THE 4DAYS OF SNOW AND BLOOD
第61話 The Kingfish
世界は、昨今の新型ウィルスによって新時代に入った。
自粛により、失業者が増加し、民主主義国家で
特に顕著なのが、イギリス、ドイツ、イタリア、フランス、ベルギーの5か国。
これらの国々では、移民が多く、一部の地域では、治安が悪い。
失業者は、「移民に仕事を奪われている!」と主張する政党を支持し始めたのだ。
テロも多い。
ワクチン接種の会場が爆破テロに遭ったり、重症患者の病棟が銃撃される等、事件が相次いでいる。
厄介なのは、テロリストがイスラム過激派だけでない事。
マスク着用義務化反対派や新型ウィルス=風邪の一種説を唱える人々の強硬派が、事件を起こしているのだ。
これにより、欧州は、混乱が深まっていた。
『―――ドイツでは、トルコ人労働者が殺され、その遺体には、
「……」
国営放送の報道を、オリビアは、真剣に見詰めていた。
ネオナチは、外国人だけでなく、裏切者であるトランシルバニア王国をも目の仇にしている。
何れ、ユダヤ人自治区だけでなく、本土でもテロ事件が起きるかもしれない。
「朝から暗いニュースですね?」
ライカが紅茶と新聞を差し出す。
トランシルバニア王国はドイツ系が多い国民だが、多文化社会だ。
朝はイギリスの紅茶。
昼は日本茶。
夜は葡萄酒と、見方によっては節操がない。
それでいて、国民に民族対立が無いのだから不思議な国ではある。
1990年代、ベルギーでドイツ系やフランス系の民族主義政党が支持を伸ばし、一時、国家が分裂しかけた例があるというのに。
日本茶が好まれているのは、ODAと
日本は民主化後、アジアで最速に自国を承認し、大使館も東京の一等地を用意してくれた。
資源が乏しい為、好印象を与え、北海油田に関わりたい、という魂胆は
アメリカとも中東ともイスラエルとも仲が良い世界では、珍しい国だ。
又、皇室と良好な関係を構築出来れば、日本国民の自国に対する印象も良くなる。
例えば、タイやイギリス等、皇室と交流のある国々は、日本人でも有名な国家だ。
日系企業と日本人観光客の誘致等の為には、トランシルバニア王国も対日関係を重視しているのである。
「暗いけど、事実よ。目を逸らしちゃ駄目よ」
「はい。ごもっともです。あと、殿下」
「何?」
「先程、外務省から御電話がありました。『会談出来ませんか?』と?」
「相手は、誰?」
「首相と外務大臣です」
「我が国の? 何でまた―――」
「いえ、日本です」
「……へ?」
思わず、オリビアは、カップを落とす。
がっちゃーん!
大きな音と共に破片が飛び散った。
朝。
(……暑い)
暑苦しさを感じつつ、俺は目覚めた。
昨晩は、熱帯夜。
汗のかいた衣服を着ていると風邪になり易いからだ。
それに衛生的にも悪いし、気持ちも悪い。
漸く寝れても、結局は、発汗していた様だ。
畜生め。
夏は好きだが、汗は嫌いだ。
立ち上がろうと手を突いた時、むにゅん。
何か柔らかな感触が。
「? ―――!」
鷲掴みにしていたのは、シャロンの胸。
あろう事か、下着で寝ている。
(この野郎、夜這いにでも来たのか?)
冷静に起こさぬよう、そっと離す。
ふー、危ない所だったぜ。
ラブコメならここで悲鳴を上げられて平手打ちだが、俺はそんなへまはしない。
俺が胸を揉むのは、司だけだ。
婚約者以外に手を出すのは、去勢されても可笑しくは無い大罪である。
逆方向から出様と寝返ると、
「!」
「zzz……」
秘書とばったり。
絵になる位、静かに眠っている。
可愛いなぁ、目に入れても痛くない程の華憐さだ。
起こさない様に、こちらも注意しなければならない。
左右を挟まれている為、俺は2人に気を遣いつつ、起き上がる。
「お早う御座います♡」
「……お早う」
スヴェンが、蓑虫の如く、天井から釣り下がっていた。
この野郎。
昨晩は、司の部屋で寝ていた筈だが、真夜中、こっそり、侵入し、俺達を観察していた様だ。
縄を切って、スヴェンは、空中で1回転し、床に着地。
相変わらず、凄い身体能力だ。
「師匠、寝顔可愛かったですよ♡」
「……有難う。そういうお前は、寝たのか?」
「数時間だけ―――」
「馬鹿。寝ろ」
「師匠♡ お優しい♡」
怒ってもこの反応だ。
ある意味、司よりも強い。
俺に抱き着き、頬擦り。
発情しているのか、雌の様な匂いがする。
俺の頬に吸い付き、舐める。
「はぁ♡ 師匠、大好き♡」
「有難う。でも、それが遺言で良いんだな?」
「え?」
「お早う……」
「……」
シャロンとシーラが起き上がり、スヴェンを睨む。
俺を押し倒した衝撃で寝台が揺れ、それで起床したのだ。
「あ、ええと……今日も御日柄は良く―――」
「
シャロンが、スヴェンの首根っこを掴み、自室に引き摺って行く。
「ああ~師匠~……!」
哀れ、愛弟子2号は、罰に遭うのであった。
罰の内容?
