第332話 舌なめずりの女王

 オリビアがオルガを受け入れたのは、彼女を通して国内の、


・ウクライナ系

・ハンガリー系

・オーストリア系


 に影響力を持とう、という魂胆であった。

 トランシルバニア王国は多民族国家な分、それぞれの民族同士、文化が違う。

 その為、場合によっては、民族対立になりやすい。

 オリビアは女王クイーンとして、国益の為にオルガを利用することを考えたようだ。

 王配・煉は、女王・オリビアの考えには無条件で賛成の為、文句は無い。

「……」

 欧州の地図を見つつ、煉はレベッカを抱擁していた。

「おいちゃん?」

「レベッカ。オリビア、好き?」

「うん好きだよ。おいちゃんは?」

「好きだよ」

「喧嘩した?」

「いいや。何でも無いよ」

 レベッカのうなじに埋まる。

 権謀術数主義者マキャベリストの煉が、この反応なのは、やはり見知った人物を騙す罪悪感に駆られているからだろう。

 レベッカのうなじにキスした後、煉は立ち上がる。

「ほえ?」

「レベッカ、癒してくれ」

「うん! 分かった!」

 癒し役はシーラの仕事なのだが、彼女も人間だ。

 疲れが溜まっている可能性がある。

 突如、癒し役を奪われたシーラは、

「……!」

 両目を白黒させていた。

 そんなシーラの頭を煉は優しく撫でる。

「休息も必要だ」

「……」

 いや、と珍しく命令を拒否する。

 レベッカに癒し役を独占される、と危惧しているようだ。

「……」

 煉の袖をギュッと掴んでは離れない。

「……休みは要らない?」

「……」

 こくり。

「分かった」

 シーラは、依存しやすいのかもしれない。

 妻との交流スキンシップの時は配慮して余り来ないが、妻が居ない間は、こうして甘えたがりだ。

「パパ。話終わった?」

 気を遣って退室していたシャロンが戻ってきた。

「ああ」

「顔色悪いよ?」

「疲れているんだよ」

「それで2人に癒してもらおうって訳?」

「そうだな」

「私は?」

「勿論」

 2人と手を繋ぎつつ、シャロンと抱擁する。

 いつの間にか、外は晴れていた。

 

 数時間後、健康診断を終えたオルガが戻ってきた。

「あれ? 殿下は?」

「殿下は、お買い物に出られました」

 ウルスラが、机を拭きつつ答えた。

「では、今の護衛ボディーガードは、スヴェン様で?」

「そうよ」

2人1組ツー・マンセルではないんですね?」

「その時もあるけれど、今回はね」

「なるほど」

 生真面目な性格らしく、オルガはメモを取る。

「シャルロット様もですか?」

「そうよ」

「羨ましいですね。それほど信頼されるのは」

 平常運転の微笑みだが、何処か闇を感じさせる。

「……殿下に恋心を?」

「まさか」

 手を振ってオルガは、否定した。

「殿下は憧れの存在ですよ。私の手には、届きませんよ」

「憧れ?」

「はい」

 オルガは、直立姿勢のまま答える。

「オレンジ革命(2004年)成功の影の立役者ですからね。親米派には、東郷提督アドミラル・トーゴー並に人気です」

「……」

 否定するも、ウルスラはどうも納得出来ない。

 何故なら、オルガの瞳は年上男性に恋心を持つ少女のように輝いているから。

 その時、背後をミアが駆け抜けた。

殿下デンカ~♡」

 直後、玄関の扉が開き、煉が顔を出す。

「ただい―――おっと」

「殿下♡」

 ミアは、煉に抱き着くと、頬擦り。

「オ帰リ♡」

只今ただいま。どうした? そんなに慌てて?」

「夜、作ッタ」

「おお、有難う」

 ミアを抱っこし、煉は抱き締める。

「えへへへ♡」

 ヨナ、ミアは、狩猟文化の出身の為、近代的な料理をしたことがない。

 調理担当は専ら、シャルロットやエレーナなどが担っていたからだ。

「お、オルガ。健康診断終わったんだ?」

「はい」

「私室以外は自由にしてくれてていいから」

「は」

 最敬礼で応えた。

 その反応に益々、ウルスラは、その猜疑心さいぎしんを抱くのであった。


 ミアが初めて挑戦したのは焼き魚であった。

 真っ黒な鯛に煉は、何も言わず食らう。

 お米も水が多過ぎたのかネチャネチャしている。

「ミア……」

「ウン?」

「……何でもない」

 キラキラした目で見られると、何も言えない。

 BIG4も作り笑顔で食している。

 ケニア人環境保護活動家のワンガリ・マータイ(1940~2011 2004年アフリカ人女性として初めてノーベル平和賞受賞)が推進した『MOTTAINAI』運動にのっとり。

 体調不良などの場合を除いてだが、北大路家では食べ残しは余り推奨されていない。

 ナタリーとエレーナは、無言で立ち上がりトイレに走る。

 ヨナは失敗に気付いて申し訳なさそうな顔だ。

「……♡」

 ミアは美味しそうに頬張る。

「(たっくん、料理の指導させた方が良いよ。悪食あくじきは体に悪いから)」

「(……そうだな)」

 膝のミアを抱き締めつつ、言葉を選びながら告げる。

「ミア、中々、独創的なのは良いが、基礎も勉強した方が良いぞ?」

「基礎?」

「ああ。そしたらもっと上手くなるかも?」

「ウーン……分カッタ」

 自信作だった分、この反応は余り本意ではなさそうだ。

「殿下」

 オルガが挙手した。

「ん?」

「ミア様に料理を教えても宜しいでしょうか?」

「出来るの?」

「はい。レパートリーは100以上あります」

100セント?」

 シャルロットが驚いた。

 思わず母国語が出てしまうほどに。

「じゃあ、頼めるか?」

「はい♡」

 笑顔でオルガは首肯し、

「……」

 ウルスラは、眉を顰めるのであった。


[参考文献・出典]

*1:ディ・ヴェルト 2016年12月30日

*2:EFE通信    2018年11月11日

*3:色摩力夫『フランコ スペイン現代史の迷路』中央公論新社〈中公叢書〉2000年

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