第65話 49
令和3(2021)年10月21日は、第49回衆議院議員総選挙の実施予定日だ。
投票日まで数日を切った10月中旬。
北大路家も選挙活動で忙しくなる。
与党・旭日党と支持母体の一つである医師会に所属している以上、院内に地元の選挙区で出馬予定の国会議員のポスターが貼られていく。
病院が政治に介入するの? と思う人々は多い事だろう。
然し、個人経営なので、政治色を強くしても何ら問題無い。
公立病院だと、問題視されるだろうが。
「大変だな」
「毎回の事だよ」
と、言いつつ、司は楽しそうだ。
代々、続く家の伝統だ。
母子共に苦ではない。
むしろ、
アメリカでも、選挙はお祭りの様な感覚だ。
俺も支持していた政治家が、当選したら、我が事の様に大喜びしていたものだ。
政治への関心の無さが日本では問題視されているが、自分の生活に直結する為、何故、関心を持たないのか、不思議でたまらない。
独裁国家では、多くの民衆が民主主義国家に憧れを抱いているのに、当の日本がこれじゃ駄目だろう。
一度、痛い目を遭わないと、この体質は変わらないのかもしれない。
結局、最後に泣く事になるのは、自分自身だというのに。
「パパは誰に投票するの?」
選挙権を持たないシャロンは、今回の選挙は傍観者だ。
「決めてないよ。
「真面目~」
シャロンは、俺の傍から離れない。
司から求婚された事を聞いて以来、ずっとこの調子だ。
俺の頬をぷにぷに。
「赤ちゃんみたいな弾力」
「誰が数奇な人生だ」
机上に学術誌を出す。
「これは?」
「私の論文が載ったんだよ。凄いでしょ?」
世界的に有名な日本学の専門誌にシャロンの名前が掲載されていた。
論文の題名は、『明治維新は何故成功したのか?』。
ありきたりだが、学術誌に採用される位、新鮮な内容なのだろう。
本業は、日本学の研究者。
どんどん、その道を
「ほえ~。よう分からんが、凄いな?」
「そう言う事♡」
シャロンは、俺の手を握る。
「たっ君」
ドン!
と、目の前に
罰ゲームで御馴染みのそれは、俺が苦手とする飲み物の一つだ。
「……どうぞ」
目が、獅子のそれだ。
飲まないと殺す、と暗に伝えている。
仕方なく飲むと、口内に苦味が。
不味い。
吐きそう。
生産者に悪いが、不慣れの者には、拷問に感じる位の不味さだ。
「もうパパったら汚いよ」
シャロンに口元をタオルで拭かれる情けない父親であった。
家族と過ごしつつも、仕事も熟している。
「シーラ、狙撃手ってのはな? 知っているとは思うが、上手くなる秘訣は、習熟だ」
「……」
「そうだよ。シモ・ヘイヘも言ってたな?」
プレハブ小屋の地下射撃場で、シーラに講義していた。
「はい! 師匠!」
「何だ?」
「待つ事も狙撃手にとって、必要不可欠な事ですよね?」
「そうだな」
確認戦果309を誇るソ連史上最高の狙撃手、リュドミラ・パヴリチェンコ(1915~1976 最終階級少佐)は、教え子に、
『正確に撃つ為には待つ事が必要。待てないから撃たれるのよ』
と教えていた、とされる。
これは、他の狙撃手にも通じるもので、ゴルゴ13も標的が来る迄待ち続ける。
虫刺されに遭っても、日が落ちても。
「でも、それも又、習熟の一つだ。待つ事も大事だけどな。それだけが、全てじゃない」
「はい! 師匠!」
すっごい大声。
煩いな。
Ad〇の曲を口
「師匠、師匠♡」
「んだよ?」
「私も秘書官に自薦します」
「!」
シーラが目を剥く。
「いや、もう居るけど?」
「私の方が適任です!」
「その根拠は?」
「シーラ二等兵如きより、階級が上であり、又、前世からの長い付き合いでありますから故!」
「成程な」
「!」
今度は、俺を見るシーラ。
首の関節がその度に鳴る。
忙しいな。
それと神経を傷めないか、心配だ。
「では、師匠! 私を秘書官に―――」
「自惚れるな」
「ぎゃ!」
額にデコピンされ、スヴェンは、吹っ飛んでいく。
壁にぶち当たり、恥ずかし固めの様に開脚。
女子隊員だったらミニスカートなので、パンチラであったが、スヴェンは、男装が気に入っているのか、ミニスカートが嫌なのか。
スラックスの為、その様な心配は無い。
「し、師匠?」
「自信満々は、認めるが、それだけで秘書官にする事は無い。シーラは、狙撃は苦手だが、観察力は優れている。その点、スヴェン。貴様は、武芸には、秀でているが、声の音量をずーっと間違っている。俺との距離感も近過ぎる。秘書官を目指すのならば、そこを改善するのが、先だ」
「……!」
シーラは、大きく目を見開き、俺の手を握ってブンブン振る。
感謝の意を示しているらしい。
可愛いなぁ。
俺は、そんな彼女を膝に置いた後、
「それと、先程の二等兵に対する軽視は、見過ごせんな。仲間である以上、敬意を払え。良いな?」
「……はい」
しゅんと項垂れるスヴェン。
じんわりとスラックスが濡れる。
俺に怒られたショックで失禁した様だ。
超有能であるが、俺に対する精神力は、幼稚園児
