第318話 遊ぶ女王、学ぶ王配
日本に居る外国の
来春には帰国する、という報道もあって、更にその希少価値は高まっていく。
「陛下、今週の招待状は800件でした」
ダンボールいっぱいに詰め込んだ招待状をライカが、机上に置く。
「多いわね」
オリビアは苦笑い。
「開封します」
本当はもっと多いのだが、大手芸能事務所でも行われているように、本人に届く前に、この手はチェックが入る。
オリビアの場合は個人宛もあり、女王でもある。
その為、
オリビア自身、抵抗感があるが、テロ対策の観点もある為、しなければならない。
大使館に駐在している王宮警察官と駐在武官がX線検査など、特殊な検査を経て、中身を確認後、二重三重の確認をした後、オリビアの下に届けられるのが、この数だ。
オリビアに抱き締められていた煉が尋ねる。
「悪質な招待状は?」
「1200件ありましたが、全て廃棄しました」
「上出来だ」
オリビアが女王である事を利用し、広告塔としての悪用を図る企業なども中には居る為、招待状であっても検閲は必要不可欠だ。
招待状の送り主の調査には、警視庁が協力している為、
今週の1200件の何件かは、組織犯罪対策部の捜査対象になるだろう。
「……」
1通ずつ、オリビアは見ていく。
返信は
こればかりは、数が多いものの、オリビアが1通ずつ見ていかなければならない。「……あら、これは?」
「相撲協会だな」
「大相撲?」
オリビアは、興味を示した。
「千秋楽の招待状だな。今、9月場所しているし」
9月場所は毎年、第1若しくは第2日曜日が初日となっている。
今年は第2日曜日の9月11日が初日となり、この日から2週間かけて行われ、千秋楽は、25日だ。
最後の11月場所は福岡が開催地なので、9月場所が毎年、東京で行われる最後の場所となる。
一応、年初めの1月場所も東京が開催地なのだが、流石にこの時期は、引っ越しなどの手続きで忙しい筈なので難しいだろう。
3月場所に関しては、
・開催地が大阪
・卒業時期なので、そもそも難しい
という事から、実質今回の9月場所が日本でゆっくり見られる最後の好機だろう。
「勇者様、見に行っていいですか?」
「良いよ。でも、砂被り席は勘弁な」
土俵を間近で観れるのが、最大の長所だが、近過ぎる分、力士の下敷きに遭う可能性もある。
そこで巻き込み事故に遭っても、相撲競技観戦契約約款第13条により、その責任を負わない事を宣言している為、受傷しても自己責任になる可能性が高い。
流石に女王が受傷したら、動くだろうが、そもそも国際問題になる事を危惧して相撲協会側が砂被り席の利用を断る可能性も考えられる。
兎にも角にも、煉は危険性を考えて早めに忠告した。
「危険ですの?」
「ああ、大迫力だがな。一般人が100kg以上の筋肉の塊の下敷きになるんだぞ? 死んでも可笑しくない」
2020年1月場所では、審判長が取り組んで落下してきた力士2人の下敷きとなり、右の股関節を負傷した(*1)。
元力士の審判長でさえ、怪我したのだから、殆ど何も鍛えていない一般人が被害に遭えば、最悪命にもかかわるだろう。
「席は協会と調整してくれ。ただ、砂被り席など、危険性の高い場所は、専属の
「……分かりましたわ♡」
煉の強い口調に、オリビアは圧倒されつつも、嬉しく感じた。
「ライカ、この件は任す」
「は」
「勇者様は行きませんの?」
「行きたいけど、その日は先約があってな」
「先約?」
オリビアが眉を顰めた。
女王よりも優先されるのは、正直、不快だ。
「ヨナとミアが、神社巡りをしたいんだと」
その直後、2人が飛び込んできた。
「「
25日、オリビアを優先するだろうと思っていた2人は残念がっていたのだが、煉が先約を遵守した為、その顔は、喜色に包まれていた。
煉は、2人と抱擁しつつ、説明する。
「2人、
「それが25日に予定していた、と?」
「ああ、丁度、公務も無かったし、1日周ろうかと」
東京には、8490もの宗教団体が存在する(*2)。
その内訳は、以下の通り(*2)。
神社 1458
寺院 2886
教会 2369
布教所 1316
その他 461
合計 8490
これだけあれば、当然、1日中、聖地巡礼出来る訳で、煉は2人の頼みに時機を見てこの日に設定したのであった。
「用心棒は、ライカに任せるよ。ただ、混乱を避ける為にお忍びという形でな?」
「分かっています」
「勇者様と行きたかったのに~」
残念がるオリビア。
その肩を優しく皐月と司が叩いた。
「煉の代わりに私達と楽しもうよ」
「そうそう。幕の内弁当食べよ。焼き鳥も沢山さ」
「はい……」
2人の慰めにオリビアは、少し元気が出た。
話し合いの下、25日は、2グループに分かれる事となった。
A班:9人
・オリビア
・ライカ
・皐月
・司
・エレーナ
・レベッカ
・スヴェン
・キーガン
・シャルロット
B班:9人
・煉
・ヨナ
・ミア
・ウルスラ
・フェリシア
・エマ
・チェルシー
・シーラ
・シャロン
BIG4や煉の専属護衛が分散するのは、珍しい形だ。
シャルロットも今回は、オリビア側だ。
普段、煉と行動を共にする事が多いメンバーの一部が、オリビアの方に行くのは、単純に彼が、「観光させたい」という思いからであった。
シャルロットやキーガン、スヴェンは、観光出来る長所を得たものの、余り嬉しそうではない。
「「「……」」」
逆にウルスラとBIG3は勝ち誇った顔だ。
「「「「♡」」」」
煉はミアにキスされ、彼の膝の上で不機嫌になったレベッカの頭を撫でつつ、説明する。
「いつも尽くしてくれているからな。今回はその御礼だよ」
「そうですが……」
尚も不満げなシャルロットの頬にキスした後、
「済まない。次はこっち側な?」
「……分かりましたわ」
嫌々だが、オリビアの顔もある為、
不満分子は、渋々ながらも納得するのであった。
[参考文献・出典]
*1:日刊スポーツ 2020年1月23日
*2:文部科学省 宗教統計調査 平成28年大晦日現在
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