第334話 摂政

 翌日、煉の部屋にナタリーが居た。

『ウクライナは脱共産主義者法の下、との友好化に努めている模様です』

 民主的な国々では、『言論の自由』などの下、例え西側諸国であっても共産主義の思想は、合法だ。

 それでも民主的な国々でも法律で共産主義が禁じられている事例がある。


 具体例

①日本

・治安警察法(1900~1945)→日本共産党非合法化

・治安維持令(1923~1925)

・治安維持法(1925~1945)


②アメリカ(*1)

1950年国内治安維持マッカラン法(1950~1954)→米国共産党非合法化

・共産主義取締法           (1954~1991)→同上


③韓国

反共法パンゴンボプ(1961~1980)

国家保安法クッカボアンボプ(1948~)


④タイ

 反共法(1952~)→タイ共産党非合法化

⑤インドネシア

 9月30日事件(1965年)以降、PKIインドネシア共産党は非合法化。

 事実上の共産党は、マルクスレーニン主義を党是にするPKPインドネシア正義団結党


 どれも第二次世界大戦前や冷戦中のものなのだが、近年、制定した珍しい国がある。

 それがウクライナだ。

 ロシアによるクリミア併合の翌年の2015年、『脱共産主義法』が発効された(*2)。


・共産主義

 →鎌と槌をあしらった旧ソ連の国章の使用禁止

 →レーニンなど共産党指導者の記念碑は撤去対象

 →共産党非合法化

 →共産主義系報道機関の認可取り消し

・ナチズム

 →ロシアが対独協力者とするUPAウクライナ蜂起軍は顕彰対象


 とするものである(*2)。

 トランシルヴァニア王国もまた反共国なので、ウクライナに通じるものがある。

『ウクライナは、世界最大級の農業国。復興が遅れれば、世界の輸入に影響が出るでしょう。我が国にも経済支援と今後は、同盟などの軍事面でも関係強化を図りたいのかと』

「……分かった」

 ナタリーと同じような分析なので煉も異論はない。

 同席していたオリビアが問う。

「ウクライナの軍事力は?」

「クリミア併合後の8年間でかなり強化されたからかなり強いよ。あのロシアを今尚、やりあっているからね。今後は、東欧一の軍事大国として名をす筈だ」

 北欧一の軍事大国であるトランシルヴァニア王国と、暫定東欧一の軍事大国であるウクライナが同盟を結べば、欧州の軍事的な均衡に大きな影響を与えるだろう。

「今後、NATOはどうなります?」

「多分、無くならないことはないだろう。ソ連崩壊後は、地域紛争で活動したしな」

「なるほど」

 オリビアは納得した後、煉の膝に座る。

「勇者様、ご相談があるのですが」

「何?」

「……摂政せっしょうを置きたいのです」

 摂政は、君主が、


・未成年の時

・事故などに遭った時


 に置かれる代替要員だ。

 日本で言えば、聖徳太子などが有名だろうか。

「そりゃまた急だな?」

「世論調査で国民の7割がわたくしの幼さを気にしているようですので」

「あー……」

 国営紙が最近、調べた結果、国民の7割がオリビアが未成年であることを気にかけていた。

「だから、成人するまで摂政を立てたい?」

「成人というか卒業するまでですわね」

「ふむ……」

 煉は、考える。

 1番最適な方法を。


 その日の夜、ウラソフとテレビ会議をしていた。

『摂政、ですか』

 政府内部でもそれは懸案事項であった。

 若過ぎる女王は、しかも未成年は正直、国内外から軽視される恐れがある。

 国民には不敬罪が適用される為、表立っての反発は無いが、国外からだと訳が違う。

 今やSNSの時代、否が応でも外野の声は届く。

『閣僚会議にかけてみます』

「お願いします」

 煉は頭を下げた。

『適任者は居ますか?』

「陛下はアレハンドロを推しています」

『アレハンドロ様ですか』

 スペインの帝室の末裔である彼は外務大臣として、日々、諸外国を周っている。

 スペイン語話者であるアレハンドロは、スペイン語圏との結びつきが強い。

 スペイン語圏は、以下の通り(*3)。


・スペイン

・キューバ

・ドミニカ共和国

・プエルトリコ

 英語と共にスペイン語が公用語

・メキシコ

・グアテマラ

・エルサルバドル

・ホンジュラス

・ニカラグア

・コスタリカ

・パナマ

・ベリーズ

 公用語は英語とされているが、国民の半数以上が、英語とスペイン語の2言語話者とされる

・コロンビア

・ベネズエラ

・エクアドル

・ ペルー

・ボリビア

・チリ

・アルゼンチン

・パラグアイ

・ウルグアイ

・赤道ギニア

・アメリカ

 英語の次に多く使用。

 国内に住む母語話者ネイティブスピーカーに英語とスペイン語の2言語話者バイリンガル数を足すと、約1千万人)

・アンドラ公国


 余談だが、世界で最もスペイン語が話されているのは、スペインではない。

 人口約4600万人のスペインに対し、約1億2千万人とスペイン語の母語人口が世界で一番多いのがメキシコだ(*3)。

 但し、中南米で話されるスペイン語と、スペイン本国のスペイン語に異なる発音や意味があること(*3)から、両者が必ずしも正確に意思疎通出来るかは不明であるが。

「外交に長け、年齢的にも問題無いかと」

『分かりました。ご本人様に確認してみます』


[参考文献・出典]

*1:コトバンク

*2:産経デジタル iza 2015年5月21日

*3:Lang and SINCE1997 2015年8月17日

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