第110話 独立と災厄

 1948年。

 中東は、大きな転換期を迎えていた。

 イスラエルの独立である。

 イスラエルの初代首相、ベングリオンは、次のように証言する。

『アメリカの国務省は我々の建国に反対し、こう主張していました。

「国土が無くては、国家は存在しえない』(*1)

 ……

 当時のアメリカの大統領、トルーマンは、次のように証言する。

『専門家達は、こう言っています。

「ユダヤ人国家が建設されれば、中東の全ての国々とアメリカも戦禍に巻き込まれるだろう」

 ホロコーストの悪夢を私は、未だに見るのです。

 ヒトラーの狂気の犠牲者達が、新たな人生を築けずに居るのをアメリカ政府は見過ごせません』(*1)

 ……

 これに対し、反対の立場を示したのが、マーシャル計画プランで有名なジョージ・マーシャル国務長官だ。

『我が国が重大な局面を迎えている今、国際問題に感情的に摂ろ汲むべきではありません』(*1)


 これが、イスラエルの建国前のアメリカの大統領と国務長官の対立である。

 トルーマンは、マーシャルを呼んで説得を始める。

 大統領顧問のクラーク・クリフォードは、回顧する。

『大統領は、国務長官の話にじっと耳を傾けては、今度は、

「クラークの意見を聞きたい」

 と、私の発言を促しました。

 私が話し始めると、国務長官の顔は見る見る赤くなっていき、到頭、怒り心頭に達しました』(*1)

 

 ユダヤ人機関中米代表のアバ・エバンは、次のように証言する。

『国務長官は、更にクリフォード氏にこう言いました。

「ユダヤ人に国家は必要無い。

 国家を持つに値しない。

 あそこは、彼等の物ではない。

 あの領土は、彼等が盗んだ物だ」』(*1)


 クラークは、続ける。

『それから国務長官は、大統領にこういいました。

「何故、クリフォードがこの場に居るのか分かりません。

 すると、大統領は、

「クリフォードは、私が呼んだからここに居る」

 と静かに答えました。

 国務長官はそこに座ったままでしたが、まだ興奮している様子でした。

 やがて彼は大統領の方を向くと、こう口火を切りました。

「これだけは申し上げておかねばなりません。

 クリフォードが提案した政策を採用するのであれば、11月の選挙で貴方に投票する事は出来ません」

 部屋は、水を打った様にシーンとなりまりました。

 全く前代未聞の事でした。

 アメリカの大統領が、あの様に脅されるとはね。

 話し合いの後、書類を片付けていると、大統領がこう漏らしました。

「実に頑固だったな」』(*1)

 

 ベングリオンは、当時の会見で以下のように述べた。

『私は、国務省にも軍部にもうんざりしていました』

 と、後にトルーマンは会見で述べている。

 但し、トルーマンはマーシャルの了解なしにイスラエルに介入する気は無かった。

 その間、アラブ諸国の5か国はパレスチナの国境線に派兵し、イギリスの撤兵後、介入する好機を伺っていた。

 ベングリオンは、アメリカを頼みの綱とせず、独力で独立する事を決意する。

『迅速な行動が必要でした。

 私は、独りで決断しました』(*1)


 そして、1948年5月14日。

 ベングリオンは、宣言する。

『本日、イギリスの委任統治は、終了する。

 我々は、古代からユダヤ人の物である地に「イスラエル国」と呼ばれる国家の独立を宣言する』(*1)

 会場は、割れんばかりの拍手に包まれた。

 約2千年もの間、放浪していた人々が、やっと国を持てたのである。

 建国以来、外国に支配された歴史を持たない日本人には、理解し難い感慨深さがあった事は言うまでもない。

 イスラエル独立は、アメリカに既成事実として伝えられ、マーシャルは屈服。

 トルーマンはそれを認め、アメリカはイスラエルを初めて国家として認めた国になった。

 周辺諸国を敵国に囲まれたイスラエルが存続する為には、軍事大国になるしかない。

『国を存続させるには、軍事力が必要です。

 国の大きさは、軍事力で決まるのです』(*1)


 そして、2021年。

 世界が新型ウィルス対策に忙しい中、イスラエルとパレスチナは、再び全面戦争の可能性が高まっていた。

 

[参考文献・出典]

*1:『50年戦争 イスラエルとアラブ』第1回 建国と亡国 ~第1次・第2次中東戦争~ 1998年 NHK BBC



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