第7話

綺麗に晴れた青空・・・


そよぐ風は爽やかで心地がいい。


まるで外国の城のような一室から見えるのは、色とりどりの花が咲いていて


温室のようなものも見える。






「はー・・・・・」




息を吐く。




目の前には、見た事もない洋風のティーカップに、良い香りのお茶が注がれていて


また見た事もないケーキやクッキーやらが乗ったタワーみたいなものが置かれている。


そして。






「キャウゥー」と甘えた?声をあげながら俺の肩に居るのは小さなドラゴン・・・






「孵化する瞬間に出会えてよかったね!真君の事、親だと思ったのかな?よく懐いてるね!」


「火竜だぜ火竜!ラッキーだなぁ、真ちゃん!成長するのに200年くらいかかるけどな!ははっ!」


「真ちゃんは甘いものは苦手だったかしら・・私が作れるのはお菓子くらいしかなくって」


「お茶が苦手?でもお兄ちゃんが好きなコーヒーに似た飲み物はこちらの世界には無いし・・・」






俺の側にはいつもの親友と、幼馴染と妹と・・・オッサン・・・・「だった」異世界の人達。




「なぁんだよ、真ちゃんの来たがってた異世界だぜ?ほらほら、俺勇者!こいつ魔王!ウサミミキャラも居るんだぜ?


