第23話 キーン13歳、付属校を放校になる


 軍学校との交流戦も終わり、キーンにとっては単調な授業と見学だけのような実技の学校生活が続いた。


 キーンが付属校に入学して3カ月半。先日キーンは13歳になっていた。


 2日後には、期末試験が行われる。試験が終わり成績発表があれば、付属校は夏休みとなる。


「ねえ、キーン。きみ試験大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないと思う」


「やっぱり。それじゃあ、どうするの?」


「試験は受けるけど、たぶん魔術関係の問題は一問もできないと思う」


「付属校では、一般教養関係の試験はなくて、魔術関連の試験しかないから、それだと良くて留年、悪ければ退学よ」


「クリスと会えなくなるから、退学は困るけど、こうしてクリスと友達になれたから僕が学校に来た目的は達成されてるんだよ」


「キーン、うれしいことを言ってくれてどうもありがとう。わたしもきみが退学になったら寂しいわ。キーンがこの学校に入学した目的って?」


「同じ歳くらいの子の友達を作ること」


「そうなんだ。キーンは魔術なんて学校で習うこと何もないものね」


「クリスが良ければ、僕が退学になっても友達のままでいてくれるかい」


「もちろんよ。キーン」


「ありがとう、クリス」




 そうして迎えた期末試験。科目は四つ。


 基礎魔術詠唱。魔術史。魔術概論。魔術論1。午前中二科目で二日間。授業では一般教養として算術や国語、国史、地理などの授業はあったが、それらについては特に試験は実施されない。魔術実技の試験はすでに終わっており担当のバーレル先生との約束通りキーンは満点の扱いで試験免除されている。


 成績発表は二日目の学科試験の終わった日から一日おいての二日後、校庭の掲示板に生徒名と合計点が書き出される。学科試験の4教科とも満点が100点なので合計点の満点は400点、これに200点満点の実技の点数を加え満点は600点となる。


 各科目7割以上で合格となり、不合格が3科目以上のものは留年または自主退学を選択することになる。合計点が300点未満の生徒は放校処分となる。


 実際問題、キーンは試験には出席したが一問もできなかった。答えが分かる問題もあるにはあったのだが、どうもしっくりこないため、結局4教科全て名前だけ書いて白紙で提出してしまった。


 そして、試験の終わった翌日、夕方開かれた1年生の成績会議。


 会議室で今回の試験の成績表を見ながら、ドジョウひげを気にしつつ、校長のエッケルが1年生を教えている魔術関連の各教師を前にして、


「残念ながら、キーン・アービスは、規定の学科試験の成績を修めることはできませんでした。それどころか、4科目すべてが0点。これでは留年させる意味もありませんから校則通り放校ということでよろしいかと思いますが、誰かご意見はありませんか?」


 これに対して実技担当のバーレルが、


「校長、待ってください。アービスは稀代きだいの大天才と言っても過言の無い生徒です。学科試験など必要ないでしょう」


「学科試験など? それはどういった意味でしょうか? バーレル先生」


「いえ、申し訳ありません。しかし、わが校の設立理念から言って、実技で三年生、いや、魔術大学生すら軽く超える能力を示している生徒を放校にするのはおかしいでしょう」


「とはいえ規則は規則。他の生徒や保護者にどう説明するのですか?

 それでは、決を採りましょう。バーレル先生のおっしゃるようにわが校の理念からすれば実技さえできればいいということも頷けます。

 従ってバーレル先生は一人で3票、他の四人の先生方は一人で1票ということでいいでしょう。

 それでは、キーン・アービスの放校に賛成の方。……、四名の4票。

 念のため反対の方は、バーレル先生おひとりの3票。それでは、キーン・アービスは放校ということにいたします」




 翌日試験成績を表示した掲示板にはキーンの名まえはなく、その代り校長室に呼び出しがあった。因みに成績のトップはクリス・ソーンだった。


「アービスくん、残念だがきみは成績不良のため放校となった。明日からこの学校の敷地内には入らないように」


 そういうことでキーンは放校となってしまった。



 クリスに一言ことわって学校を去ろうとしたキーンだが、クリスは教室にいるらしく、放校になった自分が教室に入っていくこともはばかられると思ったキーンは、クリスに会わずそのまま自宅に帰っていった。




「キーン、成績の方はどうでした?」


 付属校から帰ってきたキーンにアイヴィーが尋ねた。


「そのことなんだけれど」


「どうかしましたか?」


「成績が悪すぎて、放校になっちゃった」


「あら、それには、さすがの私もビックリしましたが、そうなったものは仕方がありません。今後のことを考えましょう」


「そうだね」


「キーンはこれからどうしたいですか? クリスと友達になれたから、一応最初の目的である友達を作るというところはクリアできたわけですし、このままバーロムに帰りますか?」


「うーん、それもいいかもしれないけれど、バーロムに帰っても何もすることがないし」


「どこか他の学校にでも入り直しますか?」


「夏休みの期間、よく考えておくよ」


「そうですね」




 こちらはクリス・ソーン。


 期末試験の総合成績が貼り出された掲示板を見ると、試験の成績がトップだった。そのことは素直に嬉しかったが、キーンの名まえが掲示板になかった。代わりにあったのはキーンへの校長室への呼び出しだった。


 クリスはキーンのことが心配だったが学科試験の答案が返されるので教室に戻っていった。


 その日は1学期の最終日だったが、結局キーンは教室に現れなかった。フィッシャー先生からキーンが成績不良で放校になったと聞かされ驚いてしまった。ノートが基本白紙だったキーンなので、ありうることだと思っていたがやっぱりだった。それでもキーンが付属校を放校になったことくらいで終わるような男子ではないと思っていたので何かが始まるような予感がした。




 そしてこちらはメリッサ・コーレル。


 あのキーン・アービスが成績不良のために放校になったと聞き、わが耳を疑ったが、実際教室にはいないし、期末試験の成績を記した掲示板にも名まえがなかった。いままで、メリッサはキーンのことを目の敵にしていたが、空回りしていたことに気づき拍子抜けしてしまった。


 結局キーンはなにがしかの大賢者がらみのアーティファクトでズルをしていたのだと結論付けてキーンのことは忘れることにした。来学期からの目標は今回成績1位のクリス・ソーンだと心に決めたようだ。因みにメリッサ・コーレルの1学期の成績は4位でクリスの前にまだ二人いる。休み中にしっかり勉強と訓練をして差を縮めようと心に決めたようだ。




 ここは、王宮の宮殿内。


 国王ローデム2世の執務室に宮内省のサイモン長官が訪れたところだ。


「陛下、キーン・アービスが付属校を退学、いえ、放校になったようです」


「どうしてそのような?」


「どうも、……」


「あたら才能を捨ててしまうとは。うーん。わたしが介入するわけにはいかんしどうしたものか?」


「軍学校に編入させてみてはどうでしょう。軍学校なら目も届きますし、ウワサですが、彼は大剣も使いこなすそうです」


「ほう。それはいい考えだ。さっそく、アイヴィー殿に連絡を取って軍学校への編入の手続きを進めてくれ」


「かしこまりました」



 こうして、キーンの知らぬところで、軍学校への編入の話が進んでいくのだった。




[あとがき]

ここまでで第2章は終了し、次話から『第3章 王立軍学校3号生徒』となります。

軍学校に編入したキーンは軍人の道を歩きはじめます。フォロー、☆、応援、感想等ありがとうございます。

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