第216話 敬意と信仰
一通り部屋で寛いだ後、俺達は、大浴場に入る。
機密性の高い部屋なので、ホテル内にある大浴場を利用することはなく、宿泊室内のを利用するのだ。
「うん、傷は塞がっているわね?」
皐月は、俺の頭を確認しつつ、洗う。
「自分で洗えるけど?」
「良いの良いの♡」
遠慮しても、皐月は、嬉しそうに止めない。
シャルロットは、腕を。
エレーナは、足をそれぞれ、洗ってくれている。
「……旦那様、どうですか?」
「天国だよ。エレーナも有難う」
「いえいえ♡」
命じた訳ではないが、2人も嬉しそうにしている為、止めさせる訳にはいかない。
「師匠、私も参加したいのですが?」
「何処を? 埋まっているよ」
「ここがあります」
じーっと、見るのは、俺の股間。
「……別れるか?」
「嘘です。冗談です」
スライディング土下座で、スヴェンは謝った。
洗われても良いが、スヴェンを優先した場合、他の11人にも触れられる可能性がある。
正直、身が持たない。
「おいちゃん、はやくはやく!」
湯舟では、レベッカがバシャバシャと水面を叩く。
「へいへい」
洗髪後、俺は、立ち上がってレベッカの下へ。
浸かると、俺の膝に座る。
「えへへへ♡」
左右には、オリビア、シャロン。
「勇者様、このようなホテル、御用意して下さり、有難う御座いますわ」
「パパって、
ハワード・ヒューズ(1905~1976 アメリカの実業家。20世紀を代表する億万長者として知られ、「資本主義の権化」「地球上の富の半分を持つ男」と評された)
なの?」
「全然。資本主義者だけど、権化じゃないよ」
彼のような生き方は憧れるが、その晩年は、麻薬中毒になり、やがては精神的に病み、幸せとは言えない最期で人生を終えた。
「ハワード・ヒューズより、
マンサ・ムーサ(マリ帝国の歴代国王の1人。在:1312~1337?
現在の価値にして約4000億ドル(約40兆円)という人類史上最高の総資産を保有(*1))
になりたい」
俺が呟くと、オリビアは微笑んだ。
「北欧油田でなれるかもですわよ?」
「おいおい、外国人に独占権、売る気か?」
「勇者様ならば悪用しませんよ。ですよね? ライカ?」
「はい♡」
オリビアの横に座っていたライカが
「ほら、忠臣もこう仰ってますし」
「北欧油田には、興味無いよ」
そこで視線を感じ、振り返ると、
「「「……」」」
『……』
シーラ、スヴェン、ウルスラ、ナタリーがこちらを見ていた。
楽しそうに会話している俺達に加わりたいようだ。
然し、
視線が気になる為、俺は、手招き。
来いよ、と。
すると、3人は笑顔で来て、ナタリーも仏頂面だが来てくれる。
「おいちゃん―――」
「皆、妻だ。平等にな?」
「うん……」
レベッカを慰めつつも、席を開ける。
彼女は、真ん中。
シーラは、左。
ウルスラが、右だ。
平等に扱うその姿勢に、ウルスラは満足そうだ。
「少佐は、名誉イスラム教徒ですね♡」
「そうか?」
「はい。ちゃんと教義は、遵守されているし、奥方様達にも平等ですから」
「……かもな」
『
それでいて、ちゃんと平等なのだから、
「おいちゃん」
「ん?」
「おさけ、だめ!」
大きくXを作る。
どうやらレベッカも酒に関しては、否定的なようだ。
「レベッカもお酒嫌い?」
「きらい。くさい、にがい、まずい」
「そうだな」
子供には、何故、あれを大人が好むのかが理解し難い。
泥酔すれば、呂律が回らなくなり、最悪、場所を選ばずに寝る。
沖縄県では、よく泥酔者が路上で寝てしまい、その結果、自動車に撥ねられる事故も相次いでいる、という。
―――
『【沖縄・路上寝による死亡が5年で12人 事故割合は全国の5倍 大半が酒の飲み過ぎ】』(*2)
―――
又、若者の間では、酒離れが進んでいる事例もある。
その一つが、
・敢えて酒を飲まない
・素面で居る事を積極的に選択する
人々の事を指す『ソーバーキュリアス』なる概念も誕生している(*3)。
これは、飲み会等で、酒を飲む人々に対して、「酒を飲む自由があるならば、酒を飲まない自由もある」として出来たものだ。
所謂、多様性の一つに入るだろう。
このような新思考が影響しているのか、近年、若者の酒離れは凄まじい。
———
『①男女
20~30代の男性の飲酒習慣率(週3日以上、1日1合以上飲酒する割合)は20年前と比べて約半分程度となり、元々、飲酒習慣率の低い20代女性では、現在、僅か3%となっている(*4)。
②頻度
