第10話
「あーーー!!」
俺は気づいてしまった。
山道の中、あの小さな村を過ぎて1日立った頃。
「そういえば解体がどうのこうの言ってたような・・・・あのトロールの死体・・?
置いて来ちまってよかったのかよ!!」
昨日は野宿だった。
キャンプみたいで楽しかったし、昨日は色々あってすぐ寝ちまった。
今朝、朝食の準備をしてくれている夏樹を見ながら思いだしたんだ、あの勇者が
言ってた言葉を。
「あれは、僕が始末したよ、始末と言うか、魔王の内臓は研究用に、肉は食べられないから燃やして
骨や目玉と牙ははまじないや儀式に使われるから持ってきたよ」
オッサンがローブの裾を振る。
「そのローブ・・・・・何でも入るんだな・・・チビは大丈夫か・・?」
「大丈夫大丈夫安心して、このローブに入れるもの生死不要だから」
「そういう意味じゃなくて・・それも・・・不可視の布みたいな、魔法グッズなのかよ」
「そうさ、万年蚕の繭から抽出した糸と、僕の魔術を編み込んで作った一点もの!」
「・・俺もそういうの欲しい!」
「これを羽織れるのは魔族・・というか僕だけなんだよね。ごめんね。
万年蚕から糸を作るのにも100年はかかるから、うん、真君が生きてるうちに作れるのは・・・・」
「あー!もういいよ!どうせ俺にはチートはねーんだもんな!」
「くそ!解体は任せて、とか言うから不思議に思ってたんだ。
どうせ自分の研究材料かよ!金に換金しろ!そして俺によこせ!」
俺たちの話を聞いていた龍が割ってはいって来る。
「勿論そのつもりさ、僕には食べ物や宿も必要ないから、金も必要ない、
出来うる限り、真君の為に金を稼ごうと思うよ」
オッサンは俺の頭をぽんぽんと撫でる。
だからそれやめろってーの。
「真ちゃんの金は俺のもの!俺のものは俺のもの!わかってんな!真ちゃん!」
「・・確かに・・・・金とか言われても使い道はわかんないから龍にやるよ・・」
「いやぁっほぅ!やったね!!!」
本当に・・・・・金が好きなんだな・・
「そうだ、街についたら、真ちゃんにも装備をそろえてやるよ、いつまでもそんな村人Aみたいな
格好じゃ可哀想だしな」
夏樹たちが作ってくれた朝食を食べながら龍が提案してくれた案件に俺は「え!ほんとに?!」と
持っていた木製のプレートを落としそうになりながら、龍に詰め寄った。
「ほんとに防具買ってくれるのか?」「買う買う、買うよ、だからそんなに近づくなって」
龍に押し戻されて「やったぁ!」と小さくガッツポーズする。
「良かったですね真ちゃん」
「あ・・・・」
そういえば・・夏樹たちは・・
あの、ちょっとどこを見ていいかわからないバニーの服は脱いでもらって、俺と同じような村人Aのような恰好を
してもらっている・・・・、どこを観ていいかわからないからだ。
そして長い耳が見えないよう頭の上から不可視の布をかぶっているのだが・・
「夏樹たちにも服を・・・」
「我々はこれで十分です、魔王様が用意して下さったこの服、動きやすくて、魔力も感じますし、力も増した気がします」
「・・でも・・」
「私たちの事まで気にかけてくださってありがとう・・真ちゃん」
夏樹がそう言うなら・・いいんだけど・・・・・
そういえば昨日も、俺を安全な所まで連れて出してくれて、あの後闘った・・のかな、あのトロールと、夏樹が?!
んー・・・想像もつかないぜ・・・。
「バウニーにはツメでも装備させときゃ十分」「お静かに」
龍が何か言ったが、夏樹の言葉にかき消された。
街までの道は3日かかった。
最初は疲れて文句ばったかり言ってた俺も、だんだん長く歩けるようになっていた。
荷物はオッサンが持ってくれてるから・・・かもしれないけど、着実に成長してる気がする!
