第177話 ソーン邸1、武器庫

[まえがき]

早いもので、とうとう50万字いっちゃいました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 バーベキュー大会も好評のうちに終わり、アイヴィーはジェーンを連れて食材などの買い物をしながら自宅うちに戻り、クリスたちの来客も帰っていった。

 キーンたちは会場の後片付けを終えてから解散した。今日のバーベキュー大会に参加した家族や友達のうち、半数近くは訓練場の出口で自分たちの息子や娘、友人である兵士たちが作業を終えて解散するのを待っていたようだ。



 翌日、キーンは約束通りクリスのうちにやってきた。門の前で待っていた侍女に案内されるままソーン邸の本館の応接室に通されてしまった。応接室には、クリスとクリスのおじいさまことウィンストン・ソーンが待っていた。


「おはよう、キーンくん」


「おはよう、キーン」


「は、はい。おはようございます」


「キーンくん、別に緊張せんでもええんじゃよ。

 クリスから、今日キーンくんがうちにある訓練用の木の大剣を強化してアーティファクト並みのものにすると聞いて、それを一目見たくてキーンくんを待っておったんじゃ。どれ、一緒にうちの武器庫にいって、適当なのを選んでくれ。さすがに訓練用の大剣となると数本しかないはずじゃがな」


「そういうわけだから、セルフィナたちには今日は10時からって伝えているわ」


「そうなんだ」




 ウィンストンの歳は70前後だろうが姿勢もいいし、しっかりした足取りで歩いていく。そのウィンストンの後をキーンとクリスがついていく。


「おじいさまに、キーンの『龍のアギト』の話をしたらどうしても見たいって。おじいさまが武器を持ったところなんか一度も見たことはなかったし、おじいさまが武器に興味があったなんて知らなかったわ」


 クリスの言葉にウィンストンが振り向いて、


「これでも昔は『双剣のウィンストン』という二つ名の元、粋がっておったこともあるんじゃよ」


「おじいさま、そんなに強かったの」


「いや。全く強くはなかった。それに昔と言っても儂がまだ子どもの頃の話じゃ」


「なーんだ」


「クリス、話は最後まで聞いたほうがいいぞ。双剣の意味はな、剣をまっすぐ刃筋に沿って振れんかったから、剣が真ん中あたりで折れて二つになったからそう呼ばれておったのじゃ。

 ある時、応接間かどこかに飾ってあった立派な剣を振り回して真っ二つに折ってしまった時には、儂の親父殿が怒る代わりに『もう剣術の真似事はよせ』って静かに言ってそれからじゃよ、儂が勉強を始めたのは。あの時の親父殿の顔はいまでもよーく覚えておるぞ」


「おじいさま、話を最後まで聞いたけど、結局何が言いたかったの?」


「儂も分からんが、まあ、儂は剣が好きじゃ。という話じゃな」



 キーンにも何の意味があるのか分からないおじいさま・・・・・の話を聞きながら屋敷の廊下をしばらく歩いていくと、


「屋敷の外にも武器庫はあるんじゃが、屋敷の中の武器庫はここじゃ。屋敷の外の武器庫は鍵をかけておるが、屋敷の中のここは鍵をかけておらんのじゃ。クリスはどうしてだかわかるかの?」


「屋敷の中で武器が必要になるということは、賊などが侵入しりしたもしも・・・の時のもので、屋敷の外は、武器をちゃんと準備する時間がある時使うものだから。そうね、敵が王都まで押し寄せて来た時なんかかな」


「そういうことじゃ。

 外の武器庫を本当の意味で開けたのは、何十年も前にダレン軍がセントラムに迫ったときじゃ。儂の親父殿は王宮に詰めておったので、儂がこの屋敷に残った者の指揮を執ったんじゃが、あの時はキーンくんの御父上の大賢者アービス殿のおかげで王都は救われた。まかり間違えば今頃セントラムはダレンの地方都市。上級貴族のうちもその時なくなっていたかもしれんから、そういう意味では、大賢者殿は儂の命の恩人じゃ」



 自慢のじいちゃん・・・・・の話が久しぶりに聞けたのでキーンは少しクリスのおじいさま・・・・・に親しみを覚えた。


 少し重そうな扉を開け中を覗くと、天井が高く、明り取りの窓が上の方に数カ所だけある薄暗い部屋だった。壁にはかなりの数の槍や長めの武器が横にして掛けられて、低めの台の上には立派な鞘に入った剣やメイスといった短めの武器が並べられていた。中に入ると、刀剣の手入れ用の油の匂いがわずかにこもっていた。


「おじいさま、わたしは子どもの頃この部屋の扉を開けようとしたことがあったのだけど、扉が重くて開かなかったことを覚えているわ」


「ああ、それはな。あの頃のクリスは何をしでかすかわからんかったから、ワザと子どもの力では扉が開かんようにしとったんじゃ」


「そうだったんだ。それ以来、ここの扉を開けようとしたことがないから、ここが武器庫だったってことをすっかり忘れていたわ」


「子どもに変に教えて、刃物に興味を持たれては困るからの」


「おじいさまみたいに勝手に振り回して壊すかも知れないし」


「剣を折るくらいはどうでもよいが、ケガでもしたら大ごとじゃからの。儂の親父殿も儂にケガをさせたくなかったから、ああ・・言ったんじゃと思うておるぞ」


「大事な剣を折られて悲しくなったのかと思ってた」


「親父殿本人に聞いたわけではないが、多分儂の考えは当たっておる。

 クリスもそのうちキーンくんとの子ができればわかるじゃろ」


 その言葉でクリスが頬を少し赤く染めて横に立つキーンを見たが、キーンは何を考えているのか、何も考えていないのか分からない顔をして武器庫の中を眺めまわしていた。


「キーンくんも武器が大好きなようじゃの。フォッフォッフォ」


 おじいさま・・・・に名前を呼ばれたと思ったキーンは、


「はい?」


 キーンは部屋の中の武器を眺めるのに夢中で何も二人の会話を聞いていなかったようだ。


 武器庫の中にあるのはちゃんと手入れされて、いつでも使えるようになった見事な武器ばかりだった。


「キーンくん、木製の訓練用の武器は奥の方に適当に置いてある。こっちじゃ」


 おじいさまの案内で武器庫の奥の方に行くと、十把一絡じゅっぱひとからげげ的に木製の武器が上蓋の空いた大きな木箱の中に突っ込まれていた。


「訓練などほとんどしとらんから、誰も使っておらんのじゃ」


 そこあった武器は、確かに使い込まれた感じが全くしないものの、それなりに古くなってはいたが全く傷んではいないばかりか、ほこりをかぶってもいなかった。ソーン家ではこういった訓練用の武器でさえちゃんと管理しているようだ。



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