第47話 ヤクザに平穏無し

 外交特権で守られた俺が、事情聴取される事は無い。

 軍属であるシャロンも日米地位協定で守られる。

 領事館に戻った俺を、オリビアが出迎えた。

「勇者様、流石でした」

「観てたのか?」

「はい。防犯カメラで」

 親衛隊がショッピングモールの防犯カメラをハッキングし、観ていたのだろう。

「今後、召喚が来てもお断りしますわ」

「有難う。ライカもよくやった」

「はい?」

「無事に逃げれたんだろう? 上出来だ」

「有難う御座います」

 褒められ、ライカは赤らむ。

 親衛隊の隊長ともなれば、責任重大だ。

 怒られる事は合っても褒められる事は少ない。

 オリビアが、甲斐甲斐しくも手巾で汗を拭く。

「有難う」

ですから」

 オリビアは、御揃いの指輪を眺めつつ言う。

「私もだけどね?」

 シャロンは、上機嫌だ。

 俺の手を握る。

「あら、貴女は、娘でしょ?」

「残念。奥さんだから」

 オリビアを挑発する様に、シャロンは俺を抱き締める。

 愛が深い。

 然し、

「奥さんって……」

「パパ、私、パパ以外の人とは一緒にならないからね?」

「……まじ?」

「うん。。反対するなら自殺するから」

「……」

 普通の親なら平手打ちをしてでも説得する所だが、残念ながら、俺はシャロンに滅法弱い。

 傍から見れば友達親子、の様な関係性なのかもしれない。

「……妻には出来んが、一生、一緒だよ」

「……ケチ」

 ねつつ、シャロンは、俺の膝に乗る。

 シャロンを御姫様抱っこしつつ、オリビアを見る。

「妻になれるか如何かは分からないが、仕事は果たすから安心してくれ」

「ええ。騎士ナイト様♡」

 蕩けた目で俺の頬に接吻するのであった。


 残務処理を終えた後、俺は領事館に設置された部屋に居た。

「……!」

 シーラが怯える程怖い顔で。

「……パパ、如何したの?」

「いや、舐められたもんだな、と」

「誰に?」

「糞共だよ」

 俺が見ているのは、公安部の資料の複写。

 CIAが公安部に圧力プレッシャーをかけて、無理矢理提出させた物だ。

 部屋には、事件を聞いて駆け付けたナタリーも居る。

『このブルーノが、主犯って訳ね?』

「そうだ。2人で俺を殺せるというのはムカつくな」

『……』

「ナタリー、とりあえず、支援者のヤクザの資金を凍結してくれ」

『あら? もう財務省が凍結しているけど』

「幾らでも抜け道は、ある。それがヤクザって物だ」

『……分かった』

 俺の隣に座り、ノートパソコンを開く。

「あ、忘れてた」

『え?』

「これ、御土産」

『!』

 指輪を目の前に置かれる。

「模造品だけど、見た目は本物だ」

『……これってどういう意味?』

「どうもこうも他意は無いよ。嫌なら―――」

『誰も要らない、とは言ってないわ。有難う』

 おお、偏屈なナタリーが受け取ったぞ。

 明日は、大雪―――。

『貴方の秘密シークレット、司に教えて良い?』

「……済まん」

 最近、年頃なのか、俺は性欲が増し、電子書籍でエロ本を買い漁っている。

 前世でも、この位の時には親に隠れてポルノ雑誌を買っていたので、年相応といった所だろう。

「パパ、程々にしなさいよね? 流石にそれは、幻滅だから」

「! 知ってるのか?」

「ナタリーちゃんから聞いた。相互防衛援助条約だよ」

 ドイツには、WWII後の分割占領時代から米軍から駐留している(*1)。

 冷戦時代は20万人以上が駐留する、西欧防衛の最前線だったが、冷戦終結で大幅に削減された(*1)。

 現在では、中東での作戦時に重要な輸送基地となっている(*1)。

 又、アメリカにはドイツ系も多い。

 第45代大統領もドイツ系だ。

 国同士が密接な関係の為、ナタリーとシャロンは、良好な関係なのだろう。

「同世代も良いけれど、大人の魅力もお勧めだよ?」

 シャロンは胸を押し付けて、しっかりと正妻候補をアピールするのであった。


 その日の深夜。

 金田の事務所に宅配便が届く。

「親父、宅配です」

「ん? 聞いてないぞ?」

「え? じゃあ、これは?」

 開封すると、

「う」

「げ……」

 金田と部下は、嘔吐した。

 氷漬けにされているのは、組員。

 丁寧に、部位ごとにバラバラにされていた。

「……親父、これって―――」

 直後、硝子が破裂する。

 黒づくめの武装集団が、蹴破って侵入してきたのだ。

 彼等はM16を構えて、居並ぶヤクザ共に連射。

「「「!」」」

 何発も浴び続け、次々と死んでいく悪党は、ボニーとクライドの如く。

 武装集団は軍人なのか、ヤクザとは思えないほど、動きが洗練されていた。

 確実に頭や胸を狙い撃つ。

 逃げ出そうとした組員にも容赦がない。

 這ってドアノブに手を伸ばした者は、後頭部に何十発も撃たれ、文字通り、頭が吹き飛ぶ。

 他の組員は、救援に来ない。

 否、他の部屋からも断末魔が聞こえている辺り、同様の地獄絵図が繰り広げられているのだろう。

「……!」

 金田は、ブルブルと震えていた。

 近くの水槽も割れ、金魚が床に落ちる。

 花瓶や掛け軸、歴代の組長も同じく蜂の巣だ。

