第51話 affettuoso

 明け方。

 俺は、目覚める。

 胸元がスース―する。

 見ると、

「……?」

 何故か、上半身を脱がされていた。

 犯人は、恐らくこいつだろう。

(……何やってんだよ?)

 右腕を枕にしているのは、シーラ。

 司の義理の妹になった事でそれ以来、与えられた個室で寝ている筈なのだが、何故か目の前に居る。

 起き上がろうにも、左腕を皐月が枕にしている為、これでは便所にも行けない。

「……むにゃむにゃ」

 寝惚けた皐月の胸元がはだける。

 おお、良い形だ。

 美容外科もしている為、美乳である。

「……ん?」

 下半身に違和感が。

 見下ろすと、シャロンが足に抱き着いていた。

「……後は、司だけか?」

「呼んだ?」

「!」

 直後、枕が動き、司がこんにちは。

 寝台をき、潜んでいた様だ。

 都市伝説の一つ、『寝台ベッドの下の男』の様だ。

 全員揃った、という訳である。

「……何時からそこに?」

「昨日だよ。お母さんが寝る前に忍び込んでいたんだ」

 にんまり、と笑う。

「……何故に?」

「たっ君がお母さんと間違いを犯さない様に監視する為だよ」

「……無実だろう?」

「うん。でも嫉妬はしたけどね。何回もキスして。私には一つもしてくれないのに」

「……分かったよ」

「え―――」

 困惑する司の唇に自身のそれを重ねる。

「「……」」

 俺の視線に司は、恥ずかしいらしく目を逸らす。

 が、唇は離さない。

 10秒程経った頃、漸く離れる。

「……な?」

「……馬鹿」

 司は梅の様に赤くなると、慌てて寝台から這い出て、逃げて行った。

 初心なだ。

 と、

「朝から見せ付けわね?」

 皐月が起き上がる。

「昨日は、あれだけ慰めてくれたから前戯だと思って期待したんだけど」

「……母親の言う台詞じゃねーな」

「子供欲しいからね」

 俺の頬に接吻後、皐月は腕を絡める。

「昨晩の煉の助言通り、暫くは休むわ」

「そりゃあ良かった」

 一般の自営業者だと、中々なかなか自己都合で休めないだろう。

 然し、北大路総合病院は個人病院だ。

 皐月次第で何時いつ開けようが、自由なのである。

「そうよね。未来の

「……ん?」

「何度でも言うわ。院長先生♡」

 皐月は、俺の頬を指で突っつく。

「……俺、医師になる気は無いけど?」

「個人病院だから合法よ。医療行為する訳じゃないし」

 要は名誉職の様な感じなのだろう。

「……将来は、私達を支えてね?」

「勿論だよ」

母娘丼おやこどんでも良いわよ♡」

 最後まで最低な母親であった。


 1週間の臨時休業が決まり、北大路総合病院は、閉鎖される。

 重篤な患者や入院患者は転院し、外来患者も紹介状が作られ、他の病院へ。

 24時間365日、誰かが居る病院の閉鎖は、意外にも世間から好意的に受け止められた。

 ―――

『やっぱり、医者でも働き過ぎはよくないと思うね』

『そうそう。そも働き過ぎよ。医者もサービス業も』

 地域に根差す総合病院の臨時休業のニュースは、全国放送された。

 地元で意識調査した結果、『医者の休暇』について、

 賛成   :90%

 反対   :6%

 分からない:4%

 となった。

 その多くが、皐月の働き過ぎを理解し、同情していたのだ。

 大義名分を得た以上、皐月も大手を振って休む事が出来る。

『病院の自己都合による休業は、意外にも地元住民に好意的に受け入れられ、今後は、医療従事者の人員確保の為にも定休日の導入が、各病院で検討される事でしょう』

 ―――

「うふふふ。病院経営に一石を投じる事になった様ね?」

「そうだな」

 泡風呂に俺達は、浸かっていた。

 この浴室は普段は、滅多に使用されていない。

 元々は皐月と前夫が使っていたらしいが、前夫の早逝後、彼女は前夫との思い出が詰まるここを閉鎖していたのだ。

 掃除は、皆でした。

 非常に大きな浴槽の為、手伝ってくれ三人娘―――皐月、シャロン、シーラも一緒だ。

 文字通り、家族水入らずである。

仕事中毒者ワーカホリックなお母さんが、よく1週間も休もうと決断したね?」

「恋で色々変えたのよ。過労死したら孫が見れないでしょ?」

「まぁ……」

 皐月は俺をバックハグし、肩に顎を乗せる。

 そのただならぬ気配に、司は眉を顰めた。

「……お母さん、本気なの?」

「そうよ。あ、大丈夫。寝取る気は無いから。都合のいい女で」

