第11話

俺は龍につれられて武器防具店にやってきた。


銀の勇者な俺は、龍みたいな白い鎧を着る事が出来るのかな!

楽しみだな。


龍と背中合わせで魔物と闘ってる俺を想像しながら色んな武器や防具を眺めていた。


「真ちゃんはまだ体力がないから、とり合えず胸あてと籠手、脚はどうすっかなー・・・」

「え!龍と同じやつじゃないのか?!」


龍は俺の側に来た。

あれ?こんなに身長差あったか?

俺の身長は龍の胸くらいまでしかない。


「真ちゃんはシルバーのチートなんだぜ、こんなもんで十分だよ!」

「え、ま、・・まあな!そうだよな!やっとチート能力来たんだもんな!あ、剣は買ってくれよ!かっこいいやつ!」

「何なら剣も木刀で大丈夫さ!チートなんだから!!!ははははは!!!!」


装備が少ない方が勇者として尊敬される、とそそのかされた俺は結局

心臓を守るプレートみたいなのと、肘や腕を覆う防具と膝につけるやつだけ買って店を出た。


村人Aから勇者への転職完成って感じだな!

こうなると力試しがしたいところだぜ!



「なぁ、俺にも出来るクエストってないのか?」

「まぁそう焦るなって!俺たちシルバーは安売りしないクラスの勇者だ。いざって時の為にその思いは胸に閉まっときな!!!」

「おー!そうなのか!!!そうだな!やるぜ俺!!!」


俺たちは街の外で待っているオッサン達の元に向かった。


「オークの素材を売った金だよ」

オッサンに渡された袋の中身を見た龍は「えらく安く買いたたかれたなぁ・・次はもっとうまくやってくれよ?」

とぶつくさ文句を言っていたが「まぁ真ちゃんの勇者登録料と防具代にはなったかな」と納得したようだ。


「オッサン!俺にもやっとチート能力が目覚めたんだぜ!見てくれよこの鎧と、シルバーの勇者の証!」

「うん、とてもよく似合ってるよ、よかったね。」


オッサンは俺の頭をぽんぽんと叩く。


「俺は龍みたいな金にがめつい勇者じゃなくて、誰かを助けられる勇者になるんだ!!」

「うん、そうだね、まずはそれを目標に地道にやっていこうね。ポンコツ勇者にならない為にも頑張って行こう!」

「おお!」


「ポンコツは余計だっつーの・・」


ふて腐れている龍を見て俺は思い切り笑ってしまった。



それから俺と龍はもう一度街に戻り、今日の宿を探した。

龍がよく使っているという宿屋は料理もおいしくて、ベットもふかふかで申し分ない。

オッサンと夏樹たちは、やっぱり街の外で野宿をするらしい・・・

せめて夏樹たちだけでも宿で休ませてやりたいけど、野宿の度にオッサンが出してくれるふかふかの布も

このベットも大差ないな・・と思い寝返りをうつと、出口に向かう龍が見えた。


「どっかいくのか?つか鎧くらい脱いだらどうだ?」


この世界に来てから鎧姿の龍した見た事がないな・・と思い声をかけたが。


「ちょっと知り合いの所に行ってくる、真ちゃんは部屋から出ないようにな」


といいながら出て行ってしまった。

今が何時かはわからないけど、俺だって子供じゃねーし・・・勇者だってーの。

まぁ、龍に比べればまだまだだろうけど・・。

・・・・でも・・・・・・考えてるうちにうとうととしてきて、俺はすぐに眠ってしまった。





宿屋の1階は居酒屋のような食堂になっていて、そこそこ賑わいを見せていた。

龍はカウンターの隅に座った魔王とひとつ席を空けて座る。


「で、どんな感じなんだ」

「どうも、こうもないさ、これでも僕は怒っているんだよ?」


手にしたジョッキの中は少しも減っていない・・・

龍は魔王と同じものを注文して「まぁ、そう言うなよ・・」とため息をついた。


「お願いだから鎧の呪いを解いてくれ」

「そうやって懇願する相手から何でも奪い取ってきたのが君だろ?」

「そういうのはいいから、な、頼むって!フルプレートって結構動きづらいんだ。

