第220話 恋の包囲網

 私は、新婚生活を楽しんでいた。

 夫婦関係も良好、そして、何より、実家とロシアの和解が嬉しい。

 ―――

『【帝政ロシア・ロマノフ家の子孫がサンクトペテルブルクで結婚式…露国内では120年ぶり】』(*1)

 ―――

 ソ連の時代には、君主制は否定され弾圧されたのが、約1世紀経って、和解が進んだのだろう。

 願わくば、帝政復古もなって欲しいが、現実問題難しいだろう。

 そもそも復古自体の成功例が少ない。

・イギリス(1660年)

・日本  (1868年)

・スペイン(1975年)

・トランシルバニア王国(1989年)

・カンボジア(1993年)

 世界中に帝位・王位請求者は沢山居るが、実現したのは、僅か5カ国。

 これら以外にも成功した国々は存在するのだが、現在の体制は違う。

・フランス

 1852年→1870年以降は共和制。

・ポルトガル

 1640年→1910年10月5日革命により、以降は、共和制。

・ギリシャ

 1935年→1974年、民政移管メタポリテフシにより共和制へ。

・中国

 1917年、張勲復辟ちょうくんふくへき→僅か12日で失敗。

・ネパール

 2005年→翌年、民主主義運動ロクタントラ・アンドラン第2回国民運動ジャナ・アンドランII)により、親政終焉。

 と、どれも長続きしていない。

 ポルトガル、ブラジルではその動きがあるが、共和制である以上、決定権は国民にある。

 その為、国民投票次第では成立する可能性があるが、共和制に慣れ親しんだ国民が、今更、君主制を望むのは、非現実的で、今の所、成立の動きは無い。

 もっとも、ルーマニア国王のミハイ1世(1921~2017)等のように、旧王族が、王政復古と行かないまでも、共和国政府から厚遇され、国民からも人気がある事例もある為、ルーマニアのような場合は、成功する可能性もあるだろう。

