布の塊をみていた。


「魔王達の死骸だ、3体ある・・・・、あの城も村も潰されていたと連絡が入った、あのうちのひとつがその魔王だろう・・

どこが手足か顔かもわからんがな・・」


布の中身は細く枯れた木が3本、手足となるものが木の枝だとしたらその枝は鋭い刃で斬り取られ

木の先端・・は恐らくそこが頭にあたる部分だろう場所も同じように刈り取られて、ただの一本の木に成り果てた魔王の残骸。


「魔王の死体なんて初めてみたぜ・・・どうしたんだこれ・・・」さすがの勇者も驚きを隠せない。

この世界に戻って来た時、魔王がこんな風に木の姿をしていたが、その木には沢山の枝が生え、生命力に満ち溢れていた。


「今回の件に関係しているかどうかはわからんが、魔王の死体にしては珍しく、そこいらにゴミみてーに捨ててあったのを俺が回収

してきた。俺は一度だけ魔王の死に際に出くわした事があってな・・」ミルズは空を仰ぐ。


「魔王ってのは、魔の木に実り朽ち果てたその種が育った姿が「智」を欲する事で魔王の形になるらしい。

「智」は人間のみに与えられたもので、魔王は人間のような思考により近づく為に人間に姿を似せる。

だがある程度気が済むまで・・いや尽きる事のない「叡智」ってやつを求めるあまり時が経つのも忘れ、最後には

自分自身が何ものだったのかも忘れ、ただの枯れた木になって死ぬ。」

「魔の木・・ねぇ・・どこにでもあり、どこにも無いっていうあれか?もうお伽話の世界だな」

「俺たちには計り知れない事なのさ、さぁ、わかったなら仕事しろ仕事!!ますは銀50からのスタートだ!行け!」

「へいへい・・」



『とりあえずこれで魔王や真ちゃんは捜索対象から外れるだろう・・・』


勇者は厩舎に向かいながら、鳩に語りかける。


「聞こえたか?魔王」『ああ』

ルイナの街に来る前、魔王に鳩を渡したのには理由があった。

魔王はその鳩を何に使うのか、どうすればもっと使い勝手が良くなるか暇つぶしにでも考えるだろうと思ったからだ。

勇者の思惑は当たり、魔王は鳩を理解し改造して受信範囲をかなり広げる事に成功したようだ。



「お前らが今居る辺りは勇者の追跡もないだろうが・・くれぐれも見つかるなよ?」

『わかっているが、何故こんな事を?』「親切心だと思うか?」『いいや』

勇者は声を潜めていた声をさらに潜める。

「成り行きで俺は魔王2人と面識があり、居場所を知っている、今回の件俺が疑われかねないんだよ、それを確かめに来た」

『だから、おとなしくしていてくれ、と』

「そういう事だ。犯人目当てにのこのこ出てくんじゃねーぞ?犯人はそのうち姿を現す、まだ存在する村はいくつかあるし

そこには他の勇者も向かってる、何かわかったら情報渡すから高く買ってくれよ、頼んだぜ!」

『・・・・よかろう』

「あ・・それとお前・・魔王の子供時代ってあるのか?」

『子供の時分か・・・書物では魔の木の実がそれにあたると思うが?僕自身の事は、僕の記憶にはないね』

「つまり魔王が自我を持った時はもうその姿で、魔力も十分に兼ね備えていた、という事になるな」

『そうだね・・潰されてしまったが、この城に住みついた時には僕は僕だった』

「ふーん・・・」


勇者は適当な馬を見繕ってそれに飛び乗ると

「3人で行動しろって言ったろーが!」と叫ぶミルズの声を後にルイナの街を飛び出した。


「半人前の魔王とか、魔力が少ない魔王とか、他の魔王を取りこむ事で強くなる魔王とか・・・居ると思うか?」

『何を基準にすれば良いのかわからないので明確には答えられないが・・・、それは「智」の魔王ではないな』

「でも領地争いをするオツムの弱い魔王でもない・・奴には明確に手段を与られる手下が居る。」

『僕も昨日から考えていたんだが・・・行動が幼いとも』

「幼い?」

『恐らく奴は、人間を嫌悪している。殺してしまうほどにね、そして「智」の魔王の力も欲している、木切れになって散る寸前の

魔王はそれまで学んだものさえ忘れているんだよ。

だから腹いせに手足頭を切り取り死骸を捨てた、わざと人間の目に触れる場所に。

・・これはまるで人間の幼子のようではないか?

嫌いなものは寄せ付けず、好きなものを集め、それができなければ怒り、暴れる。』

「・・・子供の魔王・・・」

『不出来で目的もなく存在し・・・魔術のアイテムを世界中から集める程度の時間は存在している、だが眠るには歳若い魔王』

「じーさんにこのネタ渡しても・・銀50じゃな・・・」

『どうして僕の事や、あの暗殺者の事を話さなかったんだい?』

「俺たちじゃどうしようもないからさ、実際手も足も出なかったんだ、無い情報と同じさ」

『はてさて・・金の亡者なのか、仲間想いの勇者様なのか・・・不思議なものだ』

「仲間なんてどうでもいいんだよ、要は俺が生きて報酬をもらえればそれで万事解決」

『・・・』

「あとこれは、縛りじゃなく気が向いたらでいいんだが」

『何だい?』

「俺がピンチの時は頼りにしてるぜ!魔王!」

『・・・君の寿命50年で縛ろう』

「だーかーらー、気が向いたら!な!お前だって「子供魔王」の事知りたいんだろう?」

『勿論興味はあるとも』

「じゃ決まりだ!何かあったら連絡するからな!」


ぷつり・・・と受信が切れる。

魔王はまだ眠っている真を横目に「僕は子供に好かれるのだろうか」と呟き・・・


「いや・・子供の世話を押し付けられるのが得意なのだろう」と前言を撤回した。


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