第214話 懲罰的軍事行動
東亜民主主義共和国は、旧満州国に位置する独裁国家だ。
その内部は日々、血みどろの権力闘争に明け暮れ、国際社会でさえ、誰が国家元首か把握していない程である。
その事実上の権力者、オーソンの下に中露から密使が来ていた。
「
「知らんな」
オーソンは、煙草の火を中国の密使の顔に吹きかける。
「……」
明らかに無礼だが、相手は、一応、権力者なので反抗はしない。
「
今度は、ロシアの密使が口を開く。
「クレムリンは、貴国の最近の横暴ぶりを注視している。もう少し、自重されてみては如何か?」
「自重? ふん」
鼻で笑った後、オーソンは煙草をロシアの密使の前に投げ捨てた。
「我が国は、我が国以外信じん。鎖国しているのが、その証拠だろう?」
「……国が亡びますぞ?」
「共産貴族が生きていさえば良い。他はどうなっても知らん」
「「……」」
「何れは、南侵する」
「何?」
「正気か?」
「日本海を経由して、韓国に攻め入る。大陸を共産化するのだ」
「「……」」
若し、東亜民主主義共和国が南侵し、韓国に勝利すれば、朝鮮半島は、日韓併合以来の統一される事になる。
太平洋戦争で日本が終戦した1945年8月15日の夜、朝鮮
やがて右派は、西側陣営へ。
左派は東側陣営に属し、朝鮮半島は、南北に分かれた。
そして、1950年、朝鮮戦争が始まり、朝鮮半島は、悲劇の地と化した。
「
「
韓国には、在韓米軍が居る。
侵攻すれば全面衝突は、避けられない。
「戦争が狙いだよ」
「「な?」」
密使の2人は、耳を疑った。
「在韓米軍を追い出せば、両国は目の上の瘤が除去出来るだろう? その為にも、支援を願いたい」
「……クレムリンに命じるのか?」
「中南海にそのまま伝えろ、と?」
流石にこの発言に2人は、握り拳を作っていた。
それでもオーソンは。笑みを絶やさない。
「はい。我が国は、建国以来、緩衝地帯です。我が国を利用し続けているのですから、少しくらい、我が国の願いを成就させて頂いても良いだろう?」
オーソンの野心は、CIAも掴んでいた。
———
『【東亜民主主義共和国、南侵の兆候あり】』
———
と書かれた報告書に、カミラは戦慄した。
「……本気なの?」
分析官は、頷く。
「精度は高いかと」
「……」
2010年11月23日午後2時34分、東亜民主主義共和国と国境を接する北朝鮮は、突如、
所謂、『
奇襲された韓国は、即応出来ず、4人の犠牲者(軍人2人、民間人2人)と19人もの怪我人(軍人16人、民間人3人)を出した。
当時のアメリカの大統領が報告を受けたのは、現地時間午前3時55分(*1)。
就寝中だったが、激怒したという(*1)。
その北朝鮮よりも攻撃的なのが、東亜民主主義共和国だ。
分析官の見立ては、十中八九当たっているかもしれない。
その時、
「
1963年8月30日に設置して以来、事あるごとに米露(冷戦期は米ソ)は、直通電話を使用している。
核戦争を防ぐ為に。
『
「イゴール大統領、
書記官と通訳が、横に座った。
外交上、極力、2人きりでは、話さない。
後に「言った」「言わない」で、問題になることを避ける為だ。
スピーカーホンにして、通訳が訳す。
『貴国の優秀な情報機関が、テロ支援国家の動きを察知しているだろう?』
「……何が言いたいの?」
『東亜民主主義共和国が、暴発しかけている』
「大統領直々に情報提供?」
『誤解を避ける為だ。君も分かっているだろう?』
「……それで何?」
『クレムリンと中南海は、あの国に関して、一切、関与していない。貴国との全面的な核戦争は、本意ではない』
「それは、こっちもよ」
『あの国は、いずれ、人民解放軍が押し寄せる。そして、多数の難民が出る筈だ』
「……」
『人権屋で目立ちたがり屋の君ならば、分かるだろう?』
「……まぁね」
テロ支援国家を中露で叩き潰すから、それで出た難民を受けいれろ、という提案だ。
ボランティアでは、梃子でも動かぬのが、国家である。
見返りを求めるのは、当然だろう。
「……良いわ。但し、死体までは、受け入れられないけどね」
『? どういう意味だ?』
「神には、誰にも叶わないってことよ」