 現実的にロシアは、ソ連の継承国なので難しいだろうが、私としては、ルーマニアのように厚遇してくれるだけでも嬉しい。

 この和解は、その一歩と解釈している。

「嬉しそうだな?」

 少佐が声をかけてきた。

 私の手元を覗き込み、ロシア語の記事を読む。

「その話か」

「知っておられるんですか?」

「少しな。モスクワで挙式するか?」

「それも嬉しいですけど、私はこの国で挙げたいです。ロシアには親族居ませんので」

「……分かった」

 私の自己同一性アイデンティティーを慮ってのことなのだろう。

 少佐は、訓練や有事の時には厳しいが、それ以外だと、基本的に配慮の人物だ。

 レベッカの介護を率先して行ったり、家事にも積極的だ。

 親衛隊の部下にも、出張先で買った菓子等の土産をよく贈っている。

 恐らく、支持率は100%だろう。

 部下を厚遇するのは、意思疎通コミュニケーションの為であろうが、少佐の事だ。

 有事の際、復讐で背後から撃たれないようにする為であろう。

 訓練で厳しくしたり、虐めを行った上官が戦場で部下に殺される話はよく聞く。

 戦場だと戦死に偽装出来る為、最悪、完全犯罪に成り得る。

 そういう事がある為、事前に対策を講じているのかもしれない。

 ただ、これはギャップ萌えになり易い為、親衛隊の中には、横恋慕している女性隊員も居る可能性があるだろう。

「……」

「どった?」

「私、釣り合っています?」

「不安?」

「はい」

「釣り合っているかどうかは分からないよ」

 少佐は、私の首筋にキスする。

「あ……♡」

「そういう事は気にするな」

 それから、ベッドに誘われる。

「少佐」

「うん?」

「骨の髄まで愛して下さいね♡」

「分かってるよ」

 私に口付けをすると、少佐は、衣服を脱がしていくのであった。


 令和4(2022)年5月5日(木曜日)。

 こどもの日である今日は、連休最終日だ。

 明け方、エレーナを抱いた俺は、朝風呂に浸かっていた。

 混浴しているのは、ライカ、シーラの2人。

 他の皆は全員、まだ寝ている。

「付き合わなくても良かったのに」

「丁度、同じタイミングで起きたので♡」

 ライカは、嬉しそうに密着している。

 普段はオリビアに譲っているが、居ない時は甘えん坊だ。

 シーラもいつも通り、膝に座っている。

「……♡」

 後頭部を胸板にすりすりさせていた。

「今日で、連休も終わりですね?」

「そうだな」

 明日、金曜日は平日。

 今年のゴールデンウィークは、有給次第で、

・4月29日金曜日 昭和の日

・4月30日土曜日

・5月1日日曜日

・5月2日月曜日→平日

・5月3日火曜日 憲法記念日

・5月4日水曜日 みどりの日

・5月5日木曜日 こどもの日

・5月6日金曜日→平日

・5月7日土曜日

・5月8日日曜日

 と、最大10連休となる。

 有給が取得し易い企業の社員や公務員は、一斉にここで使っても良いだろう。

 然し、俺達は高校生。

 有給が無いのが、現実だ。

「外交官特権で休みます? 今の成績でも十分に卒業出来ますよね?」

「そうだよ」

 俺は、シーラの頭に顎を置いて答える。

「でも、皐月の病院のこともあるし、何より、司が同級生クラスメートと会いたがっている。休むのは無いな」

「……そうですか」

 日常的に俺の近くに居る為、俺の疲労度を知っているのだろう。

 ライカは、提案を却下され、項垂れる。

「有難う。気持ちは、嬉しいよ」

「……少佐は、頑張り過ぎです。いつかお体、壊しますよ?」

「多分な」

「では―――」

「その時は、皐月と司に看病してもらうよ」

「……」

 呆れ顔のライカ。

 俺は、そんな彼女を抱き寄せる。

「優しいな?」

「……部下ですから」

「有難う」

 額にキスをし、更に密着させる。

 ライカの顔は、見る見る内に赤くなっていく。

 非常に分かり易い。

「……」

 振り返ったシーラは、不満げだ。

「……」

 私も好きなのに、とでも言いたい様子。

「好きだよ。俺も」

「!」

 シーラの頭を撫でる。

 好意は嬉しい。

「少佐、もうシーラも嫁入りさせたらどうです?」

「!」

「うん?」

「それほど大切に御思いなら、もうそれが最善策かと」

 シーラが、ヘッドバンギング。

 首、げそう。

「……嫁入りねぇ」

「レベッカ様の例もありますし、婚約後、婚姻、というルートが適当ではないでしょうか? その……ナタリー様とも婚約されていますよね?」

「……まぁな」

「!」

 ―――本当?

 と、シーラの目は、潤む。

「……済まんな。隠してて」

「……」

 シーラは、固まっていた。

「……少佐」

「分かったよ」

 ライカの圧力により、俺は、仕方なくシーラを抱擁する。

「……」

 彼女は、ポロポロと泣き出した。

「平等だ」

 俺はそう告げてから、その口を塞いだ。


(キスされてる)

 茫然自失だった私が、自覚したのは、キスされてから数秒後のことででした。

 少佐からされるのは、初めての事です。

 少佐は、私を強く抱き締め、涙を指で拭き取ります。

 それから、離れました。

「……愛してるよ」

「!」

 愛の言葉をのたまった後、再度、キスされました。

 それは、先程とは違った濃厚なものでした。

「失礼します♡」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべたライカも私を背後に回り、抱き締めます。

 大浴場で、親しい2人からの挟み撃ち。

 少佐は欲情したのか、ライカともキスをします。

(……私のタイミングなのに)

 嫉妬した私は、ハムスターのように、頬を膨らまし、少佐を奪還します。

「……!」

「もう、シーラ。助け船を出したのにそんなに睨まないでよ」

 ライカは苦笑いを浮かべますが、そんな彼女を少佐は優しく撫でます。

「シーラ、恩人だぞ?」

 そうですが。

 私は、尚も敵意を剥き出しにします。

 やがて、少佐は溜息を吐きました。

 ミントの口臭がします。

 毎秒、嗅ぎたいです。

「……それが、治らないと破談だぞ?」

「!」

 破談、と聞いて、私は居住まいを正します。

 正座して、ライカに精一杯の作り笑顔を送ります。

 現金な話ですが、折角の好機を失いたくはありません。

「……じゃあ、シーラ。婚約者な?」

 この瞬間、私の長年の夢が叶いました。

 涙が出るほど嬉しいです。

「……はい」

 か細い声が出ました。

「……シーラ?」

 ライカが驚いていますが、その瞬間を見逃しません。

 少佐に密着し、両手を掴むと、私の体に回します、

「……積極的だな?」

 少佐は笑った後、私の体を優しく撫で上げるのでした。


「あの娘も嫁入りか」

 報告書にアドルフは、安心する。

 これで、

・オリビア

・レベッカ

・ライカ

・シャルロット

・シーラ

 と、5人もの女性が煉の下に嫁入りした。

 担当者も嗤う。

「これで、国防強化に大きく役立ちますね?」

「ああ、そうだな」

 アメリカ、ロシア、トルコが妻を通して勧誘している現実に、トランシルバニア王国は、大きな危機感を持っていた。

 なので、5人も送れたのならば、流石に裏切ることはないだろう。

 煉のことは信じたいが、人である以上、やはり、欲がある。

 米露等の他国は、その辺の所を突き、靡かせているのだ。

「トルコ、イスラエルは、どう動いている?」

「第二、第三は送っていません。ですが、今後、あるかもしれません」

「ふむ……」

 イスラエルは、ユダヤ系であるブラッドリーの才能を以前から高く評価していた。

 トルコも、MITとブラッドリーは、良好な関係を構築している。

 彼の死後、現世でもそれは、変わらない。

「引き続き、何かあれば伝えろ。少佐は国宝だからな」

「は」

 トランシルバニア王国も又、諸外国同様、動いているのであった。


[参考文献・出典]

 *1:読売新聞オンライン 2021年10月2日

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