第14話

俺が初めてスライムを倒した先には・・・



「うわ、海だぁ!!!!」


海が広がっていた。


「あの街はリエイン公国と言って」とオッサンが説明する前に「王様居るのか?!」俺は待ちきれなくて尋ねてみた。


「あのなぁ・・・」と呆れたように龍が言う。


「仮にも勇者が一人なら、王様も勇者囲って贔屓もするだろうよ、自分の身可愛さにな。

でもこの世界には勇者は何百人もいるんだぜ?そんだけ勇者がいたらどうするよ」


「どうって?」


「気に入らない「王様」なんかすぐに殺られちまう。そして王政なんてすぐに廃れてやりたい奴が国を率いる」


「・・・・そんなんで、上手く行くのか?」


「これが上手い事やる奴が民を率いるのよ。裏で。

幸い、この国は島国で他国との外交も無いから戦争もない、今の所はな」


「ふーん・・島国かぁ・・・日本みてぇだな・・・」



これが潮風か・・

俺の元居た所には海がなかったから・・・


なーんか、うずうずするぜ!



「早く行こうぜ!!!」



走り出した途端にフードが被さって転びそうになる。


「あー!もう!オッサン!これ脱いでいいいだろ?!」

「駄目だよ我慢してね。フードが大きいのは真君の素性を隠す意味もあるんだから」

「なんで隠す必要があるんだ?!」

「大きな街には何もかもが集まる、人も物も情報も、僕はそういう情報を集めたいんだけど、このポンコツ勇者がとにかく目立つから」


龍は「許してくれよ、真ちゃん。俺はどこに行っても目立っちまう、この鎧、この聖剣、そしてこの、端正な顔!」


藍色の髪が風に揺れる。

誰も・・何も言えなかった・・。


「誰も俺を放ってはおけないのさ・・俺って罪な男だぜ。

それじゃ魔王の邪魔になるってんで、俺たちは俺たちで楽しもうぜ!

ドラゴンの鱗を売っちまえば金も手に入るしな!」


俺は龍に手を引かれて街に向かう。


夏樹と咲に、何か欲しいものはないか聞きたかったけど・・・

二度と会えない訳でもないし、この街に滞在するのも1日か2日・・そんな所だろうから。

俺はとりあえず龍について行くことにした。



街は賑わっていた。


海に住む魔王も居るらしいが、この数百年姿を現さないらしい。

だから漁業が盛んでいろんな行商人たちが行き来するらしい。


「また勇者連盟に行くのか?」

「いや、ここは俺の縄張りじゃねーし、関係ねーわ、それより宿探して美味いもんでも食いに行こうぜ!

腹へってるだろ?」


夏祭りにはしゃぐ子供みてーな龍に言われて、俺は腹もへってる事も確かだし、大きく頷いた。


適当に「ここだ!」と龍が決めた宿屋に入り


「俺は一応軽装備で行くけど、勿論聖剣は手放さねー、だから真ちゃんも魔王に言われた通り

ローブ必須な、あ、木刀は置いてけ、どうせ使わねーんだから」


言われるがまま支度して街に出かける。



ほんと、ゲームの世界みたいだなぁ・・服装や、話してる内容も、そして「いっちょ行くか!」と言いながら

龍は裏道に入って行く。


「どこ行くんだ?」

「真ちゃんに駆け引きってやつを教えてやる」


裏道は暗くて、通路に寝てる人も居れば、座り込んでる人も居る。

すぐそこの表通りはあんなに賑わっているのに・・・


「この辺がいいな」


龍がドアを開ける。


中は煙たくて、いかにも柄の悪そうな男たちが数人居た。

ちょっと・・・怖いな・・


「珍しいブツが手に入ったんでね、見てくれるかい?」


龍はそんな男たちを気にする様子も無く、カウンターに向かうと袋を取り出した。

取り出したのはドラゴンの鱗だ。

店主はドラゴンの鱗をちらりと見て、つまらなそうに視線をそらした。


「・・・ロンダドラゴンの鱗なら銀80で引き取るぜ?」

「ロンドラねぇ・・・」


龍はドラゴンの鱗をカウンターの上でコツコツと叩くと。


「じゃ、他の店に行くわ」と、踵を返し店を出た。




「あれのどこが取引なんだよ、売れなかったじゃんか・・」


俺が文句を言う頃にはもう、店の扉が開いて。

店に居た男たちが俺たちを見つけ、追いかけてきた。


「そら!おいでなすった!!!」


俺は龍に手を引かれるまま走りだした。


暫くまっすぐ走り抜けると、急に右に曲がる。


「?!行き止まりだ!!」


着いた先は狭い行き止まりで壁の前には木箱が乱雑に積み重なっていた。

これって最悪の展開じゃ・・・・


「そらよ!」

「うわ!」


俺は龍に抱えられると、木箱の上に放り投げられる。

上手く着地出来たのは、オッサンのローブのおかげかもしれない。



男たちは3人で、全員が手に剣を持って・・獲物を追い詰めたと言わんばかりの

悪い顔で龍と一列にならぶ形で対峙した。


「さっきのブツ、あるだけ置いて行きな」

「できゃ、ちょっと痛い目を見るぜ?」


うわー・・・イベントでありがちなシーンだ・・・

龍・・どうする!

