第16話

波の音で目を覚ます。


ゆっくり体を起こすと、窓辺で龍が外を見ていた。


「わぁ・・」


朝日だ・・・。

昨日の夕日も綺麗だったけど、朝日も清々しいなぁ・・・

なんだか体も心もスッキリしてる。


「まだ早いぜ?寝てろよ」

「ううん、起きる!おはよう龍!」


ベットから飛び降りて龍の隣で朝日を見る。

海が光って綺麗だなぁ・・・


「・・・・」「何よ?」「・・・あの、昨日はその・・・」「おん」


くそ・・龍のやつニヤニヤしながら俺を見下ろしてる・・。


「昨日は・・なんかみっともなくって、吐いたりして・・・悪かった・・・、あの、水とか飲ましてくれたり

色々教えてくれたりしてその・・」

「うわ、その言い方だと俺が何か悪い事したみたいじゃねーかよ・・・キモっ!」

「うるせー!キモイって何だよっ!・・とにかくありがとうって事だよ!!」


照れくさくなって、龍の脛を蹴ろうとして、逃げられた。


「なんか吹っ切れたみたいだな、優しく介抱して良かったぜ!」


ばしん!と背中を叩かれる。

いつもの感じ。


「朝飯にしようぜ!」「おう!」


俺達は何故か小突き合いながら一階に向かった。


「え?もう少しここに居るのか?」


朝飯は海の見えるテラス・・ただの宿の外に設置されたテーブルと椅子だけど・・で

スープとブ厚いサンドイッチにジャムたっぷりのスコーン、海産物と野菜のサラダが大盛になって運ばれて来て

思わず腹が情けない音を立てる。


昨日は食べたもの吐いちまったから腹ペコだ。

サンドイッチをひと齧りした所で龍が「数日ここに滞在したいんだが、いいか?」と尋ねて来た。


「ほら、例のドラゴンの素材が高く売れて金にも余裕があるし、真ちゃんも海を気に入ってくれた

みたいだし、ここまでの道のりも長くて疲れたろ?

観光も兼ねてゆっくりしたい、俺が」


最後の言葉に思わず笑ってしまう。


「んだよー。龍が遊びたいだけかよ、俺は別にいけど・・」

「いいのか?」

「うん」


龍の言葉は本当なのか嘘なのかはわからない。

でも、それ以上にこの世界について何もわからない俺に決定権は無い。

たまに龍とオッサンが俺に隠れて何か難しい顔をして話をしてるのも知ってるし、俺はどうしても皆のお荷物だし

ここに留まる事にもそれなりの理由があるんだろうし・・・


「でも、剣の稽古もしてくれよ!」

「はぁ?!それじゃゆっくり出来ないだろーが俺が」

「いいだろ!俺だって早く強くなりたいんだ!昨日の剣の柄で攻撃するやつとか!

剣の鞘で攻撃するやつとか覚えたい!やってみたい!」

「それにはまずは体力と筋力をつけなきゃな、ほれ、喰え喰え!」


俺の皿に野菜を山盛りにして、ジャムをこれ程かとのせたスコーンを食べる龍・・・・


「龍・・もしかして野菜嫌いなのか?だっせ・・・」

「うるせ、俺にはそんな栄養素は必要ないんだよ!」


龍の弱点は実はすぐそばにあったんだな。

野菜嫌いの勇者とか、笑えるぜ。

俺がいつまでも笑ってるから、龍に足を蹴られた。


「観光スポットみたいなのがあるのか?この街」


朝飯を食べ終わってぶらぶらと街を歩く。

どうやら街中でもこのローブは着なきゃいけないらしい。

でも、まぁ軽いし、日差しも遮ってくれてなんか涼しいし丁度いいや。


「道具屋がデカイ、道具屋の品ぞろえがいい」

「・・・道具屋って・・・」

「長年、魔王討伐をしたり、旅したりしてると、どうしてもアイテム不足に悩まされるんだ。

ある日は火山、ある日は雪山と環境に対しても道具は一通りそろえておかなきゃ命に関わる」

「うん、それはそうだな・・・」

「真ちゃんもゲームする時「あとちょっとでボスが倒せそうな所でアイテムが尽きてゲームオーバー」って経験あるだろ?」

「あー・・道具自体忘れて行って酷い目にあった事もあるなー」

「勇者に大切なのは白馬でも、家系でもなく!まずはアイテム!覚えとけ!」


龍がここまで真面目に力説するのも珍しい・・。

俺は「わ、わかった」と答えるしかなかった。


確かにこの街の道具屋は広くて大きかった。

表通りにあるし、明るいし、客も店員も昨日行った店とは全然違って普通の冒険者達なのだろう

真剣に道具を選んでいた。

中には街の主婦みたいな人もいて、街の人が使う便利道具なんかもあるのか・・・


龍は何を買うんだろうと、見ていると、透明な箱に入れられた紙を眺めていた。


「何だこれ?紙?」


紙は展示用に一枚ずつ貼られていて、それぞれに魔法陣が描かれていた。

うわ、超かっこい!俺も欲しい!


