第289話 睥睨する白頭鷲

 ロックが大人気なトランシルヴァニア王国では、外国人のロック・バンドも多数、夏フェスに出演する。

 当然、その中には日本人も居る訳で、世界的な人気歌手も居る訳で、

『『♪』』

 童顔女性2人組メタルダンス・ユニットの激しいパフォーマンスに、観衆は、拍手喝采だ。

 新型ウィルスの結果、2020年、2021年と2年連続でロック・フェスティバルが、中止に追い込まれた分、パフォーマンスも観衆の熱狂も凄まじい。

 外気温は30度なのだが、蜜と熱気により、体感50度くらいはあるだろうか。

「カワイイ!」

「ニンジャ・ガール!」

 男達は、そう誉めそやす。

 2人組の歌手は、「可愛い」X「和」X「ヘヴィメタル」を全面に押し出したもので、世界的な人気を博している。

 当初、その童顔から軽視されることもあったが、圧倒的な声量とパフォーマンスは、人々にギャップを与え、人気に繋がっていたのだ。

「……凄いな」

 煉も拍手するしかない。

 2人の外見からは、可愛らしいアイドル的な曲を予想していた為、そのギャップに感心するばかりだ。

「……」

 シャルロット、シャロンとBIG4も見様見真似で踊り出す。

 唯一、乗り切れていないのは、ミアだ。

「?」

 煉に抱き着いたまま、首を傾げている。

「島の音楽とは違う?」

違ウノーアイランドノ方ガ、静カ」

 島で音楽を聴いていない為、比較は出来ないが、明確に乗れていない分、本土と島の音楽は、対極的なのかもしれない。

 煉の頭を撫でる。

「貴様、所有物」

「そうだな」

「デモ、強イ」

 音楽よりも煉に興味津々だ。

「何故? 男、弱イ、筈」

「島ではそうかもしれんが、こっちでは、男も強いよ」

「……貴様、世界一?」

「いいや、多分、俺より強い人居ると思うよ」

「……分カッタ」

 納得したのか、ミアは、煉の膝に座る。

「……母モ、貴様、好キ?」

「さぁ? 深くは話し合っていないからな」

 ミアには言わないが、ヨナとは既に肉体関係にある。

 ヨナに憑依したフレイアにシャロン諸共襲われたのだ。

 抵抗したものの、神様に勝てる訳も無く、そのまま関係を持った次第である。

「……嘘。神様ニ抱カレタ」

 睨むミア。

 虎の毛皮をまとっているだけあって、その目は、虎のそれだ。

「……そうだよ」

 両手を挙げて、煉は降参する。

「……神様、好色ダカラ分カル」

「……」

「母、味、如何?」

「良かったよ」

 まさかヨナも娘からそんなこと言われるとは思わなかっただろう。

「母、若イ。子供、大丈夫」

「……俺と子を作れと?」

「ソウ。島ノ男、皆、貧弱。ドッグ以下。デモ、貴様、強イ。強イ子供、出来ル」

「う~ん……」

「嫌?」

「そういうのは、もう少し順序を追ってだな」

一晩ワン・ナイトデモラブラブ。ソレ、本土ノ男、裏切ルノカ?」

 手厳しい質問に、煉は、思わず苦笑の色だ。

「いや、全部が全部、男が悪い訳ではないと思うよ。単純にお互い焦り過ぎた結果、最悪の結末に成り得るんじゃないかな?」

 ―――

『出来婚(授かり婚)の離婚率は高い。

 日本での離婚率33%と約3組に1組の夫婦が離婚しているのだが、出来婚の夫婦は、約40%と5組に2組は、離婚している計算になる。

 更には、その10代の夫婦は、結婚後、5年以内には、約80%が離婚している、とされている。

 出来婚ほど離婚率が高い理由は、

・女性が若くして妊娠する為、その相手との結婚生活をよく考える前に、結婚せざる

 をえない

・男性も年齢が若いと金銭的にも苦しく、また社会の知識にも乏しい為、婚姻関係を

 長続きが困難

・夫婦の時間が無く、いきなり結婚後は子育てに追われるのも離婚率を上げる原因

 ……

 逆に長続きする夫婦は、「長らく付き合っているのに中々結婚の話が出ず、妊娠を機に結婚に踏み切る場合」等だ。

 これは女性が30歳以降等によく見られる出来婚で、夫婦として一緒に居るという目的をしっかり持った出来婚では、成功率が高くなる、とされる』(*1)

 ―――

 上記のことが専門家から指摘されてはいるが、煉は、別の見方もしている。

「島のことは知らないけど、本土では誘惑が多いんだよ」

「誘惑?」

「うん。例えば10代で結婚するだろ?」

「ウン」

「でも周りの友達なんかは、まだ遊んでいることが多いんだよ。色んな相手と恋愛したり、趣味に没頭したり。そういうのを間近で見ていながら、自分達は、子育てで忙しい……それで羨ましくなって、結果的に離婚に繋がる場合もあるんじゃないかな?」

