第254話 逆襲のオリビア

 デートには、キーガンとフェリシアも付いてきた。

「おいちゃん、おいちゃん♡」

「ん~?」

「うぃんどーしょっぴんぐ!」

「そうだな」

 煉の手を引っ張るレベッカは、ショッピングモールの中にある洋服屋アパレルショップの前で停車していた。

「かっていい?」

「良いよ。シャルロット、済まんが頼む」

「はい」

 男の煉が、客層が99%女性の店には、流石に入り難い。

 ブラック・カードを渡すと、ほぼ全員がお目当ての商品を探しに入店していく。

「……入らないのか?」

「護衛ですので」

「同じく」

 スヴェン、ウルスラは、服を買う気が無い様だ。

「……4人は?」

「もう少し見て回りたいです」

「チェルシー様と同意見です」

「少佐についていきます」

「護衛ですので」

 それぞれ、チェルシー、エマ、フェリシア、キーガンの言。

 煉の専属の護衛になったキーガンは、元々の用心棒であるスヴェン、ウルスラのコンビと。

 フェリシアは、チェルシー、エマとの関係の悪化がそれぞれ考えられたが、表立っての衝突は、見られない。

 貴族である為、その無表情ポーカーフェイスはお得意なのか。

 煉が緩衝材になっているのは、定かではない。

「分かった」

 女性の買い物は男性のそれと比べると、長い感覚がある為、煉はオリビアに『ぶらつく。ゆっくり買い物し』と送信するのであった。


 一行が、選んだのは、フードコートであった。

 近くにボウリング場がある為、その音と歓声がよく届く。

 先程、「護衛」と称して買い物を断ったウルスラ、スヴェンの中東コンビは高さ1mはあろうかという超特大パフェを堪能していた。

「美味♡」

「師匠、どうぞ♡」

「有難う……」

 小皿に盛られたパフェの一部を、渋々、匙で食べる。

 おおよそ2人は、行動から見るに護衛に徹していない様だが、それでもそれぞれ元MITと元モサドだ。

 遊んでいる様に見えて、やる時にはやる為、煉もその辺の是正勧告はしない。

 BIG4は、かき氷、たこ焼き、綿菓子、水飴を一緒につついていた。

「うわ、頭が……」

「はふはふ……」

「甘い……?」

「少佐、有難う御座います。水飴、美味しいです」

 キーガンの笑顔に、煉も自然と笑顔になる。

「なら、良かったよ」

 キーガンは、微笑んだ。

 オリビア達が居ない今、2人には、好都合であった。

 チェルシーが、切り出す。

「少佐、再確認ですが、フェリシア様と御愉しみになりましたよね?」

「!」

 びくん、とフェリシアは反応し、一気に汗が噴き出す。

 幸い、これまで同様、香水で誤魔化しているが、尋常なその量は隠しきれないレベルだ。

「そうだよ」

 煉は、首肯した。

 初耳な事にキーガンも動揺を隠せない。

「……! ……!」

 両目を見開いて、異常な程、発汗するフェリシアと涼しい顔の煉を交互に見る。

「惚れたんだから仕方あるまい」

 真実は、フェリシアが襲い、言質を取ったのだが、煉はそれをひた隠し、あくまでも好意は自分から、というスタンスを曲げない。

 これならオリビアの関与が分からなくなるから、愛妻家としては当然の事だ。

「今後は、婚約者として傍に居て頂く。なぁ、フェリシア?」

「……はい」

 話を合わせる事にしたフェリシア。

 全て自分の都合の良い方に流れが行っている為、引き返せない、という事もある。

「……分かりました」

 アイスクリーム頭痛の頭を振り、チェルシーは、決意した。

「私も家を背負って来ました。子供の使いではありませんから」

「……私もです」

 エマも続く。

「では、殿下からの条件を完遂出来たら良いよ」