「この紙はな、特殊な紙で、これを広げて敵に投げつけるだけで魔法が使えるんだ」

「うわ!何それ!超欲しい!!えと、火、氷、風・・・闇・・とかあるんだ!闇かっこいい!」

「だろう?便利なんだぜ?魔術師程の威力は無いけど、相手の弱点魔法で弱らせてから討伐って作戦もあるしな、でも・・」


龍がコツコツと紙が展示してある箱を叩く。

何だ?・・・・えと・・値段かなぁ・・・時価って事か・・・時価ってなんだ。


「魔術師が一枚一枚作ってる代物だからな、店の在庫によって値段が変わる。

昨日の店と違って、この店は値段も適正価格だし、ぼったくりって訳じゃないんだが・・・

ただただ、この紙きれは高価なんだ」

「・・いくら位するんだ?一万円とか?」


俺の中で高価っていったら一万円だ、あとは100万とか??


「真ちゃんの世界の通貨とは比較は出来ないが、1枚で金貨5枚~25枚、って所かな。魔術師を雇うのを考えれば安いが、それでも高い」

「・・・とにかく、めちゃくちゃ高くて・・買うのをためらってるって事か?」

「いや?」


龍がにやりと笑う。

あー・・・この勇者、悪い顔で笑うの似合うなぁ・・・・


「すまんが店主」


店主は明らかに朗らかそうな紳士で、ビシッと制服を着こなしている。ほんと、昨日の店とは全然違うなぁ。


「はいお客様、何かお探しで?」言い方も丁寧で優しい。

「闇の魔術紙って、いま在庫してるか?」


店内が一気にザワつく・・・そして誰もが龍を注目している。

何だ何だ・・・


「申し訳ございません、お客様。闇の魔法紙はただ今一枚きりの在庫でございまして、価格の方が」


俺も、店の皆も価格が気になり耳をそばだてる。


「金貨30枚になっております」「それを貰おうか」


店内の空気が一気に上がった気がした。


「それにエクスポーション10本、体力向上、硬化薬各10本、金の粉10袋・・・・」


今や店内中の目線は龍に大注目だ。

か、金足りるのかな・・・ドラゴンの素材を売って金はあるって言ってたけど・・・・・・


「を、貰おうか・・・」

「かしこまりました。お会計こちらになります」

「うむ!適正価格!」


龍はかっこよく革袋を取り出すと、金貨を取り出し店主にこれでもか!という勢いで叩き付けた。


「確かに頂戴致しました、ただ今商品をご用意致します」


店から拍手が起こる。

何故か俺も拍手していた。





街の広場には噴水があって、俺たちはそこで休む事にした。

そこにも屋台が沢山出ていて、龍があのフルーツジュースを買ってくれた。


「ふー・・・なんか、疲れた」

「俺も」

「え!」


いつもなら自信満々な龍が、あれだけ人に注目されて、高額アイテムをこれでもかって手に入れた龍は

てっきりそれを自慢するかと思ってたんだけどな・・・・

龍はアイテム袋を何度も確認しては「はー、こんな金一気に使ったのは初めてだぜ」と呟き

ジュースを一気に飲み干した。


「いつも金、金言ってるもんな・・・」

「だからそれはアイテムを充実させる為であって・・・」

「やっぱり金って大事なんだな」

「金は大事だ」


俺たちは同時に息を吐き・・・・

なんとなく恰好がつかなくて笑った。



「そういえばなんで闇の魔法買ったんだ?他にも色々あったのに」

「・・・・かっこいいからに決まってんじゃねーか!それに光と闇の魔法紙は貴重なんだ・・使い手も限られてるしな」

「そうなんだ!やっぱりかっこいいよな!闇魔法!!!!」

「俺の聖剣も、一応「聖」属性だが・・・」


龍の聖剣・・いつみてもかっこいい・・透明なガラスみたいでその刀身は淡い光に覆われてて・・・


「聖属性もかっこいいぜ!でも・・聖属性なら闇属性に勝てるんじゃ・・」

「そうなんだよなぁ・・・確かに属性で言うならそうなんだけどなぁ・・・なんか闇属性が強いと思ってしまう俺がいる・・・」

「わかるぜ!」

「だよな!!!これは男同士じゃないとわからねぇ!な!」


ははは!と笑って男同士の絆を深めていると・・・




「青薔薇の勇者が通るぞ!」「道を開けろ!青薔薇の勇者が通るぞ!」


広間に集まっていた人たちが道を開けて・・というか・・・店も閉め始めた・・・・。


「青薔薇の勇者?」俺は龍を見る。

