第288話 ROCK FESTIVAL

 集団自殺は犯罪ではない為、立件は困難だ。

 が、煉はある法律に注目し、それを利用する事で、ジム達を犯罪者に仕立てあげた。

「殿下、博識ですね?」

「六法全書を引いただけだよ」

 煉は謙遜するが、それでもシャルロットは、感心しきりだ。

 煉が利用したのは、礼拝所不敬罪であった。

 ―――

『【礼拝所不敬及び説教等妨害】

 第188条

 1、

 神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をした者は、6月以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金に処する。


 2、

 説教、礼拝又は葬式を妨害した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金に処する』(*1)

 ―――

 トランシルヴァニア王国は、日本の刑法を模範にしている所がある為、当然、礼拝所不敬罪もる。

 煉は、この法律の第1項である、『神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、』を拡大解釈し、適用させたのだ。

 相談を受けていた検察庁長官は、首肯する。

「これなら大丈夫かと。ですが、殿下。言い難いのですが、殿下の行動は、三権分立に侵害しているかと」

「これは手厳しい」

 自覚がある為、煉は、苦笑する。

「非常に言い難いのですが、殿下は、保守派には、余り人気が無い為、これが露見すると、政治問題化するかと」

「だろうな」

「今回は私共、検察庁も問題視しましたので、動きますが、今後は控えて下さい」

「分かった。有難う」

 長官から厳しく注意され、煉は白旗を上げるしかない。

「では、これで」

 長官は一礼し、去っていく。

「……怒れましたね?」

「そうだな」

 シャルロットは、笑顔だ。

 完璧パーフェクトと思っていた煉が、検察庁長官の前では何も出来なかったのである。

 王配という地位を利用して、反論することも出来たのに、だ。

「殿下は、寛容ですね」

「横柄にはなりたくないからな」

「素晴らしい姿勢です」

 シャルロットに褒められ、煉は赤らむ。

 その反応に益々ますます、シャルロットは喜ぶ。

「パパ~」

 背後に控えていたシャロンが、煉の耳朶じだを噛む。

「暇~」

「済まんな」

 を暇にさせていた事を詫び、煉は、シャロンを抱っこする。

 然し、蝙蝠こうもりは、それを許さない。

「ウウ~!」

 ミアが天井から威嚇する。

「あら、怒られてる?」

「みたいだな」

 シャロンに悪意が芽生え、煉に必要以上に抱き着く。

「! ウウウウウウ~!」

 9割増しで威嚇度が上がる。

 まるで、パトカーのサイレンだ。

「……シャロン、呪われるかもよ?」

「それは嫌だけど、パパと一緒なら良いよ」

「……全く」

 シャロンの愛に煉も嬉しくなる。

「シャロン様、そろそろ」

 シャルロットが促すが、

「嫌」

 シャロンは、離れない。

 煉も久々なことなので、満更でもない様子だ。

「! 殺ス!」

 殺害予告後、ミアは、吹き矢を打ち込む。

 だが然し、

 シャロンが被弾する前に、キーガンが手刀で叩き落す。

 煉の専属用心棒だが、彼の家族も守られなけばならない。

「!」

 ミアは、目を見開く。

 キーガンが警告した。

「不敬罪は、島民出身者でも適用されるんだぞ?」

「……」

 唇を噛むミア。

「キーガン、医務室に行け」

「? 殿下?」

「念の為だ。シャルロット」

「は」

 シャルロットに連れられ、キーガンは、嫌々医務室に連れて行かれる。

「……」

 煉に負け、キーガンの戦闘力を見せ付けられたミアは、意気消沈している。

 島では強かったのだろうが、所詮は井の中の蛙大海を知らず。

 世界は広い。

 ミアよりも強い人は幾らでも居るのだ。

「……貴様、ハ、所有物?」

「島ではな。でも、ここじゃ、対等だよ」

「……」

 ミアは、悔しそうに下に降りる。

「俺、認メル。貴様、強イ」

「有難ウ」

 出来れば、初戦で認めて欲しかったのだが、相手はまだまだ子供だ。

 認め難い所もあるのだろう。

 煉の袖を引っ張る。

「デモ、俺ノ、所有物。所有者、俺」

「!」

 シャロンが平手打ちを浴びせようとするも、

「やめろ」

 煉がその手を掴んだ。

「! パパ?」

「良いんだよ。先住民族の考えは否定出来ん」

「……」

 振り上げた手を渋々しぶしぶ、下ろし、代わりにその手で煉を抱き締める。

「パパは……」

「ん?」

「王配になってもパパだね」

「なんだよ?」

「オリビアばかり重視するかと思っていたから……」

「あー……」

 シャロンの悩み事を煉は察した。