「条件?」

「何ですか? それは?」

 煉は、左右の中東コンビを抱き寄せつつ、言う。

「1、混浴する事。

 2、俺とねやを共にする事」

「「!」」

「このどちらか、或いは、両方を達成出来たら、殿下は、御了承して下さるよ」

 どちらも名家の令嬢には、簡単に了承出来ない話だ。

 保守的な家であれば、相手の家に一晩泊まっただけで、閨を共にしなくても結婚が成立した、と認識する者も居る位である。

「……フェリシア様、キーガン様はそれを達成した、と?」

「残念だが、チェルシー様。それ以上の事は、私的プライバシーの事だから、俺の口からは、言えないよ」

 事実上、殆ど言ったまでだが、流石にその話は、相手が居る為、煉が直接、言う事は無い。

 2人は、赤らめて俯く恋敵達を見た。

「「……」」

 キーガンは震えて、フェリシアは、蒸気風呂サウナに入っているのかと、思ってしまう程、汗びっしょりだ。

 2人は知る由も無いが、キーガン、フェリシアの達成率はというと、

       混浴   閨   達成率

 キーガン  ○    未達成  50%

 フェリシア ○    ○    100%

 である。

 条件面からみると、フェリシアの方が達成率が上なのだが、それでもキーガンも許している所を見ると、オリビアが2人を通して、イギリス系貴族を自分の派閥に取り込みたいのが、強く見て取れる。

 フェリシア達も、オリビアの思惑に薄々、気付いてはいるが、提示した条件は、一つでも達成出来なければ、任務は完遂出来ない。

「……混浴、お願いします」

 エマが頭を下げて、続けて、チェルシーも同じく真っ赤になって続くのであった。


 その日の晩の大浴場の人口密度は高かった。

 正妻 :司

 家長 :皐月(側室も兼務)

 側室 :オリビア

 側室 :シャロン

 側室 :エレーナ

 側室 :ウルスラ(護衛も兼務)

 側室 :ライカ

 婚約者:レベッカ

 婚約者:ナタリー

 義妹 :シーラ

 愛人 :シャルロット

 愛人 :スヴェン(護衛も兼務)

 に新メンバーである、

 婚約者:フェリシア

 婚約者:キーガン(専属用心棒)

 を加え、更に、縁談相手のチェルシー、エマも居るのだから、ほぼ女湯である。

「おいちゃんとおふろ~♡」

「レベッカ、はぎゃぐな。御湯がかかる」

「ごめん」

 煉に注意され、レベッカは、直ぐに謝った。

 安易に自己保身に走らないのは、良い事だ。

 レベッカは、泳いでは、煉の膝の上に座る。

 リハビリの成果か、少しではあるが、立ち泳ぎが出来たり、歩けたりしている。

 これなら、近い内に本格復帰の道筋が出てくるかもしれない。

「……たっくん、疲れた……」

「お疲れ」

「煉、癒して」

「お疲れ様」

 左側から司、背後から皐月がしな垂れかかる。

 2人は、学会の準備に土日を返上し、大忙しだった為、この数日間は、学校や食事の席以外では、夫婦でありながら余り、煉と顔を突き合わす頻度が落ちていた。

 しな垂れかかるだけで2人は、喜色満面である。

「えへへへ♡」

「うふふふ♡」

 重いが、想いは伝わる為、煉は、無理に振り解かない。

 右側のオリビアが、便乗してもだ。

「勇者様、わたくしも癒して下さいまし♡」

「分かってるよ」

 オリビアの額にキスをすると、シャロンが寄って来た。

 レベッカの隣に座り、振り返る。

「パパの浮気者~」

 王族と同席するのは、当然、考えられない事だが、レベッカもオリビアも問題視せず、どちらかというと、レベッカの看護には、シャロンも関わっている為、指摘し辛い事もあるのだろう。