 コロンバインの乱射事件シューティングで45分もの間に死者15人(犯人2人、学生12人、教員1人)が死亡したが、これは、45分も要らない。

 僅か10分位でヤクザが30人も死んだのだから。

「「「……」」」

 撃ち尽くしても尚、彼等は冷静沈着な様で、

「……」

「……」

 手話ハンドサインを送り合い、声さも漏らさない秘密主義だ。

「……」

 恐る恐る金田は身を乗り出して、見る。

 襲撃者は、SWATの様な風体で、顔はバラクラバ―――銀行強盗がしばしば、顔を隠すマスクで覆っていた。

 これでは、性別すらも分からない。

 1人1人の死体を確認し、念の為、心臓にも撃つその用心振りはヤクザとは思えない。

 逮捕を怖がる最近のヤクザは、撃っても逃げるのが、最近の主流だ。

 当然だろう。

 ヤクザに人権無し、というのが近年の司法の方針だ。

 故に昔は、長くても10年以下の懲役刑が多かったが、無期懲役の判決も出る事が多くなった。

 なので、昔のように喜んで鉄砲玉になる者は少ない。

 運よく出所出来ても、自分の組織が解散する事もあって、鉄砲玉を好き込んで立候補する組員は昔と比べてると、ほぼ居ないのである。

 然し、このSWAT(仮)は、明らかに殺人に慣れていた。

「……」

 失禁し、へたり込んでいると、

peek-a-boo見ぃつけた

 まるでかくれんぼをする様な声が聞こえた後、金田は後頭部に激痛を感じた。

「!」

 振り返ると、鈍器を持った黒づくめだ。

 バラクラバの下で、嗤ったのだけ判ったが、金田にはどうする事も出来なかった。


 数時間後、金田は、目を覚ます。

 真っ白な綺麗な部屋で。

「……ここは?」

「お早う」

「!」

 目の前に目付きの悪い男が、椅子に逆向きに座って嗤っていた。

 雰囲気からして拷問官の様だ。

「君の御蔭で、警察は、第五次頂上作戦を行える様になったよ。有難う」

「……貴様は?」

「名乗る程の者じゃないよ」

 そう言って男は、錆びた鋸を取り出した。

「お、おい……まさか……」

「やっぱり、人を斬るには、錆びた方が良いな」

 太腿に突き立てられる。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「おお、破傷風になるな。可哀想にwww」

 男は嘲笑し、色んな場所を突き刺していく。

 それをモニタリングしていたライカは、吐いた。

「うげ……えげつない」

 シャロンは、苦笑いだ。

「家庭では良いパパなんだけどねぇ。やっぱり、戦争で心がぶっ壊れているね?」

連続殺人鬼シリアルキラーにならなければ、良いわよ』

 ナタリーは、冷静沈着に報告書にその様子を起こしていく。

「然し、シーラちゃんはよく同席出来るね?」

『そうね。言いたくはないけれど、彼女も異常者なんでしょ』

 誰もが同席を拒否したのに、シーラは、自薦して一緒に居る。

 司やオリビア、皐月には、見せられない絵面だ。

「ライカ、パパは、如何して拷問を買って出たの?」

「多分、KGB方式なんでしょうね」

「? 如何いう事?」

「噓か誠か、KGBには、こんな話があるんですよ」

 まるで怖い話をするかの如く、ライカは訥々と話しだした。

 ―――

『1985年9月。

 中東のレバノンにて、テロ組織がソ連の外交官4人を誘拐。

 当時、レバノンは内戦中。

 主権者が居ない状態だからこそ、テロ組織がやりたい放題出来たのであろう。

 テロ組織は、人質と引き換えにソ連に拘束されている捕虜の釈放を要求した。

 然し、交渉は遅々として進まず、痺れを切らしたテロ組織はは人質の1人を殺害してしまう。

 当然、ソ連は殺害された事を知ると、態度を硬化し、その解決役にKGBが就いた。

 KGBはテロ組織と交渉はせず、外交官誘拐を行った犯人の指導者を特定。

 その甥を誘拐した。

 そして、その甥の体の一部(一説には性器)を切断し、それをテロ組織の送ることで外交官の即時解放を要求した。

 テロ組織は、慌てて直ぐに外交官を解放するも、KGBはそれでも甥を解放せず、テロ組織が外交官を殺害した同じ方法で甥を殺害した。

 KGB的には、「同胞が1人殺されたのだから、こっちも1人殺すのが平等」という

均衡バランス重視(白目)な論理なのである』(*2)

 ―――

 今回の事件では、不幸中の幸いで、煉側に1人の死傷者も出なかった。

 なので均衡を取る程ではないのだが、わざわざKGB方式を採用する程、煉の激怒しているとも言え様。

 体中を切り刻まれた金田は、もう虫の息だ。

 今更、病院に連れて行っても持たないだろう。

 シーラが煉に団扇うちわを煽りつつ、尋ねた。

「……これ、如何します?」

「組長殿にお送りしてやろう。俺に盾突いた罰だ」

 その後、裏社会に於いて、煉とシーラには、画像処理と音声加工した上で作られた殺人ビデオスナッフ・フィルムが流通し、金田の死亡が伝わるのであった。


[参考文献・出典]

*1:ウィキペディア

*2:mixi 2015年2月19日

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