龍は今までに見た事も無いくらい渋い顔をしていた。


「街の皆が道を通るだけで讃えるなんて、ぜってー凄い勇者なんだぜ!俺!見たい!!!」

「やめとけやめとけ・・・あれは見るだけで呪いにかかる類のもんだ」

「呪いですって?」



俺たちの前に、俺の前に・・その人は颯爽と現れた。


さらさらと流れる金髪、銀の鎧、龍と同じような、でも「黒い」透明な剣を腰に差している。

優しい笑顔・・・・綺麗な女の人・・・・でも

胸に銀の勇者のアクセサリーをつけている・・勇者なんだこの人も。


「うわぁ・・・・・綺麗な人・・・だなぁ・・・」


思わず呟くと、その人は微笑んでくれた。


「綺麗って私の事?」


その人が言うから・・・・俺は恥ずかしくなって俯いてしまった。


「本当の事だけど」ふわりといい匂いがして・・「嬉しいわ」と耳元で囁かれた。


「そいつ男だぜ」


ふわふわした気持ちが、一気に覚める。


「え!男?!」

「ちょっと私のどこが男だって言うのよ!!このボンクラァ!!!ブッ殺すぞ!」


声が重なって、俺は何が何だかわからず龍と青薔薇の勇者を見る。

ぼ・・ぼんくらって・・言った?今?


「おほほ、この方とはどういうお知り合いかしら?坊や?」


青薔薇の勇者をもう一度見ても・・やっぱりどう見ても女の子だよな・・・・

それに・・やっぱり・・綺麗な人だし、声も綺麗だし。


「俺は・・・龍の・・親友・・・・です・・」

「・・親友・・・?」


くすりと、青薔薇の人が笑って。

その瞬間、凄い勢いで龍の首を掴んで広場の端へと連れ去った。



「なにすんだよ!このロウドゴリアン!」

「誰がゴリアンよ!この細腕をよく見なさい!ああそうねあなた、金欠で金しか見てないからわからないのね!

そんな両目はいらないわよねぇ?じゃあ刳り貫いてやんよ!それより何よあの子犬みたいな男の子!

マジタイプなんですけど譲りなさいよ!」

「きゃあああ!!!真ちゃん助けて!!!!」



内容は聞こえなかったけど、龍のピンチだ!

俺が助けないと!!!


「ま、待って下さい!!!確かに龍は失礼な事を言ったけど、許して下さい・・・」


龍は俺の後ろに逃げてきて「マジ助かったぜ真ちゃん」と、痛そうに首をさすっていた。

女の子相手にだらしねーなぁ・・。


「そうね、その男って本当に失礼な奴なのよ!あなたも気をつけた方が良くてよ。」

「・・あはは・・、確かに・・・龍って時々悪い顔して、悪い言葉遣いとかするけど・・でもほんとはいい奴だから・・

だから・・・嫌な気持ちにさせてごめ・・・すみませんでした・・・青薔薇の勇者様」


皆も「様」って言ってたし、きっと貴族とかそんな感じだし・・俺はとにかく頭を下げて謝った。

青薔薇の勇者様は・・怒ってるかな・・・・そっと頭を上げると・・・・・

・・・・・・近くで見ると、割と背が高い人だな・・・それに体も・・・・・、あれ?なんか・・・震えてる・・・??


「マ」

「え?」

「マジで好みーーーーーーーーーーーーーーーーぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


俺はお姫様抱っこされた・・・・・女の子に。


「おいてめ!ゴ」「それ以上言ったら殺すぞてめぇ!」「じゃあサユリア!真ちゃんを降ろせよ!怖がってんじゃねーか!」


「怖いの?」


首をかしげて聞いて来る青薔薇の勇者様は・・・サユリア様は・・本当に綺麗な顔をしてて・・・


「こ、怖く・・ないです・・けど、なんか・・俺・・なんで・・」抱きかかえられてるのかなー・・・女の子に・・・・


「怖くないって言ってるじゃない!じゃ!この子貰っていくわね!」

「待てって!行ってんだろうが!!!ゴリアス=メイズ=ロンドリア!!!」


あ、なんか・・・・嫌な雰囲気なんだ・・・・・

サユリア様の動きがピタリと止まったし。

広場にはいつの間にか誰も居ないし。

龍が聖剣に手をかけてるし。

多分だけど、ここのどこかにオッサンもいて、龍がサイン出してるし。



えー・・・これから俺・・・どうなっちゃうのー・・・・???


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る