第194話 Pax Americana
2022年4月5日(火曜日)、午前0時。
カタールに本拠地を構える世界的なテレビ局が、満を持したかのように速報を入れる。
『―――速報です。
内戦中のアフガニスタンで動きがありました。
現地の特派員からの報告です』
『―――はいこちら、民族レジスタンス戦線の支配地域にあるバザラック(アフガニスタン北東部の村でパンジシール州州都)です。
民族レジスタンス戦線の報道官が停戦を発表しました。
半年以上、続いた激戦に一旦、終止符が打たれた模様です。
仲介者はスイスで内戦に関与していたアメリカ、サウジアラビア、トルコ、イラン、ロシア、中国も同意し、即時発効されました』
まさに寝耳に水の発表だ。
その6カ国がほぼ同時に同意したのだから、世界的なニュースである事は間違いない。
俺達は、それをテレビで観ていた。
レベッカが離れない為、同じベッドで寝ている。
勿論、シャロン達も一緒だ。
大人数なので、当然、ベッドは過積載だが、その実は頑丈だ。
何処で手に入れたのか、これは、東京五輪の選手村で使用されていた段ボール製の物で、野球のイスラエルの代表選手達が、故意に破壊し、世界的に有名になった、あれである。
あの時は、8人で壊れたが、今回のは改良されているのか、
・レベッカ
・俺
・シャロン
・シャルロット
・シーラ
・スヴェン
・エレーナ
・ウルスラ
俺達丁度8人が寝ていても、何にも問題無い。
短所は、1人用なので狭過ぎるくらいだが。
「パパ、どうして風向きが変わったの?」
「多分、難民だろうな」
民族レジスタンス戦線が受け入れている難民は、数千万人となりつつある。
正直、もう限界をとうに過ぎていた。
各国の援助や国連の支援で何とか保っているものの、必要最低限の食事である事は変わりない。
悲劇も起きている。
―――
『【毒茸食べて死亡、アフガンからポーランドに避難の子供】』(*1)
―――
この出来事で欧州では、一気に難民への同情論が高まった。
2015年9月2日にトルコの避暑地のボドルムの海岸にて、シリア人男児(3)の遺体が打ち上げられ、世界に衝撃を与えた時のように。
弱者の子供の悲劇は、時に人の心に訴えかけるものが十分にある。
男児の遺体の写真は、見る人々を落涙させるに違いない。
又、一家離散も問題だ。
―――
『【アフガン退避の混乱で子供300人が親とはぐれる、各国が家族再会へ奔走】』(*2)
―――
ローマ教皇の発言も影響があっただろう。
―――
『【ローマ教皇がアフガンの為に祈り、難民受入と若者の教育確保願う】』(*3)
―――
・子供の悲劇
・一家離散
・教皇の発言
これで同情が出ないのは、流石に困難だろう。
……
俺は続ける。
「民族レジスタンス戦線は、難民の受入を欧州に提案し、『拒否したら資源を独占する』とでも言ったんじゃないか?」
「……成程」
「あくまでも推測だがな」
シャロンの額にキスし、そのまま抱き締める。
アフガニスタンにどんな形であれ、平和が訪れるならば、帰れる好機だ。
「少佐、帰国の準備を始めますね?」
「ああ、その前にエレーナ」
「はい?」
エレーナを抱き寄せては、
「準備は、余裕が出来た時で良い。今は、ゆっくり休むのが優先だ」
「あい~」
レベッカが怒って、俺の首を軽く絞める。
全然、力が無い為、余裕だが、それでも怖い。
「殿下?」
「ちゃん」
「ん?」
「
はっきりと、スウェーデン語で告白された。
日本語に続いて、スウェーデン語も流暢な事だ。
(これってマジなのか?)
義兄として慕っていると思っていたが、これだと異性愛なのかもしれない。
何処からかシルビアの声が聴こえる。
『惚れさせた罪、人生かけて償いなさいな。じゃないと、めっ♡ だぞ?』
(……)
空耳であって欲しかったが、妙に説得力があるのが、癪だ。
(オリビアに要相談だな)
「あい~♡」
俺は、レベッカに頭を撫でられつつ、悩むのであった。
『―――という事です』
シャルロットからの報告に、
(やっぱり血は争えない、か)
政略結婚の末、その血脈は代々、薄れているが、トランシルバニア王室の先祖は
・横恋慕
・略奪婚
・不倫
は正直、不敬罪の下、表に出ないだけで王室内部では、よくある話である。
時に天城山心中(1957年12月10日 男子学生と清最後の皇帝・
逆に1人の相手を一生愛し続ける王侯貴族の方が、少ないだろう。
私は問う。
「シャルロットはどう思う?」
『は。畏れながら……あれほど慕っている以上、無理に引き離すのは、酷かと』
「……だよね」
母上、シルビア様が勇者様と離れた後、体調を崩した時の事を今でも覚えていますわ。
2人は
母上が迫っても、勇者様は当時、既婚者であった為、勇者様は醜聞の可能性から自ら身を引いたという為です。
母上からこの話を聞いた時、私は勇者様を薄情者と怒りました。
然し、成長した時、私はイギリスの王妃が外国人男性と不倫になった醜聞を知りました。
あの時の白眼視した国民は、テレビで観て恐怖心を覚えました。
王室にも非難の矛先が向かったようです。
勇者様に先見の明があった、という事でしょう。
当時、我が国は電子政府をひた走っていたリトアニアから技術提供を受ける発展途上国でした。
ハッキングで情報漏洩された時には、王室の
「ライカ、陛下に御報告を」
「は」
ライカが去っていく。
勇者様が御不在の間、私は不安で不安で不眠になり皐月様から睡眠導入剤を頂いています。
ライカも同じような状況のようで、
恐らく、隠し通すおつもりでしょう。
スヴェン等と違って、ライカはクールに勇者様を愛するタイプです。
御帰国した後、目一杯甘えるのでしょう。
体調が不安なので、極力、休んで頂きたいのですが。
「今は?」
『こうなっています』
シャルロットがハンドカメラに切り替えて、ベッドを映す。
「あーあ」
ベッドには勇者様、レベッカ、シャロン、スヴェン、シーラが折り重なるように寝ていた。
1人用なので狭いし、暑苦しいし、何よりも寝相で不快な筈なのだが。
それでも熟睡出来るのは、奇跡だろう。
「他は?」
『ウルスラは礼拝中。ナタリーは、シャワーです』
「……そ」
勇者様はシャロンを抱き締めているが、その勇者様をレベッカ、シーラ、スヴェンが抱擁している。
関係性が分かる構図だ。
「いつ頃、帰れる?」
『今日の夜です。トルコを経由する為、東京には、最速でも明後日以降かと』
「分かりましたわ」
『お出迎えですが、旦那様は、「必要無し」と』
「分かりましたわ」
勇者様は、特別待遇と目立つ事が嫌いだ。
外交特権を乱用しないし、何より貴族の癖に腰が低い。
領民からもそれは、支持され、領民は増加傾向にある。
領国経営は、貴族の最大の収入源だ。
領民が増えれば増えるほど、貴族の懐事情は良くなる。
「シャルロット。勇者様に
『はい』
「
『は』
離れていても、夫婦だ。
[参考文献・出典]
*1:AFP 2021年9月3日 一部改定
*2:ロイター 2021年9月9日 一部改定
*3:ロイター 2021年9月6日 一部改定
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