第88話 Liberté, Égalité, Fraternité
令和3(2021)年12月。
独立派は元々、ドイツ系と仲が悪い派閥なので、穏健派のフランス系は独立運動に加わる事は無かった。
穏健派はフランス系であっても、何世紀もこの地に根付き、自分がフランス系という
一方、独立派のフランス系は穏健派と比べると、最近、移住して来た勢力であった。
彼等はフランス語を喋り、フランスの文化に誇りを持ち過ぎた余り、現地に順応する事が出来なかった人々だ。
公用語である英語を拒否し、フランス系ばかりで集まる彼等は当然評判が良くなく、中央政府も独立運動を拒否。
ユダヤ人程の有能な能力があれば自治区の設置を認め、一国二制度並の強力な権限を与えるのだが、フランス系にはそれ程の能力が無い。
然し、扇動者は諦めなかった。
秘密裡にカリオストロ等のフランス系の王族と接触し、資金援助をしてもらっていたのであった。
カリオストロが、アドルフに提案する。
「陛下、無慈悲に拒否をすれば、我が国が冷酷である事を国際社会に宣伝してしまいます。ここは、一つ、住民投票で決定された方が温情かと」
「……分かった」
アドルフは、余り乗り気ではなかったが、承諾した。
住民投票を認めれば、他のイギリス系やロシア系等の諸勢力も、ドミノの様に、一気に独立運動を起こす可能性が考えられたから。
分かり易く言えば、ベルギーの例が近いだろう。
ベルギーは、オランダ系とフランス系が二大勢力である。
両勢力が独立運動を起こさないのは、王室の下で
然し、逆を言えば、王室の魅力が無くなれば両勢力は独立運動を起こす可能性があった。
現に1990年代、当時の国王の人気が低下すると共に、両勢力の
一時は分裂が危惧される程、ベルギーは危機に陥った。
この時は様々な理由があって、結局、ベルギーは現在の様に存続出来ているが、今後、あの様な事が二度と起きないとは言い切れない。
それでも、アドルフが認めたのは、やはり、国際社会の
イギリスでは、スコットランドの独立運動が盛んで、近年、国民投票が行われた。
この時は、僅差で残留派の勝利に終わったが、トランシルバニア王国でも同じになるかは分からない。
国王の同意を得たカリオストロは、内心で嗤う。
(これで決まりだ)
と。
『【トランシルバニア王国のフランス系住民、独立運動開始】
同国の少数民族であるフランス系住民が、独立運動を開始した。
同国では欧州系の多民族国家であり、王室の下で纏まっているが、民族対立が無い事は無い。
アドルフ国王は、
「民主主義国家の下で、独立運動を安易に拒否する事は出来ない。住民投票で決定し、双方納得の結果を期待している」
とコメントした。
当初、中央政府は拒否をしていたが、国王の介入により、一転、住民投票を決めた。
最新の世論調査では、フランス系住民の間では、
賛成派 :35%
反対派 :65%
と、反対派が大きくリードしているが、フランス系の王族の動向次第では、逆転する可能性も考えられる』
———
「……」
読み終えた後、俺は、違和感を覚えた。
(きな臭いな)
・欧州難民危機による反イスラム主義
・新型ウィルスに関係する反東洋主義
により、欧米では、
トランシルバニア王国も多民族国家なので、フランス系の様に、独立運動を始めるのは、分からないではないが。
「スヴェン」
「は」
前開きで襟ぐりの深い短い袖なしの
痴女なスヴェンが着ていても、可愛く見えるのは、民族衣装マジックであろう。
「フランス系は、独立心が強いのか?」
「いえ、全然。ケベックとは違い、少数派ですし、独立しても、
「だろうな」
記事が出るまで、独立派なんて聞いた事は無かった。
フランス系の独立運動と言えば、ケベックの方が有名だからだ。
―――
『【ケベック独立運動】
カナダにおけるフランス語圏であるケベック州が英語圏からの分離独立を目指す政治運動。
1960年代 分離独立を求める諸派が集まりケベック党を結成
1963年、
1967年7月24日
フランスのド・ゴール大統領が訪問先のモントリオールで行った「自由ケベック万歳」発言により、独立運動盛りあがる。
1968年以降 カナダ政府に対し、
・ケベック州自治強化等の憲政上の交渉
・分離独立を争う住民投票を要望
等の活動を行ってきた。
1970年10月5日~12月27日 『10月危機』
FLQによる連続テロ事件。
1980年
「主権・連合構想」住民投票 約6割の住民がこれに反対。
1982年 カナダ新憲法
カナダ権利自由章典(仏語系文化、仏語保護明記)
により、「主権・連合構想」は下火に。
1987年 ミーチ・レーク協定(1982年憲法にケベック州の批准失敗)
1992年 シャーロットタウン協定(同上)
1995年 独立住民投票 賛成49%、反対51%』(*1)
―――
余談だが、
同時期、日本でも連合赤軍が、一連の事件で共鳴者を失い、昭和47(1972)年に解散している。
「……」
「師匠?」
「運動の背後関係を洗え。面白い物が出て来るかもしれんぞ?」
「……! は!」
俺の真意を悟ったらしく、スヴェンは敬礼し、仕事に移る。
「……」
「シーラにも仕事はあるよ。
「?」
「そう。楽園だよ」
そう言って、俺は地図上のリトル・セント・ジェームズ島を指し示すのであった。
2人が仕事をする間、シャロンが首を傾げていた。
「パパ、何かあるの?」
「無いよ」
「無いの?」
シャロンは、眉を顰めた。
無駄な事をさせているのでは?
と疑っている顔だ。
「パナマ文書と一緒だよ。火のない所に煙は立たぬ。少数派の独立派の活動資金は何処から出てる? パナマ文書はもうバレた。でもあの島は、まだ秘密が多い。金持ちが支援者の可能性がある」
「……! まさか王族が?」
「醜聞の多い、王族があの国には居たろう? まだまだ推測だが、可能性がある以上、調べるに超した事は無い」
「……」
ネオナチの次は、
トランシルバニア王国は、今日も大忙しだ。
煉が仕事をする間、日本も又、大忙しであった。
白人至上主義と暴露された外交官は次々と事故死し又は、
事故死は、運であるものの、後者に関しては、2012年に駐日シリア大使を指定して以来の事であり、又、対象者が欧米であった事から、世界から驚かれた。
アメリカの同盟国であり、欧米とは殆どの場合で協調関係にある日本のこの強気な
特に欧米と仲が悪い、イスラム圏では好意的に報じられる。
———
『【サムライ、復活。21世紀の
『【欧米社会に衝撃。日本の反撃開始か?】』
『【
———
信介は、満足気だ。
「まずは一太刀」
一方、ホワイトハウスは、真逆の反応だ。
「大統領、電話会談で叱りましょう。追放された者には、我が国の人間も含まれています故」
側近達の進言であるが、人権派の大統領は、弱腰だ。
「気持ちは分かるが、追放者は人間的に問題があった人物なのだろう? 反論すればか彼等を擁護しかねない。国民に如何映る?」
2020年、アフリカ系の男性に対する警察の姿勢が問題視され、
現政権は、その大きな支持の下で当選を果たした為、BLMを刺激する様な真似は好まれないのだ。
今春には、ロシアの外交官を追放している手前、ロシアに対する重要な拠点である日本との関係悪化は避けたい所でもある。
大統領は、就任1年目で難しい舵取りが迫られるのであった。
[参考文献・出典]
*1:ウィキペディア
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