第20話

ドドド・・・と山鳴りがして、鳥たちが一斉に飛び立つ。

山は震え、大地は崩れ、森に住む動物たちは当てもなく走り逃げ惑う。


何かが動き出していた。




「ほれ、右!左!力を均一に、俺の木刀を少しでも揺らしてみろ!」

「くっ!やあ!たぁ!」


ガンッガンと木刀がぶつかり合う音が響く。

龍が片手で持つ木刀は少しも揺らがない。

かと言って距離を詰めようと力むと・・・


「軸足!」

「どわっ!」

足もとを払われて、受け身もとれず尻から落ちた。


「・・痛ってー・・」


頭の先を木刀でコツンと叩かれる。


「はい、死んだー」にやにや笑う龍に「もう一度だ!」

俺は立ち上がった。

「この程度、俺には遊びにもならないぜぇ?頑張りな!」

「くっそ!」

「ほらすぐそうやって熱くなるからよぉ・・・」


龍の木刀・・本当に俺のと同じものなのかよ・・・!

何度打ち込んでも揺るぎもしねぇ・・・・こっちは全力だってのに・・龍は片手で。

時に俺の打ち込みをいなして、木刀を空に放って回転させる・・・なんて挑発までしやがる。


「これなら木を相手にしてる方がまだマシだぜ?どうする?山籠もりでもすっか?」

「くっそ!何で、そんな!嫌な言い方!すんだよ!!」

「面白ぇーからに決まってんだ、ろ!」


ガインッ!ひときわ音が響いて、俺の手から木刀が弾かれるように落ちた。

俺の持つ木刀の先端を軽く叩かれただけなのに・・・・

手が・・・痺れる・・・ぅうう!!


「そろそろ休憩にしねぇ?俺疲れたわ」

「まだまだ!」

「・・・何が!」


龍が木刀を振り上げる、その風音に俺は思わず龍を見上げたまま動けなくなった。

この木刀が振り下ろされたら・・俺・・死・・・・


「ほんっと口とやる気だけは一人前なんだからよー、ほら、休憩も大事だぜ、飯食いに行こうぜ!」

「・・・・は・・・、殺されるかと・・・思った・・・」

「はぁ?!なんで俺が真ちゃんを殺さなきゃならないんだよ!銅貨一枚にもならないのによ!」

「・・・そこは!ダチだからとか言えよ!」「バカじゃねーの」


俺たちは、顔を見合わせて笑う。

そういえばもう何時間くらい練習してたんだろう・・・練習すればするだけ経験値に変わってレベルアップすればいいのになぁ・・・


「なんかコツとかねーの?」昼飯を食いながら龍に、一応、聞いてみた。

「コツ?相手が金になる目標なら殺す。それ以外は無視」

「いや、そうじゃなくて・・・、こう。戦闘の・・・」

「覚悟じゃね?」


また、龍は俺の皿にトマトみたいな野菜を入れて来た。


「覚悟って」

「やり合って、剣が相手に届けば良し、届かなければ終わりなんだ。ただそれだけさ」

「・・龍には師匠とか居なかったのか?」

「いねーよ、んなもん。アニキ達のお世話で精いっぱいさ。俺の剣術は独自に作り出したものだ。」

「・・・龍・・アニキ居るのか・・」「ついでに俺様は貴族でもある」「へー・・・全然見えないな」「うるせぇ」


「俺は、頭も顔もいいけど要領もよかったし、運も強い。」

「は?」

「俺が家の跡を継いで聖剣を持ちのシルバー勇者になったのは13歳の時だ、それまでは普通の剣で、普通の盗賊や魔獣なんかを

殺しまくってた。殺されそうな場面も何度もあった。道具の準備不足で凍死しかけた事もあるし、崖から落ちた事もある。

それを繰り返して、今生きて剣を振ってる。俺は強くて当然なんだ」


ぐぅの音も出ないなぁ・・・・・


「コツとか聞いて悪かったよ、ごめん・・」

「いや、そうじゃなくて・・・、真ちゃんは自分が弱い弱いって言ってて、実際弱いんだけどさ」

「・・・はい・・・」

「でも、弱いから100%負けるなんて事にはならないんだぜ?

相手が強そうならそいつから目を反らさず「生きる」覚悟を決めて挑めばいい。

勝てなきゃ逃げればいい話だ。道具はそういう時に使う。ポーションや、煙玉、罠も色々ある。銀の糸を一本張っておけば

相手を転ばせて形勢逆転する事だって十分可能だ。

自分は弱いから、お荷物とか、死ぬ、とか。そういうのは足腰が立たなくなった頃に言えばいい。今はまだいいんだ。

「生きる覚悟」だけ、腹の底にいつもおいておけ。」

「・・・・」

「何だよ、そんな顔して・・」

「龍が・・まともな事言ってる・・・・。」

「てめ!人がせっかくタダで生き残る方法を教えてやったっていうのに・・上等じゃねーか・・・」

「・・いや、本当にびっくりして・・・、あの・・、ありがとう・・・、ちょっと難しいけど・・、うん、わかった気がする」

「・・・・・チッ!調子狂うぜ・・・・、よし、午後は道具屋に行くぞ!」

「えー?またかよぉ・・」

「今の話聞いてなかったのか?今度はさっき俺が言った事を意識してアイテムを見てみろ!勉強になるぜ!」

「・・・」

「だ-かーらー・・・何だよ、その顔は、やんのかこら」

「いや勉強させて頂きます・・・・・」


ほんと・・龍がいきなりまともな事言うからびっくりした・・。

でも「死ぬ覚悟」じゃなくて「生きる覚悟」か・・・・、よし!アイテムの使い方とかも勉強するぞ!


