第36話 fan

 皆さん、こんにちわ。

 親衛隊の二等兵のシーラです。

 今回は、少将の観察日誌を御紹介しましょう。

 ―――

『【2021年8月6日】

 この日は、日本国民が朝からしんみりしています。

 それもその筈。

 8月の6日、9日、そして15日は日本人にとって忘れられない日ですから。

 どの前日から大使は広島に入り、早朝から式典会場に居ます。

 今日の国営放送では、広島市長が核兵器廃絶を訴える演説を映しています。

 時々、アメリカの大使も映しますが、彼は無表情です。

 涙で一杯の市長とは非常に対照的です。

 それを少将は、御息女のシャロンさんと一緒に観てらっしゃいます。

「「……」」

 お二人とも真剣な面持ちです。

 シャロンさんは現役の軍属なので、この時期ばかりは外に出たがりません。

 司さんなど、日本人ともあまり接触を好みません。

 この手の話題も避けています。

 必要以上に気を遣っている様です。

 少将はというと、日本人としての意識が強いのでしょうか。

 8時15分の時は、目を閉じ合掌されていました。

 仏教徒では無い様ですが、郷に入っては郷に従えの精神でしょうか。

 シャロンさんの黙祷と比べて、敬意が深い様に感じます。

 軍人ですが、非戦闘員の殺傷は別に考えている様です』

 ―――

 私も軍人ですが、平和主義者です。

 少将と波長が合いそうです。

 ―――

『【2021年8月8日】

 今日は朝から少将、大忙しです。

 早起きして、朝ご飯を作ります。

 御飯を炊き、魚を焼き、卵焼きを作っています。

 寝起きで、欠伸あくびを漏らしていますが、料理は綺麗で美味しそうです。

 朝から動いているのは殿下や隊長、司さん、皐月先生、ナタリーさんがいらっしゃるからです。

 私が手伝おうとすると、

「良いって。まだ寝とき」

 私がパジャマ姿で寝癖を直さずに来たので、苦笑いで命じて下さいました。

 少将は、基本的に超優しいです。

 シャロンさんによれば、「褒めて伸ばすタイプ」なのだとか。

 ナタリーさんにも聞けば、基本的に怒った所を見た事が無い、とのこと。

 三白眼でいかにも犯罪者ですよ感の目付きが悪い人相ですが、その実は仏なんでしょう。

 私もその優しさに甘えて二度寝を堪能させて頂きます。


 午前7時頃。

 皆さんがいらっしゃいました。

 皆さん、お洒落しています。

 さて、私も食べてみましょう。

 少将の料理は、御世辞にも「絶品」とは言いにくいです。

 外見も杜撰ずさんで時々、配分を間違えたり、甘過ぎたり、しょっぱ過ぎたりする事もあります。

 人間は完璧ではありませんから。

 このくらい、問題視する事は無いでしょう。

「料理は愛情」

 という言葉が、日本にはあるそうです。

 愛情がこもっていれば、問題無い様です。

 美食家では無い為、少将の手料理を数値化する事は出来ませんし、恐れ多い事ですが、少なくとも女性陣には人気なようで、完食しました。

 勿論、私もです』


 ここまで日常生活を紹介しましたが、次は少将の軍人としての能力を覗いてみましょう。

 少将は午後9時に寝て、午前5時に起きる事が多いです。

 きっかり8時間。

 夜更かしすることも寝不足になる事も殆どありません。

 起床後、直ぐに洗顔し、皇居ランニングに行きます。

 電車と地下鉄を乗り継いで、皇居の最寄り駅から走ります。

 走る距離は体調や天候によって変える為、絶対に決まっている訳ではありませんが、何も用事が無い時や調子が良い時は、フルマラソンする時もあります。

 少将曰く、自己最高記録は「2時間ちょっと」だった為、五輪オリンピックで金メダルを狙うことも出来るかもしれません。

 その帰りに近隣の射撃場に行って、撃ってくる時もあります。

 何度か一緒について行きましたが、的中率は、7~8割といった所でしょうか。

「……」

 撃つさまは、体幹がしっかりしている為、非常に姿勢が良いです。

 殿下が「格好良い♡」と私が撮影したビデオの映像を観ておっしゃっていた事を思い出します。

 また、筋力も豊富です。

 近くのスポーツジムの会員になって、力士や自衛官、ボディービルダー等の方々と交流を深めています。

 シャロンさんとも行く時がある為、お二人はカップルに見られているかもしれません。

 力士の方曰く、少将は「ソップ型(細身で筋肉質な力士)」なのらしいです。

 少将の体躯にそっくりなのが、《小さな大横綱》でしょう。

 183cm126㎏というのは角界の中で小柄ですが、その筋肉美は、まるで芸術品の様です。

 金剛力士像の実写版と言えるでしょう。

 脱臼癖を直す為に1日500回の腕立て伏せを行っていたそうですが、奇しくも少将も毎日、同じ位されています。

 この他、お二人は共通点があります。

