第111話 国か愛か

『我々の国の歴史は古い。

 紀元前11世紀には既に国があった。

 だが2千年も前に、それは失われた。

 一方で、イスラエルという国はとても若い。

 67年前に建国がなされ、世界中のユダヤ人はこの場所に帰ってきた。

 皆、昔と同じ様に、畑を耕したり羊を飼って暮らしたかった。

 然し、国土の多くが湿地や荒れ地で、そんな状態ではなかったし、何より水が無かった。

 更に言えば石油も無ければ、金も採れなかった。

 我々は、何も与えられなかったのだ。

 そんな中、我々が授かっていたのは人間だけだった。

 だから、教育を重視し、科学を学ぶ人間を増やした。

 その結果、点滴灌漑てんてきかいがんや、海水の淡水化等、厳しい環境で生き抜く為の技術が生まれた。

 国家を成長させる事を考えると、国土を大きくするか、人口を増やすかという選択になる事が多い。

 だが、我々は科学の力で国の生産性を上げて、この小国に大きな存在感を与えた。

 未来の為に、今、力を入れるべきだと考えているのは、脳科学だ。

 この分野には果てがなく、我々はその細部をまだ知らない。

 脳は常に変化を続けられる驚くべき構造を持っていて、エネルギー効率が非常に良い。

 この様な脳の驚異は人間とは何かという根源的な問いに繋がっている。

 人間の事を機械の様にハードウェアとソフトウェアを分けて考えるのは無意味なのだ。

 例えば我々は、目を動かすと同時に何かを見る。

 そして感情を動かされ想像を巡らせ、また目を動かす。

 この絶え間なく繋がった流れこそが、人間の本質だ。

 想像力がなく、夢を見ない人間に未来はない。

 世の中には沢山の専門家が居るが、彼等は過去起きた事の専門家に過ぎない。

 これから起こる何かについては、誰も確かな事は言えないのだ。

 だから我々は、子供達、そして自分自身に夢を見る事を教えなければならない。

 これまでに起こった事が無い出来事を想像できる力こそが、未来を生き抜く為には必要なのだから』(*1)


『2021年、以政府、ラマダン期間中、イスラム教徒が東エルサレムで大規模集会禁止。

 以警察、4月12日よりイスラム教徒の接続遮断の為、ダマスカス門に阻塞設置。

 これに不快感を表したパレスチナ人はデモ抗議に発展。

 4月15日、パレスチナ人がユダヤ人を平手打ちする動画がSNSで公開。

      模倣事件が幾つか発生。

 4月22日、極右団体が「アラブ人に死を」と唱えながらエルサレムを行進。

 4月23日、過激派がイスラエル南部にロケット弾を36発発射。

 イスラエルは報復としてガザ地区のハマスの拠点にミサイルを発射。

 19歳の少年とイスラエル入植者の2人が死亡。

 5月6日、先の件とは別で以最高裁、東エルサレム在住パレスチナ人の立退決定。

 騒動が激化。

 5月9日、大規模デモ行進によりパレスチナ人300人以上が負傷。

 この騒動によって最高裁は立退実施を30日延期送を決定。

 負傷者の報復としてハマスとイスラム聖戦はイスラエルにロケット弾を発射。

 5月11日、イスラエルはこのロケット弾の報復としてガザ地区に大規模空爆を実施。

 この空爆によって13階建ての住居が倒壊する等、ハマス関係者や民間人合わせて113人が死亡・580人以上が負傷した。

 5月13日にイスラエル軍はガザ地区のハマスへの拠点に対して航空部隊と地上部隊による攻撃を開始』(*2)


 その結果、世界は、二分された。

 攻撃を擁護する親以派と、非難する反以派に。

『【イスラエル軍の攻撃停止求め、欧州各地で大規模デモ…パリでは警察出動】 

 イスラエル治安部隊とパレスチナ人との衝突を巡り、欧州各地で5月15日、イスラエル軍による攻撃の停止を呼びかける大規模デモが行われた。

 ロンドン中心部では、中東系市民等、数千人のデモ隊がイスラエル大使館周辺の道路を占拠。

「パレスチナに自由を」

 と叫び、英政府による仲介も訴えた。

 パリでは当局が暴徒化を警戒してデモを禁止する中、パレスチナの旗を手にした数百人が行進を行った。

 ロイター通信によると、警察は催涙ガスや放水でデモ隊を解散させた。

 スペインやドイツ等でもイスラエルへの抗議が繰り広げられた。

 一方、在英イスラエル大使館は、

「ハマスはイスラエル人を恐怖に陥れ、殺そうと試みている」

 とSNSに投稿し、反論した』(*3)


 日本でも同様のデモは、起きている。

 日本政府はパレスチナ問題には、中立の立場を採っている。

 イスラエルとの外交関係を重視しつつ、パレスチナについては国家として認めていないものの、実務者級では交流が無い訳ではない。

 その為、どちらかに肩入れした場合は不味い事態になり易い。

 直近の事例だと、副防衛相がやらかした。

 2021年

 5月、イスラエル軍とハマスが戦闘

 5月12日、副防衛相、SNSに、

『イスラエルにはテロリストから自国を守る権利があります』

『私達の心はイスラエルと共にあります』

 と投稿し、一時、炎上(*4)。

 同日、副防衛相は、

「私はパレスチナの人達がテロリストだと書いた事は一度もない」

「公安調査庁や米がテロリストに指定しているハマスがミサイルを撃ち込んでいる」

 等と釈明(*4)。

 5月14日、イスラエルの駐日臨時代理大使は、

「我々が聞きたかったことであり、感謝している」

 と歓迎した(*4)。


 そして開戦から約10日後、急遽、エジプトの仲介により停戦となった。

 それでも余談を許さない。

 イスラエルでは、軍事行動継続支持派が多数派なのだ(*5)。

 調査:684人

 誤差範囲:±4.3%

 軍事行動継続支持:72%

 停戦支持派   :24%

(5月20日 タイムズ・オブ・イスラエル紙)


 イスラエルと仇敵であるイランも不審な動きが見られている。

『【イスラエル・ハマス停戦合意は一時的か。“火に油を注ぐ”イランの「ロケット弾支援】』(*6)


 そして、2022年。

 テルアビブは、スヴェンと接触を図っていた。

『《ソロモン》は、か?』

「いえ、御帰国の意思は無さそうです」

『そうか……若し、その意思が確認出来れば、報告を』

「は」

 電話を切り、スヴェンは息を吐いた。

 そして、ベッドに潜り込み、煉の写真にキスをする。

(師匠、悪い女で御免なさい)

 心の中で謝りつつ、何度も何度もキスするのであった。 


[参考文献・出典]

*1:シモン・ペレス 第9代イスラエル大統領 2016年9月28 日 WIREDのインタビューにて

*2:ウィキペディア

*3 :読売新聞 電子版 2021年5月16日 一部改定

*4 :毎日新聞電子版 2021年5月14日 一部改定

*5 :ニューズウィーク 2021年5月21日

*6:ビジネスインサイダー 2021年5月24日

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