第247話 モーデルの遺跡にて3


 音もなく左右に滑った扉の先には、天井が更に高くなった50メートル四方ほどの部屋だった。天井を見上げると天井自体が発光しているので、キーンは『ライト』の明かりを消した。


 通路は石を磨いたような材質の素材でできていたが、この部屋の壁や床は曇り一つない銀色の金属でできていた。


 部屋の中央には4つの箱のようなものが並んで置かれている。どの箱も長四角で壁や床と同じような銀色の金属製だった。


「あの1番手前のコンテナの中に私は入っていました。残りの3つのコンテナの中にも私と同じマキナドールが入っているはずです。コンテナの中に入りしばらくすれば、この肩も修理され元の状態に戻ると思います」


 


 アイヴィーの入っていたという手前のコンテナを見ると、箱の蓋が開いたままになっていた。残りの3つのコンテナの蓋は開いていない。中を覗くと人一人横になれるくらいの空間があり、底面には人が仰向けに寝た形にくぼみがついていた。


「この中で寝てたの?」


「はい。テンダロスがコンテナを開けて私が目覚めました。その瞬間からテンダロスが私のマスターになりました」


「そうなんだ。

 アイヴィー、そこの四角い金属製の小箱は何かな?」


 アイヴィーの入っていたというコンテナの端の上に、丸く白く光っている部分があり、その上に一辺が5センチほどの銀色の小箱が置いてあった。


 キーンがその小箱を持ち上げようとしたが、コンテナから生えているような感じで持ち上げることも動かすこともできなかった。


「あれ? 動かないけれど」


「押してみてはどうでしょう」


「じゃあ押してみる」


 キーンが小箱を押すと、1センチほど箱は下に沈み、いきなりアイヴィーの入っていた箱の蓋が閉まってしまった。


 びっくりして小箱からキーンが手を離すと元の高さに戻った。戻った拍子に位置が少しズレたようなので、改めて小箱を持ったら持ち上げることができた。


「蓋は閉まっちゃったけれど、小箱は取れちゃった」


「キーン、その小箱が、この箱を開閉する鍵になっているのかもしれませんね」


「じゃあ、もう一度置いてみようか」


 キーンが元の場所に小箱を置いたが何も起こらなかった。試しに小箱を上から押したら、先ほどと同じように1センチほど箱は下に沈み、いきなりアイヴィーの入っていたというコンテナの蓋が開いた。小箱は先程までと同じように固定されたようで、動かなくなってしまった。おそらくまた押せば同じようにコンテナの蓋は閉まって小箱を動かすことができるようになるのだろう。


「アイヴィー、ひょっとしてこの小箱が爺ちゃんの持っていたという『鍵』なんじゃないかな」


「そうですね。私がバーロムの屋敷でそれらしいものを見たことはなかったのは、その小箱が『鍵』だったからかもしれません。それでは私はこの中に入ります。肩が直るのにどれくらいの時間がかかるかわかりませんが、それほど時間はかからないと思います」


 アイヴィーはそう言ってその場で着ているものを脱いで裸になり、コンテナに入って横になった。


「キーン、コンテナを締めてもらいますか」


「了解」


 キーンが小箱を押すと、コンテナの蓋が音もなく閉まった。


 アイヴィーはそんなに時間はかからないと言っていたが、どの程度時間がかかるのかはわからないので、キーンはその間、今いる部屋の中を調べてみることにした。と言っても部屋の中にあるのはアイヴィーが入ったコンテナと同じものがあと3個あるだけだ。出入り口も自分たちが入ってきたところ以外にはないようだ。


 あとは残った3個のコンテナを確認することだけだ。


 背負っていた背嚢を床においたキーンは、まず隣のコンテナを見たが、小箱はコンテナの上には見当たらなかった。残りの2つのコンテナにも小箱はなかった。アイヴィーが入ったコンテナの小箱を持って隣のコンテナのそれらしいところに置いて押してみたが下に動くようなこともなく何も反応がない。


「これが『鍵』だとすると、他のコンテナが開いちゃおかしいものな」


 残りの2つのコンテナもその小箱で試してみたが同じように反応がない。仕方なくキーンは小箱を元の場所に戻しておいた。


「爺ちゃんがよその遺跡で見つけたって話からすると、残りのコンテナを開けるには、その遺跡をもう一度詳しく探検して『鍵』を探すか、別の遺跡で『鍵』を見つけなくちゃいけないんだろうな」


 何もすることのなくなったキーンはアイヴィーの入っているコンテナに寄りかかるように床に座り、どこかの遺跡で別の『鍵』を見つけたとして、その『鍵』で新しいアイヴィーが仲間になったらどうしようかなどと空想をふくらませていた。


 1時間ほどそうやって妄想にふけっていたら、コンテナの蓋がいきなり開いた。


「キーン、お待たせしました。肩はすっかり元通りになりました」


 中から現れたアイヴィーはそう言ってコンテナから外に出て、脱いでいた服を着た。


「良かった。

 アイヴィーがコンテナの中に入っている間に残りの3個のコンテナを調べてみたんだけど、どれも開けることはできなかった。閉まっているところを見ると中にアイヴィーみたいな人が入っているんだろうけど、開けるためにはまたどこかで『鍵』を見つけなくちゃいけないみたいだね」


「そうかも知れません」


「じゃあ、目的も達成できたことだし帰ろうか」


「そうですね。行きましょう。

 せっかくここまできたのですから、モーデルの都にいってみますか?」


「特に見たいものがあるわけじゃないから、いかなくていいかな。

 あっ! そうだ、この小箱が『鍵』なら何かの役に立つかもしれないから持っていこう」


 キーンがコンテナの上に置いてあった小箱を取ろうとしたが全く動かなかった。


「あれ? さっきは動かせたけど。

 そうか、コンテナが閉まってないとダメなんだ」


 小箱を押すと、コンテナはちゃんと閉まって、小箱も取り外すことができた。


「爺ちゃんは『鍵』を置いていったんだ。そのおかげで、簡単にアイヴィーが箱の中に入れた訳で運が良かったね」


「そうですね。これもキーンの運の良さのおかげかも知れません」


「それはないんじゃないかな。だってそのころ僕はまだ生まれていなかったわけだし」


「いえ、運というものは過去に作用しているかもしれません。現にキーンはテンダロスに拾われ九死に一生を得ましたが、全てがそこにつながっていたとも考えられます」


「そうなのかなー? そうかもしれないと思えばそうなんだろうけどね」




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