第330話 恐怖と希望
令和4(2022)年10月2日(日曜日)。
『【初代キエフ市長のウエノスキー氏、自殺】
トランシルヴァニア王国に避難していたウエノスキー氏が自殺していたことが分かった。
国家警察によれば昨晩、避難先のアパートで切腹して倒れている所を他の難民に発見され、その場で死亡が確認された。
関東軍の二等兵であったウエノスキーは、シベリア抑留後、そのままソ連に留まり、その後、ウクライナに移住。
そこで現地人と結婚し、冷戦の中、ソ連の監視下にあったものの、日本語教師として食い繋ぎ、ウクライナが独立した時には、キエフ市長に当選。
殆ど予算が無い状況下で、市政を運営し、キエフ市を建て直しました―――』
ウクライナ紙は大々的に報じる。
「シャルロット、切腹は怖いか?」
「……はい」
テレビ会議の時、煉の後方には、シャルロットが控えていた。
その為、ウエノフスキーが切腹した時の一部始終を観ていた為、軽くトラウマだ。
「殿下は怖くないんですか?」
「見慣れているからな。シリアとかで」
「……」
「そういう感覚は前世で壊れているから切腹くらいでは、動揺せんよ」
戦場では、
名監督の1人、スタンリー・キューブリック(1928~1999)の作品のある映画でも、死に慣れていない若者が訓練や戦場で徐々に心が壊れていく様子がリアルに描写されている。
煉も広い意味では、心が壊れている筈だ。
目の前で人が亡くなっても、眉一つ動かさないのだから。
シャルロットは、最初に切腹に、次に煉に恐怖心を抱いていた。
煉はそれに気づき、その手を握る。
「……殿下?」
「シャルロット。『怖がるな』とは言わん。ただ傍に居てくれ」
「!」
煉に抱擁され、シャルロットは両耳を赤くする。
「殿下?」
「済まん」
謝った煉は、シャルロットの胸に顔を埋めた。
母に甘える子供のように。
「……」
珍しい煉の行動に驚きを隠せないシャルロットであるが、
「殿下は悪い子です♡」
そう言って頭を撫でるのであった。
多くの
2022年10月2日(日曜日)。
ウクライナ軍は、ロシアに占領されていた重要な鉄道の分岐点(*1)であるリマンの奪還に成功する。
その理由を特殊部隊が明かしている。
『我々は最初の掃討作戦を行う突入部隊で、一つ一つの家に入り、敵が居ないかの確認をした。
西側の兵器のおかげでリマンでの勝利がかなり早まった。
民間人に被害を与えない高精度の兵器の提供に感謝している。
敵が居る場所だけを破壊したのを私は確認しています。
歩兵突入前に激しい空爆や砲撃を行ったことで我々が突入する環境が整備された。
その後、敵軍が非常に多くの死者が出たのに支援を得られず士気が下がった。
そこに我々は突入し、敵の防衛体制を破壊した。
敵兵が潜伏していた場所は汚くなり、敵兵は精神を病んだ。
戦友の頭皮を剥がしたり、犬を食べたりなどしていた。
人間としてやるべきことではない。
敵兵の装備が酷いので、冬に生き残れるかどうか見てみたい。
ウクライナ人は欧州の暖かい軍服を持っている。
何の刺客も無い30万人が来ても、我々が2014年から戦い続けている。
人数はあまり重要じゃない。
精神力が最も重要な武器であるのは、日本人は分かっているだろう』(*2)
翌日には、
・バルト3国
・ポーランド
・チェコ
・スロバキア
・ルーマニア
・北マケドニア
・モンテネグロ
が、ウクライナのNATO加盟支持する共同声明を発表した(*3)。
「師匠、どう思いますか?」
「どうも風向きが変わったんだろうな」
スヴェンを抱きつつ、大河は続ける。
「ロシアが暴発しなければならないが……」
「核を使う?」
「分からん。それに次ぐ兵器を使うかもしれんし」
「……ですね」
第四次中東戦争(1973年)において、敗北の危機に瀕したイスラエルは、核兵器の使用を一時、検討した(*4)。
最終的にはイスラエルが盛り返した為、使用されることは無かったが、核保有国が国家の危機に瀕した時、核戦争の可能性が高まることがこの事例から考えられるだろう。
「「……」」
2人は神妙な面持ちで、ウクライナの報告書を一緒に読むのであった。
[参考文献・出典]
*1: BBCニュース 2022年5月28日
*2:BS-TBS 『報道1930』 2022年10月8日
*3:産経ニュース 2022年10月3日
*4:高井三郎『ゴランの激戦―第四次中東戦争』原書房 1982年
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