鎧が脱げなくなる・・・なんて地味な呪いかけやがって・・・」


飲み物が運ばれてきて、龍はそれを一口飲むと。


「命がけで真君を守る事を誓え」


龍の頭のなかで声がする。


「守るさ、傷一つつけない」


龍は自分の親指を見て、魔王を見る。


「あの子の側を離れずに、あの子に何かあったら真っ先に盾になれ」


「わかった、誓う」


魔王はフードを真深くかぶっていてわからないが、きっとまたあの苦虫を噛み潰したような

渋い顔をしているんだろう・・・・


「本当に分かったって!『血の盟約により銀の勇者リュー・マステスが誓う』」

「・・・・・受けよう」


龍の鎧から紫色のもやのようなものが立ち上り、消えると、龍は力が抜けたようにカウンターに突っ伏した。


「クソ魔王が」

「僕は他にも色々な呪いを知っているよ?」

「はいはいわかってるよ、「智」の賢者様・・・」

「これでも、手加減したんだ、どうしてもって時は鎧を脱ぐことができただろ?」

「一部だけどな」

「君にはそれくらいの罰を受ける権利がある、さぁ、部屋にもどりたまえ。くれぐれも女性が相手をしてくれる店

なんかに行くんじゃないぞ?」

「あは・・・やっぱ、駄目スか・・」

「もう一度呪いを受けるかい?ポンコツ勇者」


「はいはい!」龍は飲んでいたジョッキを空けて部屋に戻ろうとする

「酒もほどほどにね」と頭の中で声がして・・・・軽く手を挙げてそれに応えた。








朝・・・・か。



目が覚めると、龍が鎖で編まれた帷子を着ている所だった。


「・・・・・・おはよう・・・・、龍・・・ふぁ・・・、俺も鎧・・」

「下で飯を食い終わるまでは村人Aの恰好の方がいいぜ?楽だからな」


龍も、下は普通の服で・・この世界に来てそんなラフな恰好見た事ないから、なんか新鮮に見える。


「なんだよ、そんなに見るなよ恥ずかしい・・・」

「なんか珍しいな、と思ってさ、やっぱ野宿だといつ敵に襲われるかわからなかったからずっと鎧脱がなかったのか!」

「ま、・・・・まぁな、夜番は俺と魔王がやってたしな、いやー、久しぶりの開放感で良く眠れたぜ」

「今度からは俺も夜番するぜ!言ってくれよな!」

「そんな事より・・」


龍は急に俺に近づいてきて・・・・


「どっか体調悪い所はないか?」

「は?」

「どうなんだよ」


龍の表情があまりに真面目だったかた、思わず何度も頷いてしまう。



「・・多分、元気だと思う・・・腹減ってるし・・」

「そうか!それならいい!飯な?飯!飯にしよーぜ!!」


さっさと部屋を出てゆく龍を慌てて追いかける。

何だ、さっきの質問は・・・・・



朝飯はチーズがたっぷりかかっているパンと、牛乳、卵にベーコン・・

異世界らしい、木造の店で、木製のプレートに載った美味そうな朝飯を見てなんだか感激してしまう。

オッサンの家では、高級ホテルみたいな食事で、食器も陶磁器に銀のナイフやフォークだった。

野宿の時は木の板を少しくりぬいたみたいな皿を即席で作ってワンプレートだったし、パンだけっていう日もあったから


こういう・・冒険者が集う街で、異世界風の建物で食う朝飯って初めてだ。

昨日の晩飯は、周りで酒を飲んでるやつらの恰好や武器が気になってあんまり食べた気がしなかったからな・・・


「美味いか?!」

「美味い!」


俺は次々と朝飯を平らげた。



「へー・・鎧って、そんな風につけるのかぁ・・・」

「銀や鉄の鎧を、皮のベルトで体に固定すんのがそんなに珍しいかぁ?」


笑われても、なんか見てしまう・・・・

龍はあっと言う間にいつもの鎧姿になって、ベツドの上で荷物の確認をしている。


「真ちゃんも早く着替えな、道具を仕入れたら出発するぜ」

「!お!おお!」


俺は昨日買ったばかりの真新しい防具を身に着けた。

この皮の手袋とか・・・くー!冒険者っぽい!!!