・・・・まだ何もしてないけど・・・・・
「うわぁ・・・」
小高い丘から見える街並みに俺は思わず声を漏らす。
「ほんと・・・ゲームみてぇ・・」ぐるりと城壁に囲まれた街には遠くにお城みたいなのも見える。
「なぁ、あれって城?!国王とかいんの?!」
「さぁ、」
「え!さぁって・・・王様イベとかねーのか?勇者龍、ただ今戻りました・・・・みたいな・・」
「ねーよ、それより先に勇者同盟に顔出すのが先だ。」
龍はさっさと歩いて行ってしまうから、俺は慌ててその後を追った。
街の入り口には門番も居なくて、出入りは自由そうだった。
・・あんまり大きな街じゃないのかなぁ・・・・・
街並みはそこそこ賑わっていて、いろんな店や、店の外に商品を並べて食べ物を売ってる人も居た。
その通りを過ぎると・・・閑散としていて・・住宅街なのかな・・・、その中を龍はわき目もふらずに歩いて行く。
黙ってりゃ・・・・勇者みたいでかっこいいのになぁ・・・。
龍が向かっているのはあの城みたいな場所だ。
「お、リューじゃねーか、お前死んだって噂たってたぜ?」
「お前生きてたのかよ」
「死ねばよかったのにな!ははは!」
城の入り口には、鎧をつけてないけどきっと勇者なんだろう、首から下げてるアクセサリーは
龍のものとは違うけど、同じ形をしている・・・・
そいつらは酒を飲んでカードゲームをやっていた・・・勇者・・どういつもこいつも・・・・・・
「俺が死ぬわけねーだろが、てめーらとは違うんだよ!クソが!」
勇者ぁ・・・・
俺は泣きそうになった。
「なんだそのチビ」
「勇者候補生」
「はー?!!!このチビが?!勇者?!!!マジでか笑わせる!」
くっそ・・・チビチビ言うんじゃねーよ!!
てめーらがデカいだけで、俺は標準だ!!
「ちなみに俺様の弟子だから、何かしたり、からかったりすると殺す」
大男達は龍に気圧されたのか「ふん」「くそ、冗談だよ」とブツブツ言いながら引き下がった。
龍はまたわき目もふらずまっすぐ城の中に入って行く。
「わぁ・・・」
一階は酒場のような場所で、いや、酒場であちこちで勇者たちが酒盛りをしていた・・・
部屋の隅にぽつんと立つ掲示板には、いくつかの依頼状みたいなものが貼ってあったが
『勇者陳情書』と書かれた掲示板は赤いペンキで塗りつぶされ「テメーのケツは自分で拭くんだな!カス」と上書きしてあった。
「勇者・・・・」
俺はまた寂しい気持ちになった・・・・・。
「真ちゃん、こっちだ」
龍に呼ばれて、カウンター席につくと。
「いらっしゃい!あら、リュー久しぶりね!」と言いながら、かっちりとした市役所みたいな制服を着たお姉さんが出迎えてくれた。
「こいつ、「真」っていうんだ、勇者申請しといてくれ、あと酒」
「はいはい、申請ね、こんな子供に何させる気なのかしら、あ、ボク、ここにお名前と、血判をお願いね」
俺は渡されたごわごわした紙に名前を書いて、龍に小さなナイフで親指に傷をつけてもらい・・・・
「なぁ、龍」
「ん?」
「そういえば、なんで俺、この世界の言葉や文字がわかるんだろう」
と、本当はもっと早くに気づくべき事に初めて気付いて尋ねてみた。
「それは!そう!異世界もののセオリーでタブーだからだろ!言葉で不自由しなくていいんだから儲けたもんだぜ!」
ははは!!!と言いながら俺の背中をバンバン叩く・・・・
まぁ・・確かに、言葉に不自由しないのは良い事だ。
これが俺に授けられた唯一のチート能力なのかもしれないし。
俺は血判を押した。
「はいはい、ありがとうございましたー・・・え?!え!!!!!」
お姉さんが驚いて、俺を見て、紙を見る・・・・
「・・・シルバー・・クラス・・・」
「シルバー?!あんなガキが?!!!!」
「信じらんねぇ!!」
「あいつリューが連れて来た・・・・」
「t、当然だろ!な、真ちゃん!」
「えぇ、。、これってすごい事なのか?」
「当然!シルバークラスになるのは俺みたいな天才か、選ばれし勇者のみだぜ!」
お、お、・・・
おぉ!!!なんか来た!チーーーートーーー!!!!
きたきた!これを待ってたんだよ!
龍と同じシルバーの証を手に取る。
十字架にライオン?か??獣の頭部が掘りこまれている首飾りだ。
俺は意気揚々とそれを身につけた。
やったぜ!これでこそ異世界だ!!!!
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