「……母親の言葉じゃないね?」

「恋は、老けさせないものよ」

 スキンシップが激しい。

「たっ君もデレデレし過ぎ」

「そりゃあこんな美人母娘に囲まれたらそうなるよ」

「あ、私も原因?」

「そうだよ」

 認めて俺は、皐月を抱き寄せる。

「あ……」

 そして、膝に乗せた。

「……たっ君?」

「最愛の人は、皐月だけだよ」

「……もう♡」

 照れる皐月。

 挿入される、とでも思っていたのか、引けていた尻を俺の太腿に密着させる。

「……このまま、しちゃう―――」

「だ~め~」

 シャロンが割って入った。

 大きな乳揺れ。

 おお、成長したものだ。

「パパ、駄目だよ? 私を先に幸せにしなくちゃ?」

「幸せ?」

「そうだよ。パパは夫でもあるんだから」

 ……うん。

 意味が分からないね。

 ソニー・ビーンかな(すっとぼけ)。

 俺を無理矢理、引き抜き、シャロンは俺を膝の乗せ、可愛がる。

「パパ、離れちゃ駄目だよ。まずは私から幸せにするのが筋でしょ? 家族ファミリーなんだから」

「……そうだな」

 確かに、シャロンの言う通りでもある。

「という訳で、パパ、Marry me.」

 こういう場合、返答は、

・Yes.(はい)

・Yeah.(うん)

・Yeah, I’ll marry ya.(いいよ、結婚する)

・OK/Sure.(いいよ/勿論)

・Why not.(そうしよう)?

・Are you sure.(本当に)?

・Are you serious.(本気なの)?

・You’re joking, right.(冗談だよね)?

・Well……(ええと……)

・Yeah, right.(どうせ嘘だろう)

 と主に12通りある(*1)。

 俺の答えは、決まっていた。

「……Are you serious?」

 未だに信じられない。

「そうだよ。だから一緒に居たいんだよ」

「……そうか」

 シャロンを抱き締める。

 俺達の絆は、前世から続くものだ。

 こればかりは、何人でも侵す事は出来ない。

「……」

 シーラが、俺の頭を撫でる。

 俺が泣いている、と勘違いした様だ。

「……優しいな?」

 逆にシーラを撫で返す。

 すると、彼女は微笑んだ。

 母娘も俺達の仲は、黙認な様で笑顔で見詰めている。

「「……」」

 全員、俺の大事な家族ファミリーだ。

「たっ君。分かっているとは思うけど―――」

「ああ、1番は司だよ」

 司が無性に接吻をせがむので、唇にすると、

「あー私も!」

「私は、3番目で良いわよ」

 と言うので愛娘、養母にも行う。

 義妹のシーラは、物欲しげに見詰めていたが、要求する事は無かった。

 控え目で可愛い奴だ。


 煉達が泡風呂で混浴を楽しんでいる頃、

「殿下、帰国命令が来ましたが?」

「『帰らない』と」

「! 良いんですか?」

 オリビアは、公文書を破る。

「国の事情は理解出来ますが、帰る時は挙式ですわ」

「……」

 ライカは、ただ傾聴するのみだ。

 国家公務員ではあるが、彼女には祖国よりもオリビアへの忠誠心への方が厚い。

「不躾な質問をお許し下さい」

「良いわよ。何?」

「……殿下は、少将殿が婚約者と過ごしていますが、嫉妬なさらないですか?」

「そりゃあ、嫉妬はするわよ。でも、英雄だからね。仕方ないよ」

 英雄色を好む。

 歴史上何人もの英雄が存在するが、その中で特に色を好んだのは、チンギス・ハンだろう。

 その証拠に彼の子孫は、世界中に存在し、その数は、約3200万人と推定されている(*2)。

 異論反論はあるものの、モンゴルの総人口が約320万人(2018年)なので、その10倍以上のモンゴル系が世界中に散らばっている事になる。

 本国より多いのは、この例とレバノン位だろう。

 レバノンも又、本国((約685万人 2018年)よりレバノン系ブラジル人(推定600~700万人)が多い。

 これだけ多いと、撃退する事に成功した日本であるが、国民の中に子孫が居てもおかしくはないだろう。

わたくしは、まつりごとには興味ありませんわ。静かに暮らしたいだけですから」

 そう言って、優雅に紅茶を飲むオリビアであった。


[参考文献・出典]

*1:EIKARA

*2:ウィキペディア

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