第270話 戦間期
令和4(2022)年7月15日(金曜日)。
・内閣情報調査室
・公安調査庁
の調査結果が出た。
『現時点で、国内にヒトラーの子孫及び血縁者は存在しない』
把握から結論まで早いのは、戦後、多くの資料がGHQに接収され、
調査期間が長引けば長引くほど、血税を無駄にしかねない為、伊藤と公安調査庁の長官は、「決定打が無い以上、時間の無駄」と判断したのだ。
一方、煉も昔の知り合いの
日本は、昭和20(1945)年9月2日から、昭和27(1952)年4月28日までの間、独立国家ではなかった。
その間、連合軍は日本の戦犯である証拠や機密情報等を徹底的に洗っている。
その中にヒントがある、と踏んだのだが、空振りに終わったのだ。
(……見つからない以上、後は、都市伝説研究家に任せるか)
NARAから送信された
「おわった?」
ソファで暇を持て余していたレベッカが、勢いよく立ち上がった。
「ああ、終わったよ」
「やった♡」
その場でこ踊り。
煉の仕事が終わった事で、交流出来るのだ。
一緒に仕事していたエレーナが、見せ付ける様に、煉に絡みつく。
「少佐♡」
すると、
「むー……」
ハリセンボンのように頬を膨らませる。
「おいちゃん、きらい」
そして、ぷいっと、そっぽを向く。
分かり易さ選手権世界ランキング第1位だ。
「あらあら。ごめんなさい」
エレーナは、煉をレベッカの下へ連れて行き、横に座らせる。
自分はちゃっかり、煉の膝の上である事は忘れない。
「……おいちゃんのおばか」
未だに不機嫌ながらもレベッカは、すり寄って、上目遣いで「撫でろ」と要求。
「はいはい」
指示通り、頭を撫でると、徐々に眉を顰めた顔から、にへら、と表情を崩す。
「……おいちゃん、すき♡」
レベッカは、煉の胸部に後頭部を預け、スリスリ。
「俺もだよ」
その頭を撫でつつ、煉は、エレーナの肩を抱き寄せる。
「エレーナ、帰化の手続きだが」
「はい」
「不合格だった」
「……そうですか」
・シャロン
・スヴェン
・エレーナ
・シャロン
は、現在、帰化の申請中だ。
移民局からの通知書を見せる。
「……何がいけなかったんですかね?」
「分からない。ただ、筆記試験、不味かったんだろう?」
「……はい」
帰化というのは、その国の人間になる為、その国の言語は勿論、国によっては違うだろうが、義務教育レベルの歴史の知識も必要になる。
言語だけ習得出来ても、歴史がそのレベルに達していなければ、当然、不合格になる要因の一つにはなるだろう。
「……少佐は、無試験だったんですよね?」
「そうだな。一応、オンラインでの面接はあったけどな」
「……
爪を手の甲に立てる。
「痛いよ?」
「上級国民、
非難の言葉を並べつつ、煉の耳朶を噛む。
「……済まん」
謝りつつ、煉は、エレーナの頬にキスした。
冷戦期ならば、汚職が横行していた為、立場を利用して、帰化の手助けをすることも出来たが、煉は駐在武官であって、手続きの手助けは出来ても帰化のそれは出来ない。
「……2回目を受ける為に応援が欲しい」
「分かったよ」
今度は、唇にキスをすると、失望感が和らいだらしく、徐々にエレーナから暗い雰囲気が払拭されていく。
「おいちゃん、わたしも」
「あいよ」
レベッカにも行い、煉は仕事終わっても尚、大忙しなのであった。
エレーナを自室に見送った後、煉はレベッカと2人きりになった。
「足、大丈夫?」
「うん。リハビリがんばった」
「偉い偉い」
「うふふふふ♡」
よしよしすると、レベッカは、ふんす、と鼻息を荒くする。
「ごほーび♡」
「御褒美? 急に言われてもなぁ……」
自室を見渡すも、彼女の好きそうな物は何一つない。
あっても漫画くらいだろうが、これは、オリビアやシャロンの私物なので、許可なく譲渡する事は出来ない。
「りんぐ」
「映画?」
ふるふる、と首を横に振る。
「りんぐ」
「……指輪?」
「せーかい!」
今度は、大きく首を縦に振る。
将来、痛めそうだ。
「指輪ねぇ……」
現状は、婚約者なので、贈るのは不可思議な事ではない。
「……だめ?」
「駄目じゃないよ。有難うな? 好きでいてくれて」
「うん♡ 大好き♡」
はっきりと告白すると、レベッカは、煉と密着し、しな垂れかかる。
「おいちゃんとふーふになりたい」
「夫婦?」
「いや?」
「嫌じゃないよ。いつなりたい?」
「いま」
「そりゃあまた急な話だな?」
「だっておいちゃん、いつのまにか、4人のにーずま、つくってるもん。はやくしなと、置いてけ堀になっちゃう」
「……そうかぁ」
耳にかかった髪の毛を手で梳くと、レベッカは、その手を掴む。
そして、澄んだ瞳で告げる。
「1人はもう……いや」
「……」