もっと大騒ぎして、冒険に行くぜ!とか言うと思ったのに・・・」




確かに、俺は異世界に憧れてた。


ファンタジー小説の主人公に憧れてた。


大好きなラノベのなろう系主人公になった。


正直、嬉しい。


嬉しいけど、色々な事がありすぎてどうしていいかわからない。








欲しがってたゲームを一気に20本くらい買ってもらって、どれでも好きなゲームを好きなだけ遊んでいいよ!とでも言われたような・・


どれから手をつけていいかわからなくて日が暮れる・・みたいな・・・・


そんな高揚感と疲労感が入り混じったような・・・・・


異世界に来て3日目・・・・俺は正直・・・疲れていた。






咲の見た目はウサギの耳がついたくらいしか変わらないな・・・


で・・夏樹・・・・


確か髪は肩までだったはずなのに、膝くらいまで伸びて・・・そしてウサギみたいな耳がついてる・・・




そんな二人がこの3日間、俺が寝るまでずっとそばで世話してくれる。


何だか恥ずかしい・・・なんて呼んでいいかわからないし・・。


ふたりは今のままでいいって言ってくれたけど・・・・。




オッサンは身長が2mくらいになってて、顔も何もかもローブで包まれてる。声は同じでオッサンって呼べばいつもみたいに答えてくれる。


一番変化がないのは龍だろう、服装がファンタジーなだけで後は全く同じだ。




「なぁ、龍・・・・」


「ん?」


「あ、龍って呼んでいいのか?」


「ああ、元々リューって名前だからな、で、なんだよ」




龍は目の前の菓子をもりもり食べながら俺の質問を促す。




「龍は勇者なんだよな」


「おう」


「オッサンは魔王なんだよな」


「おう」


「・・・一緒に居てもいいのか?」


「ここの魔王はほっといてもいいんじゃね?領地を拡大する気もないみたいだし」


「え?」


「他の魔王は他の勇者がやってるだろうし」


「え?!」


「ん?」


「他のって何??魔王って沢山いるのか?」


「いるぜ?」


「ゆ、勇者って、沢山いるのか?龍が勇者じゃないのか?」


「俺は勇者だぜ?勇者登録もしてるし」




龍は胸から下げたシルバーのアクセサリーを揺らして見せた、そして




「・・・・何か、あれか!そうか!真ちゃんの思い描いた異世界じゃなかったか!」




そうかそうか、と龍が俺の肩をバシバシ叩く。


あぁ・・なんか・・・もはや・・元の世界が懐かしいよ・・・・訳がわからないよ・・・・


普通ファンタジーって!異世界ってさぁ・・・








「普通!魔王っていうのは諸悪の根源で!」


「うんうん!」


「勇者って言うのは選ばれた人間にしかなれなくて!!」


「そうそう!」


「魔王は人間を虐げているから、勇者がそれを阻止する為に旅に出て!!!」


「それそれ!!」


「魔王城への道のりは困難で!」


「ヘイヘイ!!!」


「四天王とか!!強敵が居て!!」


「カモンカモン!!」


「魔王城はいつも暗雲立ち込めてて、雷がビカビカ鳴ってて!!」


「ゆーぅねぇー!」






「こんな優雅な部屋、花一杯の庭!綺麗な青空なんて!!!魔王城なんかじゃなーーーいいい!!!!!」


「いぇーいい!!!!!」






「それに・・勇者は・・こんなに軽い人間じゃない・・・・・・」


「それは勇者それぞれ、個性って大事だぜ?キャラ立ちっていうの?あれだよ」








俺はふかふかのカーペットに崩れ落ちた。




「真ちゃん!」「お兄ちゃん!」ふたりが慌てて駆け寄ってくる。






「勇者は「キャラ立ち」なんて・・・言わない・・・」






なんだか悲しくなってきた。


これじゃいつもと同じ「俺の部屋の会話」じゃないか・・・俺が異世界の夢を語って、龍がそれをからかって・・・・っていう・・・ミニコント。


違うのは妹と幼馴染のウサミミ、そして俺を心配そうに見上げて「キュウウン」と鳴く小さなドラゴンの存在。








「ごめんね、真君・・・僕は勇者ギルドに手配されていない良い魔王なんだ」


「いい魔王って・・・」




オッサンの木の枝みたいな・・・・腕?が俺を持ち上げて椅子に座らせてくれた。




「大体、真ちゃんの世界の「魔王」ってのは諸悪の根源で、強大な力を持ってて、巨大な城を構えてる割りに


やる事は村をひとつふたつ滅ぼしたり、一国の姫を攫ったり、やる事が小さいんだよね。


人間を滅ぼすっても根絶しないから勇者が生まれる訳で。


その勇者が目覚めるまで待ってるし?四天王はなぜか一人づつ順番に出てくるし、どっちかっていうと・・優しいよね。


魔王の城に魔王の弱点である聖剣や防具をわざわざ用意してあったり


自分の城に細工したり、芸が細かいっ!建築士かっての。」




「いやいやそういうもんだろ!」




俺はなんとか龍の話に食らいつく。




「魔王が「敵」を人間だけに定めたら、人間なんてあっという間に亡ぶぜ?骨も残らねーよ。


この世界の魔王ってのは、全員が全員が「自称魔王」であって、組織を作ったり城に住んだりしない。




たまに同種で群れる魔王軍もいるが、まぁ、ザコだ。結束力なんかねぇ。四天王なんてもっての他だ。


奴らは自分こそが魔王だ!って思っていて、目が合えば縄張り争いをする、これ基本な。




で、その縄張り争いが人間の村や街の近くで起これば大惨事になるだろ?


でもあいつら基本獣だからいつどこでそれが始まるかわからない、だから魔王を倒す勇者も数が必要。




でも中には特に自分の縄張り意識のない魔王も居る、そういう奴らは大抵百年単位で寝てるやつら。


これは無視な、どうやっても起きねーから。




あと、目覚めてる魔王で、縄張り争いに巻き込まれない結界を持つ「城」持ちの魔王ってのもいる。」




「おお!そいつが悪者っぽいぞ!!!!」


やっと出て来た魔王城に住むラスボス!!!!!




「そういう奴は大体が何かを研究してる、自分が何ものかわからなくなるまで何千年も「調べ」「研究」してる


たまに人間を攫って実験してるやつもいる、それが」


「僕だよー」


「え!オッサンがラスボス?!!」




俺は思わず龍の後ろに隠れた。








「違うよー、僕が研究してるのは、大型獣が少量でも口にすれば満腹になる食べ物を作る研究だよ。


とても大きな野菜を作る肥料とか、小さな肉片を膨張させる薬品とか。




食べものさえあれば獣も人を襲わないし、人も獣を狩らなくて済むでしょ?




確かに人は何人か攫ってきたけど、彼らは皆戦災孤児だったし、僕が作った食べ物を試食する為につれて来ただけで、


あ、勿論毒なんかいれないよ?毒なんか入れたらそもそも獣のご飯にもならないしね。




その少し研究に没頭していたら、150年くらいかなぁ・・・その間に子供たちが村を作れる程増えていてね、


庭も手入れされてて、城もピカピカになってて、畑も耕してくれていたんだよ。ね?僕は人間に慕われるいい魔王でしょ?」




それにね、この世界で人間の死因NO1は、魔王の存在でも、病気でもなくて、人間同士の領土争い・・戦争だからね


本当の魔はどっちかな」




枯れ枝が龍を指さす。




「中にはわざと魔王を引き寄せて街を破戒する国もあるらしいよ、怖いね。」




しん・・・・と部屋が静まり返る。


なんだよそれ・・・・全然ファンタジーじゃねーよ・・・


一番の悪が人間なんて・・漫画でも一番嫌いなオチだ。










「俺はこっちの世界の勇者がいいね」と龍が笑った。




「真ちゃんの世界の魔王はいつもツメが甘い、まるで倒してください、勇者になって下さいって言ってるようなもんだった。ザコだった。


確かにこっちの世界はファンタジーと呼ぶには真ちゃんの世界と人間事情は変わらない、真ちゃんの世界ではすげー武器で


戦争で人間が死ぬ。


でもこの世界の勇者は、魔王もブッた斬れるし、戦争に加担する事も、どこの国の誰でも手の届く範囲なら守ってやれる。


だから、俺はこの世界の勇者をやってんだ」




「龍・・・・」




そっか・・そうか・・・やっぱり勇者は勇者なんだ・・。


龍は・・ちゃらいけどかっこいいな・・・やっぱり!勇者なんだ!!






「真ちゃんはどうする?」


「え?」




「せっかく念願のラノベ主人公になったんだぜ?何かやりたい事とかねーの?」


「・・・・勇者」


「え?」




今度は龍が驚いた顔をした。






「俺、勇者になる!」


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