これも改善点の一つの様だな。
俺は、シーラの頭を撫でつつ、スヴェンの扱いに困り果てるのであった。
オリビアとの会食も仕事だ。
今日は、プレハブ小屋に来た。
普段は領事館に住んでいるのだが、時々、俺の
凄いね。
上級国民様だぜ(皮肉)。
「正妻は、諦めました」
「何?」
分厚いステーキを頬張りつつ、オリビアは、宣言した。
「なので側室を目指しますわ。正妻は、司様に御譲りします」
「……」
物凄い上から目線。
流石、上級国民(以下略)。
俺もステーキを食べる。
訓練で体を動かす為、こういうのは、必要不可欠なのだ。
オリビアは、フリフリのドレス。
所謂、ゴスロリという奴だ。
トランシルバニア王国でも、
今後は、工場が出来て国内生産も行うらしい。
トランシルバニア王国は、
・島国
・親日国
という2点から北欧版台湾の様に見られ、最近では、日本人観光客が多数訪れる様になり、日系企業の進出から駐在員も沢山移住している。
ライカは、今日は、メイド服。
秋葉原で見る様なあれだ。
原宿に秋葉原。
2人が日本人ならば、ここが、日本と勘違いするかもしれない。
因みに俺は、プールポワン。
中世
白い
欧州人男性が着ると似合う物であって、外見が日本人の俺が着ても、
正直、着たくは無いのだが、司に好評なので、嫌々着用しているのが、本音である。
「……」
オリビアや俺が紅茶を飲み干すと、その都度、御代わりを入れてくれる。
自分で注がないのは、不思議な気分だが、有難い。
でも、
「……何ですか?」
「いや、似合ってるな、と」
「セクハラで訴えますよ」
褒めたらこの
無視したらモラハラ、と言われるだろう。
生き辛い世の中になっちまった物だぜ。
「勇者様、何故、
「本当に似合っていたからな」
「
「似合ってるよ」
「そうでしょ~♡」
一瞬にして、機嫌が直る。
扱い易い王女様だ事。
「それで側室ってのは?」
「勇者様は、司様に純愛なのは、普段の生活を見て理解しましたわ。
「……」
「ですが、母娘2代の夢であり、恋なのです。勇者様とは、添い遂げたのです」
「……そうか」
俺も純愛だが、オリビアも又、純愛なのだ。
その想いは、若しかしたら、俺以上に深いかもしれない。
何せ国と亡き母を背負っているのだから。
然し、同情はするが、それで譲歩は出来ない。
「若し、それが不可能であれば、事実婚を検討していますわ」
「無理じゃね?」
事実婚が認められる要件・要素は以下の通り。
――
『①お互いに婚姻の意思を持っている事
お互いに婚姻し様と意思を持ち、共同生活をする。
又、法的に「婚姻の意志を持った事実婚である、内縁関係である」と評価されるには、お互いが結婚したいと思っているだけではなく、客観的に夫婦と認識されている必要がある。
具体例
・親族に生涯のパートナーと紹介
・結婚式
②共同生活をしている事
婚姻の意思があっても別居状態であれば事実婚と認められない可能性が高い。
「何年以上同居したら事実婚」等といった、共同生活の期間や年数に関する厳密な決まりは無いが、ある程度の継続性は要求される。
一般的に3年程度の実績があれば事実婚と認定され易い。
③事実婚(内縁関係)を公的手続きにも表明している事
住民票に「未届の妻(夫)」と表記されている等、公的な資料によって「夫婦」と記されていたら、事実婚を示す有力な資料となる。
役所に事実上の夫婦である事を申し立て、住民票に「妻(未届)」と記載し届け出る事が可能だ。
その他にも、社会保険に第3号被保険者として登録していたり、事実婚を証明する私的契約書(内縁契約書)を調印していたりすれば、更に有効な資料となるだろう。
④子供を認知している事
夫婦間に生まれた子供を認知している場合も、事実婚であると評価される。
又、連れ子であっても養子縁組をしていたり、自分の子供として養育した実績があったりすれば、事実婚と認められる可能性がある』(*1)
―――
これらに当てはまれば、俺達は、どれも該当しない。
が、それでも、オリビアは、本気だ。
「子供を作ればいいんですわ」
「……は?」
思わず、ナイフを落とした。
「……マジで言ってんの?」
「はい♡」
「……」
俺は頭を抱えた。
「……退職願出すわ」
「では、同居ですわ」
ライカが、机上にドル札を山積み。
日本円で1億円だろうか。
借金塗れの我が家には、魅力的な金額だ。
(家の為だ。司、許せ)
大恩ある皐月を楽させる為に、俺は頷いた。
「……同居だけだぞ? 側室は、駄目」
「勇者様のけち~♡」
と、言いつつ、微笑むオリビア。
その遣り取りに俺は、シルビアとの淡い思い出を連想するのであった。
(……殿下、貴女の子供は元気ですよ)
天国に届いている事を祈りつつ、紅茶を飲むのであった。
[参考文献・出典]
*1:離婚弁護士ナビ
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