レベッカが王室を出て、海外での活動を選んだのは、ダイアナ妃の影響もあるのだが、籠の中の鳥であることを嫌った為だ。
庶民には、華やかなイメージのある王室だが、その中身はどす黒い。
幸い、トランシルヴァニア王国では、現時点で国際問題になるようなことは起きていないが、「絶対に起きない」という保証はどこにもない。
英国王室が巨大の為、その様な不祥事がクローズアップされ易いのかもしれない。
トランシルヴァニア王室も巨大組織の為、当然、不祥事が無いことはない。
王族であるレベッカは、そんな実家に嫌気がさし、半ば家出同然に外国に行ったのだ。
そこで慈善活動に励むも、王族は表向きには応援するも、理解者はほぼ皆無。
レベッカが孤立を感じたのは、当然のことであった。
「おいちゃん……わたし、おもい?」
「軽いよ」
レベッカを抱っこしすると、煉はその小さな体を抱き締める。
「気にするな。全部、受け止めるから」
「……ありがと♡」
安心したのか、レベッカは、煉の頬にキスをするのであった。
レベッカと過ごしていると、用事を済ませたオリビア、シャロン、シャルロットがやって来た。
「勇者様~♡」
そのまま抱き着くと、煉を押し倒す。
「えへへへ♡」
「あははは♡」
オリビアに釣られて、レベッカも抱き着く。
2人からキスの嵐を受けつつ、煉は、後の2人を見た。
「御帰り」
「只今、パパ♡」
「只今です。旦那様♡」
2人からもキスを受ける。
オリビア達は、学校帰り、買物に行っていたのだ。
今夏、使う水着を新調する為に。
「パパ、見て♡」
シャロンが脱ぐと、真っ赤なビキニが披露される。
「おお、凄いな」
無意識に鼻の下を伸ばすと、
「むむむ……」
オリビアが不満げに唸り、抱き着いたまま器用にも脱衣。
「おお……」
シャロンと対照的に、青いビキニだ。
時機を見計らって、シャルロットも続く。
彼女は、黄色いのであった。
3人が並ぶと、信号機のような色合いだが、美女が揃っている為、信号機感は薄い。
「……」
「パパ、感想は?」
「見事だ」
拍手を送ると、レベッカが肘で突く。
「おいちゃん、わたしも……きたい」
「そうか……だそうだ。オリビア」
「そうだと思いまして、レベッカの分まで用意しました」
「!」
「レベッカ様、こちらへ」
シャルロットに手を引かれ、レベッカは、更衣室へ。
「失礼します」
代わりにライカが入って来た。
その手には、紙袋が。
「ライカも買ったのか?」
「はい。BIG4、皐月様、司様の分もあります」
「大盤振る舞いだな?」
「少佐が避暑地に我が国を選んで下さいましたからね。上機嫌なんですよ」
失礼します、とライカは、向かい側のソファに腰を下ろす。
「成程な」
納得しつつ、煉は立ち上がり、シャロンの手を取ると、ライカの横に座った。
「……少佐?」
「日頃の感謝だよ」
机上に札束を置く。
「……これは?」
「
「既に受け取っていますが?」
「それは国家からだろう? これは、俺からだ」
「……臨時収入になるのでは?」
「細かい事は気にするな」
札束をライカの手に持たせる。
「……有難う御座います」
恭しく一礼すると、ライカは、それを財布にしまい、更衣室を見た。
まだ動きは無い。
「……甘えても良いですか?」
「良いよ」
「有難う御座います♡」
ライカも又、側室の1人なので、煉に甘える。
「……ライカも甘えん坊ね?」
「悪いですか?」
「全然、可愛いよ♡」
シャロンは笑顔で手を伸ばし、ライカと握手する。
ライカの見た目が美男なので、素性を知らぬ者が見れば、2人は美男美女のカップルに見えるかもしれない。
「……少佐♡」
「パパ♡」
鬼の居ぬ間に洗濯、という訳ではないが、ここで最も地位が高いオリビアが居ない今、2人は、煉との逢瀬を楽しむのであった。
「じゃーん!」
最小限の部分のみを覆ったマイクロビキニを着て、レベッカは、登場した。
元々、スタイルが良い為、その
歩き方の不自然さが無くなれば、パリ・コレクションや東京コレクションで堂々と闊歩していたかもしれない。
「おいちゃん、どう?」
「うん、似合っているよ」
「やた♡」
噛んだことを気にせず、レベッカは上機嫌にポーズを決める。
煉に見初められる=妻への第一歩、という事を理解しているからだ。
「勇者様、今夏は、プライベート・ビーチで泳ぎまくろうと思いますの」
「良いね。じゃあ、俺も泳ごうかな」
ワルキューレ作戦(7月20日実施予定)後、そのまま、トランシルヴァニア王国に行き、夏休みを過ごすのも良いかもしれない。
煉は美女達を侍らせつつ、避暑地へ想いを馳せるのであった。
[参考文献・出典]
*1:ガーディアン 2002年6月29日
*2:ウィキペディア
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