 それは、皮下脂肪の少なさです。

 上腕;9mm

 背中;10mm

 腹 :9mm

 これは、《小さな大横綱》と同じで、彼の現役当時の幕内力士の平均数値(*1)である、

 上腕:15mm

 背中:20mm

 腕 :20mm

 と比べれば、一目瞭然です。

 力士の方曰く、「入門したら、直ぐに大関・関脇・小結三役は可能だろう」と絶賛していました。

 レッグプレスは800㎏。

 バーベルスクワットも300㎏以上と、細身にも関わらず、力士に引けを取らない筋力を考えたら、確かに可能かもしれません。

 無論、能力が備わっていても、絶対に成功するか如何かは分からない為、本当の所は分かりませんが。

 兎にも角にも、角界でも通用しそうな体躯と筋力である事は、確かでしょう。


 最後は、人間関係です。

 ご存知の通り、少将は婚約者一筋の模様です。

 生徒会がある時は、ご自身は何も用が無いのに一緒に登校し、司さんの仕事が終わるまで待っています。

 シャロンさんによれば、前世でも奥さん一筋だったとか。

 合コンやダンスパーティーなどにも参加したことが殆ど無いようです。

 なので、交際歴も奥さんだけなのでしょう。

 但し、ナタリーさんによれば、米兵として世界各地の米軍基地に居た時や、傭兵になった時も、女性陣に言い寄られていた事がある様で、中には誘拐婚されかけた事もあるようです。

 前世のお写真を確認すると、伝聞通り美しいです。

 シャロンさんが美人なのも、遺伝なのでしょう。

 私も少将の娘になりたいですね。


 ライカ隊長(*以下、隊長)とは、良好な関係な模様です。

 当初、隊長が少将を拘束した時だけ険悪でしたが、今では上司と忠臣という事でしょうか。

 時々、組手や射撃などを一緒にされています。


 オリビア殿下(*以下、殿下)とは不思議な関係です。

 少将は殿下の求婚を有難迷惑としつつも、それほど嫌っている様子はありません。

 キスされても怒らないくらいですから。

 やはり、相手が王女なので気を遣っているのかもしれません。


 ナタリーさんとは仕事上の先輩後輩な様で、私的にはそれほど交流は無い模様です。

 ですが、時々、一緒に買物に行ったり、ご飯屋さんに行ったりしているので、カップルにも見えます。

 少将は鈍感なのか気付いておられないようですが、ナタリーさんが少将を見る目は、殿下やシャロンさんなどと同じように見えます。

 恐らく、恋しているのでしょう。


 あ、私も少将の事は好きですよ。

 無論、司さんや殿下がいらっしゃる為、公言はしませんし、愛人で構いませんが。

 一生、付き従う所存であります。


 養母の皐月さんとも仲良しです。

 皐月さんは少将を救う為、推定何千億もの借金をしたそうですが、少将はそれを恩に感じ、彼女の言う事は何でも聞く様です。

 事実上、少将よりも偉いので、皐月さんは階級的に元帥くらいなのかもしれません。

 皐月さんも恋をしている様です。

 司さんのお母さんなので、母娘は似ているのかもしれません。

 北大路家は代々、軍人や自衛官と結婚する事が多い為、家系的に軍人に惚れやすい家柄なのかもしれません。


 最後に司さん。

 彼女とは、婚約者の関係です。

 少将が最も大事にしており、将来的には結婚する可能性が高いでしょう。

 昔は混浴されていたようですが、10才以降は混浴はしていないそうです。

 当然ですね。

 間違いが起きるかもしれませんから。

 ですが、最近は司さんがよく混浴に誘っています。

 理由は不明ですが、司さんは、焦っているのでしょう。

 飛び切り美人な娘と王女が登場したのですから、私が司さんの御立場なら焦りますね。

 なので混浴して、を作ろう、という魂胆なのかもしれません。

 皐月さんもグルなのか、司さんを時々呼んで性教育をされているようです。

 もしかしたら、近い内におめでた婚になっているかもしれませんね。

 その為には、私も司さんに近寄って愛人の許可を頂けるよう、努めないといけませんが。

 

 最後になりますが、私は少将の事をお慕い申し上げています。

 最底辺であった私を寛容な御心で弟子にして下さり、今は、秘書のような役回りをさせて頂いています。

 その為、虐めは無くなりました。

 偏見は残っているでしょうが、私は少将から離れる事はありません。

 例え本妻になれなくても、愛人として都合の良い女として置いて欲しいです。

 もっとも、少将が手を出して下さるかはわかりかねますが。

 兎にも角にも、私の好意は事実です。


[参考文献・出典]

*1:1981年2月の検査 創業70周年特別企画シリーズ(2) 相撲 栃若時代』相撲別冊 秋風号 ベースボール・マガジン社 2016年

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