第178話 ソーン邸2、キーンの大剣
ソーン邸の本館内にある武器庫に案内されたキーンは、そこにひとまとめにして置いてあった木製の訓練用武器のうち、3本ほどあった大剣の中で一番大きなものを選んだ。『龍のアギト』はもう何年も前にかなり大き目に作った大剣だったが、今ではキーンも少し小さく感じていたので、『龍のアギト』より二回りは大きな大剣を使ってみようと思っていたところだった。ボルタ兵曹長にあずかってもらっている大剣『銘なし』は『龍のアギト』より剣身で5センチほど長い。今手にした木製の大剣は『龍のアギト』より剣身で10センチは長い。
「それじゃあ、この大剣を強化してみます」
「あら、その大剣はずいぶん大きいのね」
「うん。『龍のアギト』が少し小さく感じるようになったので、試しに大きなものを扱って調子がいいようなら、新しく作ろうかと思って」
「その大剣はキーンに上げるから、強化した後そのまま持って帰っていいわよ。
おじいさま、いいわよね?」
「もちろんじゃ」
「ねえ、キーン。セルフィナたちもキーンが武器を強化するところを見たいかもしれないから、訓練場で強化しない?」
「どこでもいいよ。今回はすこし強く、回数も多く強化をかけようと思っているけど、それでも5分もかからないはずだから」
「おじいさま、そういうわけだから、セルフィナのいる離れにいきましょう」
「そうじゃの」
そういうことになったので、キーンは木でできた大き目の大剣を持って、先に歩くクリスとウィンストン《おじいさま》の後を歩いていった。
離れの玄関の前でクリスが中に向かって、
「セルフィナ、わたしよ。キーンが来たわ。それとおじいさまも一緒」
離れの中からソーン家でセルフィナたちのいる離れに付けている侍女が出てきた。
「お嬢さま、殿下はすぐにいらっしゃります」
その後すぐに、セルフィナ、サファイア、ルビーの順に玄関から出てきた。
「おはよう、セルフィナ」
「おはようございます。クリスお姉さま、それにおじいさまとキーンさん」
「おはようございます。殿下」「おはようございます」
それぞれの挨拶が終わったところで、
「キーンがこれから木でできた大剣を強化して変性?させるから、セルフィナたちも興味があるだろうと思って、まだ時間より早かったけれど、誘いにきたわ」
「キーンさんの黒い大剣の話だけは聞いていましたので、それは興味があります。
サファイアもルビーも興味あるわよね?」
「はい、それはもちろんです」「はい。興味があります」
「それじゃあ、訓練場の方に移動して、
キーンはそこでその大剣を強化してね」
「了解」
6人そろってゾロゾロとクリスの魔術練習場に移動していった。
「それじゃあ、ここでこの木製の大剣を強化して変性させます」
「キーン、変性させる前の大剣を持ってみてもいい?」
「もちろんいいよ。まだ重くなっていないからクリスでも簡単に持てると思うよ」
そう言ってクリスに柄を向けて木の大剣を渡してやった。
「ほんとだ。軽いわけではないけれどわたしでも持てる。セルフィナたちも持ってみるといいわ。変性して黒くなるとわたしでは持てないくらい重くなるのよ」
クリスは両手で持っていた木の大剣をまずセルフィナに渡した。
「持てるけれど、私では振り回すなんてできそうもないくらい重い」
セルフィナはそういいながらサファイアに大剣を渡した。
「うーん。鋼でできた大剣とそんなに重さが変わらないくらい重く感じます。木製といっても訓練用なので重い木を使っているうえ剣身がかなり厚いようです」
そう言ってサファイアはルビーに大剣を渡した。
大剣を両手で持ったルビーが、
「重い。私じゃ無理です」
そのまま、大剣をキーンに返した。
「おじいさまは持ってみないでいいの?」
クリスがそういったので、キーンがおじいさまに大剣を渡した。
「木でできているからもうすこしは軽いかと思うておったが、思った以上に重いの。
これが、さらに重くなるのか。この大剣でさえ振り回せるとは思えん。儂では持てんようになりそうじゃ」
おじいさまに大剣を返してもらったキーンが、