直通電話直後、人民解放軍の特殊部隊が、東亜民主主義共和国に侵入。
元々、無政府状態なので国境の管理も杜撰だ。
簡単に入り込み、敵兵を撃っていく。
「ぎゃあ!」
「うわ!」
「ひぃ!」
欲で集まった集合体の兵士達は、ものの数秒で、総崩れとなる。
彼等に愛国心の欠片は無かった。
対する人民解放軍の主体は、満州族であった。
東亜民主主義共和国の地域は、満州国があった地域の為、満州族とも縁が深い。
その為、
ソマリア並の無政府状態である東亜民主主義共和国に外国人記者は、殆ど入れていない為、情報源は、中国外務省の報道官しかない。
『―――我が国が、侵攻したのは、同盟国であるロシアへの不法侵入と同国内に住む華人に対する追放政策の報復措置である。これは、中越戦争以来、懲罰的軍事行動である』
外国人記者が質問する。
「民間人に死傷者は出ていますか?」
『残念ながら、日本人の記者が東亜民主主義共和国の兵士に殺害された』
直後、日本で速報が入る。
———
『【ニュース速報】
東亜民主主義共和国で、日本人記者の死亡を人民解放軍が発表。
詳細は、不明
———』
戦場ジャーナリストは、その仕事柄から命を落とし易い。
武家屋敷でそのニュースを観ながら、俺はレベッカと遊んでいた。
「おいちゃん!」
「おお、はいよ」
レベッカの将棋である。
「ここ!」
「うん、そうだね」
玉を指定された場所に動かす。
「うんうん」
満足そうに頷くと、レベッカは、香車で一直線し、歩を奪う。
真剣勝負でないのは、明白だ。
レベッカの指図通り、打っていくと、数十手で投了になる。
「かった! かった!」
「うん。強い」
適当に返しつつ、俺は、しなだれかかっているエレーナとシャルロットを抱き寄せた。
「負けちゃったよ」
「少佐、甘過ぎないですか?」
「旦那様、優しい♡」
エレーナは、ジト目。
反対に、シャルロットは、デレデレだ。
普段、レベッカの介護を担当しているだけあって、愛児のように可愛がる彼女をに優しい俺に共感したのだろう。
「子供には、優しくな」
「あー! おいちゃん、こどもあつかいした! れでぃにしつれい!」
ぷんすか、とレベッカは怒る。
「御免御免、お姫様」
「それでよし」
訂正すると、直ぐに機嫌を直す。
「しゃざいとばいしょーをよーきゅーする」
「具体的には、何をすればいい?」
「でーと♡」
そして、俺の胸に飛び込んできた。
その衝撃の強さに、鎖骨が折れそうなくらい、痛いが、これが、彼女なりの愛情表現であり、愛の重さだ。
安易に否定は出来ない。
「デートね。良いけど、まずは、歩けるようになってからな?」
「もうあるける―――」
「でも、こける時、多いよな?」
「う……そうだけど」
「じゃあ、リハビリ頑張るんだ」
「……うん」
筋力が低下しているレベッカは、今、皐月指導の下、リハビリを受けている。
「デートは、その後」
「くるまいすじゃ、だめ?」
可愛く、小首を傾げる。
ぶっちゃけ、滅茶苦茶、可愛い。
「ん~。じゃあ、行くか?」
「ほんと?」
「リハビリ頑張ってるんだろ? じゃあ、気分転換で」
「いくいく!」
「少佐―――」
「旦那様―――」
「分かってるて」
2人きりでのデートは、一夫多妻なので、中々、難しい。
実行しても、露見した時の危険性がある為、結局、皆、平等に接しなければならない。
「でーと♡ でーと♡」
「「デート♡ デート♡」」
3人は、仲良く唱和する。
その間、俺は、財布の有り金を確認していた。
(散財しなければ足りそうだが、一応、カード、用意しておくか)
俺は余り使わないが、3人の金銭感覚は一般庶民と違うと思われる。
何せ、
レベッカ →王族
シャルロット→貴族
エレーナ →旧王族
だから、念の為、多目に用意した方が良いのだ。
一夫多妻は、男の夢かもしれないが、実際には、経済的負担が大きい。
(後は、時間が合う妻を誘うか)
[参考文献・出典]
*1:フランス通信社 2010年11月24日
*2:モーニングショー 2012年8月22日
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