第8話 キーン、屋敷を購入する。
[まえがき]
前話のサブタイを少し変えました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
付属校の入学試験までは2週間ほどの時間もあるので、先に王都内に屋敷を買ってしまおうということで、二人は商業ギルド本部を訪ねた。もちろんアイヴィーの頭の中にはキーンが受験に失敗するという考えはない。
道を尋ねながらやってきたところ、商業ギルド本部は大通りに面して聳え立った重厚な石造りの白亜の建造物だった。巨大な石の柱がずらりと並んだ出入り口からホールに入ると、正面の受付に若い女性が二人座っている。二人の美女に見とれるキーン。
アイヴィーがその受付で用件を告げ、バーロムの商業ギルドのギルド長マーサ・ハネリーに用意してもらった紹介状を渡すと、すぐに二階の応接室に案内された。
二人がソファーに腰かけていたら、しばらくして初老の男性と大きな台帳のようなものを持った30歳くらいの女性が入室してきた。
アイヴィーが二人の入室前から立ち上がったので、キーンも一緒に立ち上がって二人を迎えている。
「テンダロス・アービスさまのご子息のキーンさまとアイヴィーさま、ようこそおいでくださいました。商業ギルド本部のギルド長を務めますヘンリー・オースです。隣りは」
「オースの秘書を務めますマリア・ブーリンと申します」
「キーンです」「アイヴィーです」
ひとまず、全員が椅子に腰を掛けたところで、オースギルド長が、
「バーロムのギルド長のハネリーが、キーンさまの後見人という立場で、キーンさまをテンダロスさまの正当な遺産相続人と認めて手続きするよう頂いた書状で求めておりましたので、そのように取り計らいます。この本部にありますテンダロスさまの口座残高ですが、マリア、いかほどだったかな?」
「はい、王国金貨十一万枚ほどになります」
「だそうです。きょうから、キーンさまの名義に書き換えさせていただきます。それとご依頼のお屋敷ですが、借家ではなく購入ということでよろしいのでしょうか?」
「はい。王都に家があればキーンも将来的に便利でしょうから、購入ということでお願いします」
「わかりました。それではお屋敷はどのあたりで、どの程度の大きさのものをお探しでしょうか?」
「住むのは私とキーンの二人ですので、部屋数は少なくて構いません。ただ、狭くてもよいので庭があればよいと思っています。場所は、魔術大学の付属校近くであればいいです」
「承りました。
マリア、どうだ?」
マリアは手にした大きな台帳をめくって、アイヴィーたちに指し示す。
「これなどどうでしょう?」
そこには、物件の王都内の位置を示す簡単な地図と物件の間取りが書かれていた。
「よさそうですね」
「わかりました。それではもう何件か見てみましょう」
マリアが台帳をめくりその後も何軒か良さそうな物件が見つかったようだ。
「数軒あるようですので、マリア、お二人について現地にご案内しなさい」
「はい。ギルド長。
それではお二方、ご案内しますので参りましょう」
二人はオースギルド長に礼を言って、秘書のマリアについていった。
一階ホールの受付嬢に馬車の手配を指示したマリアは、
「すぐに馬車が参りますから、玄関を出て待っていましょう」
玄関口で待っていたらいくらもかからず箱馬車がやって来たので、三人で乗り込み、王都内を目的地である付属校近くまで移動した。
最初に案内された物件は、付属校の塀のすぐそばの2階建ての物件で、学校の正門まで三分もかからない場所だった。ようはいま泊っている宿屋にもかなり近い物件ということになる。
間取りは、2階に寝室が三つと物置、1階には居間と食堂、そして台所にトイレと風呂。アイヴィーにとっての最大の関心事である庭は、家の裏手にあり、実際に目にして見ると思った以上に狭い。
「もう少し庭の広い方が私としては嬉しいのですが」
「それでは、次の物件を見てみましょう」
もう一度馬車に乗り、やって来た次の物件は、こちらも2階建てで、場所は付属校の裏手になり、学校の正門まではある程度の距離はあるが裏門からはさして距離のない物件だった。
中に入って確認すると、
間取りは2階に寝室が四つに物置が二つ、1階には先ほどよりいくぶん広い南向きの居間と食堂と台所にトイレと風呂が付いている。風呂場には小さな湯舟とシャワーが付いていた。どう見ても蛇口からはお湯が出そうもなかったが、湯舟に入って自分でお湯を魔法で作ればいいだけなので問題はない。アイヴィーはそもそも水でもお湯でも気にしない体だ。
居間の前には庭が広がっていた。いまは芝が植えられただけのその庭は、日当たりも良くそれなりの広さがあった。
「ここはいいですね。キーンはどう思います?」
「僕はアイヴィーが住みやすいと思うところでいいよ」
「それじゃあ、ここにしようかしら。マリアさん、お値段はいくらになります?」
「ここですと、王国金貨1200枚となります」
「分かりました。それで結構ですから、購入の手続きをお願いします」
「ご購入ありがとうございます。登記などの最終的な手続きはギルドでいたします。お支払いはキーンさまの口座からでよろしいですね?」
「はい。それでお願いします」
「鍵はこれをお持ちください。書類のここと、ここにキーンさまのサインをお願いします。……。はい、ありがとうございます。一枚はそちらでお持ちください。
それと、一般家庭用の家財道具などは一揃いギルドの方でサービスいたします。遅くとも明後日の夕方までには家財道具も搬入させますので、ご入居可能と思います。
それでは手続きも終わりましたので、お二人をお送りいたしましょう。これからどちらかに行かれるご予定があるならギルドの馬車でお送りいたしますが?」
「いえ、予定は特にはありません」
「それでしたら、馬車で今お泊りの宿までお送りしましょう。宿はどちらになりますか?」
「付属校の正門前の宿屋に泊っています」
そのあと、二人はギルドの馬車に宿屋まで送ってもらい、マリアと御者に礼を言って別れた。
「アイヴィー、商業ギルドの人はすごく親切だったね」
「そうですね。付属校の方は少し不親切な感じだったけどあれが普通と思っておきましょう」
「そうだね」
入居の前に物を買いそろえると荷物になるため、その間は買い物は控え、その代り、二人は市内の地理を確認するため本屋で市内の地図を購入し、市内各所をめぐっていった。
そして、二日が経過し、夕方にはまだだいぶ時間があったが、チェックアウトということで、宿の清算を済ませ、大きなリュックを背負い二人して徒歩で新しく購入した屋敷に向かった。できれば夕食から食事を用意をするつもりだったアイヴィーは食材を購入しているためリュックのほか両手に荷物を持っている。
鍵を開けて新しい屋敷の中に入ると、すでに家財道具は据え付け終わっているようで、小さな玄関ホールの先の居間には真新しいテーブルやソファー、飾り棚などが揃えられいた。
そのテーブルの上に封筒に入った手紙がおいてあり、開けて中を見ると、
『新生活で必要と思われるものを取り揃えました。足りないものがございましたら申し訳ございません。今後ともよろしくお願いします。
商業ギルド本部 ギルド長 ヘンリー・オース』
食堂や台所にも真新しいテーブルや椅子、食器類や厨房用具が取り揃えられていた。もちろん2階のベッドルームのベッドにも真新しい寝具が用意されていた。新しく取り揃えられた物品はどれもしっかりした作りで高級品のように見える。
「かなりの金額のものをギルドで取り揃えてくれたみたいですね」
「それって、すごいね」
「商業ギルドにはこれからもお世話になるかもしれませんね」
家の中を一通り確認してみたが、足りないものはもちろん無かった。
こうして、二人の新居での生活が始まった。
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