「それでは、この大剣を強化します。今まで3000回強化していましたが、せっかくなので今回は5000回強化してみます。強化の強さも、今までの10倍でやってみます。始めて試すのでうまくいかないかもしれませんが、うまくいかなくて大剣が壊れたらごめんなさい」
そうことわったキーンが、両手で木製の大剣を持ち、
「強化10倍×5000」と声を出した。
大剣は輝くわけでもなくそのままだ。いや、表面に薄っすらと
「だいたい5分ちょっとで終わると思います」
そう言っていたら、少しずつ大剣が黒ずんできたようだ。持っているキーンには少しずつ重くなってきているので変化がはっきり分かる。
1分ほどで、木製の大剣は真っ黒になり、この時点でおそらく『龍のアギト』と同じくらいの重さになったとキーンは感じていた。
見る見るうちに、木目の出ていた木製の大剣が真っ黒になってきたので、キーンを囲む面々は驚きながらもじっと大剣を見つめていた。
キーンの言った5分にはまだまだ時間がある。黒く変性した大剣がさらに強化され続けているのだが、これから先どうなるのかはキーンにも分からない。なにがしかの変化があるのかもしれないし、このままかもしれない。
ただ、大剣を持っているキーンは今も少しずつではあるが大剣が重くなってきているので確かな手ごたえを感じている。
3分が経過したところで、クリスが、
「その大剣、何だか細くなってきていない?」
確かにクリスの言うように長さは変わっていないが、分厚かった剣身はやや薄くなり、剣身の幅も狭くなってきた。
「クリスの言うように少し細くなってきたようだね」
4分が過ぎたあたりで、剣の刃にあたる薄い部分から徐々に透き通り始めた。
5分がすぎ、それからしばらくして表面に見えていた
「刃にあたる部分がガラスのように透明になって、剣身はそれほど透き通ってはいないけれど半透明になりましたね。見た感じは石英っぽい。
クリス、持ってみるかい? 僕が持ってもかなり重いし、『龍のアギト』に刃はなかったけれど、この大剣には刃があるみたいだから気を付けて」
キーンが慎重に大剣の剣身を両手で持って柄をクリスに渡した。
『龍のアギト』はクリスから見てどこか
クリスが両手で大剣の柄を掴んだところで、
「ゆっくり力を抜いていくから」
キーンが支えていた力を抜いていくと、徐々に大剣の柄を持ったクリスの両手が下がってきた。
「無理。全然持てない。凄い大剣ができ上ったと思うけれど、こんなに重いとキーンでも扱えないんじゃないの?」
クリスが持つのを諦めた大剣を持ったキーンが、
「たしかに、これほど重いと慣れるまで強化状態じゃないと僕でも扱えないと思う」
慣れれば強化しなくても使えると思っているようだ。
キーンはキーンだから。そう思ったクリスが残るみんなに向かって、
「みんなも試しに一度持ってみた方がいいわよ。本当に重いから気を付けて」
セルフィナから順に、キーンが柄を持って刃先を下にして地面に立てた、その大剣の柄を持ってみたのだが、動かすことも容易ではないような代物だった。最後にその大剣に手をかけたおじいさまは、
「これは、見た目は見事な大剣じゃが、人が扱えるとは到底思えん
そういって、持っていた大剣の柄をキーンに返した。
「ちょっと、振ってみますが、強化をかけないと無理そうなので、強化」
キーンの体が6色に輝いた。その光が新しい大剣に反射して大剣がキラキラと輝いた。
「きれい」
そこにいたクリスを始め4人の女子がその大剣の
キーンが大剣を両手で持って軽く振った。
それだけでも風切り音がそれなりにしている。
「これなら問題ないな。強化を1倍でかけておくくらいでちょうどいいみたい。慣れてきたら、少しずつ強化を緩めていって、最終的には素の状態で振り回せることを目標にしよう。
それでは、基本の素振りをしてみます」
そう言ってキーンがいつもの突きからの八方への素振りをした。
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