こうなったら俺だって何かの役に・・。



「ぐあ!」


一瞬、瞬きする間に、龍は男の腕を蹴り上げ剣を奪うと、一人目の顎を剣の柄で殴り気絶させると

倒れた男に気を取られて後ずさったもう一人の剣を・・・・剣で斬った。


「け、け、剣・・が!!」

そして同じように顔面を剣の柄で殴り気絶させ、最後の一人は逃げ出そうとしていたが

後ろから龍に片腕で首を絞め上げられて脚をばたつかせている。


「お前らの頭の所に案内しな、勇者・・しかも貴族である俺にカマかけようなんて100年早ぇーんだよ」

「おおおお、俺たちはっ・・・あの店しか知らない」

「ほぅー、では聞き方を変えようか、この街で、一番ヤバい取引をしてる奴らは誰だ」

「そそそ、そ、それは・・」

「お前ら、ザコでバカな勇者をはした金で集めて素材を高値でやりとりしてんだろ?だめだよー?そんな事しちゃ」

「知らない、本当に・・・!」

「そう怖がるなよ、俺もどっちかってーとあんたらと同じでお金大好き勇者だから、仲間じゃねーか」

「・・・・・っ」

「そっか、じゃあお前の頭は、体とサヨナラだな。別れの挨拶は済んだか?見てただろ?俺の剣は早いぜ?

自分でも知らないうちに、一滴の血も流さず・・・・・ポトリ、だ」

「わ!!!わかった!!わかった!!!話す!元締めはここから通り三つ先の「シャミラ」って店に・・!

誰かはわからねぇ、顔は知らない!本当だ!合言葉があってっ・・それは頭しか知らない!!」


龍は男を解放した。

良かった・・・殺しちゃうのかと思った・・・。


「んだよ面倒くせーな」


龍は最後に男を蹴とばすと、その手の甲に思いきり剣を突き立てた。


「ぎゃあああ!!!!てっ、手がぁ!!!!」

「ばぁか、お約束のセリフ吐いてんじゃねー!暫くここで寝てろ、カス!」


止めにこめかみを足でけられて、男は気絶した。


「龍!」「おお、お待たせ真ちゃん、魔王もな」

「え」


いつの間にか俺の側にはオッサンが居た。


「手下が帰ってこないんだ、あのクソオヤジ、そのシャミラって店に必ず逃げ込むぜ、合言葉もよろしく聞いといてくれ」

「ああ、行ってくるよ」


不可視の布をかぶったオッサンは、俺を箱から降ろして・・文字通り姿を消した。



暗い裏路地から抜け出して、表通りに出る。

街は相変わらず賑わっていた・・・・すぐそばにあんな怖い店があるのに・・。

俺は龍の少し前を歩く。


「いくらお金が欲しいからって・・やりすぎだよ・・」

「魔王に頼まれたんだぜ?この街で「一番」情報や物が集まる場所を探ってくれって」

「・・・・本当に?」

「うん・・」

「本当に?」

「・・・・まぁ・・・、ついでにドラゴンの素材も売りたかったし・・・何なら一番高く買い取ってくれる所で

売った方がいいだろ?」

「・・・・・」

「いーじゃねーかよ、ドラゴン戦、俺様活躍しただろ?他の奴らもそうさ!あ!そうそう!!