他の防具は・・・

ちょっとだけ龍に手伝ってもらった・・・ちょっとだけな。


今日は道具屋に行くのか・・・

何が売ってあるんだろうな!楽しみだ。



店は宿屋とはあまり離れていない場所にあって・・でも、店の中は薄暗くて、店の主人だろうか・・・おじさんが

店に入って来た俺たちをジロリと見るだけだった。


べべべ、べつに怖くないけどな!・・・。


「回復ポーション10本、毒消しを3つと、あと鉄の粉と、火薬をくれ」

「・・・・」


おじさんは何も言わずに、言われたものを乱暴にカウンターに並べると。


「54銀だ」と短く告げた。


「なんだよやけに高ぇな・・・」

「大型獣の足止めに使う鉄の粉が高騰してる、最近の魔王は大型が多いからな」

「チッ・・・わかったよ!」


龍は乱暴に言って、銀貨を取り出した。


「もっと値切ると思ったのに」


店を出て龍を見ると「鉄の粉っていうマジックアイテムは元々高いからな、ま、良心的な値段だ」

・・それでも一応文句は言う・・・・それが龍だよなぁ・・・・・


「・・・・回復薬は沢山持ってたのに・・・、まさか、あのトロール相手にしてた時、怪我したのか?」

「ポーションの3つくらいは使うだろ、こちとら人間なんだ、さすがに骨を折られる前に対処しながら戦わないと

、あと一応走ったり、飛んだり、少しだけど魔法も使うしな」

「ま!魔法使うのか!!!」


荷物袋の中でポーションのビンがぶつかりあう音がする。

俺は興奮のあまり龍に駆け寄っていた。


「魔王が使うような魔法じゃないぜ、こっちは体力削って限界値まで力を使う、魔法だ。」

「へぇーーーーーーーーーー・・・よくわかんねーけど!凄ぇな!龍!俺も魔法使ってみたい!」

「と、言うと思たけど、言ったろ、生身の体で限界値まで力を引き上げるんだ、一日に一回、ポーション使っても3回が限度だ。

その度にポーションを消費するのは勿体ないから、真ちゃんにはまだ使えねーな!」


頭をぐしゃぐしゃに撫でまわされても、反論もできねー・・・・・・・・


「まずは基礎体力つけて、経験値上げるために周回だな!!」


くっそ・・・周回はめんどくさいから苦手なんだよ・・・

でも・・俺は勇者なんだから!!

やるしかない!!!



街を出るとオッサン達に合流して、次の街に向かう事にした。



「なぁ、なんで次の街に行くんだ?」

「暇つぶしさ」


先を歩く龍がつまらなそうに答える。


「暇つぶし?」


「そう、勇者を招集するあのバカみたいな村が無いか、いかにも小競り合いしそうな魔王はいないかっていうのを探す

暇つぶし」


「・・・」


「言ったろ、魔王っても大小様々で、その中でも小さい方を見つけられたら・・真ちゃんの腕試しも出来るってもんだ!」

「!!!おぉ!そうだな!やってやるぜ!!!大きい方でもいいけどな!」


俺は息まいた。

けれど3日たっても4日たっても・・・・・・小動物一匹出て来ねぇ・・・



「あー肉喰いてぇなぁ・・・」

野宿の晩飯がパンと木の実みたないな日が続いたから思わず口にすると

夏樹がすまなそうな顔をするから


「まぁ、肉なんて街にもどれば何時でも食えるし!このパンマジでうめぇから好きだぜ!!」



ははは、と笑う俺の前で、龍が見せつけるように干し肉を喰ってやがる・・・。


『何か一匹でも獲物を見つけられたら真ちゃんにも分けてやるよ』


と言われて見せびらかされた肉も、もう4日目になるのか・・・。


つかこの森どう見ても動物なんか住んでねーだろ。

1日中暗いし、風の音しかしねーし・・・・


肉も喰いてぇけど、風呂にも入りてぇ・・・


匂わないか気になる所だけど・・・そんな事考えてる場合でもねーだろ!

早く獲物を探さないと!

俺のグロリスアス・チェインが血を欲してるぜ!!!




そして・・・7日目・・・


俺は大分疲れていた。

目的地はどこかの「街」なんだろう・・

そこについたら、今度は前の街に戻り、その前に寄った村にも行くという・・・


先に進むより、後退してる気分だ。


「真ちゃん・・大丈夫ですか?」


夏樹が心配してくれているのに、答える事も出来ない。


せっかくチートを手に入れて、武装もして、意気揚々とでかけた先に的がないなんて辛すぎるぜ。



俺はその場に座り込んだ。


「どうしたの?真君」オッサンが心配そうに言ってくれるけど・・・


「あのさ、これって無駄じゃね?」


「敵なんて一匹も出てこねーしさ」


「俺、ここで待ってっから、皆は先に行ってくれよ」


「どーせ、行って戻ってを繰り返すならそれでもいいだろ」



自分でも情けない程のいい訳。

わかってるけど・・・


「真ちゃん!」


夏樹・・わかってるよ・・・、なんかすげーかっこわるい事言ってるな俺・・・・

でも、目的も何もなく、ただ歩き続けるのは疲れたよ・・・。



「マジかよ」


ごめん・・龍・・・俺、早く強くなった俺を一番に龍に見せたかったのに・・・



「うぅむ・・これは・・・」


オッサンも・・・・ごめ・・・・









その時森中を吹き飛ばす位の風が吹いた。

突風?!竜巻?!!!




そして空気を切り裂く音、耳が・・耳が痛ぇ・・・!!!



俺はかろうじて目を開ける。

その先に居たのは・・・・・・






ドラゴンだった。





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