第20話 交流戦見学2、鋼柱破壊競技


 キーンとクリスが軍学校の生徒達を眺めてしばらく会話をしていたら、両校の選手が試合場の真ん中に出てきてお互いに頭を下げて別れていった。そろそろ試合が始まるようだ。


 そのあとすぐに、競技場の真ん中に係りの人が大勢出てきて鋼柱を備え付け始めた。鋼柱は先端が赤く塗られているものと青く塗られているものが交互に並べられていった。おそらく招待校である軍学校によって既に五本が選ばれて色付けされているのだろう。赤が軍学校、青が付属校の鋼柱らしい。


「始まるわね。キーンならあの鋼柱、何分くらいで壊せそう?」


「うーん、余裕を見て3秒あればなんとかなるかな」


「あんな太いはがねの柱を3秒で壊せるの?」


「おそらく。1本だけでもほとんど変わらないけどね」


「『1本だけでも』って、さっきの3秒は何本壊す気だったの?」


「10本全部だよ。クリスはそう僕に聞いたんだよね?」


「そ、そうね。キーンはキーンだものね」


「クリス、何言ってるの?」


「何でもないわ」


 キーンとクリスが観客席で話しているうちに、最初の両校の選手が競技場に現れれ、開始線の前に立った。軍学校の選手は男子選手、付属校の選手は女子選手だった。



 最初の選手は競技が開始されると、その開始線から移動して自分の鋼柱の前まで行ってもいいし、その場所から動かなくてもいい。鋼柱を破壊したら、開始線で待つ次の選手にタッチすることで、選手交代することになる。


 また、スタートから鋼柱を破壊するまでの時間を参考のため時計で計っている。


 時間の計測は数年前まで魔道具の時計が使用されていたが、秒の計測が苦手だったため、今では機械式振り子時計が導入されている。


 軍学校の一番手は、手に大型のメイスを持っていた。キーンの見立てでは身体強化魔術で体を強化した上、さらに強化魔術でメイスの破壊力を上げて鋼柱を破壊しようというのだろう。魔術の発動体は不要なのか、メイスなのかそれとも指輪などの装身具なのかは分からない。


 付属校の一番手は基本的に魔術しか使わないため、その女子選手は臙脂えんじのローブ姿で、ローブの下はブラウスにスカートだ。要は制服を着ているようなものだ。その上でなにがしかの発動体を持っている。一般的には両手持ちの杖か、片手持ちの小型の杖、勺杖しゃくじょうが発動体としてよく使われている。その女子選手は、勺杖を右手に持っていた。




 審判の「始め!」の合図で、軍学校の選手は、赤い印の付いた鋼柱の前に走っていき一瞬体が赤く輝いた。力を強化したようだ。そして緑、黄色と輝いた。肉体の強度上昇とスタミナの上昇も行ったようだ。一度に3種類の強化魔術を重ね掛けしたところはさすがに一番手の選手である。おそらく手に持ったメイスが発動体だったのだろう。最後にメイスに強化魔術をかけるとキーンは思っていたのだが、メイスには強化魔術はかけなかったようだ。


 強化を終えたその選手は両手で持ったメイスを鋼柱の真ん中あたりに叩きつけた。


 カーン!


 ちなみに、『始め』の合図の前に詠唱を済ませておくことは発動さえしていなければ反則ではない。


 一方こちらは付属校の女子選手。審判の始めの合図で、その女子選手は、青い印の付いた鋼柱に歩み寄りながら詠唱の終わった魔術を右手に持った勺杖から発動させた。


「バーニング!」


 鋼柱の中央部分に魔術が発動したようだが、見た目は何も変化はない。


 少し離れた場所から軍学校の選手がメイスを鋼柱にたたきつける音が


 カーン! カーン! カーン!


 とアリーナに響く中、付属校の女子選手は再度呪文を詠唱し、


「……バーニング!」


 軍学校の選手が繰り返しメイスを鋼柱の同じ個所に打ち付けるカーンという音が段々とゴーン、ゴーンからゴンに音が変わってきた。


 それに対して付属校の女子選手の「……バーニング!」


 合計三回バーニング、過熱発火魔術を発動した。その結果鋼柱の中央部分が発熱して赤くなってきた。そこで、


「……フリーズ!」


「……マジックハンマー!」


 一気に冷却された鋼柱に魔術の一撃が加えられ、ポキリと鋼柱が中央部分で折れた。鋼柱を破壊した女子選手はすぐに開始線に戻って次の選手に交代した。


 そこで、会場がわずかにざわめいた。


 その数秒後、ドン! という音と同時に軍学校の選手がメイスを叩きつけていた鋼柱が真ん中あたりで折れ、上半分が競技場の硬い土の上に転がった。軍学校の選手もすぐに開始線で待つ次の選手のもとに走っていき交代した。



「ねえ、キーン。うちの選手が鋼柱を壊すまで、50秒ちょっとだっただけど、会場の様子から見てそれってすごい記録だったようよ」


「う、うん。そんな感じだね。どうしよう?」


「きみがどうこうする必要はないでしょう」


「僕ってちょっと変なのかな?」


「いい意味で普通じゃないわね。でもほこっていいことだから大丈夫よ」


「クリスにそう言ってもらえて安心したよ」


「おおげさね。そういえばキーンはあの大剣で鋼柱を壊すことができる?」


「そうだね。開始線から鋼柱まで近づくのに数秒かかるけど、斬り飛ばすのは一瞬だから、10本斬り飛ばしても、10秒はかからないかな。強化してたら、全部で5秒?」


「やっぱりそうなのね。

 でもうちの3年生も、ただ単純に鋼柱を壊すわけじゃなくて、一度熱したあと一気に冷やして鋼柱をもろくするなんてさすがね。どの魔術もそれなりに長い詠唱の魔術でしょうけど、十秒ちょっとでどの呪文も完成してるし」


 そう感想を口にしたクリスだが、隣に座るキーンは呪文などを唱えることも無く一撃であの鋼柱が壊せると思うと、天才という言葉では表せない何かを見ている気になった。もちろんクリスは、キーンが魔術なら3秒で鋼柱を壊せると言ったことも大剣なら5秒ほどで斬り飛ばせると言ったことも少しも疑っていない。


 クリス自身、それほど欲のある女子ではなかったが、漠然と付属校に入れば自分はトップになるだろうと考えてはいた。キーンに接して、1位になることだけは無いと自覚しており、いい意味で肩の力が抜けている。教師のあいだでは、1年生限定だがキーンに次ぐ実力者だと認められつつある。



 会場では両校の次の選手が鋼柱に向かっている。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る