第21話 交流戦見学3、的当て競争


 その後も鋼柱破壊競技は進み、少しずつ軍学校と付属校の差が大きくなっていった。付属校の最後の選手がスタートした時には、軍学校側はまだ4人目の選手が鋼柱に挑んでいた。


 最後の付属校の選手は、男子生徒だった。


 4人目の選手からタッチされたその選手は、開始線の上に立ったまま競技場にただ一本残った青い鋼柱に対し、両手で持った背丈ほどの杖の頭の膨らんだ部分を向けて、


「サンダー!」


 杖から紫電が放たれ続け、鋼柱の真ん中あたりが赤く輝き、ろうそくのしずくが垂れるように表面が溶け始め、ほんの10秒ほどで、鋼柱が折れて競技場の床に転がってしまった。


 その時に、やっと軍学校の最後の選手が5本目の鋼柱に挑むところだったが、そこで試合は終了した。



 このころには付属校側の観客も増えて来たようで、盛んに観客席から拍手や歓声が起こった。先ほどの男子選手は、観客席に向けて一礼して競技場を後にした。


「鋼柱破壊競技の勝者は付属校ということになりました」


 審判の声に、さらに観客席の歓声が大きくなった。



「キーン、今の魔術サンダーはキーンならできるのよね?」


「サンダーはもちろんできるけど、いまのとはちょっと違うかな?」


「どう違うの?」


「電撃が当たったところが吹き飛ぶ。そんな感じ」


「そうなんだ。じゃあ、今のサンダーと違うのかな?」


「僕のサンダーを今のサンダーと同じようにするには、対象が壊れず溶けてしまうようにサンダーの強度をある程度下げればいけると思う」


「キーン、そういえば呪文を何も覚えていないきみはどうやって魔術を覚えたの?」


「じいちゃんに魔術を見せてもらって覚えた」


「きみは魔術を見ただけで使えるの?」


「自分だとはっきりは覚えていないんだけど、3歳の時最初に見た魔術は失敗したようだよ。それから後は失敗したことはないと思う」


「もう、きみの話には笑いしか出てこないわ。

 そろそろ、次の競技の準備が終わったようよ」


 クリスの言うように、競技場の端の辺りに数人がかりで縦横三メートルほどの四角い的が置かれた。


 まと当て競争の先攻は開催校の付属校である。


 的から三十メートル離れた場所にラインが引かれ、その後ろに付属校の生徒が立った。今度も付属校の一番手は女子生徒だった。



「それでは、用意。始め!」


 審判の合図で、


「マジックアロー」


 一度に三本の白い光が的に向かって放たれた。その白い光の一つ一つが三十メートル先の的でちょうど三十センチの間隔で水平に並び、左上の三個の白丸に命中した。白丸はすぐに黒く色を変えた。


「……、マジックアロ―」


「……、マジックアロ―」


 ……。


 一度の呪文の詠唱はだいたい10秒。3個単位で、次々と白丸が黒丸に変わっていく。全て白丸に命中すれば、3分あれば50個全ての白丸が黒丸に変わるはずだ。


 そのはずなのだが、十回目のマジックアローは二つにしか分かれず、そのどちらも、黒丸に命中してしまい、白丸の数が二つ増えてしまった。


 その後、その選手はマジックアローを諦め、無難なファイヤーアローを放ち始めた。


「……、ファイヤーアロー」


「……、ファイヤーアロー」


 ……。



「止め!」


 三分経過した時点で審判の止めの合図が入った。残った白丸の数は十二個。得点は三十八点となった。


 付属校の選手が一礼し、退場していった。




 次は軍学校の選手で、小型のクロスボウと大型の矢筒を持った大柄の女子選手だった。


 彼女の持ったそのクロスボウの上部には小箱のようなものがついているのが見えた。



「キーン、あのクロスボウ、少し変わっているわね」


「今までクロスボウの実物を近くでよく見たことはないから何とも言えないけれど、形が少し変なのかな?」


「あれが軍学校の特殊武器、連射クロスボウじゃないかしら。あれそのものが魔道具なのよ」


「クロスボウが連射できれば便利だよね。魔道具だとすると、かなりの値打ちものなのかな?」


「国宝級とまではいかないでしょうけど、相当高価なものだと思うわ。実際の戦いで使うにはあの大きさのクロスボウだとそんなに威力はなさそうだけど、今回の競技に限れば的にさえ当たれば十分だから、威力がなくても大丈夫だものね」