 王配になったことで自分への優先度が減ったのでは? と不安視していたようだ。

「済まん。じゃあ、ちょっと、デートに行こうか?」

「! 良いの?」

「気分転換とお詫びを兼ねてな」

「やった!」

 ミアに見せ付けるようにガッツポーズを行うシャロン。

 ミアよりも年上なのだが、大人げない行動に煉は、呆れ笑うのであった。


 気分転換兼お詫びのデートには、BIG4も帯同する。

 煉、シャロン、ミア、BIG4、シャルロット、ウルスラ、スヴェンの大所帯だ。

 ブラウンシュヴァイクは、大都会なので、デートには困らない。

「何処に行きたい?」

「音楽祭」

「了解」

「どうぞ」

 シャルロットが、リムジンの扉を開けた。

 後部座席に煉達は乗り込み、シャルロットは助手席。

 キーガンは、運転席に座る。

 キーガン同様、用心棒のスヴェン、ウルスラは、2台目の車両だ。

「シャルロット、この付近で音楽祭って?」

「近くの王立公園でしていますね」

「だってさ」

「やった。じゃあ、行こうよ」

 煉のしな垂れかかると、BIG3も負けじと、

「殿下、わたくしも行きたいですわ」

「私もです」

「同じく」

 チェルシー、エマ、フェリシアも煉に密着する。

 その中で最も積極的なのは、チェルシーだ。

「殿下、どうぞ」

「アップルパイ?」

「はい。我が国の伝統料理です」

 自信満々に胸を振る。

 イギリス料理=不味い、というイメージがあるが、煉は、前世での出自の料理なのでそこまで悪いイメージは無い。

 受け取って一口齧る。

「……うん、美味しいよ」

「有難う御座います♡ 皆様もどうぞ」

 そして、人数分、配り出す。

 BIG4の中では、

 1、キーガン

 2、フェリシア

 3、チェルシー エマ

 と、不可視の順位ランキングが出来上がっていた為、チェルシーが動いたのだ。

「うふふふふふ♡」

 チェルシーの挑発的な笑みにBIG3は、危機感を抱く。

 ヤバいかも、と。

 料理は愛情、と言うように、女性の手料理は、男性の心を掴み易い。

「シャロン様もミア様もどうぞ♡」

「うわぁ~美味しい♡」

「……♡」

 シャロンは大興奮で、ミアは、無言で咀嚼する。

 そうこうする内にリムジンは、国立公園に到着した。

 扉越しでも聞こえる大音量だ。

「凄いな」

「北欧一ですから」

 シャルロットが答えて、扉を開けるのであった。


 王立公園はその名の通り、王族の所有物なので管理者も王族だ。

 その為、王配である煉が来ても、何ら問題無い。

 警備上の観点から裏から入る。

 主催者が挨拶に来た。

「殿下、御来場下さり有難う御座います。貴賓席を御用意させて頂きましたのでどうぞ」

「うむ」

 用意された部屋に入る。

 そこは、出演者の楽屋の真横のコテージであった。

 元々は冷戦期、共産党幹部が利用する別荘ダーチャを改装したもので、改築工事の際、壁から当時、暴行被害に遭った女性の骨が出て来たという都市伝説まである。

 そういったことから、余り利用されていないのだが、非常に古い建物にも関わらず、汚くは無い。

「さてと」

 煉が着席すると、

「うふふふ♡」

 シャロンが上機嫌で隣に座る。

 その部屋は、会場を見下ろせる絶好の位置だからだ。

 商業化すると、1席13万円は下らないだろう。

 これは、東京五輪男子100m走決勝の入場券の最高級と同等だ(*2)。

 100mの方は、9秒台ですぐに終わってしまうが、これは、音楽祭なので、この値段で色んな音楽を楽しめることが出来る。

 その為、時間的には、こちらの方がお得度が高いかもしれない。

 ミアも全く知らない異文化の音楽に興味津々だ。

「……」

 窓越しにロックバンドを眺めている。

 楽しくなったのか、独特なダンスを踊り出す。

 恐らく、喜びの島で伝わるものなのだろう。

 妖艶なものなので、凝視すると、シャロン達の視線が痛い。

 なので、余り見ない様にしなければならない。

 正直、生殺し感があるが、リアルに殺されるよりかはマシだ。

「シャロン」

「うん♡」

 膝の上に座ると、

「「「「失礼します」」」」

 左右をそれぞれ、チェルシー、エマ、前後をそれぞれ、フェリシア、キーガンが陣取る。

「……シャルロット」

「良いんですか?」

「ああ」

「失礼します♡」

 シャルロットは、王配の指示、という事もあり、堂々とシャロンの隣に座る。

「旦那様♡」

 公式な場では、「殿下」だが、非公式な場では、「旦那様」だ。

 正妻の前でも無関係に甘える。

「……」

 煉もその愛に応え、額にキスした後、シャロンと共に抱き締める。

 直後、音楽祭で1番人気の歌手が登場するのであった。


[参考文献・出典]

*1:WIKIBOOKS

*2:産経新聞 2019年1月30日

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