裏路地に転がってた奴ら、多分あの店のオヤジに騙されたザコ勇者だぜ?」

「勇者に雑魚も何もない!」

「勇者ったって、毎月給料が出る訳じゃねーからな、魔王や魔獣を命がけで倒してその素材を売って

金にしたり、ああして用心棒みたいな仕事して金を稼ぐ必要があんのよ」

「なんだよそれ!働けよ!真っ当にさぁ!!」

「そこに目をつけて、毎月決まった額の金をやるからとか、素材は高値で買い取るからとか上手い事言って

勇者にだけ危ない目に遭わせて金は渡さず、素材は奪ってあとはトンズラって事をする悪い奴らが湧く訳。

その、ほんの一味を、ほんのすこーし懲らしめてやっただけさ、俺こそ真の勇者!」

「・・・・・・・ん・・・・・、まぁ・・・・・・そいつらは悪い奴だな・・」

「デショー?!まぁほら、腹減ったから!屋台でも行って飯にしようぜ!」

「あ!」

「ん?」


俺は龍を振り返り「夏樹たちにも食べ物を食べさせてやりたいし、出店も見せてやりたいんだけど」

「それはやめとけ」


龍の返事は早くて、俺は暫く何も言えずに・・・・「え?どうして?」と返すのが精いっぱいだった。


「いや、まずは俺らが腹を満たすのが先!」

急に笑顔になった龍に肩を組まれ、俺は少しよろけながらも・・・・それもそうだな・・・・と流されてしまった。

ごめんな、夏樹、咲。


青い空、白い雲・・・丁度心地の良い人々の喧騒・・・・・


俺たちは1件目の屋台で大きな肉の串焼きにかぶりついた。


「これうま!」「こっちのタレもさっぱりしてて美味いぜ?」


大きなジョッキに注がれたのは・・・やっぱ酒かなぁ・・・・・飲んでも・・・いいのかなぁ・・・


「ただのフルーツジュースさ、この街の名産品らしい」


赤色の液体を恐る恐る飲んでみる・・・「うん!うまい!あんまり甘くもないしすっきりする!この串焼きとも合うぜ!」

「おーどんどん食べろよ?少年、おーい、串焼き2本追加、あと魚と貝の塩焼きも追加だ!」

「あいよ!まいど!!」


意気のいいおばちゃんの声に、ふと異世界とか、闘いとか忘れてしまう・・・

美味いものは、どこでも美味い!



「ちょっと食べ過ぎた・・・」大きく息を吐くころには、海に夕日が沈んで・・・・


「うわぁ・・・・・・」俺は沈んでゆく夕日を眺めながら・・・

やっぱり夏樹や咲にもこの街に一緒に来て、この景色を見て欲しかったと・・・思った。


「夕日がそんなに珍しいのか?」

「夕日ってか海がさぁ・・やっぱいいよなー海・・・・波の音・・落ち着くぜ・・・・」


暫く夕日を見ながら歩いていると、街にぽつぽつと明かりが灯り始めて夜の雰囲気に変わってゆく。


「美味かったなー・・・、あんなに喰ったのオッサンの家?城?にいた時以来だ」

「沢山食べて、早く大きくなれよ!」


ぽんと頭を叩く龍に「うるせ」と応えると


「なにしてやがるこの!ウスノロが!!!」


大声がして、一瞬喧騒も途切れ・・・・だがすぐに元の景色に戻った。

何だ?ケンカか?


「俺も久々に喰ったわ、もう宿に戻ろうぜー」


行き過ぎる人々の中、大きな荷車が・・・何かを裏路地の方に運んでいるのがちらちらと見えた。

そしてバシッと、馬に鞭をいれるような音も聞こえてくる。


「真ちゃーん・・宿はこっち!」


肩を掴まれて、景色が遠ざかる。


「早く立て!動かねーか!このクソ獣人が!!」


獣人・・・?!


「りゅ・・」「帰ろうぜ」


夕日は沈みきって・・・

辺りが一気に暗くなり、声も音も遠ざかる・・。



「獣人って言ってたよな・・今・・」

「あぁ、そうだよ、人間に逆らえなかった獣人達はああして家畜として飼われる」

「家畜?!!」

「落ち着いて」


俺の肩に置かれた手に力がこもる。


「真ちゃんの世界でも同じだろ?家畜の肉を食って、家畜を道具として使う、ほら、何も変わらない」

「・・・・・に・・く・・・」


こみ上げる吐き気に、龍の手を払って道の隅で胃の中のものを吐き出した。


「あれはバウニーの肉じゃないよ、ブインっていう家畜の肉」

「・・・っ・・・夏樹が・・・、人間の街や村に・・近づかないのは・・・」

「最初に言ったはずだ。獣人は人間に恐れられているから人間には近づかない、ただそれだけさ」



でも・・・

薄明りの中・・・俺は見てしまった。

荷物・・檻のようなものに入れられた、確かに夏樹たちとは違うけれど

丸い耳をした人間の子供のような姿をした獣人を。




「大丈夫~?」


宿に戻るとすぐにベッドに横になった。

そんな俺を龍はからかい半分面倒みてくれた。


俺にはわからない。

勇者が誰かの手下に成り下がる世界。

弱いものを虐げる強いものがいる世界。

そして、金。


今日食べたものも、龍がお金を出してくれた。

この宿だって金がなければ泊まれなかった。


バカな俺でもわかってる。

それが現実で、俺はそれを与えて貰っている事。


元居た世界でもそうだ・・・バカみたいに夢を見て、勇者ごっこをしてた時。

母さんは俺を心配して、俺の分の晩飯を作って待っててくれた。


沢山・・・貰って、

自分では何も出来ない。何も持ってない。

だったら・・・次に檻に入れられるのは俺だ。


「早く上がれよ・・俺のレベル・・・」

「真ちゃん?」

「早く強くなって・・・・あんな奴ら蹴散らせるように・・・なりたいよ・・」


泣くのは嫌だ。

かっこわるい。

思ってた世界が違う。

それももう言い飽きた。


龍みたいに、オッサンみたいに・・・夏樹や咲みたいに・・

強くなって。


やっぱり俺は、誰かを守れる勇者になりたい。

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