知りたくないね。
Need not to knowだよ。
「(……少将)」
おお、久し振りに地声を聞けた。
相変わらず、小さいが、聞こえない事は無い。
「如何した?」
「(……あの人、嫌い)」
「そうか……」
予想は出来ていた。
2人が目線を合わす事も、会話をした事も俺は殆ど見た事が無いから。
「……」
無言で、俺の顔に付着した唾液をティッシュで拭きふき。
ええ
嫁入りした時、嫉妬で相手を殺したくなるかもしれない。
世界一、ええ娘やでぇ(感涙)。
「ま、無理に仲良くする事は無いからな」
「……」
嫌そうだが、頷く。
正直だ。
「それより、シーラ。何で俺と添い寝してたんだ?」
「(! そ、それは……)」
「嫌なら無理に答えなくて良いからな。仕事とは無関係だから」
数瞬、迷った表情を見せた後、
「(……少佐が熱帯夜だと……寝辛いかな? と心配し、様子を見に来たんです)」
「そういう事か。心配してくれて有難う」
御礼に頭を撫でると、
「……♡」
嬉しそうに鼻息を荒くする。
不思議だなぁ。
場面緘黙って。
かと言って、治療を強制したり、無理矢理喋らす事は無いが。
「(御礼に、朝食、作ります)」
「良いよ。自分で作れるし」
「(少佐は、御疲れでしょうから、お休み下さい。御願いします)」
真面目な顔で言われると、俺は、そうせざるを得ない。
「じゃあ、頼んまぁ」
毛布を被って、二度寝に挑む。
(少将には、健康体で居て欲しいですからね。睡眠は大事です)
俺を想って朝食を作り始めるシーラの鼻歌をBGMに眠るのであった。
朝8時。
シーラが作ってくれた朝食を、俺達は摂る。
・白御飯
・味噌汁
・漬物
非常に質素だ。
「シーラちゃん、料理上手ね?」
「……」
シャロンに頭を撫でられ、シーラは、ニヤニヤ。
因みにスヴェンも一緒に居る。
シャロンにボコボコにされたらしく、頭には、綺麗にたん瘤が御団子の様になっている。
「……師匠、涙の味がします」
「「……」」
2人の睨みも利かず、スヴェンは、俺にしな垂れかかる。
モサドが鍛えた強心臓は、正直、羨ましい。
スヴェンを適当にいなしつつ、
「シーラ、美味しいよ。有難う」
「♡ ♡ ♡」
仲良く(?)食事する。
その時、
『勇者様、ご在宅ですか?』
と外から声が。
『無視するのであれば、丸太で打ち壊しますからね』
何ちゅう、脅し文句だ。
窓から覗くと、本当に親衛隊が丸太を持っていやがる。
何処までハッタリか本気かは定かではないが、開けた方が、身の為だろう。
「はいよ」
「……」
シーラが開錠する。
別に俺が開けても良いのだが、専属秘書官を自負する彼女は、極力、俺を動かしたくない様だ。
俺が悪い男ならば、ヒモになるだろうな。
「勇者様、早朝より失礼します」
オリビアとライカが入室する。
他の隊員は、入らない。
オリビアへの配慮か。
ライカの指示か。
兎にも角にも、俺は、2人と関係が近いのは、確かだ。
大人数で入って来るより、2人だけの方が良い。
2人は、スーツを着ている。
珍しい日もあるんだな。
「急な御願いですが、会談がセッティングされました」
「誰と?」
「永田町です」
「「「!」」」
シャロン達は、目を見開く。
オリビアが真面目にならざるを得ない程の人物は、この国では、閣僚
「その大臣様が、何用なんだ?」
「総理は、私達の結婚を祝したい様です」
「……総理?」
「はい」
オリビアの表情は、崩れない。
何時もの調子は何処へやら。
「……拒否出来る?」
「出来ますが、その後は如何なるか分かりません。我が国に亡命しますか?」
「遠慮するよ」
俺は、立ち上がって、夜着からオリビアから下賜されたスーツに袖を通す。
「パパ?」
「民主主義でも拒否権は無いんだよ」
要請=命令。
これは、新型ウィルスの自粛で明確になった。
日本政府は、罰則規定を強化し、今では、入院拒否者に罰金刑を課す程、対策に努めている。
日本とは、公安に監視されている事もあり、極力、仲良くしていきたい。
住んでいる以上、その国の政府とは良好な関係を構築するのは、当然の事だろう。
郷に入っては郷に従え、だ。
「他に帯同出来るのは?」
「私達と司様ですわ」
「司は?」
「先程、御説明しました」
「説得出来たか?」
「いえ。ただ、動揺されていましたわ」
「だろうな」
俺も司の立場なら嫌だ。
分からないが、恐らく、政府は、政界に大きな影響力を持つ医師会の幹部である皐月が親である以上、司を無視する事は出来なかったのだろう。
若しくは、皐月が
兎にも角にも、オリビアだけだと事実婚認定されそうなので、本妻の司が一緒だと安泰だ。
「師匠……」
「……」
愛弟子達が心配そうに見詰めている。
「大丈夫だよ。直ぐに帰って来るから」
2人の頭を撫でつつ、俺は。内心で溜息を吐いた。
目を付けられたか、と。
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