第48話 本当の家族見つけました
『―――行方不明になった金田組長は、プライベートで様々なトラブルを抱えており、警察は怨恨の線で捜査を始めました』
国営放送のニュースを観つつ、ブルーノは溜息を吐いた。
(虎の尾を踏んだ、か)
ブルーノとしては、大物の殺し屋2人を送ったつもりだったのだが、まさか簡単に返り討ちにされるとは思わなかった。
マルコフの様に傘を使った暗殺を閃いたのだが、元KGBである事を一瞬にして見破られた。
然も空気銃は、トランシルバニア王国が押収したという。
北欧一の情報機関である情報部の事だ。
簡単にブルーノの居場所を特定する事だろう。
(
トランシルバニア王国では大逆罪で死刑となる、現代では数少ない国家だ。
その執行方法は、イギリス統治時代に輸入された首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑。
トランシルバニア王国の場合は、これが公開処刑な事が猶更恐ろしい事だ。
ブルーノも何度か見た事があるが、最後まで見る勇気は無かった。
(軍人として死ぬかな)
失敗した以上、責任を取るのが、軍人だ。
惨たらしい最期を遂げる位なら、五体満足で死にたい。
スチェッキン・マシンピストルを取り出し、米神に突き付ける。
そして、引き金を引いた。
「《影》が死んだか」
「はい」
「……日本人の言葉を借りれば、『敵ながら天晴』だな」
ロビンソンは、ブルーノの死体の写真を見て呟いた。
「FBIに伝えろ。十大最重要指名手配の1人が死んだ、と」
「は」
部下が退室した後、ロビンソンは、考える。
(……子飼いの傭兵が死んであの婆さんには味方が居ない。いっその事、追い落とすか)
並の111歳の老女ならば、老い先短い為、放置しておくだろうが、エリザベート、王族だ。
王党派が99%を占めるトランシルバニア王国では、一定の影響力を持つ。
例え
だが、アメリカとしては、
又、仇敵・ロシアとも関係が近い親露派だから猶更問題だ。
ウクライナの例がある様に、ロシアが自国に好意的な勢力を支援し、分断を図ろうとしても何ら可笑しくは無い。
尤も、ソ連に弾圧されていた時代を知る多くの国民は、ロシアへの不信感から親米派なので、その点については問題は無いのだが。
兎にも角にも、危険分子は早めに摘んだ方が良いだろう。
(王宮
アメリカのエリザベート排斥作戦が立案された。
作戦は、直ぐにラングレーに上奏された。
そして、詳細が話し合われ、直ぐに長官が承認し、実行に移される。
これ程までに迅速なのは、CIA上層部がエリザベートを以前から問題視していたからだ。
又、今回の作戦は、大統領には、通されなかった。
理由は簡単で、CIAと大統領は、イデオロギー対立があったからだ。
歴史的に似た事例がある。
ピッグス湾事件直後のケネディとCIAだ。
亡命キューバ人を使って、キューバに侵攻したアメリカだが、その軍事作戦に失敗。
ケネディは、その責任の所在がCIAにあるとし、幹部を更迭した。
CIAからすると計画は立案したものの「最終的に承認したのは大統領でしょ?」と不満が残り、後年、CIAは、暗殺事件の黒幕の一つに数えられている。
現任の大統領も青の党であり、人権屋の傾向がある。
上奏しても決して承認しないだろう。
だったら、「勝手に進めて、失敗したら大統領の責任にしよう」というのがCIAの
そして、9月11日。
政変が、決行された。
……
『【速報】
トランシルバニア王国の民主化の英雄の1人、エリザベート前皇后が薨去。
享年111歳』
「111歳って長生きね」
新聞記事を見て、皐月は感心した。
世界記録は、フランス人女性、ジャンヌ・カルマン(1875? ~1997)が持つ122年164日(異説あり)。
日本記録(アジア記録でもある)は、御存命中の女性で令和3(2021)年現在118歳だ。
余談だが、老年学研究者団体・
司も興味津々だ。
「111歳って老衰かな?」
「多分ね」
