第215話 酒と愛と男と女

 結局、全員でデートする事になった。

 メンバーは俺と、

・皐月

・司

・オリビア

・ライカ

・シーラ

・スヴェン

・シャロン

・シャルロット

・エレーナ

・ナタリー

・レベッカ

・ウルスラ

 計13人。

 ラグビーリーグ1チーム出来る人数だ。

 令和4(2022)年5月2日(月曜日)夜。

 学校から帰宅後、俺達は東京駅に向かい、新幹線のグリーン車に乗り込む。

 俺の左右には、司とオリビア。

 向かい側には、皐月、ライカが座っている。

 警備上の観点から、1車両貸切の為、家族以外誰も居ない。

 乗車券に書いてある『東京駅-熱海駅』を見て、皐月が尋ねる。

「ゴールデンウィークは、熱海?」

「そうだよ。良い部屋が取れたんだ」

「幾らかかったの?」

「1人1泊7万」

 13人で91万円だ。

「……高いわね。安い所で良いのに」

「家族サービスだよ」

 それから、司、オリビアの手を握る。

 熱海は、去年―――令和3(2021)年7月3日、土砂災害が発生し、死者20人以上と令和始まって以来、令和元(2019)年東日本台風(死者105人)等と並ぶ大災害となった。

 現在、熱海市が行う災害復興の一環として、観光の補助金制度が導入されて以降、多くの観光客で賑わっている。

 俺達以外の車両には、熱海が目的と思われる観光客で沢山だ。

 中には、外国人も居る。

 一昨年、昨年と2年続けて自粛が長かった分、楽しみたい人々が多いのは、容易に想像出来るだろう。

 俺は市の補助金を敢えて使わずに、高額な方を選んだ。

「勇者様、わたくし達の為ですわよね?」

「うん?」

 オリビアが甘える。

「王族ですから♡」

 王族である以上、権威が必要だ。

 安宿に泊まるのも一つの手だが、そうなると、王族が良くても政府が怒る可能性が高い。

 これも、貴賤結婚の宿命だろう。

 東京駅から熱海駅までは、こだまで約40分。

 熱海駅からホテルまでは、迎車で直行だ。

「たっ君、高収入なのは良いけどさ。たまには、自分の為にも使ってよね?」

 司は、不満げに俺にしな垂れかかる。

「家族サービスが趣味なんだよ」

「有難いけど、もうちょっと我儘になっても良いんだよ?」

「有難う」

 司の額に口付け。

 新幹線は、静かに進む。


 遅れる事無く熱海駅に45分で到着。

 そして、迎車でホテルに行く。

 伊豆山いずさん麓の逢初川あいぞめがわ付近にあるそのホテルは、昨年夏の土砂災害で多大な被害を受けた。

 新型ウィルスで、客足が遠のいていた上に災害だ。

 当然、廃業するホテルも在る中、このようなホテルが在るのは、観光客にとって有難いことだろう。

 チェックイン時、支配人が応対する。

「王族様方御一行に御利用頂き、当館は、非常に光栄です」

「いえいえ」

 現金キャッシュで前払いすると、支配人は、土下座するくらいの勢いで受け取った。

 カードでも良いのだが、入金するまで時間がかかる場合がある。

 その為、俺は、極力、現金派だ。

「御部屋は、最上階のスイートルームで熱海署と県警本部に直接通報出来るよう、改築されています」

「有難う御座います」

 これが、俺がここを選んだ理由だ。

 高貴な身分である以上、犯罪者に狙われ易い。

 ハリウッドスターでも、人によっては自宅に何かあった時の為に警察官が巡回している場合がある。

 一般市民だとこうはいかないが、相手が上級国民だと、こうも態度が変わるのは、致し方ない。

 依頼人が高貴であればあるほど、失態を犯した場合、それが世間に認知され易い。

 キーを渡され、俺達は、フロント奥の隠し扉からエレベーターに乗り、最上階へ上がっていく。

 熱海市61・78㎢を眺望出来る宿泊室は、体育館並の広さを誇る。

 事前に支配人から聞いた話によれば、暴対法成立以前は、ここで地元の暴力団が大規模な襲名披露式等を行い、テレビでもニュースになったそうだ。

 今では、ホテルでそんな事は出来ない為、暴力団員の使用はほぼ無いが、代わりに、政党の会合や政治資金パーティーに使用されているらしい。

「おおっきい!」

 レベッカは、目を爛々と輝かせて、テンション急上昇。

 車椅子を爆速させ、窓硝子に突撃。

 そして、張り付いた。

「……ぐへへへ」

 おおよそ、美少女らしからぬ笑い声だ。

 レベッカには、夜景鑑賞士検定が似合うかもしれない。

「わざ、お菓子、いっぱい!」

 シャルロットも机上に並べられた和菓子と洋菓子の大群にメロメロだ。

「あら、お酒も」

 冷蔵庫を開けた皐月が発見したのは、これまた多くのお酒。

 日本酒に洋酒、中国のお酒もある。

「煉、これって?」

 左右に皐月、オリビア、膝にシーラ、ウルスラ、スヴェンを座られながら、俺は答える。

「飲み放題だよ」

「本当?」

「うん」

「じゃあ―――」

「でも、20g以下ね?」

 この数字は、厚生労働省が推奨している、『飲酒のガイドライン』が基だ。

 ―――

『【飲酒のガイドライン】

 1. 節度ある適度な飲酒

「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度である」(*1)