「……」

 島では見ない文化に触れたばかりのミアは、納得したのか、数度頷いた。

「……貴様、遊ブ男?」

 尋ねるその目は、不安に満ちている。

 母親と関係を持った癖に捨てるのか? と疑っているのだ。

「全然。遊ぶ暇ないし。スヴェン」

「は」

 シャルロットが躍っている間、スヴェンが秘書の代役だ。

 国家機密であるが、スヴェンは、タブレットに記録されている煉の予定表を見せた。

「!」

 そこには、事細かく公務が記載されていた。


 8月3日 1940年リトアニア併合学習(リトアニア大使館) 済 オリビア

 8月4日 首相及びファーストレディーとの懇親会 済 オリビア

 8月5日 1940年ラトビア 併合学習(ラトビア大使館) 未 オリビア

 8月6日 1940年エストニア併合学習(エストニア大使館) 未 オリビア

     独立記念日祝賀会(ボリビア大使館) 未 オリビア

     原子爆弾広島投下追悼行事(日本大使館) 未 オリビア、煉

 8月7日 独立記念日祝賀会(コートジボワール大使館) 未 オリビア

 8月8日 ユダヤ人自治区訪問 未 オリビア、煉

 8月9日 原子爆弾長崎投下追悼行事(日本大使館) 未 オリビア、煉

      独立記念日祝賀会(シンガポール大使館) 未 オリビア、煉

 8月10日 独立記念日祝賀会(エクアドル大使館) 未 オリビア

 8月11~14日 夏季休暇

 8月15日 終戦記念日(日本大使館) 未 オリビア、煉

      独立記念日祝賀会(インド大使館) 未 オリビア、煉

 8月16日 地方訪問 未 オリビア、煉

 8月17日 独立記念日祝賀会(インドネシア大使館) 未 オリビア、煉

      8月革命記念日祝賀会(ベトナム大使館) 未 オリビア、煉

 8月20日 独立記念日祝賀会(ハンガリー大使館) 未 オリビア、煉

 8月24日 独立記念日祝賀会(ウクライナ大使館) 未 オリビア、煉

 8月25日 パリ解放記念日(フランス大使館) 未 オリビア、煉

      独立記念日祝賀会(ウルグアイ大使館) 未 オリビア

 8月27日 独立記念日祝賀会(モルドバ大使館) 未 オリビア

 8月31日 独立記念日祝賀会(キルギス大使館、マレーシア大使館)未 オリビア

      帰国


 殆ど休みが無いのは、この事だ。

 ウルスラが尋ねた。

「少佐、お忙しいのは、陛下の付き添いですか?」

「そうだよ」

 オリビアが女王即位後、休日返上で公務を優先しているのは、早くに国民の信任を得たい為だ。

 棚から牡丹餅で王位に即位した為、当然、他の候補者は内心、不満を持っている可能性が高い。

 然も、自分は、外国人との混血ダブルであり、その上、夫は正体不明の外国人。

 いつ政変クーデターが起きてもおかしくはない筈だ。

 更に、シャロンは、煉が王配である事を歓迎していない。

 内憂外患に近しい状況、といえよう。

「もし、御疲れでしたら欠席も―――」

「それは、オリビア次第だよ」

 オリビアが頑張っている以上、煉も働かなくてはならない。

「……」

 ミアは、納得し辛そうな顔だが、割り切ったらしく、頷く。

「貴様、忙シイ」

「そうだな。後、ミア」

「ン?」

「夫婦なら、『貴様』呼ばわりは止めてくれんか?」

「……嫌?」

「ああ、嫌だ」

「……分カッタ」

 意外にも所有物の意見をすんなりと受け入れた。

「……ジャア、レン?」

「ああ、宜しく」

 煉が手を出すと、

「……」

 ミアは、その手を握り、頬擦りを行う。

 島独自の文化なのだろうか。

 この時、煉は気付いていなかった。

 この所作が、島に伝わる親愛と求愛を意味するものであったことを。


 音楽祭を眺めていると、

「少佐」

 ウルスラが、スマートフォンを持って来た。

「陛下からです」

「有難う」

 シャロンとミアを抱っこしつつ、煉は出る。

「はい?」

『勇者様、こちらの方は終わりましたわ。そちらは如何ですか?』

「ああ、もうすぐ終わるよ」

『では、帰って来て下さい。寂しいです』

「あいよ」

 帰宅命令が出た為、後は、帰るのみだ。

 煉は、膝の2人を下ろした後、立ち上がる。

「さぁ、帰ろう」

 非公式なので、観衆や出演者には、挨拶しない。

 挨拶に行けば、例え貴族であっても王配だ。

 観衆や出演者は、恐縮し、満足に楽しめない可能性がある。

 但し、出演者への出演料ギャランティーは、欠かさない。

 出演者1組に対し、日本円で1千万円を口座に送るよう主催者に帰り際に指示を出すのであった。


 時はさかのぼって、数時間前。

 煉達が、音楽祭を楽しんでいる頃、

 王立公園の駐車場に黒塗りの車が停まっていた。

「「……」」

 乗員の2人は、新聞紙や雑誌を読む振りをして、コテージを監視していた。

「……警備が3人か?」

「意外と少ないな」

「王配は現役の軍人だからな。日本でもテロを防いでいる。不可能を可能にする男だ」

「……ふむ」

 2人の正体は、軍部。

 革命以来、王党派の最大勢力である。

「……利用出来そうか?」

「いや、分からんな。もう少し監査が必要だ」

 軍部がこうも動いているのは、2人の出自が関係していた。

 2人は、どちらも外国に出自を持つ。

 然も2人ともアメリカだ。

 友好国兼同盟国であるアメリカだが、チリ政変(1973年)等のように、「反米」と判断した場合、敵対勢力を支援することがある。

 アメリカ支援の下、2人が、国を乗っ取るのでは? と軍部は、不安視しているのだ。

「もし、危険だと判断した場合は?」

「残念ながら、つ必要に迫られるだろうな」

 1人の監視員は、厳しい表情で呟くのであった。


[参考文献・出典]

*1:Bridal Note HP 2021年6月29日

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