「御免よ。最近、忙しくてな」

「あ、仕事を理由にするんだぁ?」

 実際、そうなのだが、シャロンは、意地悪く嗤う。

「御免よ」

 もう一度、謝罪した後、煉は、シャロンとレベッカを抱き締める。

「パパ~♡」

「おいちゃん♡」

 2人にキスされると、煉は律儀に返す。

 順番は、王族であるレベッカが優先だ。

 同席を黙認されているだけでも有難い事なので、順番には、流石にシャロンは抗議しない。

 その辺は、ちゃんと煉の教育を受け入れてる証拠だろう。

 煉のそんな様子に、初混浴のチェルシーとエマは、ドキドキしていた。

「「……」」

 閨の前に入浴するのが、礼儀作法の一つにある為、混浴後、その可能性を考えているのだ。

 事実、フェリシアは、混浴後に煉と愛し合った。

 尤も、フェリシアの場合は、彼女からの夜這いであったが。

 兎にも角にも、オリビアが提示した条件の一つは、通過した為、現時点では、キーガンと同点。

 縁談成立となる。

 もっと高得点を出すには、ねやを共にする必要があるのだが、それは遅かれ早かれ、子作りの際に義務化するので、2人は、そこまで拘っていない。

 但し、恋敵であるフェリシアが、既に達成されている為、心理的プレッシャーは、否定出来ない。

「「……」」

 2人は、洗髪するフェリシアから、大浴場でも尚、SPP-1水中拳銃で武装しているキーガンに視線をずらす。

 煉の周りに居る部下達は、どんな状況でも、慢心しない性格の持ち主が多いらしく、キーガンだけでなく、ウルスラ、スヴェン、ライカも武装を怠っていない。

 良い意味で、忠臣。

 悪い意味で、疑心暗鬼、と言った所だろう。

「……」

 キーガンは、赤くなりつつも、冷静沈着に、煉の警備に徹している。

 胸部等が見ても、又、見られても、注視しないのは、非常に大人だ。

 フェリシアの洗髪が終わった時機タイミングで、オリビアが煉に寄りかかったまま呼ぶ。

「チェルシー、エマ、フェリシア、キーガン。来なさい」

「「「「は」」」」

 4人は、ゆらりゆらりと、オリビアの前まで来た。

 本当は、もう少し早く来るのが、筋だが、御湯がかからない様にした4人の気持ちも分からないではない。

「司様、皐月様。新たな側室ですわ」

「「おめでとう~!」」

 2人は、空元気だが、それでも拍手する。

 家族が増えるのは、良い事だが、その分、恋敵が増える為、全て長所とは言い難い。

 そんな短所を表に出さず、純粋に褒める母娘の優しさに4人は感謝しかない。

 皐月が母親として、又、医者として忠告する。

「ちゃんと避妊する事よ。もし、出来なかったら、私に相談する事。妊活は、計画して行う事」

 皐月とも同居している以上、別居しない限り、彼女の監視からは、逃れられない。

 なので、煉と女性陣は、その助言アドバイスを最大限、遵守する必要にあった。

 何はともあれ、家長である皐月の承認も得た事から、BIG4もこれで一安心だ。

 オリビアが、問う。

「お住まいは、どうしますの?」

「ここが良いです」

 真っ先に答えたのは、フェリシアであった。

 意味深な視線を煉に送る。

 関係を持った以上、もう気になる存在なのだろう。

「……分かりましたわ。貴女には、相応の部屋を御用意致しましょう」

「「「!」」」

 他の3人がピクリ。

「貴女達も希望すれば、可能な限り叶えます」

「殿下」

 すっと、キーガンが挙手した。

「はい?」

「私は、既に隊員用の宿舎があります。その個室を下さい」

「……」

 オリビアは、ライカを見た。

 ライカも又、個室だ。

「狭いですが?」

「住めば都ですから」

 大部屋よりかは、私的プライバシーが保たれている為、断然良い。

「チェルシー、エマは?」

「私は、個室をお願いします」

「私もです」

 BIG4の同居がここに決定した。

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