剣の稽古やアイテムの勉強をする事数日・・・この街を離れる日がやってきた。

たった数日しか居なかったのに、随分長い間ここにいた気がする。

離れるのが少し寂しい・・・。


これからまた旅が始まる。


俺は龍に買って貰ったアイテム袋をベルトにしっかりと固定して、そこに相棒を差す。

少しは冒険者らしくなったかな。

街の入り口で待っていてくれたオッサンや夏樹達と合流して東に向かう。

オッサンの城に向かって。



「そういえばあの村・・」


この街に来る途中で、龍がすべての金品を巻き上げてしまった村だ。


「本当にまたいじわるするのか?」

「いじわるって何だよ、あの村はもう俺のもんなんだよ、金儲けの一つでも考えてなかったら

すこーし、懲らしめるくらいだぜ?俺って優しいな。」

「・・・・すこーし・・・ね」「お、真ちゃんスライム、スライム!」「え?!どこどこ?!!」


俺は3匹のスライムをやっつけた!

・・・・これも経験のうちのひとつだ。


村までの道のりは、来た時より遥かにスムーズに向かう事が出来た。

ゴブリンが出なかったのが残念だけど、いつかリベンジしてやる!


「そういや、この辺に獲物用の罠を仕掛けといたよな・・・」


龍が茂みを探って・・・


「何か、かかってた?」「いや、何も、残念だったな、暫くまた干し肉生活だぜ」


笑う龍は、罠を外しアイテム袋にしまった。


「今度は俺に罠を仕掛けさせてくれよ」

「ああ、いいぜ、針金を上手く結べるようになったらな!」

「よし!練習する!」「おお」


それから夕日が沈んでも、龍は歩みを止めなかった。


「・・・なぁ、龍・・野営の準備とかしなくていいのか?」「もう少しで村に着く、少し危険だが・・・村に急ごう」


龍は何か焦ってるみたいだ・・。


「・・確かに・・・動物たちの気配が・・」「生き物の匂いがしません」


夏樹と咲も、何かに怯えているようだ。

俺もなんだか気が急く・・・何だ、確かに何か・・野鳥や虫の声ひとつしない。


村は、

村はそこにあったはずなんだ。


「な・・・」

「・・・・」


何も言えない。


何もかもがぺしゃんこに潰されて・・・・平らに・・・整地されたみたいに・・人はおろか、家があった場所も、家畜も、畑も・・・・


「要請なんて聞いてねーぞ・・・勇者もいねぇ・・・、どう見ても魔王の仕業だろこれ・・・どうなって・・・」


龍も驚いて事態が把握できないみたいだ・・・・


「魔王の仕業だろうけど、まず領地争いをした形跡がないね。これは「おかしい」」

「・・何かわかるか?」

「ううむ・・魔王の絶対的な力を、一部にだけ集中させて使う種・・・、覚えがないね。まぁ僕は魔王にさして興味ないから知識が浅いだけ

なのだが・・さっき勇者が仕掛けておいた罠にかかった獣もこれとおなじように「潰されて」いたんだろう?」


龍はアイテム袋を見て、頷いた。


「領地も、食物も必要ないと・・これだけの大きな力を使う魔王ならどこからでも目視出来る程体も大きなはずだ・・・

いや、あるいは・・・・、僕と同じ・・・何かを研究している魔王なのか・・・」

「そんなお仲間がいるのかよ・・・、俺はそんなもん見た事ないぜ」

「僕たちはお互いに個を自然とする、よってどのような魔王がどのようなものに興味を持つのかも関心はない、

同じ魔王に出会えば、少しくらいは知識を分け合う事もするが・・・僕が紫の魔王に出会ったのは稀だ。

それに、僕の仮説が正しいとも結論が出ていない」

「・・・よりによって俺の村に手を出しやがって・・・」

「龍・・・」


俺はもう一度村だった土地を見て、龍を見る。


「もしかしたらオッサンの城にも何か・・」


そうだ・・、オッサンの城はこの近くなんだ。


「・・・・・・・・・・・・そう、だね」

「急いで行こう!早く!」


俺は走り出した。

すぐに暗闇に包まれて右も左も分からなくなる。


「ったく!このバカが!一人で突っ走るんじゃねーよ!松明も持ってねーのに!!」

「でも!オッサンの村の人が!!」

「おう、走るぜ、ついて来いよ!!!」

「わかった!!」



「はぁっ!はぁ!」全力で走るけど、やっぱり俺が一番遅いな・・・


「オ、オッサンだけでも・・先に・・・魔法で・・・」「そんなに急ぐ必要はないよ・・、真君も勇者も少し休むといい」

「でも!!!」


とうとう俺の脚は止まってしまって・・・くそ!情けねぇ!!


「今日はここで野営しよう・・、明日の夕方には城に着くだろう」


オッサンの声はいつも通り落ち着いていた。

だから俺達はオッサンの言う通りにしたんだ。



朝になっても皆は落ちついていたから、俺は少しほっとしながら歩き出した。

でも歩いても歩いても・・・夕方になっても・・城も村も何も見えない。


何も無かったんだ。

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