2人が関心を抱いているのは、医療関係者らしく死因だ。
老衰は、自然死の心象があるが、医学的には、その本質が判っていない。
そもそも老化そのものが医学的にまだ明確に定義出来ていないから当然だろう。
一応、厚生労働省は老衰について、『死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因が無い、所謂自然死の場合のみ用いる』(*2)と記載している。
更に、『但し、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入する事になる』ともしている。
この為、『老衰による誤嚥性肺炎』と書いても良い。
例
第1病名:誤嚥性肺炎
第2病名:老衰
然し、背景に老衰があるか否かは医師の判断によるので、老衰が本質であってもそれを書かなければ誤嚥性肺炎が死因として統計処理されるのかもしれない(*3)。
要は、現場の医師に任せられているのだ。
現役の医師である皐月も、これまで数え切れない程の死亡診断書を書き、場合によっては老衰と記入した事もある。
その為、職業柄か職業病か、気にしやすいのであろう。
「朝食出来たよ~」
「……」
煉とシーラがパンケーキを持って来た。
「アメリカンだね?」
「シャロンの希望だからな」
「うふふふ♡」
煉のエプロン姿を見て、シャロンは、満足気だ。
「最近、たっ君、シャロンに甘々じゃない?」
「そうか? うん。だから、あーんして」
さり気無く左手薬指の指輪を見せ付ける。
贈ったそれを司は、婚約指輪として使っていた。
皐月も同じ様に装着している。
前夫に操を立てているのだが、最近では、気持ちに区切りが出来たのか、明るい表情が増えた。
良い傾向だ。
「凄い。美味しそう」
「美味しいよ。シーラが9割作った。褒めてやってくれ」
「シーラちゃん、有難う~♡」
司は、シーラを抱き寄せて、頬擦り。
「仲良いな?」
「2人は、エスだからね」
皐月が食べつつ言う。
「だから、私達の想像以上に仲良しよ」
「S?」
「女子同士、仲が良い事よ。現代風に言えば、百合が1番近いかな?」
「もう御母さん、私、
「そう? シーラちゃんと入浴したり、添い寝したりしているからてっきりそうなのかと」
「シーラちゃんは、可愛いけれど、肉体関係は無いよ」
母娘で隠す通す事無く会話している。
病院には、性転換手術や人間関係に悩んだLGBTの人々も多数通院している為、2人には理解があるのだ。
この様子だと、若し、司が同性愛者や
「そうだ。御母さん。シーラちゃん、御家族が居ない様だから、養子に出来ない?」
「!」
瞬間、シーラは目を剥く。
「養子ね……煉は、どう思う?」
「経済的に余裕があれば良いと思うよ。ただ、シーラの気持ちが最優先だけどね?」
次にシーラは、煉を見た。
養子になれば事実上、煉の義妹ともなる。
これまで以上に関係が近くなるのは、明白だ。
「……?」
「自分で決めるんだ。受けるのも断るのも自由だよ」
強要を好まない煉らしい、対応であろう。
「……」
正直、シーラは、煉やこの母娘と生活する様になって、心に変化が表れていた。
この人達と一緒になりたい。
もう親衛隊は懲り懲りだ、と。
「……有難う御座います」
深く深く頭を下げた。
「養子の件、手続きの程、宜しく御願いします」
これだけは、はっきり自分の口で言えた。
「シーラちゃん……」
余程嬉しいのか、司は、大号泣だ。
皐月も笑顔である。
但し、煉は違う。
「パパ、若い子が好きなの? ロリコンなの?」
先程までの上機嫌は何処へやら。
蚊帳の外に置かれたシャロンから、口撃を受け、精神的にボコボコにされるのであった。
[参考文献・出典]
*1:ウィキペディア
*2:2019年度版死亡診断書記入マニュアル
*3:マイナビドクター 2019年7月23日
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます