第335話 苦悩の教授
「大変申し訳御座いませんでした」
ベッドの上でオルガは、深々と頭を下げた。
キスした後、そのまま寝入ってしまい、皐月の指示の下、入院しているのだが。
目を覚ました後は、ひたすらに平身低頭だ。
一般的には酔ったまま関係を結んでしまい、翌朝、我に返った後の状況と似ているかもしれない。
「気にするな」
煉は苦笑いで、フォローする。
同意無しのキスは、場合によってだが、強制猥褻罪になり得る(*1)。
今回の場合は、「相手が王配」ということもあり、最悪、ウクライナとトランシルヴァニア王国の外交問題に発展しかねない。
そういうこともあって、被害者である煉は、あまり表沙汰にしたくない姿勢だ。
オリビアや司、シャロンなども同様である。
「お疲れのようでしたら一旦、ご帰宅なされたらどうでしょう?」
「そうだよ。また倒れちゃいけないし」
「そうだよね? パパ?」
3人の無言の「帰れ」に煉は、恐怖し、ミアとレベッカ、シーラを抱っこし、癒しを求める。
「母モ」
「おいちゃん♡」
「……♡」
ヨナが省かれたことでミアは不満げだが、心配されたヨナは、首を振った。
愛サレナサイ、と。
「はい。そうします」
言外に煉が責められて、オルガは、益々落ち込む。
弱点を見せないよう、軍で訓練したのだが、煉の前ではどうしても甘えてしまう。
無意識に心を開いてしまったように、根っこでは、好意を抱いているのは間違いない。
「(少佐)」
エレーナが仕事の顔で耳打ちする。
「(アレハンドロ様からお電話です)」
「わかった。すぐに行く」
すぐに仕事モードに切り替え、煉は3人を下す。
そして、シーラとだけ手を繋いだ。
「済まん。ちょっと仕事が出来た。皆、後は頼んだ」
「了解、たっくん♡」
「分かりましたわ。勇者様♡」
「働き者ね? 煉♡」
司、オリビア、皐月にキスされた後、煉は出ていく。
その後をシャロン、スヴェン、ウルスラ、エレーナ、ナタリー、シャルロットが追う。
廊下では、BIG4が待っていた。
キーガンが問う。
「仕事ですか?」
「ああ。キーガンには、ここの立哨を頼む」
「は」
秘密にしているが、親衛隊あたりが聞きつけば、オルガを襲う可能性が考えられる為、立哨が必要なのだ。
キーガンもその真意を汲み取り、首肯する。
煉は、BIG4の額にキスした後、足早に去っていく。
「流石、少佐ですわね♡」
「
「ですです♡」
「格好いいですわ♡」
4人は、颯爽としたその後ろ姿に惚れ直すのであった。
外務大臣のアレハンドロは、元々は歴史学者だ。
トロイに恋焦がれ、その発掘を行ったドイツ人考古学者のハインリヒ・シュリーマン(1822~1890)のように。
スペイン帝国(1492~1976)の遺産を研究する彼は、その過程でスペイン語圏に滞在することが多くなり、その際、中南米諸国の大学にも通った。
その時の同窓生は既に閣僚となり、歴史研究が人脈づくりになった結果だ。
『陛下、何故、私なんです?』
無精ひげを剃ったばかりの顎を見せたアレハンドロは、先にオリビアとテレビ電話をしていた。
「
アドルフの義弟に当たるアレハンドロは、学者肌で国民と接する機会が少なかったが、それでも博識だ。
なので、昔はクイズ番組に出演したり、歴史番組の監修を務めて居たりと、庶民との距離も近かった。
『ご推薦して下さるのは、ありがたいですが、私は外務大臣です。政治家である以上、摂政は―――』
断ろうとした時、煉が部屋に入ってきた。
「陛下、遅れて申し訳ありません」
「いえいえ」
アレハンドロは、煉を見る。
『……殿下、お久しぶりです』
「
以前、懇親会で軽く会話した程度の浅い仲で、2人の距離は遠い。
「摂政の件ですが、教授、お受け願います」
『う~む……』
「でないと、空位になり、権威が低下しかねません」
『……他に候補は居ないのか?』
「居るには居ますが、『
『!』
「陛下のご指示の下、教授を選びましたが、念の為、他の候補者も探しました。しかし、他の方々は脛に疵を持っておいでのようで、その中で教授が1番無傷でした」
『……』
回りくどい言い方だが、要約すると「情報部が醜聞を探した結果、1番、アレハンドロがマシだった」ということだ。
(クソが……私生活を調べやがって)
内心で嫌悪感を出すも、表面上のアレハンドロは笑顔だ。
「教授のことは、前の陛下にもご意見を伺った所、満点を頂きました」
『! 陛下が?』
退位した前国王のアドルフは現在、農園付き別荘でモサドによる警備及び監視の下、悠々自適に暮らしている。
モサドが関与しているのは、ネオナチが担ぎ上げないようにする為だ。
アドルフも太鼓判を押している以上、アレハンドロは降参だ。
『……摂政の件、謹んでお受けします』
摂政・アレハンドロの誕生である。
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