今の若者の半数程度は日頃からアルコールを飲んでおらず、このうち半数程度は飲めるけれど、殆ど飲んでいない。
アメリカのミレニアル世代(1980年序盤~1990年代中盤)では、身体や精神の健康の為に、敢えてアルコールを飲まない「ソーバーキュリアス」が登場している。
日本でも若者の4分の1程度に「ソーバーキュリアス」傾向がある』(*5)
———
これは、2020年のデータなので、現在とは、また差異があるかもしれないが。
意外なことに、上の世代の想像以上に、下の世代は、それほど酒を飲んでいない事が分かる。
これを強要すれば、立場を利用しやパワハラにもなりかねないし、急性アルコール中毒で死亡させた場合は、もう目も当てられない。
なので、俺は、部下に酒を強要する事はしないし、どちらかというと禁酒を勧めている方だ。
ソーバーキュリアスの若者には、歓迎したい上司になるだろう。
「……」
シーラは、俺の口元を嗅ぐ。
「……」
大きく頷き、親指を立てる。
合格のようだ。
『少佐、今のは?』
「煙草チェックだよ。電子煙草もNGなんだと』
『喫煙者なんですか?』
「昔はね。でも、『
周囲に酒を禁じている癖に、自分だけ喫煙者なのは、白眼視されるのは、当然の事だ。
シーラにとっては、酒も煙草も同じ毒物に見えるのかもしれない。
昭和時代の日本では、国会でも授業中でも所構わず、喫煙していた。
それが、平成後期以降、禁煙が国全体の流行りとなり、愛煙家達は、少数派として肩身の狭い思いをしている。
若し、帯刀の時代だったら、愛煙家達は、自分達の権利を守る為に西南戦争のように挙兵していたかもしれない。
「そういえば」
シャロンが、体臭を嗅ぐ。
「煙草の臭い、しないね? 本当に止めたんだ?」
「そうだよ」
「じゃあ、これで長生き出来るね? スザンナ・ジョーンズみたいに」
1899年から2016年まで生きたスザンナ・ジョーンズ(享年116)は、長寿の秘訣について、睡眠を推し、「お酒も煙草も呑まずに、自分の周りを愛とポジティブなエネルギーで満たしておくこと」と語っている(*6)。
但し、南アフリカの
そして、2018年に禁煙を決意した(*7)。
114歳で新しいことに挑戦するのは、中々出来ないことだろう。
その2年後の2020年、彼は、旅立った(*8)。
亡くなる直前まで煙草を愛し、新型ウィルス流行下では、「煙草を買いに行けない」と愚痴を漏らしていた(*8)ようだが、それでも116歳まで生きれたのは、煙草=害悪には、成り難い。
勿論、本人の体質や食生活等にもよることだろうが、これほど、対比的な116歳は、中々居ないだろう。
「長寿には拘っていない。健康的に生きることだけだよ」
笑顔で返し、レベッカ、シーラ、ウルスラをテディベアのように抱き締める。
「おいちゃん♡」
「♡」
「少佐♡」
俺は、真ん中のレベッカの頭に顎を乗せ、硝子の向こうの熱海の市街地を見た。
昨年の土砂災害から1年も経っていない為、まだ復旧出来ていない場所は多々ある。
博多駅前道路陥没事故(2016年11月8日)の時、その復旧工事は、事故発生後、僅か1週間で完了させ、日本の迅速なスピードと技術力が、国内外で大々的なニュースになったが、今回ばかりは、被害が多きい。
その為、博多の奇跡のような事は難しかった。
「……シャロン」
「なあに?」
俺の背中にピタッと張り付く。
胸を押し付けられ、その柔らかな感触に浸りたい所だが、俺は真面目であった。
「伊豆山神社に10億円、玉串料と寄付金を」
「了解。流石、パパ♡」
頬にキスされた。
「匿名で良い?」
「ジョン・スミスで」
「了解♡」
観光に来ただけだが、災害を見過ごすだけは、性に合わない。
皐月と司は、顔を見合わせた。
「煉ってお金持ちね?」
「本当本当。金閣寺、作ってもらおうよ」
と、しんみりした空気に下衆なトークをぶち込んでくるのであった。
[参考文献・出典]
*1:クーリエ・ジャポン 2013年3月号
*2:琉球新報デジタル 2019年6月14日
*3:ソーバーキュリアリアスオンライン HP
*4:厚生労働省 国民健康栄養調査
*5:ニッセイ基礎研究所 2020年2月3日
*6:ダイヤモンドオンライン 2017年1月13日
*7:トカナ 2018年6月12日
*8:日刊ゲンダイ 2020年8月27日
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