 因みに、武器や発動体は自力で持ち運べるものならどういったものを使用してもいいことになっている。



 まとが交互に黒丸白丸の並んだ最初の状態に戻されたところで、審判の開始の合図。


「始め!」


 合図と同時に、軍学校の選手は速さと正確さを強化する強化魔術を自分自身にかけた。その結果薄っすらとではあるが紫と青の混ざった光の帯で体が覆われた。


 そのあとすぐに構えたクロスボウから最初のボルトを撃ちだした。やや放物線を描いたボルトは見事左上の白丸に命中して、その白丸は黒く色を変えた。威力がそれほどないため、的に当たったボルトはそのまま競技場の床に落っこちた。


 一射目のあと、ほぼ3秒間隔で、ボルトが発射されていった。2射目は的を外して黒丸が白丸になったがすぐに3射目が発射された。3射目はその白丸に見事命中した。そういった感じで、射撃は続き、軍学校の女子選手は20射めで矢筒からボルトをクロスボウに装てんし直していた。20連発のクロスボウだったようだ。


 20射の段階で、2射が黒丸に当たり、1射が的以外に当たっているため、15個白丸が黒丸に変わっている。経過時間はちょうど1分10秒。最初の強化の時間を除けば射撃時間は1分弱。このペースでいけば45個の白丸が黒丸に変わり、軍学校が付属校をリードすることになる。


 次の1分で、17個の白丸が黒丸に変わった。残るは18個。


 最後の50秒の最初の辺りで強化が切れてしまったようだ。この50秒で軍学校の生徒は14射行い2本のボルトが外れて黒丸が白丸になってしまった。結果は10個の白丸が黒丸に変わり、最終的に42個の白丸が黒丸に変った。得点は42点となり、軍学校側が4点だけ付属校をリードした。


 4点リードが分かったとたん、軍学校の応援にきていた生徒たちが一斉に歓声を上げた。まだ勝ったわけでもないのに歌まで歌い始めてしまった。


「軍学校の生徒たち盛り上がってるわね」


「そうだね。でも選手だってあの歌を聞けば元気が出ていいんじゃないかな」


「選手と応援の生徒たちが一丸となっているところはさすがね。

 うちの次の選手が出て来たわ」



 競技場に現れた付属校の選手は今度は男子生徒だった。彼の手にした発動体は勺杖だった。



 的が先ほどと同じように最初の状態に戻されたところで、審判の開始の合図。


「始め!」


「ファイヤーアロー!」


「……、ファイヤーアロー!」


「……、ファイヤーアロー!」


 四秒ほどの間隔でファイヤーアローが勺杖から撃ちだされて行く。


 撃ちだされたファイヤーアローはすべて白丸の中心に当たっていく。


「……、ファイヤーアロー!」


 ……。


 手堅い作戦だ。ただ、一分半を経過した辺りから徐々に発動の間隔が長くなり始め、結局、得点は38点にとどまった。



 軍学校の二番手。こちらは、先ほどの女子選手と同じ女子だった。手にしているのは先ほどの選手が使った魔道具のクロスボウ。もちろんそういった魔道具や発動体を使いまわすことは禁じられていない。


 結局その選手は四十点を出したことで得点差は6点となった。その結果を聞いた軍学校の応援の生徒達はまた歌を歌い始めた。


 その後、両校二人ずつの選手が交互に出場した。


 そして、両校最後の選手を残した段階で点差はやや付属校が盛り返し軍学校のリードは3点となっていた。


 軍学校のアンカー選手が、的に向かってクロスボウを構える。


「始め!」


 さすがに軍学校のアンカー選手だけあって、クロスボウを軽快に撃っていく。そしてミスもなく三分を経過して審判の「止め!」の合図を受けた時、残った白丸は6個。44点の最高点をたたき出した。


 付属校が逆転勝利するためには、48点以上の得点が必要となる。



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