 20g=・「ビール中ビン1本」

    ・「日本酒1合」

    ・「チューハイ(7%)350mL缶1本」

    ・「ウィスキーダブル1杯」

    等に相当。

 この数値は日本人や欧米人を対象にした大規模な疫学研究から、アルコール消費量と総死亡率の関係を検討し、それを根拠に割り出されたもの。


 2. 節度ある適度な飲酒の付帯事項

(1)[女性は男性よりも少量が適当]

 一般に女性は男性に比べてアルコール分解速度が遅い(*2)。

 体重あたり同量だけ飲酒しても、女性は男性に比べて臓器障害を起こし易い。

 これらの理由から女性の飲酒量は男性に比べて少なくすることが推奨されている。

 諸外国のガイドライン等も参照してみると、男性の1/2~2/3程度が適当と考えられている。


(2)[少量の飲酒で顔面紅潮を来す等アルコール代謝能力の低い者では通常の代謝能を有する人よりも少量が適当]

 フラッシング反応を起こす者はそうでない者に比べて有毒なアセトアルデヒドの血中濃度が高くなり、アルコールの分解が遅れる(*2)。

 癌のリスク等も踏まえて、飲酒後にフラッシング反応を起こす者は飲酒量を控えることが推奨されている。


(3)[65歳以上の高齢者においては、より少量が適当]

 高齢者ではアルコールの分解速度が下がることや、血中濃度が高くないにも関わらず酔い方が酷くなること等が示唆されている。


(4)[アルコール依存症者においては適切な支援の下に完全断酒が必要]


(5)[飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない](*3)


 3. 諸外国のガイドライン

                1日の許容量

 国      基準飲酒量(g) 男  :女

 オーストラリア 10       40  :20

 オーストリア  10       30  :20

 カナダ     13・5     13・5 :13・5

 デンマーク   12       36  :27

 ニュージーランド10       30  :20

 イギリス     8       24~32:16~24

 アメリカ     14       28  :14



 4. 12の飲酒ルール

①飲酒は1日平均2ドリンク(=20g)以下

 節度ある適度な飲酒を遵守。

②女性・高齢者は少なめに

 中年男性に比べて、女性や高齢者は飲酒量を控える事を推奨。

 例 1日350mLの缶ビール1本以下

③赤型体質(飲酒後にフラッシング反応を起こす人)も少量

 この体質はアルコールの分解が遅く、癌等の臓器障害を起こし易い、とされる。

④たまに飲んでも大酒不可

 飲む回数が少なくとも一時に大量に飲むと、身体を傷めたり事故の危険を増したり依存を進行させたりする。

⑤食事と一緒にゆっくりと

 空腹時に飲んだり一気に飲んだりすると、アルコールの血中濃度が急速に上がり、悪酔いしたり場合によっては急性アルコール中毒を引き起こす。

 身体を守る為にも濃い酒は薄めて飲むように。

⑥寝酒は極力控える

 寝酒(眠りを助ける為の飲酒)は、睡眠を浅くする。

⑦週に2日は休肝日

 週に2日は肝臓をアルコールから依存予防の為に開放。

⑧薬の治療中はノーアルコール

 アルコールは薬の効果を強めたり弱めたりする。

 また精神安定剤と一緒に飲むと、互いの依存を早めることが知られている。

⑨入浴・運動・仕事前はノーアルコール

 飲酒後に入浴や運動をすると、不整脈や血圧の変動を起こすことがあり危険。

 またアルコールは運動機能や判断力を低下させる。

⑩妊娠・授乳中はノーアルコール

 妊娠中の飲酒は胎児の発達を阻害し、胎児性アルコール症候群を引き起こす事が。 

 またアルコールは授乳中の母乳に入り、乳児の発達を阻害する。

⑪依存症者は生涯断酒

 依存症は飲酒の操作が出来ない事がその特徴で、断酒継続が唯一の回復方法。

⑫定期的に検診を

 定期的に肝機能検査等を受けて、飲み過ぎていないか確認。

 又、 赤型体質の習慣飲酒者は、食道や大腸の癌検診』(*4)

 ―――

「……ということです」

 ウルスラが、厚生労働省のHPを長々と説明した。

「……うん、御免なさい」

 俺達の圧に負けた皐月は、計量カップを用意し、酒を吟味し始める。

 本当は、大酒飲みになりたいが、医者である以上、その危険性も分かっているのだ。

 シャロンも酒を飲みたかったようだが、皐月同様、圧力に屈していた。

「パパは、お酒に関しては、鬼だね」

 そして、小鹿のように震えるのであった。

 

[参考文献・出典]

 *1:健康日本21(第一次)厚生労働省

 *2:厚生労働省 HP e-ヘルスネット アルコールの吸収と分解

 *3:厚生労働省 HP e-ヘルスネット 飲酒とJカーブ

 *4:厚生労働省 HP e-ヘルスネット 飲酒のガイドライン 一部改定

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